海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

憲法九条と集団的自衛権行使

2011-01-26 16:52:02 | 米軍・自衛隊・基地問題

 雑誌『中央公論』2011年1月号掲載の「佐藤優の新・帝国主義の時代」で佐藤氏は、昨年11月の北朝鮮軍による韓国の大延坪島攻撃を〈北朝鮮が従来引いていた線を一歩踏み越えた〉ものととらえ、日本は集団的自衛権のカードを切るべきだ、と主張している。

〈北朝鮮は、力の行使によって、自らの国益の極大化を狙っている。その国益の内容が何であるかについては、少し後で考察することにするが、日本の国益の観点から本件に対して迅速かつ的確な対応が必要とされる。その基本として、「力に対しては力を」という正しい思想を持たなくてはならない。北朝鮮の軍事的挑発を「力の論理」によって封じ込めるのである。日米同盟に基づき、日本政府は米国政府との緊密な連携のもとで、朝鮮半島における戦争を阻止するために全力を尽くさなくてはならない。この機会に、内閣法制局が従来の解釈を変更し、集団的自衛権を認めることが、わが国益に貢献すると筆者は考える。このような決断を菅直人首相が政治主導で迅速に行えば、北朝鮮に対する大きな牽制になり、日米同盟の深化に目に見える形で貢献する。北朝鮮は、日本が集団的自衛権の行使に踏み切ることを想定していない。ここで北朝鮮が考える与件を変化させることで北朝鮮の軍事的挑発を封じ込めるために、日本としてカードを切るべきと思う。
 時代はすでに帝国主義に転換している。帝国主義外交のゲームのルールはニュートン力学的な「力の均衡」だ。北朝鮮という、国力から見ればたいしたことのない「項」が、帝国主義という関数態の中で、分不相応な虚勢を張りだした。これに対して、日本がこれまで切らなかった集団的自衛権のカードを切ることによって、地域の平和と安定のために貢献することができる。そのためには、「力の論理」で外交を考えることだ〉(108~109ページ)
 
 米軍と韓国軍による北朝鮮への軍事挑発についてはまったく触れず、帝国主義の時代は「力に対しては力を」というのが正しい思想だから、北朝鮮の軍事的挑発を「力の論理」で封じ込めるために、日本は集団的自衛権のカードを切るべきだ、という実に単純で分かりやすく、勇ましい主張である。
 〈内閣法制局が従来の解釈を変更し、集団的自衛権を認めること〉というのは、憲法九条の「改正」は行わずに解釈変更で対応すべき、ということだろうが、佐藤氏の主張を読んでいると、昨年12月に出た『日米同盟vs.中国・北朝鮮/アーミテージ・ナイ緊急提言』(文春新書)のアーミテージ氏の発言を思い出す。憲法九条と集団的自衛権について、アーミテージ氏も次のように主張している。

〈春原 日米同盟の深化・発展に向けて、日本がクリアすべき課題とは何でしょう。
アーミテージ それは日本人が自ら決めることですね。それが第一に言えることです。次に憲法九条と集団的自衛権の問題は、この同盟にとって阻害要因となっています。それが二番目。三番目に言いたいのは、何も日本は憲法を改正する必要はないということです。ただ、内閣法制局による(憲法九条の)解釈を変えればいいのです。第四のポイントは繰り返しになりますが、ソマリア沖での自衛隊による活動(海賊対策)は集団的自衛権の行使と何ら変わりはないということです。
 中国が宮古海峡や尖閣諸島の周辺に海軍の艦船を派遣して日本をいら立たせているのに、なぜ、日本はリスク・フリーの切符を中国に易々と与えているのでしょうか?〉(270~271ページ)。

 日本は憲法九条を「改正」することなく内閣法制局の解釈変更によって集団的自衛権を行使し、日米同盟の〈深化・発展〉を図るべきだ。アーミテージ氏と佐藤氏の主張は基本的に同じである。『日米同盟vs.中国・北朝鮮』は昨年の12月20日に第1刷が発行されている。『中央公論』1月号は同12月10日発行である。日本の集団的自衛権について、アーミテージ氏と佐藤氏が同時期に同じ認識を示している。それを見るとき、佐藤氏が琉球新報の「ウチナー評論」で、対米従属派の代表のような前原誠司外相を持ち上げた理由も分かる気がする。
 中国・北朝鮮への軍事的対抗として日米同盟の強化を図ろうとするとき、沖縄対策が重要となるのは言うまでもない。普天間基地の辺野古「移設」はもとより、先島地域への自衛隊配備を進め、さらに日本が集団的自衛権を行使し、自衛隊が米軍と一体化して軍事活動を展開するためには、沖縄県民の大幅な意識改造が必要となる。
 次期首相候補の一人でもある前原外相が、日米同盟強化のために重要な役割を果たすことを、アーミテージ氏も佐藤氏も期待しているはずだ。そのためにも前原氏の沖縄における影響力を拡大していく必要がある。来る29日午後に前原外相が来沖し、沖縄都ホテルで講演する。日本青年会議所沖縄地区協議会の主催によるものだが、先週の佐藤氏の「ウチナー評論」は、この講演会に向けてのものでもあったのだろう。
 


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