現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

鈴木光司「らせん」

2020-06-19 09:13:43 | 参考文献
 1995年に出版された、大ベストセラー「リング」(その記事を参照してください)の続編です。
 あとがきで、二匹目のドジョウを狙ったものでなく、最初からシノプシスがあったと弁明していますが、本人はいざしらず出版社にとっては二匹目のドジョウを狙った出版であることは明らかです。
 作中に、「リング」が大ヒットして映画化されるというくだりがありますが、こういった書き方は特に目新しいものではなく、児童文学の世界でもケストナーが「エーミールと三人のふたご」(その記事を参照してください)で同様の設定(前作「エーミールの探偵たち」が映画化されている)をもっとスマートに利用して物語に入れ込んでいます。
 完璧と思われた前作のラストをことごとく覆さなければならないため、かなり無理な設定にしたため、作者は三年間も悪戦苦闘したようですが、出来は前作に遠く及びません。
 前作では、怪奇現象の原因を、一般読者にもわかりやすい超能力者によるビデオテープへの念写としたのを、今回は一般には分かりにくい遺伝子やDNAの話にしたので、一気に大衆性を失いました。
 また、謎解きの方法も、前作では主人公たちが実際に汗水たらして取り組んだのに、今回はマニアックな暗号解読にしたため、読者の共感を得られにくくしています。
 特に、前回は主人公自身が一週間後に命を失うかも知れないというタイムリミットがあったために、読者もスリルを追体験できたのですが、今回はそれがないために他人事のように感じられてしまいました。
 作者は、その後も「リング」の続編を書き続けていきましたが、尻つぼみに終わったようです。



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