ある「自転車人」との対話

2011年10月09日 | 自転車ぐらし

 少し前の話になるが,先月,足柄・山北方面の山道を自転車で走ったときのこと。山北町はずれの丸山の麓から尺里の谷道を遡上して峠へと登る途中で,高松山の中腹にある川村小学校高松分校に立ち寄って校庭の片隅でひと休みした。この分校を訪れるのは久し振りのことだ。もっとも学校のほうは去年で廃校になってしまい,現在では分校(跡)といったほうが正しい。廃校に至る経緯については地域における諸般の事情があるのだろうが,それはそれとして,「山の分校」という施設ないし場所が醸し出す のどかで穏やかな雰囲気,どこか懐かしくも切なくも心安まる風景が好きだ。それはまるで静かな山中にポッカリ出現した小さな庭園,プチ・シャングリラのようにも思われる。そんな場所で,急坂登りに疲れた老いたる身体をつかのま癒すために一息入れるというのは,私のような鈍(ドン)な自転車人にとっては何物にも代え難い喜びであり,いわばチョットした悦楽的御褒美のようなものである。。。


   (この後 とりとめのない感想をグダグダ記そうと思ったのだが,とりあえずは「中略」)



 。。。てなことをボンヤリ考えながら休んでいると,右手の道から一台の自転車が上がってきて私の少し手前で止まった。洒落たロードバイクで,乗っているのは恐らく40代とおぼしき中年男だった。毎度お馴染みカラフル・ジャージにレーパン姿の,いかにもカッコイイ自転車乗りだ。無印ジャンパーにジャスコ・ズボン姿の私とはエライ違いである。やはり校庭の隅で一服したい様子で,こちらを見て会釈し,コンニチワ~と声を掛けられた。

 自転車であちこちに遠出をした折り,特に観光地,名所・旧跡,お休み処,補給基地などの場所においては私と同じような自転車人と出会う機会がしばしばあるわけだが,そんなときの私は,会釈程度の挨拶はするけれども,こちらから進んで何か話しかけるということはまずない。しかしながら,相手の方からはかなりの頻度であれこれと話しかけられる。貧相な老人サイクリストなんかと話をしたって面白くもなかろうに,そこは単なる社交辞令というやつなのか,いや,それ以上に,ここ近年の傾向として,同好の士と自転車談義を交わしたくてウズウズしている自転車人の割合がかなり多くなっているのではなかろうかと思われる。恐らく,自転車で遠くまで行く人々(とくに昨今のスタイリッシュなヒトビト)の多くは「首からカメラぶら下げた由緒正しき観光客」あるいは「大山詣りの浮かれた長屋連中」と同様なメンタリティを有しているに違いない。

 で,その方もなかなかに雄弁・多弁であった。なんでも川崎方面から来られたそうだ。相模原から津久井を通って宮ヶ瀬ダムに抜け,そこから裏ヤビツを登り,峠から表を下って戸川公園,三廻部林道を経てヤドロギへ,それからこんどは秦野峠を越えて丹沢湖に下り,山北町を経て,さらに尺里峠めざしてここまで登ってきたという,その日の御自身の行程を逐一丹念に説明された。そしてこの後,さらに川崎まで自走で帰らねばならないというわけだ。それにしても,まぁ,何という健脚ぶりでしょう。 以下は,そのときの対話の一端である。


- 。。。で,そちらは,どちらから来られたんですか?

- いや,この近くですよ (ムニャムニャ。。。)

- そうですか。この足柄エリアにお住まいですか。山はすぐ近いし,酒匂川沿いにちょっと下れば海に出れるし,湘南や三浦にも行けるし,伊豆にも行けるし。フィールドに恵まれて,いやぁ,自転車乗りにとっちゃ,いい所ですねぇ。

- まぁ,もともと山好きですから,マウンテンバイクでチョロチョロと。。。

- この辺ですと,西丹沢や箱根の山がもっぱらメインですか? それとも,山向こうの静岡方面にも行かれるんですか? 最近じゃ,東丹沢のヤビツが人気ですけど,あっちの方は登られませんか?

- いや,ヤビツ峠への県道はクルマやオートバイが多くて好きじゃありません。月に一度行くか行かないか,といったところでしょうか。

- ほんと,最近ヤビツは大人気ですもんね。やっぱ宮ヶ瀬ダムが観光地ですから,そっちに抜けるクルマが多いですよね。暴走族やヘボ・ドライバーもなかにはいるし。。。 自転車でも,ヨロヨロ登ってる初心者を最近はよく見ますね。結構有名な人なんかも,ヒルクライムのトレーニングに来てるみたいですけど。 私もよく表ヤビツを登りますけど,なかなか40分が切れません。。。 失礼ですけど,MTBだと,ヤビツはどのくらいのタイムで登ります?

- そうですね。。。 ま,年寄りで非力ですし,それにこんなオンボロ自転車ですから,どんなに頑張っても,なかなか1時間は切れません。

- はぁ。。 それは名古木の交差点からですか? それとも,上のデイリーヤマザキのコンビニから?

- 自宅からです。。。 羽根林道経由で (ポリポリ)

- あっと,そりゃスゴイ! (しばし絶句) そうですか。秦野にお住まいなんですか。いいですねぇ。それこそ毎日でもヤビツに行けますよね。でも,羽根林道はちょっとシンドイでしょ。。。 じゃぁ,ブログで有名なNゾーさんなんかとも お友達ですか?

- いえ,あのヒトとはまったく面識ありません。ただ,狭い盆地ですから,たまにスライドすることはありますけど。 何やらピカピカしてますけどね。

- アタマが,ですか? (笑)

- いやいや,乗ってるバイクがピカピカ,身なり格好がピカピカ,ってことです。

- まぁ,ローディーは,だいたいがバイク道楽ですもんね。私も含めて,ですけど,結構みんなそれなりに苦労して「資金」を工面してると思いますよ。でも,クルマとかオートバイとかの道楽に比べたら,自転車の道楽なんて,金額的には知れたもんですよ。それに,排ガスまき散らすわけじゃなし,環境にはやさしいし,健康にもいいし,その意味じゃ注ぎ込んだ金は十分取り戻せてると思いますけどね。

- 。。。。(無言)


 と,ここまで書くと あるいは御本人の素性が知れてしまうのかも知らんが,まぁ,こんなブログ僻地までやって来ることはまずあるまいということで,あえて昨今における自転車人のティピカルな一例としてここに記録しておく(あくまで「サンプル」ということで何卒御承知おき願います)。 それにしても,みんな,自転車に金を掛けすぎ! いい年をしたオトナが,チンケな自己満足,もとい,ササヤカなる自己実現と引き替えに,決して少なからぬ金を次から次へとドブに捨てている,もとい,市場に還流させ続けている。誰に迷惑かけてるわけじゃない。ワタシが額に汗して稼いだ金(あるいはワタシの保有する資産財産)をワタシが自由に使ってどこが悪い?と。 世の子供らはそんなオトナたちの背中を見ながら育ってゆくのである。資本主義経済の悪しき有様を,そうやって幼少の頃から卑近な事例をもとに自ら学んでゆくのである。その彼ら彼女らがオトナになったとき,この国は,いったいどうなっているのだろうか? ダロウカ?
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