「アーミッシュの謎──宗教・社会・生活」(ドナルド・B・クレイビル著 杉原利治/大藪千穂訳 杉原利治監修 論創社 1996年6月15日初版第1刷発行)を読みました。
帯を着けた状態
帯を外した状態
本書は、翻訳者の一人であり、監修者でもあります杉原利治さんこと故玩館館主の遅生さんからプレゼントされたものです(^_^)
本書は、アーミッシュの人々を紹介する観光ガイドブック的な類いのものではなく、アーミッシュ社会の成り立ちについて、かなり突っ込んだ分析を行ったもので、いわば、社会学的な本格的な研究書といったものでした。
アーミッシュの人々の生活は多くの謎に包まれているということですが、本書では、「はじめに」で、それらの謎のいくつかを列挙していますので、まず、次に、その「はじめに」を紹介いたします。
「はじめに」
アーミッシュの生活には、多くの謎がある。電話は家の中ではタブーなので、農場のはずれに電話ボックスがある。納屋で使われる強力なトラクターは、畑や牧草場ではほとんど使用されない。彼らの農場では、馬が近代的な干し草結束機やトウモロコシ収穫機を引っ張っている。最新の計算器の使用は許されるのに、コンピュータはダメだ。自動車を所有したり、運転したりすることは禁止されているけれども、移動や旅行、そして輸送のためにはバンや乗用車を自由に借りて使う。公共の電線から電気を引くことはできないが、バッテリーからとった12ボルトの電流は広く利用されている。また、伝統的な衣服は合成繊維からできている。
アーミッシュの生活では、新しいものと古いものとが奇妙に混在しているので、私たちは当惑してしまう。実際、現代の人々にとって、これらの組み合わせは異常であり、一見バカバカしくみえるかもしれない。しかしながら、私達を当惑させる謎の断片の数々を、彼らの歴史照らして寄せ集めてみるならば、これらの謎は非常に納得できるものであるだろう。謎の多くは、現実的な、そして文化的な妥協である。つまりそれは、彼らが、それまでの伝統的なやり方と近代化の強大な圧力との間に結んだ契約といえよう。
アーミッシュの居住地は、アメリカの20州とカナダのオンタリオ州に散在している。この本は、最も歴史が古く、最も人口密度の高い居住地である、ペンシルベニア州ランカスター郡のオールド・オーダー・アーミッシュ(Old Order Amish)の生活に基づいて書かれている。このコミュニティに対する容赦のない都市化の圧力は、数多くの興味ある謎を生み出している。アーミッシュの謎の細部は、居住地によって異なるが、この本に出てくる謎に関係した文化的価値によって、他の多くのコミュニティの生活も同様に支えられている。しかし、特定の例のいくつかは、ランカスターのアーミッシュからのものである。
そして、本書では、アーミッシュの生活の謎を、次の18項目に分けて考察し、その謎解きを展開しています。
①成長・・・アーミッシュは、現代社会の中で、どのようにして栄えているのか?
②分離・・なぜ、アーミッシュは、近代世界から分離するのか?
③宗教・・なぜ、信仰心のあつい人々が、宗教的シンボルや教会の建物を拒絶するのか?
④謙虚さ・・なぜ、謙虚さは大切な価値なのか?
⑤シャニング・・なぜ、穏やかで心やさしい人々が、従わないメンバーをシャニングするのか?
⑥社会の変化・・どのようにして、アーミッシュは社会変化を調節するのか?
⑦自動車・・なぜ、自動車の所有は許されないのに、使用することはかまわないのか?
⑧乗り物・・なぜ、ある乗り物は受け入れられて、他のものは禁止されているのか?
⑨トラクター・・なぜ、トラクターは、納屋の近くでは許可されるのに、畑や牧草場では使えないのか?
⑩農機具・・なぜ、近代的な農機具を引っ張るのに、馬が使われているのか?
⑪電話・・なぜ、アーミッシュの家では、電話が禁止されているのか?
⑫電気・・なぜ、ある種の電気は許されるのに、他のものは使用できないのか?
⑬動力・・電気を使わないで、どうやって近代的な機械を動かしているのか?
⑭職業・・なぜ、容認される職業と、タブー視されるものとがあるのか?
⑮教育・・なぜ、アーミッシュは、弁護士、医者、歯医者といった専門職のサービスを利用するのに、高等教育に反対するのか?
⑯若い頃の放蕩・・なぜ、アーミッシュの若者は、十代に反抗するのか?
⑰寄生者・・アーミッシュは、アメリカ人の生活にたかっているのか?
⑱進歩・・アーミッシュは、現代世界から遅れているのか、それとも進んでいるのか?
これらの各謎解きにつきましては、ここでの紹介は省略させていただきますが、本書の翻訳者の一人であり、監修者でもあります杉原利治さんが、本書の最後に「解題 アーミッシュと現代世界」を寄せておられますので、その内のほんの一部を紹介し、本書の紹介に代えさせていただきます。ただ、紹介部分が少なく、十分にその趣旨が伝わらないことをお許しください(~_~;)
「解題 アーミッシュと現代世界」
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著者のD.B.クレイビルは、社会学者である。彼は、エリザベスタウン・カレッジの社会学教授であると同時に、同大学のアナバプテスト&ピエテストグループ研究センターの所長でもある。・・・・・・・・・・・本書で彼は、アーミッシュ社会が成り立ってきた要件を社会学的に考察している。1693年のスイスでのアーミッシュ創世から、1986年のコンピュータ禁止にいたるまで、アーミッシュが歴史の遺物ではなく、まさに現在進行形のものであることを教えてくれる。
アーミッシュの世界に接するとき、人はまず、彼らのライフスタイルに驚かされる。電気屋電話をひかない。移動にはもっぱら馬とバギーを利用する。白い大きな納屋のまわりや広大な農場では、夜明けから日没まで、家族全員による農作業が営まれる。どうして彼らは、外の世界の人間からみれば特異ともおもえる生活をおくってきたのだろうか。本書は、アーミッシュについての歴史的、社会的背景をもとに、数々の疑問を一つ一つ解いている。そして読者は、アーミッシュの世界が、暗くて貧しい農村のイメージをはるかに超えたものであることにすぐ気づくだろう。
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私達が驚きをもってながめるアーミッシュの世界は、それほど昔のものではない。ほんの百年ほど前までは、どこにでもみられたありふれた光景にすぎない。老人や障害者も家族の一員として同じように働き、いっしょに暮らす。それは日本の邑(むら)の概念に近いものである。ランタンの明かりの下での食事と語らい、一日の変化や季節に応じての仕事、女性達があつまって作り上げる美しいキルト、コミュニティのメンバーによってなされる結婚式、葬式、いろいろな相互扶助。アーミッシュのようなゆっくりと流れる時間意識と独自の生活文化は、近代化の波の中でいつしか薄れてしまった。しかし、失ってしまったこれらのことがらに想いをはせ、人間性を回復しようとの試みがなされるときにはいつでも、はるか遠くに見えていたアーミッシュは現代の私達に近づき、新鮮な輝きを増すことだろう。そして、その時には、次のような問いが繰り返されるに違いない。「進歩とはなんだろうか?」
すご~いです。アマゾンで2,200円でしたか単行本が出ていました。
1996/6/1と書かれていますが 今回遅生さまが翻訳された
ということですか?
宗教・社会・生活と紹介されていますが私などでも
読んで理解できる内容でしょうか?とても難しそうですが。
この本は、帯も付いていて真新しくみえますが、1996年6月15日の初版第1刷発行のものです。
内容的には、深く高度なことを宿してはいますが、翻訳が上手なのか、読んでいて分りやすく、面白いです(^_^)
また、翻訳したのではなく、杉原利治(遅生)さんが直接書かれたもののように錯覚します(^-^*)
「故玩館」で検索してすごい経歴の方だとは分かっていました。本を出されているのも知っていましたが、ここで具体的に分かりました。
紹介してくださりありがとうございます。
それで、これまでに会ったこともなく、お互い、どのような方なのかも分りません。
でも、ブログをとおし、だんだんと分ってきました(^-^*)
この翻訳出版も、遅生さんの、ほんの一部の業績なのだろうと思います。
これから、いろいろと分ってくることがらのことも楽しみです(^-^*)