とても静かな日本映画を見た。「羊と鋼の森」という山崎賢人が主演で、鈴木亮平と三浦友和が脇を固めたよい映画だった。鋼とは弦のことでそれを叩くもが羊毛布を固めたものらしい。ピアノに羊が必需品だとは知らなかった。
調律師が成長していく話である。ピアニストが好む音が出せるようにするのが調律師の仕事であるが、彼はだんだんとピアノのある場所、奥行き、その部屋に置かれているものなども考えて調律するようになる。最後はコンサート調律師になろうと決意する。
この映画の中でぼくが一番惹かれたところは三浦友和が後輩にあたる主人公に自分が大事に思っていることを聞かれ、答えるところだ。それは原民喜の詩の一篇である。
明るく静かに澄んで懐しい文体、少しは甘えてゐるやうでありながら、きびしく深いものを湛へてゐる文体、夢のやうに美しいが現実のやうにたしかな文体……私はこんな文体に憧れてゐる
主人公はこの部分をもう一回言ってもらいメモに残す。かれは大事だと思うことはメモにしておくのが癖なのだ。このような台詞が映画の深みを増していく。
「夢のやうに美しいが現実のやうにたしかな文体」がぼくには村上春樹の「ハナレイ ベイ」という短編小説のように思えてくる。きっと主人公はよく似た感覚で「文体」を「音」と捉えている。ここから「音」を目指した調律師としての試みがなされていく。
作者がこの詩を使っただけで、この物語は深淵なところまで届き、調律師のあり方にまで想像を与えることができた。
15分見て、つまらないと思ったら寝ようと思っていたのが最後まで、主人公の模索に付き合うことになった。言葉が映画に決定的ものを与えて深まっていった良い映画となっていた。
調律師が成長していく話である。ピアニストが好む音が出せるようにするのが調律師の仕事であるが、彼はだんだんとピアノのある場所、奥行き、その部屋に置かれているものなども考えて調律するようになる。最後はコンサート調律師になろうと決意する。
この映画の中でぼくが一番惹かれたところは三浦友和が後輩にあたる主人公に自分が大事に思っていることを聞かれ、答えるところだ。それは原民喜の詩の一篇である。
明るく静かに澄んで懐しい文体、少しは甘えてゐるやうでありながら、きびしく深いものを湛へてゐる文体、夢のやうに美しいが現実のやうにたしかな文体……私はこんな文体に憧れてゐる
主人公はこの部分をもう一回言ってもらいメモに残す。かれは大事だと思うことはメモにしておくのが癖なのだ。このような台詞が映画の深みを増していく。
「夢のやうに美しいが現実のやうにたしかな文体」がぼくには村上春樹の「ハナレイ ベイ」という短編小説のように思えてくる。きっと主人公はよく似た感覚で「文体」を「音」と捉えている。ここから「音」を目指した調律師としての試みがなされていく。
作者がこの詩を使っただけで、この物語は深淵なところまで届き、調律師のあり方にまで想像を与えることができた。
15分見て、つまらないと思ったら寝ようと思っていたのが最後まで、主人公の模索に付き合うことになった。言葉が映画に決定的ものを与えて深まっていった良い映画となっていた。