ゾウミジンコモドキ,あるいはアキラの元気のモト

1999年12月03日 | アキラ

 今年の夏,長野県で湖沼調査を行った際に,仕事とは一応別の極私的な興味からゾウミジンコモドキBosminopsis deitersiの個体変異について少しばかり追跡したことがあった。距離にして約20数kmと比較的近接した二つの湖沼において,ともに動物プランクトンの最優占種として夏季に出現するゾウミジンコモドキ群集であるが,それらの発育サイズや背殻の形態,刺毛の長さ,さらには外見の“キレイさ"などが湖沼によってはっきりと異なっている。それもハンパな違いではない。例えて言えば,一方が宝塚歌劇団なら他方は吉本新喜劇のごときである(何ちゅう例えじゃ)。個々の分類形質の相違点をチェックし記録してゆく過程で,そのような個体変異,というよりむしろ群集変異というべきであろうが,それらをもたらした原因は一体どこにあるのだろうか,としばし考えさせられた。

 もともと双方の湖沼に固有の地理的特性,すなわち地域性に由来するものなのか,あるいは,調査を実施した時期の日照・降水・風などの気象条件,水温・pH・濁度・栄養塩類等の水質条件,すなわち無機的環境に由来すると考えた方がいいのか。その場合,環境のどのような要素がどういったメカニズムでゾウミジンコモドキの生育に影響を及ぼしているのか。富栄養化レベルの違いなどという理由付けではあまりに安易かつ陳腐ではなかろうか。それとも,他の生物群集との共存・拮抗関係に由来するものなのか。例えば,カイアシ類などの大型動物プランクトンにイジメラレたりして性格いや体型がネジレてしまったのか,それともゾウミジンコモドキが餌としている植物プランクトンの種の,いわゆる品質・栄養価の違いに基づくのか。

 あるいはあるいは,そのような湖内における直接的なインパクトによるものではなくて,もしかしたら周辺環境からの外圧,すなわち湖畔一帯の人為的開発(造成,宅地化,樹木の伐採,湖岸道路の交通量増加,等々)の偏在的歪みが湖内のプランクトン,それもある特定のプランクトン群集に何らかの影響を及ぼすということはないだろうか。つまり,我々が日々営んでいる節操のない人為的活動により発散される様々なエネルギー,具体的には騒音,振動,光線,電磁波等々のエネルギーが,いわばネジレのように湖盆の中心部に向かうことにより,特に性格的にシャイな方々に対しては,それらが思いもかけぬストレッサーとなって作用したりして。うん,少々胡散臭いアイデアだけど,意外に本質をついているかも知れないなぁ(坂田明の世界か,こりゃ)。

 話がアラヌ方向へ進んでしまったようでありますが,まあまあ先まで聞いて下さい。

 そういったことをボケーッと考えながら顕微鏡を覗いていたとき(まさに忙中閑有),突然アキラが父の仕事場にドドドーッと闖入してきて「ねえねえ,オトウサン! 元気のモトちょうだい!」などと言いながら執拗にオカシをせがんだ。ヤレヤレいつものことだ。そしてしばしの間,仕事場の中で好き勝手なことをやって遊んだあげく,やがて疾風のように消え去ってゆく。まことにアキラのエネルギーは行方知らずである。ちなみに「元気のモト」とは父がしばしば仕事場にストックしてあるビタミンCのタブレットのことで,その「元気のモト」を切らしている時は,代わりに請求品目が「カリカリ梅」になったり「リンゴ飴」になったり「ピンキー」になったりする。

 ところで,そういうアキラは父に対して何をくれるのだろう。「いい子のアキラ」「元気なアキラ」,そんなアキラの存在そのものが父の望む「元気のモト」なのだろうか? いやいや,それでは少々言い過ぎになりましょう。このパワフルなまでに身勝手な5才児に対して,父は願わくば,もう少しだけ,いやほんのちょっとだけ,「従順」「持続」ないし「内省」といった生活態度を学ばせたいと思う。そう,ちょうどタカシが同じ年頃,根気よく迷路を作っていたり,あるいは絵を描いたりしていたようにね(相も変わらぬ馬鹿親の嘆きである)。

 先日,アキラがこんな絵を父に示した。絵なんかめったに描かないアキラの,久しぶりに絵の具を使った作品である。それにしても一体何だろう? アキラに直接訊ねても,どうも要領を得ない(まさか迷路じゃないよね)。父には何となく「ゾウミジンコモドキ」のように見えるのだけれど。いや,きっとそうに違いあるまい。いわゆる以心伝心,ってやつですかね。なるほど,こんなのが「元気のモト」になるわけか。


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追記(1999/12/23)

 その後,さる方面の人より,ミジンコ類の形態変異については最近では次のような考え方が「定説」とされている旨を教示された。

 ミジンコ類は,フサカ,カイアシ類などの捕食者が放出する化学物質(匂い)に反応し,捕食を回避するために自ら形態を変化させる。すなわち,相手にとって食べにくい体型(尖ったり不格好な形になったり)へと変身する(要するに種の保存,維持のため)。ただし,そのような形態変化はミジンコにとって非常に余分なエネルギーを費やす行為であるため,もし捕食者がいなくなってしまえば,再び元のノーマルな形態に戻るという。

 あ,そーなんですか。何だか勝手な妄想で我が無知を晒してしまったようで面目ない(でも,ほんとかなぁ? 直接的な「敵」があんまり見当たらないような気もするんだけどなぁ)。
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