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少子化と労働問題9

2005年12月30日 02時44分19秒 | 社会全般
前の続きです。子供の出産についての経済学理論背景については、92年にノーベル経済学賞を受賞したベッカー博士の研究によるベッカー理論というのがあるそうです。経済学の専門書などを見て下さればよいと思いますが、素人なりの理解として簡単に書いてみたいと思います。


出生に関する要因としては、次の4つであるとされている。

①予算制約(=家族とか世帯収入)
②子供にかかるコスト
③出産・育児の機会コスト
④子供から受ける効用

判りやすいところから行きましょう。①の収入ですが、これはそのまんまです(笑)。一家に入ってくるお金が少なすぎると、出産しようということは経済学的に「無理」かもね、ってことですね。④の「受ける効用って何よ?」という意見もあるかもしれませんが、簡単に言えば「喜び」でしょうか(笑)。子育てに伴って、それなりに楽しみもあり、嬉しいとか喜ぶこともあるな、と。経済学的に言うと、「効用」ってことですが、子供の数と子供の「質」に比例した単調増加関数として捉えられています。子供の数が、1人よりも2人、それより多くなれば「喜び」も増えることが多くなる、ということですね(こうした経済学での評価が現実的感覚と合ってるかどうかは別として、一般に子供が増えれば、運動会に行ったりする回数が増えて喜びも増えたりするようなものと思って頂ければいいのではないでしょうか。私はそのように理解しました)。「子供の質」って何だか変じゃないか?というご意見もあると思いますが、これは後述致します。

③の機会コストですが、これは出産や子育てをした時に失われる収入や時間があって(こうした「失う」という感覚に反論もあるとは思いますが、あくまで経済学的な評価ですのでとりあえずおいておきます。行動や意思決定に際しては、経済学的合理性と生物学的本能の優位性というか、行動決定に及ぼす影響の大きさは評価の対象とはしないものと考えて下さい)、これを出産や育児などに振り向けず、他のこと(一般には仕事をしたり余暇を楽しんだりとか)に使った時に得られたであろう、期待収入の大きさです。現状の雇用環境のような、出産や子育て後にキャリアの途切れた女性がパートなどの非正規雇用になって収入が失われた場合に、(結婚や出産をせずに仕事を継続した)正規雇用者と比して収入格差が1億円とか2億円などと言われるレベルで存在すると、機会コストもかなりの高額となることが予想されますね。夫が死亡したりして年金暮らしとなった後でも年金収入に格差は残りますから、一生涯続く格差であると考えた方がよろしいかと思います。

最後の②ですが、これはちょっと判りにくい部分があります。子供にかかるコストは、基本的に人数に比例しています。人数が多ければ費用もそれに比例して増える。これは感覚的にも理解が出来ると思いますね。で、費用構造がどうなってるかと言うと、「単位当たりのコスト」×人数×「子供の質」という関数となります。「子供の質」ですが、こりゃ何だろうな、と普通不思議に思うのではないでしょうか。私なりの理解を例示しますと、次のようなことです。
「子供の質」を高める為には、習い事をさせたり、塾に通わせたり、いい私立学校(これも何がいいのか不明ですが、一般に信じられてる「いい学校」です)に通わせるとか、中卒で教育を終わりにせずに大学に行かせるとか、そういったコストを支払うことによって「子供の質」が高くなります。これは特別「いい子」とか「才能溢れる子」とかそういった評価ではなく、単純に「子供にかけるコストの大きさ」によります。「質が高い」というのは「子供に多くの投資をしておく」ということに他なりません(そう理解しました)。「単位当たりコスト」というのは、1人の子供にかかる「質」一単位当たりのコストで、初等・中等教育とかにいくらかかるのか、ということが基本です。「質」を正確に評価するのが難しいのですが、仮に公立での義務教育終了までに要する「質」を1単位とすると、更に大学卒業までは10単位ということであれば、1単位に300万円かかるなら大卒1人を誕生させるには11単位かかるので3300万円ということになりますね。この「質1単位当たりのコスト」という評価はちょっと難しい面もありますね。だって、小学生に塾に行かせたり、水泳や英会話を習わせたりするとコストは高くなりますが、皆がそうやってる訳でもないですし。公教育を基本として考えてもいいと思いますが、「質が高い子供」というのは、こうした投下資金が多いということです。「質の高い子供」からは受ける効用も多くなりますので、たとえば習い事をしていれば発表会があったり競技大会があったりして、親もそれなりに「喜ぶ」ということなんだろうと思います(喜々としてビデオ撮影したりとか、ヨソの子よりも素晴らしかったとか・・・そういう「親バカ」状態かな?)。


ベッカー理論の特徴としては、「①の収入が増えると、子供の数が抑制的となることもある」ということです。これは仮説の前提が問題となると思いますが、収入が増加することは結婚にも有利に作用し、一人目の出産にも正の相関を示します。ところが、収入の多い世帯というのは、続いて「質」を高める努力をしてしまう、ということになります。例を挙げると、収入が少ないと高校までの教育しか子供にコストをかけられないから、大卒は無理だったが、収入の多い世帯になると大卒までは可能となる、つまり「質の充実」を目指すようになる、ということです。特に(出産数が)3人目以降にかんしては、世帯収入が負の相関関係を持つようになり、質を充実させることが優先されるのです。収入が増えると、複数の子供を出産するのを抑制してしまう、ということですね。実証研究的には、経験的にこれが成り立つと考えられているようです(Seiver)。

(ちょっと追加:日本でも昔から「貧乏の子沢山」という言葉があって、収入の少ない家庭に多くの子供が生まれている、ということが経験則として存在したかもしれないですね。元々の出典が何なのかは知りません。農村などの「労働力要因」とか家父長制的な「元気な男子を多く産め」的なことなのか、はたまた「避妊がなかった」だけ(笑)なのか、理由は不明です。途上国で出生数が多いということも、似ている気もします。)


日本でベッカー理論の研究者として有名なのが、八代日本経済研究センター理事長だそうで、『結婚の経済学』という著書も書いているそうです。八代氏は以前記事に少し触れました(経済学は難しい10)。八代氏は年金問題や雇用問題などでも幾つかの提言(八代参考人提出資料識者に聞く(下) 八代 尚宏・日本経済研究センター理事長 : 年金改革 : 特集 : マネー・経済 : YOMIURI ONLINE(読売新聞))を行っているようです。頑張って欲しいものだと思っております。