バケツでウラン! バケツでウラン! (東海村)

1999年11月06日 | 日々のアブク
 遅まきながら例の東海村ウラン臨界事故についての感想などを少々。予め弁解しておけば,事故の政治的ないし社会経済的重大さ,放射能汚染の時空間的拡がり,周辺住民の身体的・精神的被害状況,さらには汎世界的観点からの影響予測評価等々に関しては,しょせん新聞・雑誌・TV程度の間接情報しか受け取ることの出来ない私ごときに正しい判断なぞ出来るわけがない。しかし,事故そのもの,事故を引き起こした過程,そして事故後の顛末については,これもしょせん月並みな感想にはなるが,まことにナサケナイ限りだと断言できる。そのナサケナサは,JCOという会社組織の内包する問題(杜撰・退廃・硬直・欺瞞等々)として済まされるような事柄ではなく,やはり当該組織に属する個々人の責任問題に帰すべきであると第一に考えたい(集中治療室において超高額治療を継続中である方々を含め)。ジャック・ブレルがかつて唄ったように,いつも“他者"の背中を見て,それに従ってノウノウ歩いてゆくのは確かに楽なことであるかも知れないが,そのような主体性(=自己責任)の放棄は,結局,当事者をして今際のキワに後悔だけを残すことになるに違いない。関係者は十分に反省して下さい。無関係者は他山の石として下さい。

 いずれにしても,私たちの生活領域の周辺にはこのようなリスクが潜在的に存在している,というか蔓延している(それが都会であれ田舎であれ)という事実を,私ども一人一人は常々承知しておかねばならないのだろう。否応なしに今はそういう時代であることを,ウチの子供らにも早い時期に教え込んでおかねばならないのだろう。なかなか高価な授業料ではあるが,とまれ,貴重な経験は受け継がれるべきである。

 以下は蛇足であるが,ひとつ気になったことがある。事故当事者らが拠り所とした「裏マニュアル」において,工程短縮のためにウランを手っ取り早く手作業により移す際,TVや新聞では「掃除などに使うバケツでウランを移した!」と,やけに強調していた。報道のなかには「バケツでウラン! バケツでウラン!」なんて,まるでオチョクルように騒いでいたお調子者すらいた。

 ところで,そのバケツはステンレス製で,価格は13,200円とのことだった。ここで,JCOなる会社はそんな高価なバケツを掃除に使うのか?という疑問を提示した者は,少なくとも私が見聞した報道のなかには見当たらなかった。いくら天下の住金の子会社であるからといって,作業工程に手抜きを施すようなセコイ会社にそんなゼータクが許されるのだろうか?というのが私の素直な疑問である。ふつう,掃除に使うバケツといったらせいぜい500~600円位ではないか(100円ショップで売ってるモノだって十分だ)。それとも,何せモノがウランなんだから13,200円のバケツでも安すぎるとでもいうのか? 「黄金のバケツ」でも使わなきゃマスコミ連中は納得しないのか?

 一応念のため,私の手元にある『科学機器総合カタログ(1999/2000年版)』(Fineグループ発行)という理化学機器のカタログを見ると,668p「実験用器具(1)ステンレス製品」という項目に「バケツSUS-304」として掲載されていた。仕様は以下のとおり。


   商品コード: 171-32-24-02
   容量:    10リットル
   サイズ:   上内径270mm×下内径240mm×高さ265mm
   価格:    13,200円


 何のことはない。ビーカーやフラスコと同類の実験用器具である。「バケツ」という名称自体は看板に偽りはないが,その用途は額面通り受け取るべきものではない。汚れた雑巾をすすぐのに使うなんてメッソウモナイ。要するにきわめてまっとうな手抜きであったわけだ。繰り返すが,関係者は十分反省して下さい。

 さらに余計な感想を申せば,当該事故以降,恐らくこの「バケツ」はかなりの数が売れたに違いないと思う(主としてマスコミ関係者に,加えて一部の好事家に)。メーカーにとっては「ウラン特需」かな。
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