自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆韓国のGIAHS候補地を行く-追記

2013年09月01日 | ⇒トレンド探査
  韓国で開催された「持続可能な農業遺産保全・管理のためのGIAHS国際ワークショップ」では日本、中国、韓国の連携が強調された。27日には、GIAHSを世界に広める役割を担おうと「東アジア農業遺産システム協議会」(仮称)の設立が提案され、来年4月に中国・海南島で国際ワークショップが開催されることが決まった。また、今回いくつかの問題提起や論点も提起された。それを紹介したい。論点が浮かび上がったのは「日中韓農業遺産保全および活用のための連携協力方案の模索」と題した討論会(座長:ユン・ウォングン韓国農漁村遺産学会会長)=写真=だった。

      日中韓の「GIAHS連携」 どこまで可能か       

  論点の一つはGIAHSをめぐる「官」と「民」の関係性だ。韓国農漁村研究院の朴潤鎬博士は「農業遺産を保全発展させるためには地域住民の主体性が必要」と述べた。会場の質問者(韓国)からも、「今回のワークショップでは国際機関や政府、大学のパネリストばかり、なぜ非政府組織(NGO)の論者がいないのか」といった質問も出された。これに対し、パネリストからは「農業遺産の民間の話し合いや交流事業も今後進めたい」(韓国)や、「日本のGIAHSサイトではNPOや農業団体が農産物のブランド化やツーリズムなど進めている」(日本)の意見交換がされた。確かに認定までのプロセスでは情報収集や国連食糧農業機関(FAO)との連絡調整といった意味合いでは政府や自治体とった「官」が主導権を取らざるを得ない。認定後はむしろ農協やNPOといった民間団体などとの連携がうまくいかどうかがキーポイントとなる。討論会では「地域住民主体のサミット」(朴潤鎬氏)のアイデアも出されるなど、「民」を包含したGIAHSのガバナンス(主体的な運営)では韓国側の声が大きかった。

  討論会が終わり、中国の関係者が日本の参加者にささやいた。「中国のGIAHSでは、NGOが主体になるは無理ですよ」と。おそらく彼が言いたかったのはこうだ。中国では、国民も民間団体も「官」が描いたシナリオの上を進み走る。つまり、国家が領導するので、「民」が自らのパワーでGIAHSサイトを盛り上げるということはある意味で許されないのだろう。そうなると、GIAHSを保全・活用のために日中韓の国境を越えて、民間同士のアイデアや意見交換や活発な議論というのはどこまで可能なのだろうかとの論点が浮かんでくる。

  次の論点。永田明国連大学サスティナビリティと平和研究所コーディネーターは「日中韓3ヵ国が突出するとGIAHS全体の価値低下を招くことになりかねない。アフリカや欧米などへGIAHS参加の呼びかけなどバランスが必要だ」と述べたことだ。確かに今回の日中韓ワークショップは、モンスーンアジアの稲作など同じ農業文化を有する東アジアから世界に向けてGIAHSの意義を訴えることが主眼の一つだった。永田氏の発言は的を得ている。現在FAOが認定しているGIAHSサイトは世界に25ある。うち、中国8、日本5で東アジアの括りでは13となり、すでに過半数を占める。韓国が2つのサイトを申請しているので、認定されれば27のうち15となり突出する。世界各国がこの状況を見て、「GIAHSは東アジアに偏っている」と判断されてしまうと、GIAHS全体の価値低下につながるのはないかとの危惧である。日中韓が競ってサイト数を増やすのではなく、日中韓が連携してアフリカや中南米などに認定地の拡大を促すことが戦略的に不可欠となる。

  そうは言っても日本国内でも「国際評価」を得ることへの地域の熱望があることは、ユネスコの「世界遺産」の過熱ぶりを見ても分かる。中国と韓国ではすでに国レベルの「農業遺産」認定制度を設けている。国の認定を経て、次にFAOへの申請という段取りになる。ところが、日本にはその制度がなく、GIAHSへの熱望を持った地域が申請しようにも、「ローマへの道のり」(FAO本部の所在地)が分かりにくい。GIAHS認定までのプロセスを制度的にもっと分かりやすくする必要があるだろう。こうした日本の課題もまた見えてくるのである。

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