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革命によってキューバの最高指導者となり首相に就任。1965年から2011年までキューバ共産党中央委員会第一書記を務めた。現役を引退した革命家の死が、新聞一面である理由が分からない。日本の総理経験者の死で、これほどの扱いをするだろうか。カストロの死を一面扱いする論拠は一体何なのか。
確かに理由はいくつかあるだろう。たとえば、キューバ革命を成功させて反アメリカの政権を打ち立て、これを指導した。革命の嵐だった1960年代をリードしてきた人物は、その後、アメリカとの国交を54年ぶりに回復した。社会主義国家キューバを創成し、そして社会主義国家キューバにピリオドを打たせた人物なのだ。名実ともに「一つの時代が終わった」ということなのだろう。でも、それが一面なのだろうか。カストロの理念を共有した時代の人間、あるいは国の人間ならば、その歴史的な価値観を共有できるかもしれないが、それでも、日本でそれを共有できる人は果たしてどれだけいるだろうか。
ある新聞は見出しで「キューバ革命主導 反米のカリスマ」と打っている。キューバ革命というのは現代の日本人にどれほど訴えるものがあるのだろうか。ましてや、「反米のカリスマ」とはどんな意味なのか。誰に訴えた見出しなのだろうか。確かに、カストロは2003年に広島を訪れ、原爆慰霊碑に献花している。そのことと、反米はイコールなのだろうか。「反米のカリスマ」とはいったどのような意味がある見出しなのだろうか。
亡命キューバ人がアメリカで100万人とも言われる。キューバでの革命が進行する中で、急速な社会改革に反対する富裕層が出国した。アメリカは「キューバ地位特別法」で不法入国するキューバ人を1966年から政治亡命者として扱い、アメリカの領土に入れば滞在を許可し、永住ビザを取得できるようにした。これが大量出国を煽ったとも言われている。アメリカとすれば、亡命を受け入れる方が正義であり、亡命者を大量に出した国が悪という構図をつくりたかったのだろう。その後、アメリカへの大量キューバ人の移住は重荷になる。
言いたいことは、カストロの死を「反米のカリスマ」として扱い、一面に持ってくることに、むしろ反感を抱く読者がいるのではないだろうか。キューバが日本にとってそれほど身近ではない国だけに、素朴な疑問がわいただけの話である。
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