本日から『4×3のインブリード配合』をテーマにお話をします。奇跡の血量18.75%を実現するのが 4×3 のインブリードですが、当然ながら、インブリードである以上、遺伝上のリスクを伴う配合となります。これが軽視されていることに、警報を鳴らしている方がいらっしゃいますので、ご紹介したいと思います。
競馬の世界を深く考察して世に伝える冊子「ROUNDERS vol.5 治郎丸敬之 編」が2021年秋に発行されました。今回のメイン記事は、何と言っても、故 山野浩一氏の論文『血統理念のルネッサンス』が再掲されていることですが、自分が特に興味深く読んだのは、堀田茂氏の『サンデーサイレンスのインブリーディング配合急増に関する一考察』であります。
この論文の中で、堀田茂氏は、サンデーサイレンスのインブリードが急増している事実に警報を鳴らしています。特に、サンデーサイレンスの 3×3 までは、原則として避ける傾向が強い日本の生産界が、サンデーサイレンス 4×3 になると、堰を切ったように「安心感」を持ってインブリード配合を積み重ねていることに、強い懸念を示していらっしゃいます。
例えば、2020年のエピファネイアとモーリスのサンデーサイレンスのインブリード配合の比率を調べてみると、
エピファネイア産駒 全240頭 4×2=1頭 4×3=141頭 計 59%
モーリス産駒 全163頭 4×3=105頭 計 64%
一方で、サンデーの孫世代であるキズナのインクロス状況は、
キズナ産駒 全242頭 3×3=14頭 3×4=26頭 計 17%
そもそもインブリード配合の目的は、父方と母方から「同一の遺伝子」をもらうことを期待する行為です。一方、アウトブリード配合では、それぞれから異なる遺伝子をもらうので、どちらかが優性遺伝子となり顕在化して、もう一方が劣性遺伝子となり隠れてしまいます。それを同じ遺伝子とすることで、スーパーホースの遺伝子の多くを変えることなく子孫に伝えようとする行為がインブリード配合です。
しかし、極端なケース、例えば『兄妹』の配合が究極のインブリード配合になりますが、これを実行した場合には、遺伝上の異常事態が発生するリスクが最大化します。多くの場合、健康な個体を維持することが困難になります。このリスクは、3×3でも、4×3でも、全く同じリスクが存在いたします。少しずつ、リスクが減少するだけなのです。
理論上は、4×3に比べて、3×3のインブリードの方が倍のリスクがあるというだけで、4×3になった瞬間に『安全な配合』となる訳ではありません。このことを、上記の堀田茂氏は、論文の中で強く警報を鳴らしているのです。
ここからは、私個人の意見ではありますが、特に、エピファネイアやモーリスのような人気種牡馬については、多数の産駒が生まれてきますので、サンデーサイレンスのインブリード配合の比率の高さと、その遺伝上のリスクは、今後「統計上の数字」としても顕れてくる可能性はあると見るべきではないでしょうか。
ひょっとすると、エピファネイアやモーリスの産駒の特長として、GⅠを勝つようなスーパー産駒が年に1頭や2頭現れる替わりに、産駒の平均的な活躍ぶりを表わす、AEIの数字がなかなか伸びないのは、この行き過ぎたインブリード配合に原因があるのかもしれません。
また明日からは、異なる着眼点として、4×3のインブリードと、父系サイヤーラインの伸びの関係についても、考察してみることにします。(続く)