児童文学には、ユートピア童話という分野があります。
人間関係が濃密で、地域全体で子どもたちを育んでいるような環境を、作品の舞台にするのです。
多くは高度成長時代やそれ以前といった時代設定、あるいは農村や漁村といった舞台設定、時にはその両方を備えている場合もあります。
そこにおいて、現代では失われがちな人間関係や豊かな人間性を持った登場人物を使って、物語を展開するのです。
それ自体は、人間関係や人間性が失われがちな、現代の、特に都会の生活に対するアンチテーゼの働きをしているので、ユートピア童話のすべてを否定しようとは思いません。
しかし、そういった作品が同じ作者によって繰り返し描かれることは、過酷なユートピアではない現実社会からの逃避になってしまう恐れがあります。
また、設定自体が作品のリアリティを保証してしまうので、文学としての大きな飛躍がありません。
現実社会の問題点も描きながらユートピア童話を書くことは、より困難なことかもしれませんが、そういった状況における人間関係や人間性の復活を描き出すことができれば、より価値のあることなのではないでしょうか。
ユートピア (岩波文庫 赤202-1) | |
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