最前線の市中で臨床医をしていると会社の健診で引っかかりしょうがなくて再検査に来たと言わんばかりの患者さんに時々お目にかかる。ほとんどがいわゆるおじさんタイプの男性だ。基本的に悪い人ではないのだが自覚症状なければ病気でないと考えており、血圧が190あろうが悪玉コレステロールが200あろうが血糖が210あろうが、飯は旨いし身体は良く動く検査値で病気にしないでくれと顔に書いてある。頭ごなしあるいは理詰めで説得しても逆効果のことがあり、外堀から攻めて少しづつ治療を受けるように仕向けている。こういう人は知り合い友人家族の言葉やスポーツ選手の事例が耳に入りやすいので、そうした助けを借りることもある。
新薬でノーベル賞も偉いが、血圧が高くなると頭が痛くなるとか血糖が高くなると胃が痛くなるような器具を発明出来たら、これは間違いなくノーベル賞クラスの健康貢献度があると思う。どなたか挑戦してくれないものか。
怖い自覚症状の欠如なのだが、同じように怖いのは他覚症状の欠如だ。圧力を掛けた人物は圧力を掛けたと公言しないだろうし、まして嘘を付く人は嘘を付きましたなどと告白するはずがない。この国は以心伝心と忖度が得意業で証拠が見えない。証拠がある六割以上の自治体が自衛隊募集を拒否しているなどという印象操作の嘘も、果たして嘘を付いていると多くの人が認識しているかどうもはっきりしない。この他覚症状の欠如は恐ろしい。どこかのおじさんが飲み屋でおだを上げているならまだしも、日本の森羅万象の責任を持つ人が嘘付きだという他覚所見がかき消されては、難病は手遅れになる。