▸先週の記事で書いた「1917 命をかけた伝令」に続いて、一昨日・昨日と続けて観た「彼らは生きていた」と「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」も、私ヌルボとしては★5つです。
「彼らは生きていた」は、イギリスの帝国戦争博物館に所蔵されていた大量の第1次大戦の実写記録映像を編集したドキュメンタリー。パンフによると、今の映像は毎秒24フレームだそうですが昔はほぼ13~16フレームとのことで、そのまま映写すると動きが速く、またギクシャクして滑稽な印象さえ受けてしまいます。それを時間をかけて自然な速さに調整し、さらに歴史を考証しつつ着色し、人の声ばかりでなく馬のいななき等々の物音も入れて、違和感のないように仕上げたそうです。その結果、100年前の兵士たちや戦場のようすが現代のようなリアリティをもってよみがえったというわけです。99分の上映時間の最初の約30分は画質の粗いモノクロのスチール写真で、それに退役軍人のインタビュー音声が次々に入ります。英語が聴き取れないフツーの日本人だと字幕と画面と両方観るのはどちらに重点を置くかむずかしいところです。その上私ヌルボの場合はノートにメモを取りながらなもので・・・(笑)。
そして兵士たちが船で34キロ、フランスのカレー港に着くと砲撃で折れた樹が目立つ荒涼とした戦場が彼らを待っています。ここからフルスクリーンの鮮明なカラー映像に替わります。
多くの兵士が、殺し殺され、ここかしこに戦死者の遺体が散乱し・・・。それらももちろん着色されていて、正視に耐えられないほどです。戦地に跳梁跋扈するネズミの姿も捉えられています。そんな中、戦況が小康状態の時には仲間同士談笑しながら飲み食いしたり、屋外で横に並んで排便したり、シラミを火にさして退治したり等々。ドイツ兵捕虜たちの時計はまき上げるのが通例だったとはいえ、彼らとの人間的な交流もあり「彼らもまた命令に従っただけだ」と認識します。
このドキュメンタリーの意義は、こうしたリアルな映像とともに、数多くの元兵士たちの証言にあります。「地獄のように悲惨だった」「ドイツ人を殺さなければならない、とすり込まれていた」という一方で「兵役は楽しかった」「同じ状況ならまた行く」「人生で一番輝いていた時期」という非常に肯定的な感想もむしろ多いようです。また徴兵制ではなくても男たちが続々と兵士に志願したようすも。資格の規定は19~35歳なのに15歳くらいの少年でも年齢をごまかしたり、軍の側もそれを知りつつ受け入れたりとか。ずいぶん気軽に志願したものです。反戦的言辞ばかりでない点がむしろリアルさを感じます。なんとか生きて帰ったものの国に戻ったら就職事情の悪い中で差別されたり、「汚いもののように扱われ、失業して生きていけないという現実まで証言は及んでいます。
このドキュメンタリーの映像を観て、「1917 命をかけた伝令」で描かれた戦場の光景がやはりずいぶんリアルなものだったことを再確認しました。ということで、コチラの作品もぜひ観てみてほしいと思います。
▸「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」は、前作をかなり忘れてしまっていた分、新鮮な気持ちで観ました。2016年の前作は、同年の個人的ベスト10(→コチラ)では日本映画トップの第3位に入れました。ただし、「ずいぶん迷った末」です。その理由をそのままコピペします。
ヌルボとしては感想を求められてもなかなか言葉が出てきません。それはたぶん「日本人というワクを超えてどれくらい普遍性を持ち得るか?(どれくらい理解されるか?)」ということ等がよくわからないということもあるし、(うーむ、むずかしいな) 庶民を戦争の被害者とだけ描くのでなく、では何らかの責任があるのか、とか・・・、つまるところ戦争が台風や地震のような自然現象ではないとしたらなぜ起こるのかとか、いろんなことを考え始めると何も語れなくなるということ。あるいは、(昨年の「この国の空」のように)戦時にも「変わらぬ日常生活があった」にしても、その中で「異常」「非常」がどのように認識されていたか(orいなかったか)ということは、まさに現在にも通じる問題だと思うのですが、この映画を観た観客ははたして自分自身の「戦争観」と照らし合わせて「ナットクした」のか、それとも新しい認識を得たのか、そこらへんがよくわからないのです。(うーむ、やっぱりむずかしいな。)
・・・今たとえば、「戦争中も庶民には変わらぬ日常生活があった」といったような感想ははっきり「それは違うゾ!」と言えます。食糧等々統制下に置かれて不自由な毎日。そして何よりも家族(あるいは自分)が戦地に送られ、<敵>という人間を殺したり自分が死んだり・・・。それは平和時の日常とあまりにも違うではないですか。それを大多数の人々は<そういうもの>として受け入れたのです。要はそのことをどうふり返るか?ということです。
九段下の昭和館は1999年の開館当時展示内容等をめぐって議論のあった施設ですが、その後2005年に初めて見学した時の感想は「戦争を台風などの天災のように扱っている」というものでした。つまり「悲惨な戦争がなぜ起こったか? 自分たちがどう関わったのか?」を考えさせるものになっていないということ。「台風があろうと地震があろうと、そして戦争があっても庶民はそれでもたくましく生きていく」って??
一方、<NAVER映画>で「この世界の片隅に」に対する韓国ネチズンの寸評を見ると評価は人によって大きく分かれています。「これは決して右翼映画じゃない!」というコメントも多いものの、「いつまで経っても被害者コスプレだな」とか。専門家3人の評点は7・6・5ですが、5点の人は「多数が純真だからといって覆えるような歴史ではない」と・・・。では反戦の闘士や脱走兵等を登場させればいいのか?と反問したくなります。当時は庶民の生活も思想も戦時体制にからめとられていたわけで、そんな中であるネチズンのように「軍港の戦艦の大砲がどこに向かっていたのか考えられないのか!?」とか「(すずが)最後の一人まで戦うんじゃなかったのか?と泣くとは呆れる」というのは今のモノサシでしか見てない論外としか言えない感想です。
ここで思い出したのは渡辺白泉(1913~69)の「戦争が廊下の奥に立つてゐた」(1939年)という有名な句。本当に戦争を起こらないように、いや起こさないようにするためには、そんな庶民の日常生活から見つめなおさなければならないのでは? そういう視点がこの「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」にあるかどうかが評価のポイントになりますが、私ヌルボは今回「ある」と判断しました。
▸シネマ・ジャック&ベティでこれから観る予定の映画のメモ。「つつんで、ひらいて」「アニエスによるヴァルダ」は目下上映されてます。「淪落の人」「娘は戦場で生まれた」「プリズン・サークル」「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」「ブレッドウィナー」「はちどり」はこれから。仁川のミリム劇場との提携企画については→コチラ参照。3月に「大観覧車」「ひと夏のファンタジア」が上映されます。
横浜シネマリンも上映中のアニメ「音楽」は観なくちゃ。「陸軍前橋飛行場 私たちの村も戦場だった」は3月14日からか。
★★★ NAVERの人気順位(2月25日現在上映中映画) ★★★
【ネチズンによる順位】
※[記者・評論家による順位]とも、評点の後の( )は採点者数。初公開から1年以内の作品が対象。
「初登場」とは、本ブログでの初登場の意。
①(1) モンマルトルのパパ(韓国) 9.64(100)
②(2) 泣くな、トンズ2:シュクラン ババ(韓国) 9.60(145)
③(3) フォードvsフェラーリ 9.51(7,791)
④(新) 映画 ひつじのショーン UFOフィーバー! 9.45(184)
⑤(5) 2人のローマ教皇 9.35(556)
⑥(8) 家族を想う時 9.29(389)
⑦(4) 劇場版 ミニ特攻隊: 恐竜王 ディノ(韓国) 9.26(161)
⑧(7) ジョジョ・ラビット 9.22(1,001)
⑨(9) 娘は戦場で生まれた 9.19(149)
⑩(10) 梨泰院[イテウォン](韓国) 9.16(73)
④「映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!」が新登場です。日本では、すでに12月13日公開されています。韓国題は「숀더쉽 더 무비: 꼬마 외계인 룰라!」です。
【記者・評論家による順位】
①(1) 燃え立つ若い女性の肖像 9.22(9)
②(2) アイリッシュマン 9.11(9)
③(3) パラサイト 半地下の家族[寄生虫](韓国) 9.06(16)
④(4) 小さな光(韓国) 8.67(3)
⑤(5) マリッジ・ストーリー 8.50(2)
⑥(6) はちどり(韓国) 8.38(13)
⑦(7) ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語 8.00(10)
⑧(8) ペイン・アンド・グローリー 8.00(7)
⑨(9) ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド 7.90(10)
⑩(新) 1917 命をかけた伝令 7.67(9)
⑩「1917 命をかけた伝令」が新登場です。日本でも、すでに2月14日公開されています。韓国題は「1914」です。
★★★ 韓国内の映画 週末の興行成績2月21日(金)~2月23日(日) ★★★
曽根圭介原作の「藁にもすがる獣たち」が初登場で1位に
【全体】
順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・・週末観客動員数・・累計観客動員数・・累積収入・・上映館数
1(新)・・藁にもすがる獣たち(韓国)・・・2/19 ・・・・・・・・・223,300・・・・・・・369,771 ・・・・・・・・3,239 ・・・・・・・991
2(68)・・1917 命をかけた伝令・・・・・・・・2/19 ・・・・・・・・・170,307・・・・・・・282,777 ・・・・・・・・2,628 ・・・・・・・884
3(1)・・正直な候補(韓国)・・・・・・・・・・・・2/12 ・・・・・・・・・142,002 ・・・・・1,347,598 ・・・・・・・・7,723 ・・・・・・・962
4(2)・・ストーリー・オブ・マイライフ・・2/12・・・・・・・・・・79,646・・・・・・・708,736 ・・・・・・・・5,991 ・・・・・・・723
わたしの若草物語
5(3)・・クローゼット(韓国)・・・・・・・・・・2/05 ・・・・・・・・・・26,929 ・・・・・1,250,222 ・・・・・・・10,805 ・・・・・・・450
6(4)・・パラサイト 半地下の家族(韓国)・・2009/5/30 ・・・13,298 ・・・・10,277,249 ・・・・・・・87,180 ・・・・・・・145
7(新)・・ジェクシー ・・・・・・・・・・・・・・・・2/19 ・・・・・・・・・・・8,306・・・・・・・・21,718・・・・・・・・・・175 ・・・・・・・182
8(5)・・ソニック・ザ・ムービー ・・・・・・・2/12 ・・・・・・・・・・・6,690・・・・・・・113,135・・・・・・・・・・888 ・・・・・・・248
9(8)・・ジョジョ・ラビット ・・・・・・・・・・2/05 ・・・・・・・・・・・6,493・・・・・・・・98,007・・・・・・・・・・843 ・・・・・・・137
10(新)・・映画 ひつじのショーン・・・・・2/19 ・・・・・・・・・・・3,777・・・・・・・・・9,201・・・・・・・・・・・71 ・・・・・・・244
UFO フィーバー!
※KOFIC(韓国映画振興委員会)による。順位の( )は前週の順位。累積収入の単位は100万ウォン。
1・2・7・10位の4作品が新登場です。
1位「藁にもすがる獣たち」は、曽根圭介の同名小説を映画化した韓国の犯罪&スリラー。サウナの客が残していったバッグには大金が入っていました。持ち主は現れないまま。すべてのことはそのバッグと共に始まります。金に困り、金に憑かれた人々の姿をオムニバス形式で描いた作品です。姿をくらました恋人のために私債の負債に苦しみ、なんとか打開を企てるテヨン(チョン・ウソン)、アルバイトで家族の生計を維持しながら閉めた理髪店を再開しようと考えるする初老のチュンマン(ペ・ソンウ)、過去を消して新しい人生を生きるために、他人のことを貪ろうするヨニ(チョン・ドヨン)、高利貸しのパク社長(チョン・マンシク)、借金のために家庭が崩壊したミラン(シン・ヒョンビン)、不法滞在者のジンテ(チョン・ガラム)、家族の生計が第一のヨンソン(ジンギョン)、記憶を失ったスンジャ(ユン・ヨジョン)まで、崖っぷちに追い込まれた彼らの前に現れた大金入りのバッグ。切迫した状況の中、お互いだましだまされつつ、それを最後のチャンスと信じて追いかける彼らに、思いもよらぬことが起こります・・・。原題は「지푸라기라도 잡고 싶은 짐승들」です。
2位「1917 命をかけた伝令」は、上述のように日本でも5日早く公開されています。
7位「ジェクシー」は、アメリカのコメディ。ポップ・カルチャー関係の記事を書いて生計を立てていフィル(アダム・ディヴァイン)は起床アラームからシャワー中のBGM、出勤の際にはナビゲーション、仕事後には配達アプリとYouTube、就寝前のSNSまで、手からまったくスマホを離せないスマホ漬けの日々を送っていて、恋人どころか友人も全然いません。ところがある日、彼は<親友>だったスマホが壊れたので新しいスマホを購入します。それにはジェクシーという人工知能が搭載されていて、フィルはその指示に従って生活を改善していきます。その結果フィルはスマホ依存から脱却し、恋人を作る意欲も湧くようになりますが、ここで別の問題が新たに発生します。なんとジェクシーは、フィルに構ってもらえないことに不満を抱き始めて異常な言動を連発するようになったのです・・・。韓国題は「하이, 젝시」。日本公開は年内のようです。
10位「映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!」は、上述のように日本でもすでに公開されています。
【独立・芸術映画】
順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・週末観客動員数・・累計観客動員数・・累積収入・・・・上映館数
1(3)・・ネヴァー・ルック・アウェイ ・・・・・・2/20・・・・・・・・・1,987 ・・・・・・・・・・5,748 ・・・・・・・・・・42 ・・・・・・・・・47
2(1)・・燃え立つ若い女性の肖像 ・・・・・・・・1/16・・・・・・・・・1,302 ・・・・・・・・139,632・・・・・・・・1,171 ・・・・・・・・・29
3(新)・・家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています(日本)・・2/20・・463・・1,777・・・・・・・・・・15 ・・・・・・・・・33
4(2)・・卒業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1971/6/19・・・・・・・・・・・325・・・・・・・・・・5,428・・・・・・・・・・・39 ・・・・・・・・・18
5(11)・・祈る男(韓国)・・・・・・・・・・・・・・・・・・2/20・・・・・・・・・・・299・・・・・・・・・・1,250・・・・・・・・・・・10 ・・・・・・・・・31
3・5位の2作品が新登場です。
3位「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています」は、2018年6月公開されたのですが、私ヌルボは未見なのでコメントのしようがありません。李闘士男監督は在日3世ですが今は日本国籍とのことです。韓国題は「집에 돌아오면, 언제나 아내가 죽은 척을 하고있다」です。
5位「祈る男」は、韓国のドラマ&犯罪。厳しい経済難の中で開拓教会を運営している牧師テウク(パク・ヒョックォン)は、さらに悪いことに妻のジョンイン(リュ・ヒョンギョン)から義母チャン(ナム・ギエ)の手術費が緊急に必要だという話を聞きます。極限の状況の中で、テウクとジョンインは、それぞれ異なる選択の岐路に立たされ、信頼関係も危ぶまれる中で2人は激しく葛藤します・・・。原題は「기도하는 남자」です。
「彼らは生きていた」は、イギリスの帝国戦争博物館に所蔵されていた大量の第1次大戦の実写記録映像を編集したドキュメンタリー。パンフによると、今の映像は毎秒24フレームだそうですが昔はほぼ13~16フレームとのことで、そのまま映写すると動きが速く、またギクシャクして滑稽な印象さえ受けてしまいます。それを時間をかけて自然な速さに調整し、さらに歴史を考証しつつ着色し、人の声ばかりでなく馬のいななき等々の物音も入れて、違和感のないように仕上げたそうです。その結果、100年前の兵士たちや戦場のようすが現代のようなリアリティをもってよみがえったというわけです。99分の上映時間の最初の約30分は画質の粗いモノクロのスチール写真で、それに退役軍人のインタビュー音声が次々に入ります。英語が聴き取れないフツーの日本人だと字幕と画面と両方観るのはどちらに重点を置くかむずかしいところです。その上私ヌルボの場合はノートにメモを取りながらなもので・・・(笑)。
そして兵士たちが船で34キロ、フランスのカレー港に着くと砲撃で折れた樹が目立つ荒涼とした戦場が彼らを待っています。ここからフルスクリーンの鮮明なカラー映像に替わります。
多くの兵士が、殺し殺され、ここかしこに戦死者の遺体が散乱し・・・。それらももちろん着色されていて、正視に耐えられないほどです。戦地に跳梁跋扈するネズミの姿も捉えられています。そんな中、戦況が小康状態の時には仲間同士談笑しながら飲み食いしたり、屋外で横に並んで排便したり、シラミを火にさして退治したり等々。ドイツ兵捕虜たちの時計はまき上げるのが通例だったとはいえ、彼らとの人間的な交流もあり「彼らもまた命令に従っただけだ」と認識します。
このドキュメンタリーの意義は、こうしたリアルな映像とともに、数多くの元兵士たちの証言にあります。「地獄のように悲惨だった」「ドイツ人を殺さなければならない、とすり込まれていた」という一方で「兵役は楽しかった」「同じ状況ならまた行く」「人生で一番輝いていた時期」という非常に肯定的な感想もむしろ多いようです。また徴兵制ではなくても男たちが続々と兵士に志願したようすも。資格の規定は19~35歳なのに15歳くらいの少年でも年齢をごまかしたり、軍の側もそれを知りつつ受け入れたりとか。ずいぶん気軽に志願したものです。反戦的言辞ばかりでない点がむしろリアルさを感じます。なんとか生きて帰ったものの国に戻ったら就職事情の悪い中で差別されたり、「汚いもののように扱われ、失業して生きていけないという現実まで証言は及んでいます。
このドキュメンタリーの映像を観て、「1917 命をかけた伝令」で描かれた戦場の光景がやはりずいぶんリアルなものだったことを再確認しました。ということで、コチラの作品もぜひ観てみてほしいと思います。
▸「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」は、前作をかなり忘れてしまっていた分、新鮮な気持ちで観ました。2016年の前作は、同年の個人的ベスト10(→コチラ)では日本映画トップの第3位に入れました。ただし、「ずいぶん迷った末」です。その理由をそのままコピペします。
ヌルボとしては感想を求められてもなかなか言葉が出てきません。それはたぶん「日本人というワクを超えてどれくらい普遍性を持ち得るか?(どれくらい理解されるか?)」ということ等がよくわからないということもあるし、(うーむ、むずかしいな) 庶民を戦争の被害者とだけ描くのでなく、では何らかの責任があるのか、とか・・・、つまるところ戦争が台風や地震のような自然現象ではないとしたらなぜ起こるのかとか、いろんなことを考え始めると何も語れなくなるということ。あるいは、(昨年の「この国の空」のように)戦時にも「変わらぬ日常生活があった」にしても、その中で「異常」「非常」がどのように認識されていたか(orいなかったか)ということは、まさに現在にも通じる問題だと思うのですが、この映画を観た観客ははたして自分自身の「戦争観」と照らし合わせて「ナットクした」のか、それとも新しい認識を得たのか、そこらへんがよくわからないのです。(うーむ、やっぱりむずかしいな。)
・・・今たとえば、「戦争中も庶民には変わらぬ日常生活があった」といったような感想ははっきり「それは違うゾ!」と言えます。食糧等々統制下に置かれて不自由な毎日。そして何よりも家族(あるいは自分)が戦地に送られ、<敵>という人間を殺したり自分が死んだり・・・。それは平和時の日常とあまりにも違うではないですか。それを大多数の人々は<そういうもの>として受け入れたのです。要はそのことをどうふり返るか?ということです。
九段下の昭和館は1999年の開館当時展示内容等をめぐって議論のあった施設ですが、その後2005年に初めて見学した時の感想は「戦争を台風などの天災のように扱っている」というものでした。つまり「悲惨な戦争がなぜ起こったか? 自分たちがどう関わったのか?」を考えさせるものになっていないということ。「台風があろうと地震があろうと、そして戦争があっても庶民はそれでもたくましく生きていく」って??
一方、<NAVER映画>で「この世界の片隅に」に対する韓国ネチズンの寸評を見ると評価は人によって大きく分かれています。「これは決して右翼映画じゃない!」というコメントも多いものの、「いつまで経っても被害者コスプレだな」とか。専門家3人の評点は7・6・5ですが、5点の人は「多数が純真だからといって覆えるような歴史ではない」と・・・。では反戦の闘士や脱走兵等を登場させればいいのか?と反問したくなります。当時は庶民の生活も思想も戦時体制にからめとられていたわけで、そんな中であるネチズンのように「軍港の戦艦の大砲がどこに向かっていたのか考えられないのか!?」とか「(すずが)最後の一人まで戦うんじゃなかったのか?と泣くとは呆れる」というのは今のモノサシでしか見てない論外としか言えない感想です。
ここで思い出したのは渡辺白泉(1913~69)の「戦争が廊下の奥に立つてゐた」(1939年)という有名な句。本当に戦争を起こらないように、いや起こさないようにするためには、そんな庶民の日常生活から見つめなおさなければならないのでは? そういう視点がこの「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」にあるかどうかが評価のポイントになりますが、私ヌルボは今回「ある」と判断しました。
▸シネマ・ジャック&ベティでこれから観る予定の映画のメモ。「つつんで、ひらいて」「アニエスによるヴァルダ」は目下上映されてます。「淪落の人」「娘は戦場で生まれた」「プリズン・サークル」「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」「ブレッドウィナー」「はちどり」はこれから。仁川のミリム劇場との提携企画については→コチラ参照。3月に「大観覧車」「ひと夏のファンタジア」が上映されます。
横浜シネマリンも上映中のアニメ「音楽」は観なくちゃ。「陸軍前橋飛行場 私たちの村も戦場だった」は3月14日からか。
★★★ NAVERの人気順位(2月25日現在上映中映画) ★★★
【ネチズンによる順位】
※[記者・評論家による順位]とも、評点の後の( )は採点者数。初公開から1年以内の作品が対象。
「初登場」とは、本ブログでの初登場の意。
①(1) モンマルトルのパパ(韓国) 9.64(100)
②(2) 泣くな、トンズ2:シュクラン ババ(韓国) 9.60(145)
③(3) フォードvsフェラーリ 9.51(7,791)
④(新) 映画 ひつじのショーン UFOフィーバー! 9.45(184)
⑤(5) 2人のローマ教皇 9.35(556)
⑥(8) 家族を想う時 9.29(389)
⑦(4) 劇場版 ミニ特攻隊: 恐竜王 ディノ(韓国) 9.26(161)
⑧(7) ジョジョ・ラビット 9.22(1,001)
⑨(9) 娘は戦場で生まれた 9.19(149)
⑩(10) 梨泰院[イテウォン](韓国) 9.16(73)
④「映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!」が新登場です。日本では、すでに12月13日公開されています。韓国題は「숀더쉽 더 무비: 꼬마 외계인 룰라!」です。
【記者・評論家による順位】
①(1) 燃え立つ若い女性の肖像 9.22(9)
②(2) アイリッシュマン 9.11(9)
③(3) パラサイト 半地下の家族[寄生虫](韓国) 9.06(16)
④(4) 小さな光(韓国) 8.67(3)
⑤(5) マリッジ・ストーリー 8.50(2)
⑥(6) はちどり(韓国) 8.38(13)
⑦(7) ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語 8.00(10)
⑧(8) ペイン・アンド・グローリー 8.00(7)
⑨(9) ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド 7.90(10)
⑩(新) 1917 命をかけた伝令 7.67(9)
⑩「1917 命をかけた伝令」が新登場です。日本でも、すでに2月14日公開されています。韓国題は「1914」です。
★★★ 韓国内の映画 週末の興行成績2月21日(金)~2月23日(日) ★★★
曽根圭介原作の「藁にもすがる獣たち」が初登場で1位に
【全体】
順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・・週末観客動員数・・累計観客動員数・・累積収入・・上映館数
1(新)・・藁にもすがる獣たち(韓国)・・・2/19 ・・・・・・・・・223,300・・・・・・・369,771 ・・・・・・・・3,239 ・・・・・・・991
2(68)・・1917 命をかけた伝令・・・・・・・・2/19 ・・・・・・・・・170,307・・・・・・・282,777 ・・・・・・・・2,628 ・・・・・・・884
3(1)・・正直な候補(韓国)・・・・・・・・・・・・2/12 ・・・・・・・・・142,002 ・・・・・1,347,598 ・・・・・・・・7,723 ・・・・・・・962
4(2)・・ストーリー・オブ・マイライフ・・2/12・・・・・・・・・・79,646・・・・・・・708,736 ・・・・・・・・5,991 ・・・・・・・723
わたしの若草物語
5(3)・・クローゼット(韓国)・・・・・・・・・・2/05 ・・・・・・・・・・26,929 ・・・・・1,250,222 ・・・・・・・10,805 ・・・・・・・450
6(4)・・パラサイト 半地下の家族(韓国)・・2009/5/30 ・・・13,298 ・・・・10,277,249 ・・・・・・・87,180 ・・・・・・・145
7(新)・・ジェクシー ・・・・・・・・・・・・・・・・2/19 ・・・・・・・・・・・8,306・・・・・・・・21,718・・・・・・・・・・175 ・・・・・・・182
8(5)・・ソニック・ザ・ムービー ・・・・・・・2/12 ・・・・・・・・・・・6,690・・・・・・・113,135・・・・・・・・・・888 ・・・・・・・248
9(8)・・ジョジョ・ラビット ・・・・・・・・・・2/05 ・・・・・・・・・・・6,493・・・・・・・・98,007・・・・・・・・・・843 ・・・・・・・137
10(新)・・映画 ひつじのショーン・・・・・2/19 ・・・・・・・・・・・3,777・・・・・・・・・9,201・・・・・・・・・・・71 ・・・・・・・244
UFO フィーバー!
※KOFIC(韓国映画振興委員会)による。順位の( )は前週の順位。累積収入の単位は100万ウォン。
1・2・7・10位の4作品が新登場です。
1位「藁にもすがる獣たち」は、曽根圭介の同名小説を映画化した韓国の犯罪&スリラー。サウナの客が残していったバッグには大金が入っていました。持ち主は現れないまま。すべてのことはそのバッグと共に始まります。金に困り、金に憑かれた人々の姿をオムニバス形式で描いた作品です。姿をくらました恋人のために私債の負債に苦しみ、なんとか打開を企てるテヨン(チョン・ウソン)、アルバイトで家族の生計を維持しながら閉めた理髪店を再開しようと考えるする初老のチュンマン(ペ・ソンウ)、過去を消して新しい人生を生きるために、他人のことを貪ろうするヨニ(チョン・ドヨン)、高利貸しのパク社長(チョン・マンシク)、借金のために家庭が崩壊したミラン(シン・ヒョンビン)、不法滞在者のジンテ(チョン・ガラム)、家族の生計が第一のヨンソン(ジンギョン)、記憶を失ったスンジャ(ユン・ヨジョン)まで、崖っぷちに追い込まれた彼らの前に現れた大金入りのバッグ。切迫した状況の中、お互いだましだまされつつ、それを最後のチャンスと信じて追いかける彼らに、思いもよらぬことが起こります・・・。原題は「지푸라기라도 잡고 싶은 짐승들」です。
2位「1917 命をかけた伝令」は、上述のように日本でも5日早く公開されています。
7位「ジェクシー」は、アメリカのコメディ。ポップ・カルチャー関係の記事を書いて生計を立てていフィル(アダム・ディヴァイン)は起床アラームからシャワー中のBGM、出勤の際にはナビゲーション、仕事後には配達アプリとYouTube、就寝前のSNSまで、手からまったくスマホを離せないスマホ漬けの日々を送っていて、恋人どころか友人も全然いません。ところがある日、彼は<親友>だったスマホが壊れたので新しいスマホを購入します。それにはジェクシーという人工知能が搭載されていて、フィルはその指示に従って生活を改善していきます。その結果フィルはスマホ依存から脱却し、恋人を作る意欲も湧くようになりますが、ここで別の問題が新たに発生します。なんとジェクシーは、フィルに構ってもらえないことに不満を抱き始めて異常な言動を連発するようになったのです・・・。韓国題は「하이, 젝시」。日本公開は年内のようです。
10位「映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!」は、上述のように日本でもすでに公開されています。
【独立・芸術映画】
順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・週末観客動員数・・累計観客動員数・・累積収入・・・・上映館数
1(3)・・ネヴァー・ルック・アウェイ ・・・・・・2/20・・・・・・・・・1,987 ・・・・・・・・・・5,748 ・・・・・・・・・・42 ・・・・・・・・・47
2(1)・・燃え立つ若い女性の肖像 ・・・・・・・・1/16・・・・・・・・・1,302 ・・・・・・・・139,632・・・・・・・・1,171 ・・・・・・・・・29
3(新)・・家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています(日本)・・2/20・・463・・1,777・・・・・・・・・・15 ・・・・・・・・・33
4(2)・・卒業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1971/6/19・・・・・・・・・・・325・・・・・・・・・・5,428・・・・・・・・・・・39 ・・・・・・・・・18
5(11)・・祈る男(韓国)・・・・・・・・・・・・・・・・・・2/20・・・・・・・・・・・299・・・・・・・・・・1,250・・・・・・・・・・・10 ・・・・・・・・・31
3・5位の2作品が新登場です。
3位「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています」は、2018年6月公開されたのですが、私ヌルボは未見なのでコメントのしようがありません。李闘士男監督は在日3世ですが今は日本国籍とのことです。韓国題は「집에 돌아오면, 언제나 아내가 죽은 척을 하고있다」です。
5位「祈る男」は、韓国のドラマ&犯罪。厳しい経済難の中で開拓教会を運営している牧師テウク(パク・ヒョックォン)は、さらに悪いことに妻のジョンイン(リュ・ヒョンギョン)から義母チャン(ナム・ギエ)の手術費が緊急に必要だという話を聞きます。極限の状況の中で、テウクとジョンインは、それぞれ異なる選択の岐路に立たされ、信頼関係も危ぶまれる中で2人は激しく葛藤します・・・。原題は「기도하는 남자」です。
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