実家が酒屋と言うこともあって、お酒に纏わる仕事をしている人が多い環境で育った。
京都の三条木屋町を少し下がったところで叔母がアイリッシュバーを経営していた。
チューダーインというお店。
チューダー王朝の酒場と言う意味。なぜ「京都」に、「チューダー王朝」だったのか分からないけれど、ネーミングセンスに自信のあった父が付けたその名前が功を奏したのか、叔母の人柄か、ともかく三条木屋町の激戦区でそのお店は30年以上続いた。
実家が酒屋なので、叔母から注文があるといつでも配達へ行く。
家族の誕生日でも、クリスマスも、お正月も。
雨の日も、雪の日も。
「ビールが切れた」と叔母から電話が入れば、倉庫から樽を出して自家用車へ積み込む。
子供の頃はその配達へ一緒について行き、やがてお酒が飲めるようになってからは、友達を連れて飲みに行くようになった。
それは私だけではなく父や兄たちもそうで、バラバラに京都の町で飲んでいた帰りに偶然家族がそのお店に集い、みんなで帰宅することも少なくなかった。
それから叔母が引退し、従妹がお店を引き継いで、私は週いちでバーテンのアルバイトをしていた。
実家が酒屋だからか、私はほどよくお酒を飲む人が好きだ。
そのお店でアルバイトをしていると、よくお説教をされた。酔っ払ったおじさんは、だいたい若い女の子にお説教をする。
「またか」という感じで、いつも同じことを言うそのおじさんの言葉をハイハイと聞き流す。だけど今、時々その言葉を思い出すことがある。
あの頃の私は、それから何十年も先に、東京の町で、酔っ払いのおじさんの言葉を思い出しているなんて考えもしなかった。
「凛と、生きて行きなさい」
今、三条木屋町のその場所は見るたびに違うお店に変わっている、激戦区なのだ。
だからもう酒樽を届けることもないし、父もいないし、叔母は本の配達のアルバイトをしている。
京都の夜の町を見続けてきたその叔母は、父のことを「あんなに愛おしそうにお酒を飲む人を知らない」と言った。
クリスマスまでの週末にお芝居をさせて貰っている「リトリート倶楽部」にいると、そのチューダーインを思い出す。
薄暗くて、カウンターがあって、奥にはボックス席、楽しげな笑い声とお酒の匂い。
そして時々、たまらなく幸福な気持ちになる。
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たきまきのふた月目
「思い出オンデマンド」
作・演出 滝本祥生
出演
山本麻貴
吉岡そんれい
永島広美(B.LET'S)
深水三章
▪️日程 12月
17日(日)19:00
23日(土)21:00
24日(日)17:00
※開演の1時間前よりopenします。
■会場:新宿三丁目BARリトリート倶楽部
(東京都新宿区新宿3丁目7−9 新宿土地建物第6ビル 2F)
■アクセス:東京メトロ丸ノ内線・副都心線/都営新宿線
新宿三丁目駅 C4番/5番出口 > 徒歩3分
(「東急ステイ新宿」隣)
■お知らせ
料金:2500円(1ドリンク付き)
定員20人(予約制)
先着順自由席
ご料金は当日会場でご精算ください。
▪️お問合せ
たきまき takimaki20171007@gmail.com