以下に、これからのエンターテインメントの書き方を箇条書きしますが、そのすべてを守れということではないです。
言ってみれば、これは顧客(子ども)のニーズに合わせた書き方なのです。
一方で、書き手の方にはシーズ(本来は種という意味ですが、この場合は作者の資質)の限界があるわけですから、自分にそのシーズがなければそれには対応できません。残りの部分で勝負すべきです。
それでは、始めます。
・芸術家ではなく、職人として作品(商品)を書いてください。その作業は、自己表現ではなく、顧客(子ども)のニーズを満足させるための仕事です。
・文章を書き出す前に、作品(商品)の設計図を書きましょう。その設計図に、読者のニーズを十分に盛り込むとともに、起承転結のはっきりした構成を組み立てましょう。設計図の書き方はどんな形でもいいですが、一つの例としては前述した分析図を参照してください。
・描写はなるべく省いて、児童文学の書き方の王道である、アクション(行動)とダイアローグ(会話)で書きましょう。
・どうしてもアクションとダイアローグだけでは書ききれない場合も、できるだけ描写(主観)ではなく、必要最小限の説明文(客観)で書きましょう(文学的ではないですね。でも、今の読者は説明文を読むのに慣れていますので、状況が良く理解できるのです)。
・作品の世界観は、オリジナルでなくてもいいです(いや、むしろオリジナルじゃない方がいいのです。文学的ではないですね。でも、すでに確立された世界観の方が読者は読みやすいのです)。
・自然主義リアリズムではなく、マンガ的リアリズムあるいは児童文学的リアリズムで書きましょう(文学的ではないですね。でも、読者の内部にはそれらのデータベースがすでに構築されているので、そうした書き方の方がイメージしやすいのです)。
(お話内リアリズムと言った方が、分かりやすいかもしれません。ある世界観で書かれたお話の中でのルールに従って書くということです。これは、メルフェンやファンタジーに限ったことではなく、いわゆるリアリズム作品の中でも成立します)。
・個性的なキャラクターを、最低でも一つ(おしりたんていや紅子です)は用意しましょう(言うまでもありませんね。でも、キャラクターの重要性は、時代を追うごとにどんどん増しているのです)。
・どんなにご都合主義でもかまわないので、ダイナミックにストーリーを展開させましょう。
・女性読者を意識しましょう。多くの読者は女性です。そして、それは子どもだけとは限りません。
・初めから、シリーズ物として企画しましょう。かつてのあさのあつこ「バッテリー」のように、単独の本でミリオン・セラーを出すことは、現在のマーケット・サイズ(少子化、男の子は本を読まない(多くは、マンガやゲームなどの他の手段で、物語消費をしています))では不可能です。シリーズ化で、ミリオン・セラーをねらいましょう(「おしりたんてい」シリーズは900万部以上、「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズは350万部以上です)。
・シリーズ化のためには、一冊目ですべてを出し切るのではなく、次作以降のアイデアも作っておきましょう。読者が、第一作を読み終わった時に、この作品世界をもっと読みたいと思ったら第一段階の成功です。その時に、タイミングを逃さずに二作目、さらに三作目と出していけたら、シリーズ物として成功できます。それを、四か月ごとに五年も繰り返せれば、ミリオン・セラーも夢ではありません。
・また、一作目を読んでなくても、二作目が楽しめるように書くこと(書き方としては少しくどくなりますが、キャラクターや設定の情報が、一つの巻にすべて開示されていること)が大事です。そうすれば、二作目を読んでから一作目が売れるチャンスもあるのです。三作目以降も同様です(図書館などで読む場合、一作目から順に読めるのはまれです)。
・成長物語ではなく、遍歴物語で書きましょう。絶対に、物語の中で、主人公を成長させないでください(これは身体的だけでなく、精神的にもです)。お話が終わってしまいます。一作で終わらないまでも、長くシリーズを続けることは不可能です。
(成長物語と遍歴物語
石井直人のまとめによると、
「成長物語では、主人公は一つの人格という立体的な奥行きを持った個人である。主人公が経験したことは、その内面に蓄積していって、自己形成(ビルドウング)が行われる。いわばアイデンティティ論の成立する場である。こうした主人公の成長をモデルとした作品が、一般に近代小説といわれている。
遍歴物語は、対比的に、主人公はむしろある抽象的な観念(イデエ)であって、それが肉化したものとしての人物であるにすぎない。いわば、主人公そのものはどうだっていいというところがあり、重要なのは作品を通じて繰り返し試される観念の方である。」
遍歴物語である近代童話を否定して成長物語を描こうとしたのが「現代児童文学」であって、それがある行き詰まり(読者である子どもたちからの遊離など)を見せた時に、那須正幹「ズッコケ三人組」シリーズを初めとしたエンターテインメントに登場する平面的な人物を主人公とした遍歴物語が復権したのでしょう。)
・子どもが好きな物を出しましょう。「おしりたんてい」シリーズではもちろんおしりですし、「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズに出てくる駄菓子も大好きです。
・絵(特に表紙)は非常に重要です。ライトノベルの世界ではジャケ買いもあるぐらいです。「おしりたんてい」シリーズのようなプロジェクト・チームや「かいけつゾロリ」シリーズのように自分で描ければベストですが、そうでない場合も、作品の視覚的イメージを明確にして、それに合った絵描さんを探してください(「ズッコケ三人組」シリーズの成功においても、前川かずおのマンガ的な絵の貢献は大きいです)。ターゲットの絵描さんが決まったら、編集者と粘り強く交渉しましょう(希望が通るほど作品世界に魅力があることは、言うまでもありません)。
・それと関連して、メディア・ミックスへの対応性も考慮すべきでしょう。本単体だけで売れる時代は終わっているので、ミリオン・セラーにするためにはアニメ、アプリ、ゲーム、コミックなどに展開する必要があります(「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズは、アニメ化されてから爆発的に売れたのですが、その表紙や挿絵はもともとアニメ絵でした)。
・そのためには、長編ではなく、連作短編で描く必要があります。一編を、5000字から8000字(原稿用紙で20枚から30枚)ぐらいにまとめて、子どもが15分から20分ぐらいで読めるようにするといいでしょう(現在の平均的な子どもたちの読解力や集中力では、それぐらいの時間が限界です。また、アニメに展開した場合に、10分程度で一話が終わる必要があります。本の世界でも、現在は、10分で読めるXXといったシリーズがすごく売れている時代なのです)。