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兄さんの渓谷 (ナショナルトラスト第1号地)

1998年06月19日 | サトヤマ,サトヤマ
 ウチのすぐ近くを流れる金目川水系葛葉川の約300~400m下流一帯は「神奈川ナショナル・トラスト」の第1号地に指定された地域で,『葛葉川ふるさと峡谷』なんぞという少々ハズカシゲな名称が冠せられている。そこはいわば市街地のなかの小さなエア・ポケット,丹沢山塊の南東側山麓に広がる緩斜面台地の一角を,葛葉川の清流が標高差15~20m程の小さな河谷を刻みながら鋭い蛇行を繰り返して流下している。河岸段丘崖端に沿った斜面緑地の残存状態も現況では極めて良好である。地史的にいうと今から約四万年前の第四紀洪積世の後期,秦野断層の隆起によってそれまで自由曲流していた古葛葉川が再び侵食を復活し,曲流を保ちながら下刻が行われた結果形成された地形であるという(内田ら,1981)。何のこっちゃら? 要するに,柳田國男いうところの“兄さんの渓谷”であります。

 ここ数年来,この地域の一部は秦野市により都市型自然公園として整備されつつあり,谷間を渡して吊り橋を架けたり,人跡未踏の単なるヤブ原であった段丘面を小ぎれいに開拓して新たに植樹したり,そこにクネクネ遊歩道を作ったり,所々にはしゃれたベンチを設置したりなどなど,さまざまな化粧が施されている。そしてそれらのトリを飾るのは,このたび完成した大層立派なログハウス,その名も『くずはの家』である。いわゆる自然観察館,ビジター・センターの類だ。

 ところで,市当局の担当者は当該施設を何とか周辺の景観や環境に調和させようとして少々費用も奮発してログハウス風の建物にしたものと思われるが,実際のところはなかなかどうして,周辺環境に調和しているとはとても言い難いのは誰の目にも明らかだ。考えてもみたまえ。すぐ上手に隣接する市街地一帯には,中小の町工場やバラック然とした住宅群(失礼!)さらにはマッチ箱団地などがひしめいているというのに。それにビジター・センターなら当地からさほど遠からぬ水無川上流の「県立秦野戸川公園」に,これより数段立派な施設(外見も内容も)がやはり最近出来たばかりではないか(県と市との関係は一体どーなっているのか?)。

 近所の子供たちだってその建物の“居心地悪さ”は薄々感じているようで,たいがいはログハウス周辺を避けるようにして公園の端っこの方などで遊んでいたりする。歓迎しているのは“大きな東屋”が出来てアリガタイと喜ぶ散歩途中のジーサン・バーサン達くらいか。これではまるで下町に突如出現した豪華文化センター,ウォシュレット付き水洗トイレのある某山小屋,遠く岐阜県は藤橋村の藤橋城,あるいは山梨県白根村の信ちゃん公園,いわゆるひとつの猫に小判だニャ~ス。さよう,地域に馴染まない公共施設の好例であります。

 こんなことをブツブツ言うのも,どうしても“お金”のことが気になってしまうからだ(性分でして)。ざっと推定試算すると,建設費が本体及び付帯施設を合せて4,000~5,000万。加えて年間経費として人件費が所長1名,常駐指導員2名で年間600万,運営費等の直接経費として400万,都合1,000万ってところだろうか(え?そんなに予算ついてない?)。しかしまぁ,出来ちゃったものは仕方がない。これを安い支出とみるかどうかは,すべてこの『家』の今後の利用状況にかかっている。利用状況とはすなわち活動状況のことだ。ちなみに近所でも“ヒマ家族”で鳴らす私共一家は,当該施設の完成以来,平日の午後2回と土曜の午前1回,都合3回ほどこの家を訪問したわけであるが,いつだって他の来訪者はゼロであった。前途多難が予想される所以である。

 ただ待っているだけでは“お客”は決して参りません。また,月に1回どこぞのエライ先生を呼んで講演・観察会など開いてそれで良しとしている程度では全く心もとない。今後,所長1名及び指導員2名におかれましては,「水辺の楽校」でも「賢治の学校」でもいい,この素晴らしい地域及び立派な施設を無駄にしないだけの企画・運営を地域住民に対して積極的かつ継続的に示されんことを,私共家族一同陰ながら切望している次第でございます。
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