駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

三位一体の妙

2010年05月26日 | 医療
 最近の医学教育はどんな風か知らないが、四十年前は三つ揃うと何病というトリアスがよく出てきた。例えば腹痛、発熱、黄疸なら胆石胆嚢炎と言った組み合わせだ。
 病気の診断法を少し解説すると、診断の手がかりと根拠には感度と特異度が必要なのだ。
 例えば関節痛は関節リウマチには殆ど必須の症状で感度はよいが、関節痛は他の病気でもよくある症状で特異度が低い。蝶形紅斑は全身性エリテマトーデスで特異度が高いが、これを認めない全身性エリテマトーデスも結構あり、感度がさほど高くない。そこで感度が高い症状を重ねることで特異度を上げて診断しようというのが三つの症状や所見を組み合わせたトリアスなのだ。
 じゃあなんで三なの、四でも良いじゃないか、二じゃ駄目かと聞かれると、正確な理由は知らないが、憶えやすい、ちょうど感度と特異度のバランスがよくなる、古来人類は三が好きと答えたい。たぶん正解だろう。
 これを診断学でトリアスと教えているかどうか知らないが、四十年の臨床経験から、問診診察検査が病気診断の三位一体と骨身に染みている。ところが問診診察がややおざなりの傾向がある。あったという方が正確か。というのは十年くらい前から問診や診察の重要性が再認識され、きちんと教える医学部が増えてきたからだ。今では国家試験にも入っているらしい。
 端境期に医学部を卒業して開業した医師が多いせいか、全体を診察しない医師も結構居るようだ。当院で診察時裸にすると、ええ脱ぐのと驚く人が居る。診察で新たな発見は多くはないが、三百回に一回くらい重大な発見をする。診察で胃癌を疑い病院を紹介したところ、病院の医師が本当に診察だけしかしなかったのかと何度も聞いたと、手術を受けて帰ってきた患者が報告してくれたことがある。
 事ほど左様に問診診察検査は欠かせないのだが、最近は新たな障害が出て来た。三つの手続きを揃えるのを嫌がる億劫がる患者さんが出て来たのだ。恩師の時代は患者を叱ればよかったのだが、今はそうはいかない。こういう患者さんに付ける良い薬はないだろうか。
 
コメント (2)
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