ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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[韓国映画]早稲田松竹で観た「ペパーミント・キャンディー」 ②映画で振り返る九老・加里峰・大林洞の40年の歴史

2018-09-03 15:36:16 | 韓国映画(&その他の映画)
 →[韓国映画]早稲田松竹で観た「ペパーミント・キャンディー」 ①18年ぶりに知った新事実

 ハンギョレ系のソウル情報サイト<ソウル&>に、「思い出と希望を訪ねて<Gバレー>を歩く」という記事(韓国語)がありました。(→コチラ。) その記事は、次のような問いから始まっています。

 沈相奵(シム・サンジョン)金文洙(キム・ムンス)孫鶴圭(ソン・ハッキュ)朴ノヘ「離れ部屋」「グリーン・フィッシュ」「ペパーミント・キャンディー」・ディスコ(韓国語でGoGo장)の共通点は何か?
 沈相奵、金文洙、孫鶴圭はよく知られた政治家、朴ノヘは詩人、「離れ部屋」は申京淑(シン・ギョンスク)の小説です。

 正解は九老工団先の記事の末尾で、「とりあえずの結論は、「ペパーミント・キャンディー」は<光州事件の映画>であるとともに、<九老工団関係の映画>でもある」と書いたので、本記事を続けて読んでいる方はすぐわかるかも。
 なお、沈相奵、金文洙、孫鶴圭は、かつてこの九老地区で労働運動に携わった政治家です。朴ノヘ[本名:朴基平(パク・ギヒョン)]は1984年詩集「労働の夜明け」を発表して大きな衝撃を及ぼした労働者詩人。(<南韓社会主義労働者同盟>を結成し、国家保安法違反で死刑宣告を受けたこともある)、「離れ部屋」は、1980年前後に九老工団で労働者として働きながら夜間高校で勉強し、90年代には韓国の代表的作家の1人となった申京淑の自伝的小説です。そして「グリーン・フィッシュ」と「ペパーミント・キャンディー」はイ・チャンドン監督による映画です。

 私ヌルボが、かつて工業団地があったこの地域に行ったのは2016年11月でした。その記録は→コチラの過去記事参照。
 そこでも書きましたが、まず訪れたのは加山デジタル団地駅至近の九老工団労働者生活体験館。

    
 労働者生活体験館の外観(左)と、その地下に再現されている当時の労働者たちが起居していた「蜂の巣(벌집)」とよばれた2、3坪ほどの狭い部屋。
 1964年以降韓国初の産業団地として造成された九老工団は朴正熙大統領による輸出主導型の開発政策の象徴するもので、1980年代半ばまでここは輸出産業の中心地でした。
 私ヌルボ、生活体験館でのにわか学習で、その近く(?)に、輸出製品を積み出していったという<輸出の橋>や、女性労働者を讃える<輸出の女神像>があることを知りました。しかし場所を道行く人に訊ねたりしたもののよくわからず、断念。後で調べてみたら・・・。

     
 この車が渋滞気味の跨線橋が<輸出の橋>だったとは!(左画像) 川に懸かっている橋かと思ってました。この橋の下は、近年日本人観光客にも人気のアウトレット街です。そして<輸出の女神像>は東に直線距離で約2kmの九老工団デジタル団地駅に近いビルの前にあります。
 真ん中の画像正面のKICOXベンチャーセンターのビルはかつての九老工団の中心というべき所に2000年建てられました。人件費の安い東南アジアへの工場移転が進む等々、産業構造の変化により90年代に入り沈滞していった九老団地一帯は、21世紀に入りゲーム産業等、先端産業の街へと面貌を一新しました。<九老工団>に代わって案出された<Gバレー>という言葉もデジタル団地化を象徴するものです。(※九老(Guro)のGとシリコンバレーのバレーの合成語。) 駅名も2004年九老工団駅が九老デジタル団地駅となり、翌05年には加里峰駅が加山デジタル団地駅に改称されました。そして今、この<輸出の女神像>の前には「신산업의 터전(新産業の拠点)」と刻まれた大きな石柱が立っています。
 <輸出の女神像>は、元はといえば1974年に工業団地創立10周年を記念して造られた<輸出の女人像>でしたが、ビル建設が進む中花壇の隅に追いやられていたのを、2014年工団建設50周年のイベントで元の位置に据え直したものとのことです。

 このように街の景観が大きく変貌した今、とくに目につくのは中国の簡体字と赤い色の看板の店舗、とくに食堂です。つまり、90年代以降この一帯は中国朝鮮族の集住地域になっているのです。

 右は、南九老駅近くの大通り(九老道路)に面した雑居ビル。
 <中國网吧>(ネットカフェ)や、<중화노래 연습장>(中華歌練習場.カラオケ)といった看板があります。
 さらに大林(テリム)駅辺りまで行くと、ここにはちょっと知られた(?)チャイナタウンがあって、(朝鮮族自治州の)延辺料理、とくにヤンコチ(양꼬치.羊肉の串焼き)や犬肉料理の食堂が目立ちます。
 多くの観光客が訪れる横浜の中華街とは雰囲気が全然違って、朝鮮族の人たちが中国での食文化をそのまま持ち込んだ感じの街です。

    
 
 ところで、韓国映画ファンの皆さんはこの大林洞辺りを舞台にした最近の韓国映画をご存知でしょうか? いくつかあります。いや、「いくつも」と言った方がいいかもしれません。答えは後の方で書きます。

 ここで、加山洞~加里峰洞~大林洞一帯の地図を見てみましょう。

 ①加山デジタル団地駅 ②南九老駅 ③大林駅 ④九老デジタル団地駅 ⑤九老工団労働者生活体験館 ⑥輸出の橋 ⑦輸出の女神像 ⑧チャイナタウン
 この地図の縦横はおよそ3kmです。
 また、この上の地域全体は、ソウル駅(右の地図の右上印)の南西方向に位置しています。

 ふー。やっとここで本記事のタイトル<映画で振り返る九老・加里峰・大林洞の40年の歴史>にたどりつきました(笑)。
 私ヌルボ、韓国外国語大学校のサイト内に<文学と映画の中の加里峰洞(大林洞)>という記事(韓国語)があるのを見つけました。(→コチラ。)
  文学の方は、上記の「離れ部屋(외딴방)」や映画化された李文烈の小説「九老アリラン(구로 아리랑)」が当然入っているな、というのをチラッと見て、映画の方に目を移すと、1976~2017年の21作品がリストアップされているではないですか。
 日本で公開された作品は約半分。長くなりついでに全部転載します。
 ※日本公開作品は邦題をつけておきます。(漏れがないかな?) それにしても、韓国映画ファンにはたぶんおなじみの<輝国山人 ホームページ>に日本未公開の→「高校ヤルゲ」や→「薔薇色の人生」の記事まであるのは、<韓国映像資料院 古典映画コレクション>のDVDを観て書かれたようですが、たいしたものです。

・고교얄개[高校ヤルゲ](1976) ソク・レミョン監督
・불타는 소녀[燃える少女](1977) キム・ウンチョン監督
・바람 불어 좋은 날[風吹く良き日](1980) イ・ジャンホ監督 邦題:風吹く良き日
・어둠을 뚫고 태양이 솟을 때까지:구로항쟁의 진상을 밝힌다[闇を突き抜けて太陽がほとばしる時まで:九老抗争の真相を明かす(1987) イ・サンビン監督 ※ドキュメンタリー
・구로아리랑[九老アリラン](1989) パク・ジョンウォン 邦題:九老アリラン
・내친구 제제[僕の友だちジェジェ](1989) イ・セリョン監督
・장미빛 인생[薔薇色の人生](1994) キム・フンジュン監督
・초록물고기[緑の魚](1997) イ・チャンドン監督 邦題:グリーンフィッシュ
・박하사탕[ハッカ飴](1999) イ・チャンドン監督 邦題:ペパーミント・キャンディー
・눈물[涙](2001) イム・サンス監督 邦題:ティアーズ
・돌아보면[振り返ってみれば](2001)キム・ソンミン監督 ※ドキュメンタリー
・가리봉 엘레지[加里峰エレジー](2002) イ・ギウォン(脚本) ※MBCの特集ドラマ
・달팽이의 꿈[カタツムリの夢](2003) キム・ソンミン監督 ※ドキュメンタリー
・가리베가스[カリベガス](2005) キム・ソンミン監督 ※ドキュメンタリー
・전우치[チョン・ウチ](2009) チェ・ドンフン監督 邦題:チョン・ウチ 時空道士
・황해[黄海](2010) ナ・ホンジン監督 邦題:哀しき獣 THE YELLOW SEA
・신세계[新世界](2013) パク・フンジョン監督 邦題:新世界
・가리봉[カリボン](2013) パク・ギヨン監督 ※ドキュメンタリー
・위로공단[危路工団](2015) イム・フンスン監督 邦題:危路工団 ※ドキュメンタリー
・청년경찰[青年警察](2017) キム・ジュファン監督 邦題:ミッドナイト・ランナー
・범죄도시[犯罪都市](2017) カン・ユンソン監督 邦題:犯罪都市

 日本公開の11作品中私ヌルボが観たのは7作品か。九老工団の歴史をたどった「危路工団」を観られたのはラッキーでした。一方、観るつもりでいた「ミッドナイト・ランナー」を見逃したのは残念。
 とくに近年は朝鮮族がらみの犯罪物が続いていて、この「ミッドナイト・ランナー」に対しては韓国内の中国朝鮮族団体が上映中断と制作陣の謝罪を要求したとのニュースが報じられていましたね。(→コチラ参照。)

 今回の記事は、ほとんど「ペパーミント・キャンディー」自体にはふれませんでしたね。
 ところが、さらにこの続きを書くことに急遽決定しました。そして今度こそは「ペパーミント・キャンディー」に直接関わる、(前回とは違って)他の韓国映画ファンも知らない<新発見>を、短い記事でまとめる予定です。(ウソの3点セットみたい。)

 →<早稲田松竹で観た「ペパーミント・キャンディー」 ③申京淑の自伝的小説「離れ部屋」を読んで気づいた3つの共通項>

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