年度が改まり,当地を流れる水無川沿いに植栽された桜もほぼ満開である。暖かい陽差しのなか,たくさんの老若男女が桜の木の下をそぞろ歩いている。赤ん坊を抱いた幸せそうな若夫婦もいれば,足元の覚束ない枯れた老夫婦もいれば,パンチパーマ&濃い化粧のちょっとアブナイ系の男女もいる。まことにオメデタイ季節である。
昨日,小田急線で新宿方面に出掛けた。電車に乗ると,車内にはこれまた真新しい背広姿のフレッシュマンがあちこちに見られた。彼らにとってもまた,この春はオメデタイ季節なのだろう。兎にも角にも一応は人生の節目なんだもの。ただし,昨今のフレッシュマンはケータイ電話やマンガ読み,なかにはPSPに夢中だったりする者も少なからずいたりするので,彼をじっくりと観察したところで別段面白くも何ともない。そこで私は,急行の一番前の車両の運転士のすぐ後ろの壁面に陣取って前方の景色を眺めたりする。その日乗ったのは新型車両(新3000形)であり,これは前方窓が広くパノラマ状に開けており,ほとんど運転士と同様の大変快適な視界が得られる。
トンネルをくぐって盆地を出でて,丘陵地の間を通り,広い農耕地区のまんなかを通り抜け,小さな川を渡り,大きな川を鉄橋で渡る。小さな町,少し大きな町をいくつか過ぎる。途中,いくつもの踏切を通過するときや,あるいは急行通過駅でホームの黄色い線よりも少し前に立っている人を見たりすると,ちょっとワクワク・ドキドキする。何となく運転士の気持ちがわかるような気がする。いや別に私は「鉄ちゃん」ではありませんが。
相模川を渡って少し先の座間駅と相武台駅の間に線路脇がマウンド状になっているところがあり,その場所の柵越しには大勢の「鉄道カメラマン」が集まっていて,皆それぞれにカメラを構えていた。数にして20人以上はいただろうか。彼らが撮ろうとしているのは私が乗っている上り電車ではない。前方からやってくる下り電車をターゲットにしているのだ。線路は緩やかに右カーブしており,そして右側の線路沿いには桜の並木が今を盛りとばかり満開だった。なるほど。満開の桜のなかを走るロマンスカー,こんなのが絶好のアングルというわけか。この場所は鉄ちゃんオススメ・スポットなのかな?
でも,ということは,そこでカメラを構えている20数名の鉄ちゃん達は,すべて同じ写真を撮ることになるわけだが,さて,そのなかの誰の作品がプライズに値するのだろうかと考えると,それは当然,最も高価なカメラを持った人,なわけでしょう。つまり,最新テクノロジーを背景とした高度情報化社会にあっては,投資金額がそのまま正直に成果品に反映されちまう,というわけだ。それはいわゆるシアワセとは別問題なような気がするが,ま,オメデタイ春のことですから,皆さんそれぞれに和気藹々とナイスな風景を楽しんで下さい。
両岸の猿声 啼いて止まざるに
新型車両すでに過ぐ 満開の桜
ひとり身の老人は,電車のガラス窓に顔を押しつけるようにして通り過ぎゆく春の風景に目を細めつつ,ふと,そんな戯れ歌を思い浮かべているのでありました。
昨日,小田急線で新宿方面に出掛けた。電車に乗ると,車内にはこれまた真新しい背広姿のフレッシュマンがあちこちに見られた。彼らにとってもまた,この春はオメデタイ季節なのだろう。兎にも角にも一応は人生の節目なんだもの。ただし,昨今のフレッシュマンはケータイ電話やマンガ読み,なかにはPSPに夢中だったりする者も少なからずいたりするので,彼をじっくりと観察したところで別段面白くも何ともない。そこで私は,急行の一番前の車両の運転士のすぐ後ろの壁面に陣取って前方の景色を眺めたりする。その日乗ったのは新型車両(新3000形)であり,これは前方窓が広くパノラマ状に開けており,ほとんど運転士と同様の大変快適な視界が得られる。
トンネルをくぐって盆地を出でて,丘陵地の間を通り,広い農耕地区のまんなかを通り抜け,小さな川を渡り,大きな川を鉄橋で渡る。小さな町,少し大きな町をいくつか過ぎる。途中,いくつもの踏切を通過するときや,あるいは急行通過駅でホームの黄色い線よりも少し前に立っている人を見たりすると,ちょっとワクワク・ドキドキする。何となく運転士の気持ちがわかるような気がする。いや別に私は「鉄ちゃん」ではありませんが。
相模川を渡って少し先の座間駅と相武台駅の間に線路脇がマウンド状になっているところがあり,その場所の柵越しには大勢の「鉄道カメラマン」が集まっていて,皆それぞれにカメラを構えていた。数にして20人以上はいただろうか。彼らが撮ろうとしているのは私が乗っている上り電車ではない。前方からやってくる下り電車をターゲットにしているのだ。線路は緩やかに右カーブしており,そして右側の線路沿いには桜の並木が今を盛りとばかり満開だった。なるほど。満開の桜のなかを走るロマンスカー,こんなのが絶好のアングルというわけか。この場所は鉄ちゃんオススメ・スポットなのかな?
でも,ということは,そこでカメラを構えている20数名の鉄ちゃん達は,すべて同じ写真を撮ることになるわけだが,さて,そのなかの誰の作品がプライズに値するのだろうかと考えると,それは当然,最も高価なカメラを持った人,なわけでしょう。つまり,最新テクノロジーを背景とした高度情報化社会にあっては,投資金額がそのまま正直に成果品に反映されちまう,というわけだ。それはいわゆるシアワセとは別問題なような気がするが,ま,オメデタイ春のことですから,皆さんそれぞれに和気藹々とナイスな風景を楽しんで下さい。
両岸の猿声 啼いて止まざるに
新型車両すでに過ぐ 満開の桜
ひとり身の老人は,電車のガラス窓に顔を押しつけるようにして通り過ぎゆく春の風景に目を細めつつ,ふと,そんな戯れ歌を思い浮かべているのでありました。