1974年に発表された作者の最晩年(77歳の時です)の作品ですが、稀代のストーリーテラーの筆は少しも衰えを見せていません。
9歳の男の子が、自分で発明したシャボン玉ピストルの特許を取るために、アメリカの西海岸の南のはずれであるサンディエゴから東海岸の首都ワシントンまで、大陸横断バスで向かう最中に、いろいろな事件に遭遇します。
国防省の大佐、ソ連のスパイ、殺人狂のハイジャック犯、初めてのセックスのために家出した高校生カップル、ベトナム戦争からの帰還兵、イギリスから来た老姉妹などなど、当時の世相を反映した様々な個性豊かな登場人物たちを、ギュッと一台の長距離乗り合いバスの中に押し込め、次々と事件を起こさせます。
もちろんストーリ展開にかなりご都合主義のところがあるエンターテインメント作品なのですが、その中に、父子の葛藤、年の差を超えた友情、大人の論理と子どもの論理、子どもの時代へのサヨナラなどのモチーフをうまく取り込んでいます。
また、安易なハッピーエンドではないのに、将来に希望が持てる点も重要な特長です。
一応、悪役といい役ははっきりしているのですが、あまり単純化しておらず、冷戦真っ只中のソ連側すらアメリカの国防省と同様にユーモラスに描いています。
中でも、一番すぐれた点は、作者が徹頭徹尾子ども側に立っている点です。
そういった意味では、この作品は優れた児童文学でもあるのですが、1977年に翻訳された時にあまり児童文学界で話題にならなかったのは、この作品がエンターテインメント作品だったからでしょう。
日本の児童文学界においてエンターテインメント作品が市民権を得るようになったのは、1978年に発表された那須正幹のズッコケ三人組シリーズが大成功を収めてからでした。
その後も、1990年代までは、評論の世界ではエンターテインメント作品は軽視されていました。
逆に、現在の児童文学は、売れるエンターテインメント作品ばかりがもてはやされていて、それはそれで問題なのですが。
シャボン玉ピストル大騒動 (創元推理文庫) | |
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