☆寒い高原へ
いつかこんなこともあるだろうとなかば覚悟はしていたものの、まさか旅先でそれが起ころうとは……。いや、いや、前回も同じようにキャンプの最中だった。
先月も訪れた信州の白樺の森へキャンプに出かけた。天候不順の年だけに紅葉に期待はしていなかったが、想像以上の惨憺たるものだった。
シラカバは黄金に色づく前に散ってしまっている。朱に染まる葉たちもまた濁り、鮮やかな紅葉はどこにもなかった。
寒さは想定どおりだった。先月の経験から真冬の装備で出かけて大正解。初日10日の夜は午後10時前で外気温がすでに摂氏零度だった。
夜、テントの中でシュラフにくるまって寝ているいるぼくたちに、ムギははりついていたが、寒さ大好きのシェラは自分の毛布の上で熟睡していた。
昼間も元気そのものだった。さんざん通いなれたキャンプ場である。お気に入りの場所へくるとムギを相手に走り出す。そして、くんずほぐれつして遊ぶ。
年齢が年齢だけに、いつもヒヤヒヤして見守り、適当なところでやめさせているけど、今回はちょっと油断した。
芝に隠れて丸太が転がっていた。走っていたシェラがそこへぶつけて右前足を痛めてしまった。
それでも痛みを隠すかのように歩きはじめた(写真下)が、歩くたびにどんどん足をかばうようになった。シラカバの林の中の道を50メートルほど行ってぼくはシェラを止め、家人にリードを託して駐車場までクルマをとりに急いだ。
☆走るのが大好きだから
キャンプのみならず、ふだんの休日も、芝生がきれいなお気に入りの広場へ連れて行くと、シェラはうれしそうに走り出す。リードをロングにしてやり、好きなように走らせてやる。
シェラが走るとムギも追いかける。シェラがムギに、「つかまえてごらん」といわんばかりに左右にステップを刻む。かなり複雑に……。そのたびに足を痛めないかとヒヤヒヤしながらぼくは眺めていた。
とにかく走るのが好きなワンコである。だから、たとえ痛めても……と覚悟しつつ見守ってきた。
シェラにその意志があるかぎり、走る喜びを取り上げることなんかできっこない。
だけど、シェラは10歳になる前に、一度、後足を痛めている。家の近所の公園にある傾斜地の広場だった。もう二度とまともには歩けないと診断されたが、まもなく完治した。
それから2、3年し、清里に近い牧場のキャンプ場で走っていてやはり前足を痛めた。このときは地元の動物病院で痛み止めの注射を打ってもらい、翌日にはちゃんと歩けるようになった。
「そんなことはしょっちゅうだよ。そのたびに医者になんか行かなくたってだいじょうぶさ」
活動的ななワンコの飼い主から冷笑されたものだった。
しかし、シェラはすでに14歳、もし、また足を痛めるようなことがあったら、ちゃんと治らないかもしれない――そんな危惧をいつも持ちつづけていた。
しかも三回目がまさかキャンプの最中だとは……。
☆食欲が旺盛なら
クルマでサイトへ戻り、テントに入れてから痛めたほうの足をそっと触ってみた。骨にそって撫でてもみた。関節を動かしてみる。痛がる様子がないどころか反応そのものがない。折れてはいないようだ。
もし、折れているようなら添木をほどこしテーピングで固定しようと思ったがその必要はなさそうである。
明日は東京へ帰る。このまま様子をみることにした。
翌日の体育の日、行きつけのクリニックは午前中で診療を終える。いくら急いで帰っても午前中は無理だ。家人と相談の結果、夜間専門の動物病院へ行こうということになった。
いつものようにテントの中へ入れてやれば、おとなしくしている。それでも食欲は旺盛で、こちらが食事をはじめると、おいしそうなにおいにつられて3本の足でテントの外に出てきた。
「これならだいじょうぶだろう」
不安を抱きつつも、ぼくは少し安心した。
いつかこんなこともあるだろうとなかば覚悟はしていたものの、まさか旅先でそれが起ころうとは……。いや、いや、前回も同じようにキャンプの最中だった。
先月も訪れた信州の白樺の森へキャンプに出かけた。天候不順の年だけに紅葉に期待はしていなかったが、想像以上の惨憺たるものだった。
シラカバは黄金に色づく前に散ってしまっている。朱に染まる葉たちもまた濁り、鮮やかな紅葉はどこにもなかった。
寒さは想定どおりだった。先月の経験から真冬の装備で出かけて大正解。初日10日の夜は午後10時前で外気温がすでに摂氏零度だった。
夜、テントの中でシュラフにくるまって寝ているいるぼくたちに、ムギははりついていたが、寒さ大好きのシェラは自分の毛布の上で熟睡していた。
昼間も元気そのものだった。さんざん通いなれたキャンプ場である。お気に入りの場所へくるとムギを相手に走り出す。そして、くんずほぐれつして遊ぶ。
年齢が年齢だけに、いつもヒヤヒヤして見守り、適当なところでやめさせているけど、今回はちょっと油断した。
芝に隠れて丸太が転がっていた。走っていたシェラがそこへぶつけて右前足を痛めてしまった。
それでも痛みを隠すかのように歩きはじめた(写真下)が、歩くたびにどんどん足をかばうようになった。シラカバの林の中の道を50メートルほど行ってぼくはシェラを止め、家人にリードを託して駐車場までクルマをとりに急いだ。
☆走るのが大好きだから
キャンプのみならず、ふだんの休日も、芝生がきれいなお気に入りの広場へ連れて行くと、シェラはうれしそうに走り出す。リードをロングにしてやり、好きなように走らせてやる。
シェラが走るとムギも追いかける。シェラがムギに、「つかまえてごらん」といわんばかりに左右にステップを刻む。かなり複雑に……。そのたびに足を痛めないかとヒヤヒヤしながらぼくは眺めていた。
とにかく走るのが好きなワンコである。だから、たとえ痛めても……と覚悟しつつ見守ってきた。
シェラにその意志があるかぎり、走る喜びを取り上げることなんかできっこない。
だけど、シェラは10歳になる前に、一度、後足を痛めている。家の近所の公園にある傾斜地の広場だった。もう二度とまともには歩けないと診断されたが、まもなく完治した。
それから2、3年し、清里に近い牧場のキャンプ場で走っていてやはり前足を痛めた。このときは地元の動物病院で痛み止めの注射を打ってもらい、翌日にはちゃんと歩けるようになった。
「そんなことはしょっちゅうだよ。そのたびに医者になんか行かなくたってだいじょうぶさ」
活動的ななワンコの飼い主から冷笑されたものだった。
しかし、シェラはすでに14歳、もし、また足を痛めるようなことがあったら、ちゃんと治らないかもしれない――そんな危惧をいつも持ちつづけていた。
しかも三回目がまさかキャンプの最中だとは……。
☆食欲が旺盛なら
クルマでサイトへ戻り、テントに入れてから痛めたほうの足をそっと触ってみた。骨にそって撫でてもみた。関節を動かしてみる。痛がる様子がないどころか反応そのものがない。折れてはいないようだ。
もし、折れているようなら添木をほどこしテーピングで固定しようと思ったがその必要はなさそうである。
明日は東京へ帰る。このまま様子をみることにした。
翌日の体育の日、行きつけのクリニックは午前中で診療を終える。いくら急いで帰っても午前中は無理だ。家人と相談の結果、夜間専門の動物病院へ行こうということになった。
いつものようにテントの中へ入れてやれば、おとなしくしている。それでも食欲は旺盛で、こちらが食事をはじめると、おいしそうなにおいにつられて3本の足でテントの外に出てきた。
「これならだいじょうぶだろう」
不安を抱きつつも、ぼくは少し安心した。