現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

大江健三郎「恢復する家族」

2024-03-17 16:18:01 | 参考文献

 1990年から1995年まで、日本臓器製薬の季刊誌に連載されて、単行本化されたエッセイ集です。

 主として、知的な障害を持つ長男(作曲家の大江光)と家族(特に作者と妻)の関わりを題材にしています。

 その過程で、困難に出会った家族(この場合は長男が知的な障害を持って誕生したことです)が、そこからどのように恢復していくかを描いています。

 特に、家族を恢復させるための主体が、作者や妻にあるばかりでなく、長男の存在やその成長する姿にあることを描いた作品群は非常に感動的で、作者の主張する家族観(相互に、恢復させる対象であり、恢復させる主体でもある)に共感を持ちました。

 その半面、題材がその他の作者に関係する人物(文学者や医師など)の場合は、想定読者が医者などの医療関係者だったりすることも影響したのか、内容や描き方がややスノッブに感じられることもありました。

 それにしても、終盤のザルツブルグ・ウィーンへの三人(作者、妻、長男)の旅は、テレビ局によるお膳立てという一般の障害者の家族には得られない状況だったとはいえ、非常に感動的で、この家族にとっての一生のハイライトだったと思われます。

 長男による二枚目のCD発表や妻の挿絵画家としてのデビューは、作者の威光によるものが多々あるにせよ、この家族が恢復した姿を象徴するものでしょう。

 

 

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