元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

違う事業主の下で働いたら時間外労働(割増賃金)はどうなるのか??<古くて新しい問題!!>

2016-10-22 17:56:46 | 社会保険労務士
 事業所を異にする場合は、事業主を同じくする場合のみならず違う事業主でも労働時間は通算する!!<通達等による> 

 特にパートタイマーの場合、2つの事業所を掛け持ちで働くことも多い。例えば、一日にA事業所で5時間働き、次にB事業所で5時間働くとする。この場合は、法定労働時間は1日8時間となっているので、8時間を超える2時間については、時間外として割増賃金を払わなくてはならないことになるのか。

 労基法38条1項は「労働時間は事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」となっている。確かに、事業所を異にしていても、労働時間は通算しなくてはならず、8時間超については時間外賃金を払わなくてはならないのである。そしてここからであるが、通達は、「事業主を異にする場合を含む」とされ、同じ事業主のみならず、別の事業主の下で事業所を異にする場合も含むとされているのである。(昭和23.5.14基発769号、行政実例あり、通達等は一貫して初めからこの考え方である。)従って、A事業所とB事業所の事業主が違っても、労働時間は合計して計算しなければならないことになる。この場合に、割増賃金は、A事業主、B事業主のどちらが払うのか。法定時間に使用した事業主が、割増賃金は払うとされているので、一日のうち後で働かせるB事業主になる。(昭和23.10.14基収2117号)結局、設例の答えは、B事業主が2時間分の残業代について、割増賃金を支払わなければならないことになる。

 法的にはそういうことになろうが、現実に戻って考えたらどうだろうか。現実には、労働時間算定に当たって、雇用主が違った場合は、それを通算することは、次のように相当困難と思われる。
 労働者は、B事業所で働かないといけないとしたら、B事業所には、A事業所で4時間働いていることは告げないのが普通ではないだろうか。B事業所は割増賃金を支払わなければならないのだし、そういう人をあえて採用するとは思えないから、労働者はB事業所にはだまっていることになるのではないか。B事業所としては、法上の割増賃金支払の話を知らなかったとしても、複数働いていることは、秘密保持等からいってもマイナスに働くことはありうることで、労働者としては、採用の段階では、いずれにしても雇用主にあまり積極的に言いたくないところであろう。割増賃金をBから支給されることよりは、採用段階ではそのことよりは、まずは採用されることが先であろう。かくて、B事業所は、労働者の方から言いださない限り、割増賃金なしの賃金を支払うことになることが多いと思われる。

 しかし、この労基法38条1項の条文を見る限り、同じ雇用主の下での通算だけなのか、それとも違う事業主の下での通算を含むのかついては、どちらにも取れるところである。菅野著労働法には次のような主旨のことが書かれている。労基法は、それぞれ事業所単位の適用を原則としている関係から、38条の規定では、同じ労働者であれば事業所が違っても通算しますよという確認規定であると解釈してもよかったとしている。そう解釈すれば、この規定は同じ雇用主の場合の通算規定であって、違う雇用主の基での通算はないということになる。さらに、行政解釈としても、使用者が当該労働者の別使用者の事業場における労働を知らない場合には、労働時間の通算による法違反は故意がないために不成立になるとしている。(菅野著労働法第11版P464)

 <ここからは蛇足である。通算の問題点と起こり得る現実として> 違う雇用主で後ろの雇用主が割増賃金を支払わなければならないとすれば、後ろの雇用主はその労働者の採用自体を拒否する可能性が強く、労働者を超過労働から保護するということからすると意味はあるが、時間外労働を制限するためという割増賃金の制度としては、全く働かせないのではB事業所にとり意味はないことになる。それでは、労働者としても、あと少しだけでも働きたいという希望には添えないことになるし、また、後ろの事業主が割増賃金を払わなければならないとすると、前の雇用主との不公平感が私にはどうしてもぬぐえない。

 通達に反し解釈として、違う雇用主では労働時間を通算せず(ゆえに割増賃金は設例では発生しない)、また、具体的には雇用主間の情報の共有がなされず通算が困難ということになれば、現在では使用者に対して、時間外労働の制限を割増賃金によりセーブしていることから考えると、ある意味全く超過労働の制限がなくなることになり、長時間労働による過労死等に発展する可能性がある。労働者が自分で労働時間を制限管理しなければ、基本的にこの問題が起きることになるが、働きたい労働者にとっては、そこを本人自身の自己管理責任に帰すのは困難であろう。「多様な働き方」を推進していく中で、パートの掛け持ちのみならず正職員の兼業・副職等労働時間の算定の問題は当然出てくる話であり、政府(国会か)として、ここは是非とも立法論として解決していただきたいところである。


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