心・技・体のうち、最もコントロールや鍛練が難しいのが心の部分です。
しかしメンタル面もトレーニングをすることや考え方を変えることで、技術や身体の力をより有効に生かすことができるはずです。
人間が限界を感じる時、その限界とは肉体的な限界ではなく、心理的な限界です。
肉体的な限界はまだはるか先にあります。
人が限界だと感じていても、平均して最大筋力の77%しか発揮していないようです。
つまり人はどんなに頑張っていてもせいぜい4分の3程度しか力を発揮しておらず、気持ちの面でセーブしているということになります。
日頃の練習の成果を試合でなかなか発揮できないという人も多いはずです。
可能な限り自分の力を引き出し、大会で結果を残すためのメンタルトレーニングや集中の仕方を考えてみたいと思います。
まずは「目標設定」です。
最終的な自分の目標を明確に持つことは非常に重要です。
長期的目標(年単位)→中期的目標(月単位)→短期的目標(週単位)で設定するのがよいでしょう。
ではどれくらいの目標を設定すればよいかというと、自分の達成したい目標を100%とすると、110%ぐらいで設定するのがよいということです。
つまり少し高めの目標設定です。
あまり高すぎると現実味がありませんし、低すぎると簡単に達成してしまいます。
また目標はできるだけ記録や順位、ライバルなど具体的なほうがよいです。
例えば記録でいうと、100m自由型で50秒を切りたいという場合、49秒9を目標とするより、49秒5くらいを目標にした方がよいのではないでしょうか。
しかもそれを達成するために具体的に練習記録を設定したり、ウェイトトレーニングの重量や回数を設定したりということが必要になります。
自分の高い目標と向き合って取り組むというのはきついことですが、それができるかどうかが勝負の分かれ目になります。
目標設定が大切なことは選手はもちろんのこと、コーチにもあてはまることです。
私の経験からいうと、たいていの場合、コーチの方が目標を高く持っていて選手は控えめな場合が多いです。
しかしまれにコーチの方が選手の力を低く考えていて、コーチが考えているよりも選手が力を発揮することがあります。
私もこれまで選手の本当の力を見抜くことができず、目標設定を誤っていたことがあります。
私が強く印象に残っているのは、北島康介選手を育てた平井コーチの目標設定です。
北島選手が中学3年生の全国中学で優勝した時に、将来は世界記録を出す選手に育てたいと言っていました。
なかなか中学生の段階でそこまでの長期的な目標を設定するというのは難しいものですが、その後の北島選手の活躍を見て、やはりコーチはそれぐらいの大きな目標を持つべきであると感じたものです。
また、今まで育てた選手の中にも「この選手がまさかここまでとは…」と感じることもたびたびありました。
コーチの目標設定が低ければ、選手がそれを超えることは難しくなってしまいます。
その選手をどこまでの選手に育てたいかという具体的な目標を設定することは、コーチの役割としてとても重要なことです。
目標設定が大切なことは学習など他の分野も同様で、教員を含めて指導者全体にあてはまることです。
今、スポーツ界のみならずすべての事柄で先が見えない状況で目標設定が難しくなっています。
このような状況の中で何を考え、どう取り組めばよいかという問題はもっとたくさんの知恵を絞る必要がありそうです。
竹村知洋