一昨日(7日)放送のTBS「報道特集NEXT」で自衛隊幹部候補生学校の特集をやっていた。入学から卒業まで9ヶ月間の密着取材ということで、日々の訓練や授業、生活の様子を追い、候補生やその家族、学校長などへのインタビューを交えて構成されていたのだが、自衛隊の広報部が制作したこのようなとんでもない提灯番組で呆れてしまった。TBSの報道特集といえば社会派の番組として、以前は権力チェックというジャーナリズムの原則を堅持していたと思うのだが、それも遠い過去の話になったということか。
自衛隊をめぐる状況は今、ソマリア沖の海賊対策を口実にした海上自衛隊の派兵が焦点となっていて、オバマ政権の要請という形でアフガニスタンへの派兵がなされる可能性も大きくなっている。また、近年、自衛隊をめぐる問題が続発している。イージス艦の情報漏洩や漁船との衝突事故、いじめによる隊員の自殺、暴行死、タクシー運転手刺殺事件、幹部のセクハラ事件、田母神論文問題など、自衛隊による不祥事が相次ぎ、市民の不信感が高まっている。「報道特集NEXT」はそれらの問題にはまったく触れず、むしろ、それらによって生じた自衛隊のマイナスイメージを払拭するために、若い幹部候補生のけなげな姿を前面に出しているかのようでさえあった。
番組では、有事のときに戦場にいられるか、と学生に質問する場面が繰り返し出た。しかし、番匠幸一郎校長に気を遣ってか、イラク派兵など海外派兵について問う場面はなかった。イラク派兵の十分な総括もないまま、ソマリアやアフガニスタンをはじめ自衛隊の海外派兵が活発化しようとする中で、これから自衛隊が外国の軍隊や武装組織、住民に銃を向ける場面も生じるだろう。米国が求めているのは、自衛隊が米軍の「属軍」として戦場の前線に立つことだ。幹部候補生らは近い将来、海外の戦場で部隊を指揮しなければならないかもしれない。そういう彼らにとって最も切実な問題には触れず、日本の「有事」への対応に質問は終始する。
海外派兵の問題に触れることは、最初から意図的に回避していたのだろう。そのくせ、沖縄研修でキャンプ・シュワブ基地を訪れた場面では、実戦仕様の米軍装備に感心する学生の感想や、自衛隊の国際貢献を期待する米軍将校の挨拶をさりげなく入れていた。名護市辺野古にあるキャンプ・シュワブ基地からはイラクに部隊が派兵されているが、そういう基地で自衛隊が研修することの意味は何か、を問うこともなく。そして、そこがV字型滑走路をもつ新基地建設で問題になっている場所であることも、番組はいっさい触れなかった。
番匠校長へのインタビュー場面も二度ばかりあった。自衛隊のイラク派兵の際に有名になった人物だ。彼が語っていたのは、幹部学校では学生に特定の価値観を押しつけていない、ということだ。沖縄平和祈念資料館や糸満の戦場跡を見学した学生に、旧日本軍の住民虐殺の感想を語らせる場面とあわせて、田母神論文問題で生じたマイナスイメージを払拭する意図で編集されているのが見え見えだった。ここまで気を遣って番組を作ってもらえれば、自衛隊が取材に協力するのも当然だろう。
番組の最後にキャスターの田丸美寿々氏は笑いながら、将来はいいリーダーになってほしいですね、と言っていた。戦場で〈いいリーダー〉になるとは何を意味するか、想像したことがあるのだろうか。自分たちが取材した幹部候補生らが、米軍の「属軍」として海外の戦場に立たされることを、どうして想像しないのか。
自衛隊という国家の暴力装置に対し、ジャーナリズムは本来、より厳しい権力チェック機能を果たさなければならない。当然、自衛隊の海外派兵を進める日米両政府に対してもだ。今のテレビにそんなことを求めても無駄だ、という安直なシニシズムは、メディアと市民の時流への迎合を加速させる。それはメディアにとっても市民にとっても、自分の首を絞める結果をもたらす。国民保護計画でメディア統制が進められようとする中、時流に迎合して翼賛報道を行った過去の歴史を忘れ、自ら自衛隊の提灯番組を作っているようでは話にならない。
自衛隊をめぐる状況は今、ソマリア沖の海賊対策を口実にした海上自衛隊の派兵が焦点となっていて、オバマ政権の要請という形でアフガニスタンへの派兵がなされる可能性も大きくなっている。また、近年、自衛隊をめぐる問題が続発している。イージス艦の情報漏洩や漁船との衝突事故、いじめによる隊員の自殺、暴行死、タクシー運転手刺殺事件、幹部のセクハラ事件、田母神論文問題など、自衛隊による不祥事が相次ぎ、市民の不信感が高まっている。「報道特集NEXT」はそれらの問題にはまったく触れず、むしろ、それらによって生じた自衛隊のマイナスイメージを払拭するために、若い幹部候補生のけなげな姿を前面に出しているかのようでさえあった。
番組では、有事のときに戦場にいられるか、と学生に質問する場面が繰り返し出た。しかし、番匠幸一郎校長に気を遣ってか、イラク派兵など海外派兵について問う場面はなかった。イラク派兵の十分な総括もないまま、ソマリアやアフガニスタンをはじめ自衛隊の海外派兵が活発化しようとする中で、これから自衛隊が外国の軍隊や武装組織、住民に銃を向ける場面も生じるだろう。米国が求めているのは、自衛隊が米軍の「属軍」として戦場の前線に立つことだ。幹部候補生らは近い将来、海外の戦場で部隊を指揮しなければならないかもしれない。そういう彼らにとって最も切実な問題には触れず、日本の「有事」への対応に質問は終始する。
海外派兵の問題に触れることは、最初から意図的に回避していたのだろう。そのくせ、沖縄研修でキャンプ・シュワブ基地を訪れた場面では、実戦仕様の米軍装備に感心する学生の感想や、自衛隊の国際貢献を期待する米軍将校の挨拶をさりげなく入れていた。名護市辺野古にあるキャンプ・シュワブ基地からはイラクに部隊が派兵されているが、そういう基地で自衛隊が研修することの意味は何か、を問うこともなく。そして、そこがV字型滑走路をもつ新基地建設で問題になっている場所であることも、番組はいっさい触れなかった。
番匠校長へのインタビュー場面も二度ばかりあった。自衛隊のイラク派兵の際に有名になった人物だ。彼が語っていたのは、幹部学校では学生に特定の価値観を押しつけていない、ということだ。沖縄平和祈念資料館や糸満の戦場跡を見学した学生に、旧日本軍の住民虐殺の感想を語らせる場面とあわせて、田母神論文問題で生じたマイナスイメージを払拭する意図で編集されているのが見え見えだった。ここまで気を遣って番組を作ってもらえれば、自衛隊が取材に協力するのも当然だろう。
番組の最後にキャスターの田丸美寿々氏は笑いながら、将来はいいリーダーになってほしいですね、と言っていた。戦場で〈いいリーダー〉になるとは何を意味するか、想像したことがあるのだろうか。自分たちが取材した幹部候補生らが、米軍の「属軍」として海外の戦場に立たされることを、どうして想像しないのか。
自衛隊という国家の暴力装置に対し、ジャーナリズムは本来、より厳しい権力チェック機能を果たさなければならない。当然、自衛隊の海外派兵を進める日米両政府に対してもだ。今のテレビにそんなことを求めても無駄だ、という安直なシニシズムは、メディアと市民の時流への迎合を加速させる。それはメディアにとっても市民にとっても、自分の首を絞める結果をもたらす。国民保護計画でメディア統制が進められようとする中、時流に迎合して翼賛報道を行った過去の歴史を忘れ、自ら自衛隊の提灯番組を作っているようでは話にならない。