→<ハトの背中を見て驚く脱北漫画家! そのわけは? ▸チェ・ソングク「大韓民国定着記」より>に続く脱北者漫画家チェ・ソングクさんのシリーズ第2回です。
脱北者や、北朝鮮についての興味深いネタがたくさんある中で、今回は韓国の脱北者からの北朝鮮にいる家族への送金をめぐる話。
この件に関しては、10月31日の<韓国デイリーNK>で「南の家族が送金した1万元を押収して着服した保安員を処罰」と題したニュース(→コチラ.韓国語)が報じられました。脱北した家族から送られてきた1万中国元を保安員(警察)に押収された北朝鮮の家族が怒って党に訴えたところ、保安員は着服が発覚して解任され、脱北者家族はお金は取り戻せなかったが何の処罰も受けなかった、というものです。つまり(ふつう行われているように)保安員もなにがしかの賄賂を取って送金を見逃す程度ならよかったのに、ということです。消息筋は「いくら敵対国のお金でも、平民のお金をむやみに奪って自分の欲を満たす法機関の人々に警鐘を鳴らす事件」だと語ったとのことです。
北朝鮮は「脱北するとその家族は収容所送り」といったような脱北者家族に対する厳しいイメージがありますが、この頃はかなりようすが変わってきているようです。
たまたま上記のニュースを読んだ時にこの漫画のことを思い出した次第です。
「自由を求めて」シリーズ全3巻の3冊目「自由を求めて -回想」から。前回同様本筋の間に折り込まれている<作者の言葉>中の1つです。
チェ・ソングクさんはまず家族を脱北させましたが、彼自身は捕まって比較的罪の軽い者を収容する労働鍛錬所で6ヵ月服役します。
その間、住人のいない家は何十回も泥棒に入られ、結局無一文の乞食になりました。
あの人、お母さんが南朝鮮に行ったのよ。 だから目も合わせないで。 ヘタに疑われるだけよ。 南朝鮮? ドラマを 見たらいい暮らしを してたけど。 | それは全部ウソよ。 自分たちはいい暮らしをしてると 宣伝しようとしてるのよ。 そうかなあ? 南朝鮮の商品は 良かったけど・・・。 |
ここでチェ・ソングクさんに対する読者からの質問です。
北南カキコミ会談
南側質問
뱅커(jsm8★★★★)
愛読してます。漠然と思うのですが、漫画を見ると、今後統一されてもたがいに考え方がずいぶん違っていて困難が大きいと思います。知りたい点は、今回の漫画で南韓がいい暮らしをしていることをすでに知っているようにコナムのお母さんがおっしゃってましたが、北韓の人たちも南と北の格差を認知していますか? それで南側に行きたいのだが旅券上むずかしいということですか?
これに対するチェ・ソングクさんの回答です。
北韓の人たちも南韓が暮らし良いことを認知しています。
そして多くの人たち、特に若い人たちが韓国にあこがれ、
行きたがっています。ところがその道は本当に危険な道なので
たやすく決心することはできません。
代わりに、韓流熱風は熱いです。そして北韓の体制上想像もできない
階級が生まれました。事実、脱北者の家族は裏切り者階級に分類され、
最もよくない取り扱いを受けなければなりません。
しかし「漢拏山(ハルラサン)血統」と呼ばれて「白頭山(ペクトゥサン)血統」を
圧倒しました。
「白頭山血統」:金日成の親戚・姻戚
「漢拏山血統」:脱北者の親戚・姻戚
数日後・・・・ 南朝鮮にいるお母さんがお金を 送ってきた? 乞食みたいに暮らして いたのが、最近<下の町>の服で武装 したわねえ。※<下の町(아랫동네)> とは南朝鮮(韓国)の隠語。 南朝鮮ではお金が道の上に 散らばってるの? 私がひと月稼いで も稼げない額よ。あの服を買うの なら貯めといて家を買うわ・・・ | 数週後・・・・ あら、もう家を 買ったのね? 商売でも何でも 南朝鮮にコネを つけなくっちゃ |
★「白頭山血統(백두산 줄기)」という言葉は日本でも週刊誌等でよく見かけますが「漢拏山血統(한라산 줄기)」という言葉は初めて知りました。
なお→コチラや→コチラの韓国記事によると、その他にも「洛東江血統(낙동강 줄기)」=朝鮮戦争で功績のあった兵士の子孫、「富士山血統(후지산 줄기)」=朝鮮総聯系、「パルチザン血統(빨치산 줄기)」=金日成とともに抗日運動を闘った人の子孫、「龍南山血統(룡남산 줄기)」=金日成総合大学を卒業した人たち という言葉があるそうです。どの程度一般的かは不明。
★関連の韓国記事
・「北 여성들 꿈은 ‘역적’ 탈북자 가족에 시집가는 것...‘한라산 줄기’ 선호(北朝鮮の女性たち 夢は‘逆賊’脱北者家族に嫁入りすること・・・‘漢拏山血統’を好む)」(→コチラ)・・・・2014年6月の朝鮮日報の記事。(すでにこの頃から報じられていたとは・・・。)
・「탈북자 송금이 북한 주민 먹여 살려(脱北者の送金が北朝鮮住民を食べさせ生かしている)」(→コチラ)・・・・2016年10月のKBSニュース。動画付き。
《私ヌルボの思うこと》
1990年代後半25万~300万人と、その人数も正確に把握できない大量の餓死者を出したのがいわゆる<苦難の行軍>の時代でした。その後2000~02年を境に、餓死者はほとんど出なくなったとのことです。
それは、配給も途絶した困難な時期に、住民たちが<闇市場>を舞台に商売をしたり、山の中などに自分用の小さな畑を拓いて耕作する等、自力で生きる道を切り開いていったからです。それらは社会主義の原則に反する違法行為ですが、かつてのような配給制度を再構築できない政府は<黙認>さらには<公認>せざるをえませんでした。その後2006年12月には成人男性の市場での商行為禁止、07年12月には50歳未満の女性の市場での商行為禁止といった規制策が打ち出され、09年11月には闇商人たちの秘密預金の一掃など資本主義的活動を一掃すべく通貨改革(デノミ)が行われましたが、経済に大混乱を招き、また各地で民衆の抗議行動も相次ぎました。そして改革が大失敗に終わったあと、05年~09年のすべての市場規制措置が撤廃されるに至りました。
今、平壌では多くの車が走っている等々、意外なほどの変貌(発展ぶり)が報じられています。しかし、ヌルボ思うに、それは金正恩政権の施策によるものではなく、(一部)住民の自主的な商業とか中国等との取引・起業等によるもので、政府は上記のような<黙認>、<追認>をしているだけのようです。いや、とくに富を蓄積した連中と相通じているかも。(当然か?) なんか資本主義の初期段階を見るような感じ?
長年の社会主義独裁政権下で「商行為は良くないこと」と教え込まれてきた人々の多くも、この20年間自力で稼いで生きてきたわけだから、食べ物とともに自分の財産についても相手が国であろうが断固守るゾ!という意識が強くなっているのではないでしょうか? 十分な恩恵も与えられない国が規制を図っても反発を買うだけです。
冒頭で紹介したニュースも、そんな社会的な背景があるかもしれません。
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