誤解される恐れがあるので、ちょっと書くのをためらうところもあるが、多くの人の疑問でもあろうと書いてみる。医学医療の進歩がめざましいのだが、医学医療は広範囲で、なかなか一人では全体を把握しきれなくなっている。ご存じのように診療科は十数科に分かれ、その中は更に細分化してきている。。自分が専門とする診療科だけでも最前線の進歩について行くのは容易ではなく、私のような高齢医師も遅れまいと短時間ではあるが毎日勉強している。ただ進歩には偏りがあり、思ったほど進まない分野もあると感じている。
それは単に私の知識不足や偏見かも知れないが精神医学の方面だ。分裂病も統合失調症と名前が変わり、薬物の使用法なども変化してきて、随分社会復帰も進んでいるようだが、社会の心の病には十分対応できていないと感じる。恐らく精神科医の方は過大あるいは筋違いの期待とお答えになるだろう。肺結核が減ったようには脳出血が減ったようには社会の心の病には対応出来ないようだ。それだけ難しく大きな問題なのかも知れない。
悪口のように聞こえると困るのだがと、精神科の医師は他の科の医師と少し感じが違う。医師も同業者で会合を開いたり飲み食いする機会が多いのだが、精神科の医師はそうした会に出て来られない。希にお会いする機会があり、お話ししても禅問答というか瓢箪鯰というか、話が噛み合わずとらえどころがなく、なんとなくはぐらかされた感じがすることが多い。勿論、中には我々俗物?とも親しく話をしてくれる精神科医も居られるのだが、社会の心の病への対応は難しいですねとにっこりされて終わりになる。
そこには一般人の抱きがちな異常な?人達を排除あるいは摘出しようなどという対応の未熟さ危険さを暗に諭す気持ちがあるのかも知れない。最近は極悪非道と言うよりは卑劣陰湿な犯罪が多く、何とか出来ないものかと思うのだが、精神医学に解を求めるのは短絡的に過ぎるのだろうか。私が知らないだけである程度犯罪や犯罪すれすれのことを起こす人間の精神病理解明は出来ているのかも知れない、短兵急な応用、乱暴な適応は控えるのが賢明というのが物事をよく考えられる精神科の判断なのだろう。