先週末,市の環境保全課が主催した「ヤマビル対策研修会」という会合に出席した。著名な「ヤマビル博士」が講師として遠路ハルバル来られるとのことで,それはこちらとしても願ったり叶ったり,ヤマビルについての数々の有益なお話を拝聴すべく ママチャリに乗ってイソイソと参上した次第である。
会場となった多目的ホールは席数300余のキャパシティとのことだが,ざっと見渡した限りでは6~7割がたの聴衆で埋まっており,それなりに盛況の様子だった。参加者の年齢層は50~70代の高齢者が主体で(当然私もその中に含まれる),そのうち多くは第一次産業従事者(山麓地における農業,畜産,林業など)ないし里山生活者(山麓地における山菜採り,菜園作り,犬散歩など)といった外見風貌で,私のように基本的にアソビで山に入るようなカルイ連中は全体のなかでは少数派と見受けられた(はい,末席を汚して申し訳ございません)。
約1時間の講演で,スライドを交えながらヤマビルの生態,生息分布状況,防除対策,被害対応等々が さまざまな実証研究,調査事例を踏まえてジジババにも分かり易いように丁寧に語られ,その後,参加者との質疑応答時間が30分ほど設けられた。トンチンカンな質問もないではなかったが(いや,むしろトンチンカン主体だったか知ら?),皆さんそれぞれにヤマビルのことを随分と気に掛けている様子がうかがえ,とても参考になった。週末の午前の時間を楽しく意義のあるものとさせていただきまして,ヤマビル博士,有リ難ウゴザイマシタ!
ただし,一言ながら余計な感想を述べておくと,里地・里山エリアを生活の基盤とする人々,いわゆるサトヤマビトにとって,ヤマビルによる被害というものは現下の非常に深刻かつ切実な問題なのであ~る!といった指摘を声高に喧伝し拡散するのは必ずしも適切ではないのではなかろうか,と個人的には考えております。クマの出没問題もそうだが,昨今さまざまなメディア(バカな大マスコミのみならず行政広報,ミニコミ誌等も含めて)が発信する「ヤマビル被害」の情報は少々オオゲサに過ぎるのではあるまいか? ヤマビルってのはそんなに危険な生物なのか?
毎度毎度の言い草になるが,私どもの住まう地域,その住宅地内の狭い道路を巨大石鹸箱(白ワゴン黒ワゴン)や各種配達車(荷物の配達ジジババの配達)が昼夜を分かたず めまぐるしく右往左往(高速移動)しているといった現状が巌として存在しているわけで,そのことの危険性の方が,われわれの日常生活においてはヤマビルの危険性なんぞよりも数千倍数万倍も切実な問題であると思う。特にコドモ・ジジババなどの生活弱者にとって,家の周辺の道路でさえ碌すっぽ安心して歩けないという日常が どれだけ異常な事態であることか,改めて想起されるがよい。それは例えば,二本差しの侍がエラソウニ大手を振って闊歩する江戸市中においても考えられなかった,スコブル危険な生活環境,道路通行状況ではないだろうか。サトヤマビトにとってもそれは他人事ではない。彼らとて その大多数は山中,山間ではなく山麓地ないし町中の住宅街に住み暮らしているわけであるからして,クルマという危険物体による攻撃に常に晒されているのだ。
それとこれとはゼンゼン別問題じゃないか! などと申すなかれ。私からみれば,ヤマビルもクルマも,私どもの生活領域を何らかの形で脅かす「外敵」,どちらも等しく「害虫(エイリアン)」なのである。しかも,一方は自然の摂理に導かれた真っ当な敵(良い害虫)であるのに対して,他方は不自然の造物としての理不尽な敵(悪い害虫)なのだ。そして,この国に限って見れば,ヤマビルに攻撃(吸血)されて死んだ人,ないしは重傷・重体におちいった人というのは寡聞にして存じ上げないが,クルマに攻撃(衝突)されて血を流した人々は,死者が年間5千人,負傷者が年間100万人に及んでいるというのだ(もちろん同士討ちも多々含まれる)。そのことによりどれだけ多くの社会的悲劇ないし共同体的不幸が日々生成されているか,また,そのような悲劇・不幸を拠り所として成立している「交通事故ビジネス」マーケットが近年いかに成長し巨大化しているか(あぁ,クソッタレ!Ah, merde!),考えるだに実に忌まわしき現実である。ハイハイ,これ以上は申しませんよ。
閑話休題。さて,ヤマビルは1匹あたりどれくらいの量の血を吸うのだろうか。博士によれば,1匹の1回当たりの最大吸血量は1ml程度,時間にして約1時間を要し,満腹すると自ら寄主を離れるという。ここで,私をふくめた里地・里山人,山麓・山間アウトドア派がどの程度ヤマビルに吸血されているか,ざっくり算出してみよう。条件として,1年間で3回ヤマビル被害に会い,かつ1回当たりの平均吸血率(満腹状態に対する割合)が50%とすると,
ヤマビルの年間吸血量: 1ml×50%×3回= 1.5ml/年
となる。なお,ここではヤマビル自身が直接吸引しなかった失血流出分は含まれないが,それを勘案しても,年間当たり せいぜい2~3ml程度であろう。日本赤十字血液センターにおける1回の献血量が200mlないし400mlであることを考えると,これはごくごく微量な値に過ぎない。それを何でこんなに大騒ぎするかといえば,吸血されたことによる直接的な身体的不快感,ならびに精神的恐怖感・口惜し感が主たる要因なのだろう。
ところで,里地・里山人にとって,現実問題としてヤマビルなんぞよりも一層悩ましい吸血動物は,何といっても蚊mosquitoでありましょう。むしろこちらの方が馴染み深く,かつ恒常的だろう。特に夏場を中心とした時期は,里地を歩いても,里山に分け入っても,絶えず蚊の攻撃から免れることはできない。それでは,我々は蚊にどのくらい吸血されているのだろうか,ヤマビルと同じように ざっと算出してみよう。条件は以下のとおりとする。
・蚊の年間活動時期は冬季を除く9ヶ月(270日)とする
・対象者(サトヤマビト)の1日当たり蚊刺され数は平均50回とする
・1匹の蚊の最大吸血量は2mg(=0.002ml),うち1回当たり平均吸血率は10%とする
すると,
蚊の年間吸血量: 0.002ml×10%×50回×270日 = 2.7ml/年
すなわち,我らサトヤマビトは,年間3ml前後の血を蚊に吸われているということになる。もちろん,人により,入山回数,防備の程度により吸血量は異なるわけであるから,だいたい年間で1~10ml程度と見積もっておけばよいのではないか。ヤマビルに数回,それもタップリと吸血されたようなもんだろう。まことに悩ましい。「蚊除けビジネス」が既に成熟産業となっていることムベナルカナである。しかもこちらは里地・里山のみならず,家の回りなどでも発生するのであるから大変だ。卑近な例を申せば,つい先日など,うちのママチャリがパンクしたので,昼間,ガレージでそのパンク修理を始めたら,1分もしないうちに猛烈なヤブ蚊攻撃にさらされてしまった。当然ながら市販の虫除けスプレーを肌の露出面に噴霧していたのだが,これがあまり効果ない。昨今の蚊は耐性が増したのか,随分とシタタカである。結局,5分を過ぎたあたりで敵の波状攻撃に対して早々に白旗を掲げ,重いママチャリ(車重23kg!)を仕事場のなかにウンショウンショと持ち込んで,エアコンを効かせた室内でゆっくりとパンク修理を行ったことでありました。あとで蚊に刺された箇所をざっとチェックしてみると,足下を中心に全身かなりボコボコにされていた。推定吸血量は凡そ0.008ml程度でしょうか(=0.002ml×20%×20回)。まことに口惜しい。
ヤマビルの話に戻る。かように当地の山麓地にはヤマビルが多いのだが,私自身について申せば,実は意外なことに,残念(?)ながら,これまでにヤマビルに吸血されたことは一度もないのだ。であるからして,その被害感覚,吸引感覚は未だ実感していない。もちろん,ヤマビルそのものはフィールドで幾度となく目撃しているし,不幸にしてヤマビルに取り付かれて吸血された人をリアルタイムで見たことも何度かある。しかし,私自身はヤマビル未体験者なのだ。これだけ自転車(MTB)で季節をたがわず山中に分け入っているのに,また,時にはかなり無防備な状態でヤブ漕ぎしたりもしているのに,あぁ何と悪運が強いのだろうか。それとも何か,私自身がヤマビルの嫌うフェロモンでも発散させているのだろうか(加齢臭とはまた別に)。いわゆる,虫も付かない,ってヤツか。 一抹の淋しさを感じたりする今日この頃でアリマス。