ミュージカルを映画化することは多いが(詳しくは舞台と映画の違い ~ 『ジャージー・ボーイズ』の場合、2014/11/25をご覧下さい)、その逆、映画をミュージカルにするのは、ディズニー・アニメを除き、少ない。この『リトル・ダンサー(原題:ビリー・エリオット)』はその中の大きな成功例である。映画を見たエルトン・ジョンがいたく感動しミュージカル化を熱望、自ら曲を書いたのであった。
映画の公開は2000年、ミュージカル化は2005年。ロンドンで上演され、好評により公演は2016年までのロングランに。2008年にはブロードウェイでも上演され、トニー賞で作品賞はじめ10部門を受賞する大ヒットとなった。
僕は、ミュージカルを2010年にロンドンで見たが、映画はほんの1週間前に見たばかり。正直、ミュージカルは時間の経過もあるし、そもそも英語でよく分からなかったこともあり、若干記憶があやふや。全体に映画の方が楽しめたと思う(やはり字幕は偉大)。音楽はミュージカルのエルトン・ジョンの曲の方が好きだが(実は劇場でCDを買った!)、映画のマーク・ボラン(T・レックス)の曲も躍動感があってなかなか良かった。
そして、ストーリーというか構成は断然映画の方が上。映画もミュージカルも、「強さや逞しさを良しとする男性優位の炭鉱の町で、家族の反対や社会の偏見に負けず、ビリー少年がバレエー・ダンサーになる夢を追い求める」という基本は変わらない。家族の優しさや、保守的な町の人まで暖かく見守るというのも同じ。
しかし、映画の方がストーリーに深みがあるというか、多くの要素を盛り込んでいた。例えば、炭鉱ストライキの生々しさ等当時の社会情勢、子供のため仲間を裏切ろうとする父親の苦悩、LGBTやヤングケアラーを彷彿させる話、ませた女の子の小学生とは思えない会話など。
一方、ミュージカルは話を単純化している。「バレエに惹かれる少年、家族そして社会の偏見、生来の才能と努力、家族や地域社会の変化、夢の実現」がメインの道筋。映画にはあっても、この筋に必要性の薄い出来事や話題はびしばしカットしている。よって話は分かりやすく、感情移入もしやすい。余計なことを考えずに観客はフィナーレへと向かって盛り上がって行く。ビリー少年の夢が、明日に希望の持てない炭鉱の町全体の夢になるという独自の演出もより感動を高める。まったくよく出来た構成である。
複雑な映画と単純なミュージカル。この違いには、ミュージカルの制約、つまり舞台装置を頻繁に変えられないこともある。映画では場面の切り替えや挿入は何ら問題ないが、ミュージカルには限度がある。よってストーリーを単純化せざるを得ない。
しかし、それ以上に芸術色が強いか、娯楽色が強いかという違いもあるのではないだろうか。ミュージカルは見終わった後「わぁー、楽しかった」で良いが、映画はそれだけではダメ。映画監督というもの、観客に「共感できた」、「考えさせられた」、「あれはどんな意味だったんだ」等々、何か爪痕を残して終わりたいのだと思う。概してヨーロッパの映画にこの傾向が強いが、これはイギリス映画である(もっとも単純なハッピーエンドが好きなハリウッド映画なら、また違った印象を持ったかもしれないが)。
この夏から東京と大阪で『ビリー・エリオット』のミュージカルが行われており、まだ大阪での公演が残っている。映画も今まさにデジタルリマスター版が全国で公開されている。まだの方はこの機会に是非。
映画の公開は2000年、ミュージカル化は2005年。ロンドンで上演され、好評により公演は2016年までのロングランに。2008年にはブロードウェイでも上演され、トニー賞で作品賞はじめ10部門を受賞する大ヒットとなった。
僕は、ミュージカルを2010年にロンドンで見たが、映画はほんの1週間前に見たばかり。正直、ミュージカルは時間の経過もあるし、そもそも英語でよく分からなかったこともあり、若干記憶があやふや。全体に映画の方が楽しめたと思う(やはり字幕は偉大)。音楽はミュージカルのエルトン・ジョンの曲の方が好きだが(実は劇場でCDを買った!)、映画のマーク・ボラン(T・レックス)の曲も躍動感があってなかなか良かった。
そして、ストーリーというか構成は断然映画の方が上。映画もミュージカルも、「強さや逞しさを良しとする男性優位の炭鉱の町で、家族の反対や社会の偏見に負けず、ビリー少年がバレエー・ダンサーになる夢を追い求める」という基本は変わらない。家族の優しさや、保守的な町の人まで暖かく見守るというのも同じ。
しかし、映画の方がストーリーに深みがあるというか、多くの要素を盛り込んでいた。例えば、炭鉱ストライキの生々しさ等当時の社会情勢、子供のため仲間を裏切ろうとする父親の苦悩、LGBTやヤングケアラーを彷彿させる話、ませた女の子の小学生とは思えない会話など。
一方、ミュージカルは話を単純化している。「バレエに惹かれる少年、家族そして社会の偏見、生来の才能と努力、家族や地域社会の変化、夢の実現」がメインの道筋。映画にはあっても、この筋に必要性の薄い出来事や話題はびしばしカットしている。よって話は分かりやすく、感情移入もしやすい。余計なことを考えずに観客はフィナーレへと向かって盛り上がって行く。ビリー少年の夢が、明日に希望の持てない炭鉱の町全体の夢になるという独自の演出もより感動を高める。まったくよく出来た構成である。
複雑な映画と単純なミュージカル。この違いには、ミュージカルの制約、つまり舞台装置を頻繁に変えられないこともある。映画では場面の切り替えや挿入は何ら問題ないが、ミュージカルには限度がある。よってストーリーを単純化せざるを得ない。
しかし、それ以上に芸術色が強いか、娯楽色が強いかという違いもあるのではないだろうか。ミュージカルは見終わった後「わぁー、楽しかった」で良いが、映画はそれだけではダメ。映画監督というもの、観客に「共感できた」、「考えさせられた」、「あれはどんな意味だったんだ」等々、何か爪痕を残して終わりたいのだと思う。概してヨーロッパの映画にこの傾向が強いが、これはイギリス映画である(もっとも単純なハッピーエンドが好きなハリウッド映画なら、また違った印象を持ったかもしれないが)。
この夏から東京と大阪で『ビリー・エリオット』のミュージカルが行われており、まだ大阪での公演が残っている。映画も今まさにデジタルリマスター版が全国で公開されている。まだの方はこの機会に是非。