自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆デジタル兼六園を散策す

2005年05月31日 | ⇒ランダム書評
   池の向こうに茶亭の静なるたたずまい。水面に林と空の相克がある。この「和の空間」には緊張感すら漂う。江戸時代、歴代の加賀藩主は兼六園(金沢市)の造り始めから現在のかたちにするまで180年余りの歳月をかけた。明治以降、庭の主(あるじ)が代わり、兼六園が公園として市民の庭になってから130年、毎日のようにこの庭に手入れが施されてきた。金沢の人々や旅人が感動するのは、庭の造形美や草木の美しさもさることながら、営々とこの庭に注がれてきた人の心血を思うからである。その兼六園が21世紀にデジタル映像で表現された。

   兼六園の風景を収録したDVDとCD‐ROMの2枚組みの「名園記」が発売された。北陸朝日放送と博文堂が中心になって制作した。いわば、テキストと動画、画像による兼六園の集大成である。DVD(24分)の映像は、四季折々を1年間かけてハイビジョン撮影したもの。普段は入ることのできない茶室「夕顔亭」から滝の眺望、雪の積もった早朝の園内など、地元でもあまり知られていない兼六園の様々な表情を紹介している。ハイビジョン撮影は木々の色の深みを感じさせ、これまで肉眼では気付かなかった枝葉の表情までもが見て取れる。CD‐ROMには兼六園の貴重な古地図なども収録された。日ごろ見ることのできない画像もふんだんにある。内容としては、兼六園の百科事典と言える。

   今回のDVD化とCDーROM化は、石川県が進める「石川新情報書府」事業の一環として制作された。文化資産を、将来にわたって継承するために最先端の情報技術で記録・保存する試みだ。デジタル化された最新の映像で兼六園を改めて眺望する、これは「21世紀に生きる価値」というものではないだろうか。税込み3990円。問い合わせはシナジー社 <synergy@notomedia.com>。

⇒31日(火)午前・金沢の天気 くもり
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★イリジウムのトラウマ

2005年05月30日 | ⇒メディア時評
   誰にだって二度と思い出したくないことがあるものだ、特にそれがひどいのをトラウマ(精神性外傷)という。その言葉を聞いただけで、神経症やヒステリーなどの精神障害の発生原因となる。私の場合、そこまではいかないが、トラウマの一つになっているのが「イリジウム」である。きのうある新聞を広げると見出しが目に飛び込んできて、過去の暗い思い出が一瞬によみがえってきた。

   以下は記事の要約である。衛星携帯電話「イリジウム」が復活する。KDDI子会社のKDDIネットワーク&ソリューションズ(KNSL、東京)は6月上旬にもイリジウムサービスを始める。日本では一度終了したサービスだが、一般の固定電話や携帯電話がつながりにくくなる災害時への備えとして官公庁や地方自治体などに売り込む予定。初年度300台の契約を目指す。

   あれは、1999年のことだった。当時、地元金沢の民放テレビ局の報道制作部長だった私は、山間地が多く取材上で携帯電話がつながりにくいことにヤキモキすることが多かった。その時、テレビのCMで流れていた、砂漠や南極からも電話がかかるというキャッチコピーのイリジウムに随分魅せられ飛びついた。その時、導入を渋っていた当時の総務局長に「NTTの衛星電話という手もあるのではないか。君はあのCMにほだされているのではないか」とまで言われたが、「NTTはセットアップに時間がかかる。山岳遭難があってもこれがあれば電話中継もできる」と大見得を切って、最終的にイリジウムを導入してもらったのである。

   ところが、そのイリジウムは米イリジウム社が経営不振に陥り、2000年にサービスが打ち切られた。結局、山岳遭難もなく、取材らしい取材には一度も使わずに、イリジウムは私の目の前から去っていった。総務局長から「だから言ったろう、CMにほだされるなって」とニコニコ顔だったもののきつい言葉を浴びた。

   私は前向きに物事を考える性格で、失敗があれば人生の教訓として生かすことにしている。が、このイリジウムの一件は、見通しの甘さだったのか、単なる倒産というハプニングだったのか、教訓を引き出せなかった。トラウマのようになったのは、むしろ自分なりの心の割り切りができないまま今日に至ったからだろう。確かに、「たかがイリジウムで」というレベルの話ではある。最後にイリジウムのサービスを再開するKNSL社に言いたい、経営が傾くほどCMに力を入れるなよ、と。

⇒5月30日(月)午前・金沢の天気 晴れ
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☆教授が市民に語るとき

2005年05月29日 | ⇒キャンパス見聞
  私は、金沢大学「地域連携コーディネーター」という肩書きの名刺をもらい仕事をしています。その仕事の一つが、大学が取り組んでいるプロジェクトを地域に広く知ってもらうという、いわば広報なのです。そこできょうは以下のお知らせをさせてください。
                 ◇
6月8日に朝日新聞金沢総局で勉強会
「里山に学ぶ――金沢大学の実践から」をテーマに/中村浩二・金沢大学教授が講演

 読者と記者が語り合う朝日新聞金沢総局の第17回勉強会が6月8日(水)午後7時から、金沢市片町1丁目の総局4階ホールで開かれます。今回の講師は金沢大学教授(自然計測応用センター)で、同大学が角間キャンパスに99年に開校した「角間の里山自然学校」の代表を務めている中村浩二さんです。豊かな自然と人間の触れ合いの場である里山は、教育・研究の場であるとともに、地域住民の生涯学習や子どもたちの自然体験の場として近年、注目を集めています。金沢大学では、自然科学、人文・社会科学の諸分野の成果を生かした体系的な「里山学」の構築に取り組んでいます。中村教授はそのリーダーで、昆虫の生態学を中心に環境と生物の多様性についての研究を重ねています。勉強会では、金沢大学のこれまで取り組みや里山のもつ多様性などについて、スクリーンに拡大写真を写すなどしてわかりやすく説明します。参加は無料です。お気軽にご参加ください。問い合わせと申し込みは金沢総局(076・261・7575)へ。
                      ◇
  写真の人が中村教授です。教授はちょっと嫌がりましたが、写真を撮らせていただきました。中村教授は上記の紹介のように生態学の優れた学者ですが、おそらく本人も気付いていない、別の才能を私は見出しています。ちょっと強面(こわおもて)の風貌、関西弁の交渉術、褒(ほ)め上手の人心掌握術、根回しの外交術、そして何より野性味のある創造力が持ち味です。これは政治家の才なのです。歴史上の人物でいえば、司馬遼太郎が「国盗り物語」で描いた斉藤道三とその人物像がダブります。

  6月8日は、FIFAワールドカップ・アジア最終予選の「日本-北朝鮮」戦の日ですが、おそらくこの時点では勝負もついていることでしょう。朝日新聞金沢総局に足をお運びいただければ幸いです。
  
⇒29日(日)午前・金沢の天気 晴れ 
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★バーチャルを出よ

2005年05月28日 | ⇒キャンパス見聞
  作家・村上龍氏の近未来小説「半島を出よ」が話題になっている。北朝鮮のコマンド9人が開幕戦の福岡ドームを武力占拠し、続いて輸送機で484人の特殊部隊が来襲、市中心部を制圧する。彼らは「反乱軍」を名乗り、財政破綻し国際的孤立を深める日本がパニックに陥るという設定だ。村上氏には、何を話題にすれば「ミリオンセラーになるか」を見抜くクールなビジネス感覚がある。90年代の金融危機、日本人の自信喪失、学歴社会の崩壊、子どもの就業意欲などテーマ選定はどちらかというとジャーナリスト的かもしれない。小説のタイトルをもじった訳ではないが、今回は「バーチャルを出よ」をテーマにした。

  きょう28日、金沢大学の角間キャンパスで「里山自然学校」の田植えがあった。市民ボランティアがキャンパスの谷間にあるかつての棚田を復元してくれた。そこに家族連れらが集って、田植えをしたのである。写真は苗床から自分が植える分の苗を取っている光景だ。この苗床でちょっとしたハプニングがあった。就学前と思われる男の子が田んぼに入ろうとしないのである。「ヌルヌルで気持ちが悪い。汚れる」と頑なに皆の誘いを拒否する。強制もできないので、しばらく様子を見ることにした。そして苗床にほとんど人がいなくなって、自分の身の処し方に困ったか、男の子は突然、田んぼに入り苗を取り始めたのである。

  いったん田に入ると、男の子は田植えに夢中になった。頑なに田に入るのを拒否していたときの顔と、田植えに夢中になっている顔が全然違うのである。時間にして30分ほどの時間差でこれほど生き生きとした表情になるのかと周囲が驚いたくらいだ。男の子は田に入ることを拒否したものの、どうしようか葛藤したはずだ。そして、自分で決断し、ヌルヌルの田に自ら入ったのである。

  いまの子供達はテレビゲームなどバーチャルの環境に浸りきっている。バトルゲームであっても自分が苦痛や汚れを感じることはない。従って、内なる葛藤は存在しない。没頭するだけである。しかし、田植えなどの作業は疲労や汚れ、アンバランスなどリアルの感覚を伴う。しかし、人はリアルな場面に直面し、心理的葛藤を経て初めて解決の方法を創造していくことができる。これが精神的成長だ。この男の子がたどった心理的なプロセスはおそらくこのようなことだったのだろう。そして、「半島を出よ」で北朝鮮の特殊部隊に立ち向かっていく若者たちも戦場のリアリティーを目の当たりにし、戦いに挑んでいくのである。

→28日(土)午後・金沢の天気 晴れ 
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☆学食グルメで「5月病」対策

2005年05月27日 | ⇒キャンパス見聞
   職場である金沢大学へはバスで通勤している。時間にして30分ほど。途中で、大学の女子寮の学生が大勢乗ってきて、バスは立錐(りっすい)の余地がないくらいに混む。ところが最近、バスに乗ってくる学生の数が目に見えて減ったように感じる。さては、「5月病」かと。教育学部のある教授によると、「学部によっては20%余りの学生が5月のゴールデンウィーク明け頃から学校に来なくなる」という。確かに、5月病はいまに始まったことではない。30年前、私が学生時代にもその言葉はあった。だからあえてその説明は繰り返さない。

   私がオヤっと思ったのは、その「5月病」になりかけた学生をいかに大学に来させるかという工夫である。それは「学食」を楽しくすることに尽きる。友と語らい、おいしい物を食べる。大学っていいな、と思わせる。つまり、食べ物で「釣る」のである。ずばり「九州・沖縄フェア」、今月9日から始まった学食のグルメ・キャンペーンである。「大阿蘇鶏卵とじ丼」(380円)、「黒豚メンチかつ」(240円)など盛りだくさん。中でも私が気に入っているのは、「冷やし五島うどん」(380円)だ。越前そばの「おろしそば」と同じく、辛みのダイコンおろしに花がつおが添えてあって、細麺のうどんののど越しが絶品である。これが380円なら、毎日でも食べたいと思う。最近人気の沖縄ゴーヤチャンプルなどもメニューにあって、会話が弾まないはずがない。ひと昔前の「安い、まずい、冷たい、混む」の学食とは様変わりである。このフェアはきょう27日まで。おそらく「5月病」対策第2弾を考えているはずだ。期待したい。

   ついでに、学食で拾った小咄(こばなし)を2つ。女子大生の会話である。A子「最近、ケータイのストラップを首にかけている男の子って多いよね」。B子「男の子って、生まれつきぶら下げて歩くの好きなんじゃないの」。B子「・・・・?」。もう一つ。ちょっと甲高い声で話すファンキーな感じのC子が帽子のコレクションの自慢話をしていた。C子が飲み物を買いに席を立った。D子とE子の会話である。D子「あの子って、APAのCMに出てくるおばさんに感じ似ているよね」。E子「そうそう、アパおば子・・・」。

→27日(金)午後・金沢の天気 晴れ
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★またも「ニュースの天才」

2005年05月26日 | ⇒メディア時評
 アメリカ誌ニューズウィークのワシントン支局長がCNNに出演し、イスラム教の聖典コーランを米軍の尋問官がトイレに捨て冒涜(ぼうとく)したとの同誌5月9日号の記事について「誤りがあった」と述べ、異例のテレビ会見となった。何しろ、コーラン冒涜のニュースでアフガニスタンやインドネシアではイスラム教徒による反米デモが沸き起こり16人もの死者が出た。ニューズウィークが内外から責任を問われるのは必至だろう。

   ことし2月にアメリカ映画「ニュースの天才」を鑑賞した。かいつまんで内容を紹介すると、大統領専用機内に唯一設置されている米国で最も権威のあるニュース雑誌の若干24歳のスティーブン・グラス(ヘイデン・クリステンセン=写真=)が政財界のゴシップなど数々のスクープをものにし、スター記者として成長していく。グラスの態度は謙虚で控えめ、そして上司や同僚への気配りを忘れない人柄から、編集部での信頼も厚かった。しかし、ある時、グラスの「ハッカー天国」というスクープ記事に、他誌から捏造疑惑が浮かび上がり、グラスの捏造記事が発覚していくというストーリーだ。実話をもとに制作された映画でもある。
 
   今回の「コーラン冒涜」記事も、アフガン旧政権タリバンの関係者らが拘束されているキューバのグアンタナモ米海軍基地での虐待問題を取材したニューズウィークの記者がアメリカ政府高官からコーラン冒涜の匿名情報を入手。基地を管轄する南方軍の報道官はコメントを拒否したが、「国防総省の高官は否定しなかったため記事にした」(ニューズウィーク誌支局長)との説明だったが、結果的に記事に誤りがあると認めた。匿名情報を否定しないからとの理由でニュースにした記者も「ニュースの天才」だったに違いない。

   日本にも「やらせ」や捏造の記事は過去にもあった。しかし、アメリカのジャーナリズムは日本より、ある意味で「ニュースの天才」を生みやすい。日本のように記者クラブで取り決めた横並び取材は好まず、「一匹オオカミ」のような取材手法だ。また、日本の新聞社の場合、先輩、キャップ、デスク、部長のチェック機能があるものの、アメリカでは記者とデスク、編集長らが直接話し合って紙面構成の話し合いをするため、その場の雰囲気、たとえば記者が面白く説明すると「それはいい」と盛り上がってしまい、その場で紙面化が決まってしまうのではないか。映画「ニュースの天才」でもそのような場面が何度か強調されていた。

   しかし、米軍によるイラン人捕虜虐待事件などのスクープがどんどんと出てくるのがアメリカのジャーナリズの凄いところ。日本のような横並び取材がよいと言っているのでは決してない。

⇒26日(水)午前・金沢の天気 晴れ
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☆ピンピンコロリの非常識

2005年05月25日 | ⇒ランダム書評
  「PPKが最高!」、この本は独立行政法人・金沢医療センターの吉村光弘内科医長が執筆した新聞の健康コラムを本にまとめたものです。気になるPPKは「ピンピンコロリ」をもじったもの。丈夫で長生きして、倒れたらコロリと逝くのが「最高の人生の幕引き」という訳です。

  タイトルもさることながら、内容が私たちの「医学の常識」を衝いていて面白い。「長寿県で知られる沖縄は、米軍基地があり輸入豚肉の関税が安く、55歳以下の男性の2人に1人は肥満」というへエ~という話や、「インスタント食品に含まれる大量の防腐剤が腸内細菌を死滅させ、アレルギーを起こす体質にする」というドキッとする内容も。そして地元の医師の視点から、「石川、富山は死後に腎臓を提供する人が過去6年で両県合わせてたった3人しかいないのに、東海地方から51個もの腎臓をもらっている全国でもまれな輸入超過県だ」と問題点も指摘してます。

   「人は生きたようにしか死ねない」-。日ごろから命と健康について心がけ、無理せず実行しましょう。この本から学んだことです。
 ※「PPKが最高!」は85ページで一気に読める手ごろな本(400円)。問い合わせは丸善金沢支店(℡076‐231‐3155)

⇒25日(水)午前・金沢の天気 晴れ
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★テレビに子育てを託す愚

2005年05月24日 | ⇒メディア時評
 日本PTA全国協議会による2004年度「テレビ番組に関する小中学生と親の意識調査」が先日発表された。それによると、親が子供に見せたくない番組の上位3位はテレビ朝日系「ロンドンハーツ」、フジテレビ系「水10!」、テレ朝系「クレヨンしんちゃん」の順で、前の年と同じだった。毎年発表されるこのニュースを見て、いつも逆のことを考えてしまう。テレビは教育のためにあるのではない、エンターテイメントのためにあるのだ、と。だから、「見せたくない理由」が「内容がばかばかしい」(61.9%)、「言葉が乱暴」(38.7%)、「常識やモラルを逸脱」(37.4%)などなっていても、私は「テレビとはそんなものですよ」と居直りたい気分になる。
   テレビは子育てのツールではない
  問題にしたいのは、先に述べたようにテレビは教育のツールとしては成立しないのにもかかわらず、親がそれを期待する愚である。さらに、刺激的な表現をすると、子どもにテレビを見せておけば、子育てになると思っている親のなんと多いことか。「ドラえもん」を子どもに見せておけば、夢多き子どもに育つと思っている親も相当多いと思う。その幻想の裏返しで、「クレヨンしんちゃん」がヤリ玉に上がっているだけではないのか。
   バーチャルで深刻化する「壊れる日本人」  
  いまの子どもたちは、テレビやテレビゲーム、携帯電話やパソコンのインターネットなどバーチャルの環境にどっぷりと浸かり、リアリティーの感覚が希薄になっている。この現状を、ノンフィクション作家の柳田邦男氏は「壊れる日本人」と喝破し、その同名の著書の中で、バーチャルに慣れきったがゆえに起きる事件の数々を一つ一つ取り上げ検証している。去年6月、長崎県佐世保市で起きた小6女児による同級生殺害事件で、女児が映画「バトル・ロイワヤル」で殺人をゲームとして覚え、メールで相手を攻撃し、そして殺害を実行した経緯を心理分析の記録から浮かび上がらせている。警鐘を鳴らす柳田氏は日本小児学会の提言▽2歳児までのテレビ・ビデオ視聴は控える▽子どものメディアへの接触を1日2時間(テレビゲームは30分以内)まで-などの具体的な対策を紹介している。
   親がテレビのスイッチを切るべき
  「子どもに見せたくない」を実行に移すべきだ。子どもに見せたくないのであれば、親がテレビのスイッチを切る、またテレビタイムを制限する、さらにノーテレビ・デイを設けるくらいの教育的措置を取るべきなのである。テレビの内容の問題より、柳田氏が指摘するように、テレビやテレビゲームの見せ方をめぐる親と子のあり方が深刻な問題なのである。

⇒24日(火)午前・金沢の天気 雨
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☆「賃貸アメーバー」の奇観

2005年05月23日 | ⇒トピック往来
  北陸3県の税務署は先日、2004年の所得税額が1千万円を超えた高額納税者を公示しました。公示対象者は前の年より42人少ない1030人で、バブル経済の余韻が残っていた1991年の3319人に比べ、実に3分の1に減ったことになります。県別では石川が384人、富山が344人、福井が302人で、いずれも過去最低の人数でした。今回のコラムは、ある意味で、新聞に名前が出ないように苦闘している人たちの話です。

   県庁周辺に「バブルの再燃」
  高額納税者の話題と関連し、知り合いの住宅メーカーの社員がこんな話をしてくれました。「(石川)県庁周辺でバブルが再燃している」というのです。その話を聞いて、実際に県庁12階から眺めた周辺地が上の写真です。確かに、大きなビルこそ立ってはいないものの、低層のマンションやアパートや住宅が立ち込んでいる様子がうかがえます。私にはアメーバーのごとく広がる灰色の物体のようにも見えます。

  以下は、知り合いの社員の話です。県庁が一昨年この地に移転し、もともと田んぼだったこの土地の区画事業も完成、広大な宅地が出現したのです。そこで、資産保有者は何を考えて住宅メーカーと相談するかというと、「資産の圧縮」をどう効率よく行うかという一点にたどり着くのだそうです。たとえばの話です。1000坪の宅地を保有したとします。これだけでは固定資産税と都市計画税がかかるだけの「マイナス資産」です。そこで、抵当権設定の限度いっぱいに銀行から借り入れを起こし、その金額に見合う低層マンションや2階建てアパートを建てます。そして、一括管理と家賃保証を住宅メーカーに任せるのです。だいたい20年が保証期間になるといいます。
   空室率が高まり逆ザヤも懸念
  県庁周辺ですと、いま「人・モノ・金」が集まってきているので入居率が高く、住宅メーカーのリスクも少ない。これでだいたい年利回り7%が確保できる、つまり1億円を借りた場合、ここから上がる家賃収入が700万円という計算です。相続が発生した場合でも負債も相続することになり、さらに相続する土地には貸家建付地の評価減(20%)があるなど節税効果は大きいというわけです。土地を売却してそのままキャッシュを持っていても相続が発生した場合に税の網がかかるので、それなら、アパートやマンションの建てよう、となるのです。逆に言えば、田んぼが区画整理によって評価資産へと価値を高めた瞬間から、その所有者は税制によって心理的にコスト的に追いつめられていくのです。しかも、アパートやマンションが立ち並ぶ地域に住む魅力を感じないのは自明の理。古い賃貸物件から順に空室率が高まると同時に家賃が下がり、収支が逆ザヤに転じてこのバブルは終焉します。ちょっと暗い話ですが…。

 需要と供給のバランスではなく、土地に重くのしかかる税制と「税務署が怖い」という所有者の心理が生む建設ラッシュ。これが県庁周辺で広がっているアメーバーのような奇観の正体ではないか、と思うのです。

⇒23日(月)午前・金沢の天気 晴れ 
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★将軍家十五代のカルテ

2005年05月22日 | ⇒ランダム書評
  きょうの「自在コラム」は書評です。新潮新書の「徳川将軍家十五代のカルテ」(篠田達明著)を一気に読みました。歴代の将軍たちがどのような病気で死去したのかという縦軸が一本通っていて、横軸に時代背景やエピソードが散りばめられているのでコンセプトがしっかりしていて、分りやすいから面白いのです。作者の篠田氏は愛知県生まれ、整形外科医で作家です。この本が説得力を持っているのは、歴代の将軍が眠っている東京・芝の増上寺の改修工事(昭和33年)の際、徳川家の墓所が発掘され、埋葬された遺体ついて学術調査が行われ、その資料に基づいていること。また、「徳川実記」など史実を裏付ける古文書に篠田氏が鋭い読み込みを入れているからでしょう。
徳川家の菩提寺・増上寺 

   歴代将軍の平均寿命は51歳の不思議
 歴代の将軍の平均寿命は51歳。最長寿は十五代の慶喜で77歳、次が初代の家康の75歳です。これは意外でした。織田信長は「人生50年」と謡い能を舞いました。それから時代が下り、御典医ら江戸城の医師団の手厚いメディカル・チェックを受けていたにもかかわらず、信長時代と寿命が変わらないのです。平均寿命が短いのはほどんどが将軍直系の子どもたちで、「大奥で過保護に育てられた虚弱体質といえようか」と篠田氏は述べています。

  その「過保護」の具体的な例が、将軍たちの乳母。乳母たちは白粉(おしろい)を顔から首筋、胸から背中にかけて広く厚く塗りました。抱かれた乳幼児は乳房を通じて白粉をなめたと同時に、乳幼児にも白粉が塗られました。これがクセ者で、江戸時代の白粉は鉛を含んでいたのです。体内に蓄積された鉛で中毒を起こし、筋肉のマヒや知能障害などに陥るケースもあったのではないか、と篠田氏は考察しています。
  正室にのしかかったストレス
  歴代の将軍よりさらに短命だったのが公家・宮家から迎えられた正室で、その平均寿命は47歳でした。宮廷社会から武家社会に入り、言葉もまったく違う。こうした強いストレスが加わった場合、卵巣に排卵異常が生じたり、卵管けいれんが起こったりと順調な受胎ができない場合が多いそうです。子どもができない場合、それがまた次のストレスを生むといった悪循環にも。ですから、将軍の世継ぎを生んだのは正室ではなく、侍や農民、商人の娘である側室でした。これがまた大奥での確執=ストレスへと発展していくのです。年齢についての考察以外にも、「生類憐れみの令」で有名な五代・綱吉は内分泌異常で身長が124㌢だったことなど、これまでの歴史教科書や小説では見えてこなかった将軍たちの実像が医学の観点から浮かび上がってきます。一読の価値があります。

⇒22日(日)午前・金沢の天気 くもり
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