ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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韓国の伝統菓子 ②お餅カフェ・チェーン店ピジュン等を立ち上げた「韓菓名人」金圭欣さんのこと

2013-10-27 18:58:52 | 韓国料理・食べ物飲み物関係
 和菓子が大好きです。別に老舗の銘菓でなくても、街の和菓子専門店で買った桜餅や草餅をお茶を飲みながら食べると心が和みます。また国内旅行の際には、現地の代表的な菓子を事前に確認しておいて買い求めるのも楽しみのひとつです。
 ホントに「仰げば尊し和菓子の恩」とはよく言ったものです。(笑)

 ところが、韓国では、そんな街の和菓子屋さんに相当する韓国伝統菓子の店はあまりないようです。これもやはり儒教の影響の色濃い社会で職人とその技術が低く見られてきたためでしょうか。

 →コチラにある写真(ソウル市陽川区の新谷市場(신곡시장))のような市場内の屋台の韓菓店は見かけますが・・・。また 広蔵市場にも韓菓専門店がある(→コチラ)ようですが、前行った時には気がつきませんでした。

 ネット検索したら、1953年に創業した好圓堂(호원당.ホウォンダン)という高級そうな餅菓子専門店が梨大本店と狎鴎亭店、そしてアメリカのLA店と3店あって、これはいずれ行ってみようと思いました。(→ソウルナビ。→公式サイト。)

 その他、ソウルナビを見ると、ソウル市内で伝統菓子関係のカフェや販売店が30あまりリストアップされています。(→コチラ。)
 ところで、その中にある餅菓子カフェのピジュン(빚은)や韓菓カフェのチャオルム(차오름)という店をご存知でしょうか? 現在、全国でピジュンは145店舗、チャオルムは16店舗を有するチェーン店です。主要な空港や駅、バスターミナルや繁華街等にあるので、店名は知らないまま入った人もいるのでは?
  ※ピジュン・・・→参考。→公式サイト
  ※チャオルム・・・→参考公式サイト
 このピジュンとチャオルム、10月23日の記事<韓国の伝統菓子 ①美味しい薬菓と出あう>で書いた「韓菓名人」金圭欣(キム・ギュフン)さんが立ち上げたチェーン店なんですね。

 金圭欣さんについてはいろんな韓国サイトに記されていました。
 それらを読んで、彼自身のことや韓菓のこと等々、さまざまなことがわかりました。
 
 彼の足跡をたどると、韓菓の業界でメジャーな存在となるまでの立志伝といった趣きが感じられます。

 現在59歳(1954年に生まれ?)の彼と韓菓との関わりは、1978年安東にある義兄の韓菓工場に就職したのが始まりでした。
 1980年に独立して韓菓の店を開きます。そして1981年抱川市にシングン伝統韓菓(신궁전통한과)を設立し、彼の韓菓製造の本拠地として今に至ります。
 独立後、精力的に実績を重ねていきますが、たぶん80~90年代の時期が技術面でも経営面でも基礎確立期だったんでしょうね。
 たとえば、技術面では、
 ・湿気の多い2月から8月には損害が大きいため韓菓製造を中止したり、糖度を比較・調整する等、油菓の欠点である日持ちの悪さに対応、保存期間を最高1年に増やした。
 ・1990年代当時は小麦粉製の薬菓しかなかったが、3年間の研究の末に米を材料にした薬菓を開発して特許を獲得した。
 ・韓菓をあまり食べない若年層の嗜好に合わせて、チョコ油菓、緑茶油菓などを開発した。
 ・パッケージングの技術等を開発した。
 ・・・等々。この間(かな?)政府に新しい工場を建てた時には家まで売ったが建築費はそれでも足りず、結局小麦粉の納品業者がお金を貸してくれたとか。その業者の跡継ぎ(息子)との取引は今も続いている。)
 一方、宣伝・広報にも力を注いできたのが発展のための大きな力となったようです。
 創業した最初の頃は、日中は自転車に乗って自分が作った韓菓を宣伝し、配達したとか・・・。
 技術面の向上だけでなく、そんな宣伝・広報にも力を注ぐという姿勢は今日まで一貫しています。

 そして、発展の契機となったのが2000年に韓国の伝統食品の世界化のための品評会で韓菓部門最優秀賞を受けたこと。
 以後青瓦台(大統領官邸)の名節の贈り物や、ASEM(アジア欧州会議)の公式晩餐会のデザートに彼が作った韓菓が出されたりして、広く認められるようになります。(おそらく、いろんな働きかけがあったのではないでしょうか?)

 2005年農林部(日本の農水省にあたる)からの伝統食品分野の「韓菓名人」に指定されたのも、その延長線上にあります。現在韓菓名人が3人いる中で、彼は2番目に選定されました。
 このような「お墨付き」をその後の発展のために最大限利用するのも彼の「才覚」というべきでしょう。

 この頃から、さらなる施設等の拡充、経営の拡大へと乗り出します。
 上述のように、2006年餅菓子専門店のbizeun、そして2010年韓菓カフェのチャオルムを開業。チェーン店として店舗拡大を進めています。
 またデパート・農協などの大型小売店に韓菓セットを納品し、日本に輸出するなど、新しい市場を構築していきます。

 この間、約3年準備の末に2008年4月抱川に韓菓文化博物館 韓佳園を開館しました。
 30億ウォンの私財をはたいて設立したというこの韓佳園は、韓菓の歴史や種類、原材料、製作過程や道具等々の展示の他に、見学者たちがその場で韓菓作りを体験できる施設です。(→公式サイト。)
※<アナバコリア>に、開館初日に訪れ、詳しく紹介した記事がありました。(→コチラ。)
地図で見ると、交通の便がよくない所のようですが、この記事には「鳴声山と山井湖水、名声渓谷、ピョンガン植物園と隣接していて、家族で出かけてから回ってみるのにとてもに良い」とのことです。
 ※韓佳園には学校の社会見学(遠足)にも利用されているようで、これには「세 살 입맛이 여든까지 간다(3歳の時の味の好みが80歳まで続く)」という言葉を引き合いにして、「韓菓の味が私たちの次の世代の舌に刻印されるようにするのが私に残されたの使命」と言う彼自身の将来的な韓菓消費の拡大という深謀遠慮がうかがわれます。今年7月には、<大統領記者団>の小学生40人がここを訪れ、<韓菓広報大使>として記事を発信しています。(→コチラ。)

 そのほかにも、彼は2008年から<韓菓文化フェスティバル>を推進したり、世界の約40ヵ国を回って韓菓の広報に努めたりもしています。
 ※<民団>のサイトの記事によると、今夏来日したとのことです。

 今年、彼は「大韓民国名匠」に選定されました。
 これは1職種に15年以上従事してきた熟練技術者が受けることができる最高名誉の賞で、雇用労働部と韓国産業人力公団が熟練技術の発展及び熟練技術者の地位向上に貢献した人の中から書類・現場実習・面接等を通じて審査し、毎年35人以内で選定します。今年は彼を含め23人が選ばれました。彼以外には、新種のスイカを開発した農協種苗センター団長、伝統建具研究所代表などが選ばれています。
 大韓民国名匠に選ばれた人には、大統領名義の証書と銘牌、徽章が授与され、一時奨励金2000万ウォンが支給され、今後同じ職種で働き続けた場合、年間167万~357万ウォンほどの継続従事奨励金の支援も受けられます。

 このように彼の足跡をたどってみると、彼が向上心と独創性を持った韓菓製造の技術者としてだけではなく、時代に対する先見性を持つとともに宣伝能力に優れた実業家としての両面の実力を備えた人物といえそうです。

 私ヌルボ思うに、彼の事業拡大のキモというべきポイントは2つあります。
 1つ目は、今世紀に入って韓国でも<健康>と<自然>が重視される時代となり、金圭欣さんもそこに着目した、ということ。
 韓菓は化学添加物を用いず、色や香りにも自然の材料を使用していることや、発酵食品である油菓は腸の健康によい等々とアピールしています。
 2つ目は、国や地域の産業や、伝統文化の振興を図る行政との連携を重視して広報・宣伝活動を推進していること。
 今年8月13日の「ヘラルド経済」の記事によると、2005年に1000億ウォン水準だった韓菓市場は2011年2000億規模にまで成長したそうで、彼はその原動力になったと書かれています。

 いやー、こうして見てみると「なるほどなー」ですね。
 国あるいは世界レベルでの経済と、伝統文化の1つである韓菓との結びつき。
 韓国が進めているビビンバをはじめとする「韓食の世界化」キャンペーンと軌を一にするところがありますね。
 そんなモロモロの中のごく微視的な場面でヌルボのような1人のお菓子好きが「これ美味しいな~」とか言ってるんだなということがわかってきました。ま、いいんですけどね。

 ところで、韓国よりもはるかに深い(と思われる)和菓子の場合は、海外展開の現況はどうなっているのかな?
 <大福・どら焼き、海外に挑む 10年で和菓子輸出4割増>という記事が一昨年の日経にありましたが・・・。(→コチラ。)

※YouTubeにEBSの番組「직업의 세계 일인자(職業の世界の第一人者)」の中の「한과 명인 김규흔(韓菓名人 金圭欣)」がアップされています。1・2部各4つに分けられています。
 1部の最初(#001)は→コチラ。続きは→コチラから。
 韓菓の製造工程、韓菓カフェの店内、韓佳園での韓菓作り体験のようす等々が映されています。

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8 コメント

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プッと (ハーちゃん)
2013-10-27 23:49:03
笑ってしまいました。「和菓子の恩」!

韓国では職人の地位が低いそうですね。それで親の職業を子が引き継がない。それでは伝統も守れない気がします。

このかた、本当に職人さんでありながら経営者としても才能があるかたなんですねぇ。

ピジュンは、韓国旅行をしたかたのブログで見かけます。買ったことはまだないのですが(^^)。
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韓国旅行の楽しみが・・・ (ヌルボ)
2013-10-28 00:07:39
いろいろ情報を仕入れる度に、韓国に行く楽しみが増えて行きます。
今度は、誰かへのおみやげではなく、自分のための伝統菓子めぐりをしてみたいと思います。

ただ、よく一緒に行く仲間はもっぱらお酒の方ばかりなもので・・・。
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Unknown (さくら)
2013-10-28 06:42:18
情報ありがとうございます。
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今日から明日へあさってへ (ちゃ~ちゃん)
2013-10-28 11:57:48
 突然、お邪魔します。
 新春にコメントを頂いていたのに、今日まで気づかず、大変失礼しました。
 お詫びのご挨拶に伺った次第です。
 なかなかの研究なので、ブックマークに登録し、ちょこちょこ訪問させて頂こうと思います。
 先ずは、お詫びをかねたご挨拶まで m(__)m
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ちゃ~ちゃんさんのブログ (ヌルボ)
2013-10-28 12:54:13
ちゃ~ちゃん様

今年正月に大阪の金漢重の墓を訪ね、記事を書きました。→
http://blog.goo.ne.jp/dalpaengi/e/483584fd287f633f12b2d465b4d8358c

その時に<今日から明日へあさってへ>の記事を参考にさせていただきました。 →
http://isao3264.exblog.jp/14234909/

自分の書いた記事を再読して、薄れていた記憶を思い起こしています。

最近無言館へ行かれたとのこと、私も以前から行こうと思いつつ、何年も経ってしまいました。
その他、骨のある記事がたくさんあって、勉強になるとともに元気づけられます。
今後もよろしく。



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さくらさんへ (ヌルボ)
2013-10-28 12:57:00
お役に立ちましたら幸いです。
今後もよろしく。
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読んだらお腹が一杯! (jija kim)
2013-10-29 00:20:29
盛り沢山の情報を堪能致しました。油菓の作り方まで動画で見られたのは予想外で嬉しかったです。ずっと見てみたいと思っていましたので…。
韓国でも、ただ黙々と職人としての道を極める人たちの生にももっと焦点が当たり、尊重されるようになっていって欲しいと思います。間に合わなくなる前に…。
ヌルボさんの情報は、硬軟問わず本当に幅広いですね。これからも楽しみに拝見致します!
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興味深い動画 (ヌルボ)
2013-10-29 14:46:07
jija kim様

ネット情報がほとんどないのもお手上げですが、金圭欣さんや韓菓関係の韓国記事は逆にたくさんあって、要点だけまとめるつもりが長くなってしまいました。
この動画だけでもっこう勉強になりますね。

ご愛読ありがとうございます。
このブログは、美味しそうなものを飲み食いしたり、本や映画等おもしろそうなものを見たり、自分の生活や社会問題について考えたり、何かにでくわして驚いたり・・・という日常をそのまま韓国にまで広げただけなので、結果として「硬軟問わず」になっているというわけです。
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