ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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韓国映画「神弓 -KAMIYUMI-」と、満州語と、東北工程

2012-09-08 23:45:01 | 韓国映画(&その他の映画)
 最近観た韓国映画最終兵器 弓について、9月4日の記事で次のように書きました。

 物語の背景の<丙子胡乱>(1636~37年)を予備知識として仕入れておくと理解が深まりますが、知らなくてもOKではあります。知識欲旺盛な向きは物語冒頭の争い=<仁祖反正>(1623年)とか、さらに<丁卯胡乱>(1623年)についても見ておくといいでしょう。

 ・・・と、ここまではいいとして、続けて次のように書きました。

 さらにさらに、この作品も「朱蒙」以来の高句麗や渤海等々を舞台にしたドラマ同様、中国の東北工程>を意識して作られたとみてよさそうです、きっと。

※「東北工程」については→ウィキペディアを参照のこと。

 ところが、これだけでは全然説明不足でしたね。いや、説明ナシでした。

 この映画の中で、朝鮮の敵国は成立して間もない清です。
 それまでの漢民族の王朝だった明にとってかわった清は満州族(女真族)が支配民族で、現代の中国とは連続性はありません。
 したがって、清との戦いを描いたこの映画がなんで東北工程と関係があるのか、疑問が起こるのも当然かもしれません。

 その後、私ヌルボが愛読しているブログの1つにこの映画についての記事があり、次のような記述があることに気づきました。

 明と清に連続性はないし清と中国にも連続性はない。不連続性、断絶しかない。そこを混同して短絡して単純化し「反中映画」と易きに走るのはどうだろうか。映画は映画だ、として映画そのものを観なくては。
 (中略)『最終兵器 弓』では清の戦士たちは全て満州語を話し、彼らが中国語(北京語や広東語等)を話していない、ということからも、現代の中国との、あるいは清の前の明国との不連続性を言語的に区別し峻別しながら本作が反中映画ではないと示しているようで興味深い。
 清軍が満州語で話していれば今作が反中映画と事実誤認される可能性もより抑えられるだろうから。


 この映画について私ヌルボが気づかなかったこともいろいろ記されていて、いつもながら得るところの多い記事としてうなずきつつ読んだのですが、ただ上に引用した部分については首を傾げざるをえませんでした。
 「反中映画」とレッテルを貼るのは適当ではないにしても、やはり「東北工程」との関連は否定できないと思うのですが・・・。

 私ヌルボが「中国の東北工程を意識して作られたとみてよさそう」と書いたのは、まったくの当て推量というものではないのです。
 映画の原題の「最終兵器 弓(최종병기 활)」と「東北工程(동북공정)」の2語をハングルで入力して検索すると、約1万3千件ヒットします。(この数字を多いとみるか少ないとみるかはビミョーですが・・・。)

 その中で、例えば→コチラの記事に注目しました。
 この映画の満州語の指導は、エンドクレジットを見ると高麗大民族文化研究院という文字が読み取れましたが、そこの満州語講師という人が書いた文章です。
 これによると、満州語と韓国語の共通点の多さをあげながら「満州語と満州族の文化はわれわれと切り離せない関係」とし、さらに「東北工程といわれる中国の歴史歪曲問題に対応するためにも、満州族と満州語の研究は必須だ」、「われわれは、これまで集中してきた中国と日本中心の東アジア学に目を向け、今は東北アジア、中央アジアにも関心を広げていかなければならない」と論を進めています。
 まさに中国語ではなく、満州語であることに、歴史的だけでなく現代的意味が込められているのでは、と思います。
 つまり、「反中」というよりも、歴史的に「満州」すなわち中国東北地方は、昔から朝鮮民族と非常に深い因縁のあった地であるということで、それがすなわち東北工程に対抗する主張という意味があるということです。

 また、この映画を観た人の中にも「東北工程(さらには独島問題)に対抗していかなければならない」との感想を持った人は相当数いるのも事実です。2例だけあげておきます。→コチラコチラ。(ともに韓国語)

 映画を通じての政治的なプロパガンダはふつうに見られることで、とくに私ヌルボ、アメリカ映画の露骨なアメリカ的正義の押しつけ等にはいつもながら辟易としています。あるいは、製作者が意識していなくても、その国あるいは監督等の特定の政治・社会観が表出することもよくあることで、それをもって映画の価値を測るべきものでもありません。
 その点この作品は、上述のような歴史上の、あるいは現代の国際政治上の問題とは関係なく鑑賞して十分に楽しめる映画だと思います。

※[付記]
 ウィキペディアの「東北工程」の説明文中に、次のような記述があります。
 YouTubeでは、韓国人が満州族の高句麗の歴史を盗作しているとする動画が出回り、韓国メディアが反発している。「Korean are stealing Manchu's Koguri history(韓国人が満州族の高句麗の歴史を盗んでいる)」という動画(→コチラ)は、「現代の韓国人は高句麗と血縁的関連が弱くて、高句麗の血統を受け継いだのは満州族」として「歴史泥棒もうやめろ」とし、「韓国人は、過去の高句麗の血統を受け継ぎ非常に長い時間満州を支配したと言って歴史の盗難をしようとしている」としている。この動画に対して、「韓国人は嘘つき」「韓国をよく表現している」など嘲笑するコメントが何百も投稿されている。
 ・・・映画に即して言えば、韓国側としては、満州族、満州の文化や言語、満州の地は、漢民族よりも朝鮮民族に密接な関係がある、と言いたいのかな?

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