自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆叱り声「プーチンよ 大志を抱け」

2022年03月06日 | ⇒キャンパス見聞

   大学に勤めていたころの知り合いからメールをもらった。前回のブログを読んだ感想だった。その中で「北海道大学は学長名でロシアのウクライナ侵攻に抗議声明を出している。さすがアンビシャスな大学だね」と。知人は北大の関係者ではないが、ロシアの大学とつながりが深い北大だけでに、大学関係者の間で話題になっていたようだ。北大の公式ホームページをチェックする。「重要なお知らせ」のページに掲載されていた。以下。

「2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナ侵攻は、紛争の平和的解決という国際的、普遍的合意を無視したものであり、許容されないものです。北海道大学は、ウクライナに対するロシアの軍事介入の即時終結と紛争の平和的解決を強く求めます。これまで、北海道大学は、日露大学協会・日露学長会議など日露間の大学間交流に深く関わってきており、現状を深く憂慮するものです。アカデミアの連携については、これまでの成果を尊重します。一方で、ロシアのアカデミアにおいても、今回の紛争に対する平和的解決に関する議論がなされることを期待します。なお、本学におけるウクライナ、およびロシアの教職員・学生については、彼らの平穏な職務遂行並びに教育・研究環境が維持されるように万全の取組を行います。」

   日付は2月28日で、発信者は「総長 寳金清博」。日本語だけでなく、英語、ロシア語、ウクライナ語でのメッセージも掲載されている。北大の抗議声明が評価されるのは、その行動の早さだ。ロシアに即時の攻撃停止と軍隊撤収を要求する非難決議が衆院本会議で採択されたのは今月1日、参院は2日だった。こうした国際問題については国を動きを見ながら大学は行動を起こすというイメージだったが、今回は異例だ。

   さらに他の大学もチェックすると、北大よりさらに早く、東京大学は総長名で2月25日に、広島大学も当日のホームペ-ジで抗議声明を発している。では、大学がロシアの侵攻に敏感に反応したのなぜか。それは北大の抗議声明に記載されているように、ロシアと日本の大学の「アカデミアの連携」がある。双方に行き来しながら医学や化学、工学など広い分野に及んでいる。このままウクライナ侵攻が続けば、そうした連携研究をストップせざるを得なくなると危惧しているのではないか。世界各国のノーベル賞受賞者160人がロシアのウクライナからの撤退を求める公開書簡を発表している(3月2日付・共同通信Web版)。平和を求めるとともに、アカデミアの立場からの憂慮の表れだろう。

   北大のHPに「Be ambitious」というページがあった=写真=。北大の前身でもある札幌農学校であのクラーク博士が残した言葉「少年よ大志を抱け」だ。それにしても、ロシアのプーチン大統領は「NATOはウクライナの民族主義者とネオナチを支援している」「ウクライナでジェノサイドが起きている」と繰り返し述べている。プーチン氏は大局観に立ち戻って事態を治めるべきだ。「プーチンよ 大志を抱け」とクラーク博士の叱り声が聞こえそうだ。

⇒6日(日)午後・金沢の天気      あめ時々あられ

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★能登から世界へ 食のプロフェッショナルの仕事の流儀

2021年11月17日 | ⇒キャンパス見聞

   能登で生れ育った自身が今でも自慢げに話をする能登の食の職人が3人いる。「能登杜氏・農口尚彦」「パテシエの辻口博啓」、そして「ジェラートの柴野大造」だ。金沢大学の教員時代にこの3氏をそれぞれお呼びして講義や講演をしていただたことがある。

   農口氏は自ら下戸(げこ)で酒は飲めないが、酒飲みの話に耳を傾向ける。計算され尽くした酒造りは日本酒ファンからは「酒造りの神様」、地元石川では「能登杜氏の四天王」と尊敬される。「山廃(やまはい)仕込み」を復活させた名工でもある。まさにその神業はNHK番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」(2010年3月)でも紹介された。まもなく89歳だ。高齢ながら、酒蔵の中をきびきびと動く姿やその腕の太さを見れば、いかに屈強な仕事人であるかが理解できる。

   過日お会いした折、農口氏は「世界に通じる酒を造りたいと思いこの歳になって頑張っておるんです」と。そこで「世界に通じる日本酒とはどんな酒ですか」と尋ねた。「のど越し。のど越しのキレと含み香、果実味がある軽やかな酒。そんな酒は和食はもとより洋食に合う。食中酒やね」。理路整然とした言葉運びだ。山廃仕込み無濾過生原酒にはすでに銀座、パリ、ニューヨークなど世界中にファンがいる。

   辻口氏には世界最大のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」(パリ・2013年10月)でグランプリを獲得し帰国した直後の11月に講義をいただいた。カカオ豆やそのほかの素材をナノの粒子にまで粉砕して、それをチョコにする。歯ざわり、ふくよかな香りが広がり、チョコの可能性をさらに高めた、まさに「ナノ・ショコラ」だ。学生たちの質問に、高齢者やあごに障害があり、噛むことができない人たちのためにこのスイーツを考案したと答え、学生たちを驚かせた。米粉を使ったスイーツも定評がある。当初、職人仲間から「スイーツは小麦粉でつくるもので、米粉は邪道だ」と言われた。それでも米粉のスイーツにこだわったのは、小麦アレルギーのためにスイーツを食べたくても食べれない人が大勢いることに気が付いたからだとの説明に、学生たちは納得した。

   能登には人に気遣いをする文化風土があり、「能登はやさしや土までも」との言葉が昔からある。食は「うまさ」というより、作り手の「やさしさ」から生まれるのかもしれない。

   柴野氏はジェラートの本場、イタリアのパレルモで開催されたジェラートコンテスト祭「2017 sherbeth Festival」で初優勝を果たし、一躍「ジェラートの風雲児」と注目された。東京からの出店の誘いには応じず、能登でのジェラートづくりにこだわる。一方で、異業種の企業とのコラボや製品開発も行う。2019年5月の大学での講演のタイトルは「地域素材のジェラートで世界発信 ~ブランド価値の創造で人生を切り拓く~」。家業の酪農が苦しい経営に追い込まれ、ジェラートの世界に飛び込んだ。「牧場経営の助けになればという思いで、加工品の製造を考えた。生クリーム、バター、ヨーグルトといろいろ考え、幅広い年齢の方に好まれるということでジェラートにしたんです」。それまでスイ-ツづくりの経験はなく、イタリアからジェラートに関するレシピを取り寄せるなど、すべて独学だった。

   アイスクリームよりも乳脂肪分と空気の含有量を押さえたジェラートは素材の味をダイレクトに伝えることができる。能登へのこだわりは、食材へのこだわりでもある。能登の食材を次々にジェラートのフレーバーとして試した。能登産の塩を使った「天然塩ジェラート」は最初のヒット作となり、寿司屋やレストラン、居酒屋のデザートとして人気を博すことになる。そのジェラートの新たな味覚との戦いぶりもNHK番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」(2019年7月)で放送された。

   きょう朝刊を見ると、柴野氏が能登町などで経営する店舗「マルガジェラート」がイタリア政府公認の機関「国際パティスリー・アイスクリーム・チョコレート連盟」が選定する「世界最高のジェラートショップ」に選ばれたとの記事があった。本人はジェラート発祥の地イタリアで2024年開催の「ジェラートワールドカップ」での金メダル獲得に向けて意欲を燃やしていると記事で紹介されている。

⇒17日(水)午前・金沢の天気      はれ  

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☆場の創造力 キャンパス街の個性的な看板

2021年03月13日 | ⇒キャンパス見聞

   街を歩くと看板がいろいろな目につく。とくに金沢大学キャンパス周辺は凝ったものが多いような気がする。最近開業した歯科医院のネーミングを見て思わず手を打った。通りすがりに、「はぐくみの郷」と書いてある看板=写真・上=を見て、「歯医者なのに、老人ホームにあるような名前だな」との印象だった。しばらく歩いて、はたと気がついた。「はぐくみの郷」の「は」は「歯」を意味するのだと。つまり、「歯を育てる」との意味を込めている。ロゴマークも鳥が歯をわが子のように抱きかかえている。ではなぜ「郷(さと)」なのか。近くに「杜の里(もりのさと)」という地名がありそれにひっかけて「郷」とした。自己流の解釈だが、「なるほど」と手を打った次第だ。

   以前もこのブログで紹介したが、近くの大通りに面した歯科医院がオードリー・ヘップバーンをもじって「オードリー歯科 Audrey Dental Office」と名付けている=写真・下=。だじゃれというより、粋(いき)ではないかと感じ入ったものだ。「はぐくみの郷」もおそらくかなり考え抜いて付けたネーミングだろう。

   ただ、上記の2つの看板はおとなしい方だ。近くの「のうか不動産」の看板はなかなか凝ったものがある。「場の表現」が面白い。たとえば、交差点では「右へならえの人生に疲れたあたなも右折してください」、飲料の自動販売機の横にある看板では「ノドが乾いたら、人生が乾いたら」というキャッチコピーだ。強烈だったのは、警察の交番に隣接するビルでは、交番の真上部分に、「『苗加』を『なえか』と読んだ人、タイホします」と書かれた看板=写真・下、2013年撮影=だった。金沢の名字で「苗加」を「のうか」と呼ぶ。交番を絡めたこの表現は、ある種のパロディではある。著作権上は問題ないのだが、警察への「おちょくり」ととらえる人もいるかもしれない。これが原因ではないが、市の屋外広告物設置基準に違反しているとして、是正指導を受けて2013年秋に撤去されている。

   上記のように書くとこの不動産会社のイメ-ジはよくないが、学生たちの評判はよい。学生たちが部屋のカギを紛失すると、合鍵を持参して夜中でも対応してくれるようだ。屋外広告物設置基準の違反もキャッチコピーの内容ではなく、設置面積や高さなどで基準を満たしていないというのがその理由で以前から指摘を受けていた。不動産会社は今も凝ったキャッチコピーを連発している。

   では、なぜ大学キャンパスの近くにこのような個性的な看板が目立つのか。やはり、キャンパス街という場の雰囲気ではないだろうか。若い世代に注目される看板を、ネーミングやキャッチコピーを通じて発信したいという創造力ではないだろうか。

⇒13日(土)夜・金沢の天気    あめ

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★コロナに負けず、「RE:START」金大祭

2020年10月26日 | ⇒キャンパス見聞

           大学の一斉メールでうれしい案内が届いた。新型コロナウイルスの影響で開催が危ぶまれていた金大祭を実施することになったとの通知だった。ただし、開催期間は今月31日と1日の2日間で、参加者はことしの新入生に限定、そして場所も屋内運動場(体育館)となる。かなり「3密」を意識したものだ。それでも、開催することに意義があると学生たちが大学当局と綿密な交渉で実施にこぎつけたようだ。以下、実行委員会のメッセージを紹介する。

                      ◇ 

   今年の金大祭は、角間キャンパス体育館を会場に、パフォーマンスステージとサークル・部活説明会を開催します。新型コロナウィルス感染症が拡がる中で全国的に学園祭が中止にされています。金大祭も開催が危ぶまれましたが、大学側との交渉の末に開催にこぎつけることができました。

   今年の統一テーマは「RE:START~雨にも負けず、風にも負けず、冬の寒さにもコロナにも負けず~」。参加団体からの公募で選びました。巷では"withコロナの時代"と言われますが、私たちは困難に負けず新しい時代を自分たちの手でつくりだしていこう、という思いで今年の金大祭を実現します。

   現在金沢大学では対面授業が再開され、課外活動も本格的に始まっていますが、この4月以降は誰も予想出来なかった困難の連続でした。普段であれば、サークル・部活勧誘の声で賑わうキャンパスから学生の姿が消え、新入生歓迎の様々な行事も行うことができませんでした。学生文化が危機的な状況に置かれた中で、私たち金大祭参加団体は力を合わせて金大祭を開催する術を一から模索してきました。例年とは大きく異なる形にはなりますが、参加団体の団結によって金大祭を実現できることを嬉しく思います。

   今年は、パフォーマンスステージに15団体、サークル・部活説明会に44団体が参加します。例年金大祭に参加している団体は勿論、今年はじめて参加する団体も多くあります。また、本サイトにおいてサークル紹介を行う団体もあります。コロナの影響があるなかでも、新入生を歓迎する場として・学生文化を発信する場として、盛大に実現します。新入生の皆さん、ぜひご期待ください!    第57回金大祭本部実行委員会

⇒26日(月)夜・金沢の天気     くもり

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★ベンチャーな言葉

2020年10月04日 | ⇒キャンパス見聞

    金沢大学の自由履修科目「2040年の仕事論」(10月2日)で、アイ・オー・データ機器の代表取締役会長、細野昭雄氏のオンラン講義を聴講した=写真=。講義のテーマは「価値創造へのチャレンジ」。同社は東証1部上場の企業だが、「当社は今でもベンチャー企業だと自負している」と熱く語った。その言葉通り、随所にベンチャラス(venturous)な発想が伝わってきて、つい引き込まれた。

  細野氏は石川県の工業高校を卒業後、1962年に「ウノケ電子工業」(現「PFU」、石川県かほく市)に入社し、その後、金沢工業大学情報センターなどを経て、1976年1月に同社を設立した。当時、金沢の自宅のガレージで創業したことから、「ガレージ起業」とも言われた。「アップル」を立ち上げたスティーブ・ジョブズも同じ年1976年4月にカリフォルニア州ロスアルトスの自宅ガレージでパソコンの製造事業を始めている。

   細野氏は学生に問うた。「安全な道をみんなで行くのか、面白そうだからと一人その道を行くのか。安全な道を選んだ人たちが行く途中で、100人しか渡れない橋があったらどうするのか」「常識という無意識に気が付いていない人が多い。常識を疑え」と。ウノケ電子工業に入社当時は友人たちから「なぜ家電メーカーに就職しないのか」と言われた。当時、テレビの全盛時代で、1964年の東京オリンピックを契機に白黒からカラーテレビへと大きく変換した。コンピュータは未開の分野だったが、面白そうだからとその道を歩いた。

   「かつて教育の基本は『読み、書き、そろばん』と称された。現代は『読み、書き、プログラム』だろう」。国別のIT技術者の人数はアメリカ477万人、中国227万人、インド212万人に次いで日本は109万人と4位だが少ない。人口比率で見ても、アイスランドやスウェーデンに比べ少なく32位だ。また、日本のIT技術者は78%がIT企業に集中しているが、アメリカは65%がユーザー企業にいる。「菅内閣はデジタル庁をつくると言っているが、他国に比べて随分遅れている。『今さらかよ』という思いもする。小学生がプログラミングを学習して、アントレプレナーシップ教育を学ぶ時代だ」

   同社はPCや家電、スマートデバイスの周辺機器総合メーカーである。スマートフォン用アプリの「CDレコーダー」はヒット商品の一つ。ヒット商品を生み出す背景の言葉に納得した。「アメリカンドリームともいわれた1800年代後半のゴールドラッシュで儲けたのはリーバイ・ストラウス、デニムつくった『リーバイス』の創業者だよ」。金鉱で働く大勢の人たちの作業着のズボンがボロボロになっている姿を見て、破れにくいワークパンツを船の帆で使われていた生地を用いて商品化した。これがヒットし、アメリカ全土に広がった。

   「起業家精神というのは、見えている問題を解く能力、そして問題を自ら見つけ出す能力」と説いた。冒頭の「当社は今でもベンチャー企業だと自負している」の言葉が心に響く。

⇒4日(日)夜・金沢の天気    くもり

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☆「勝手にイノベーション」

2020年08月28日 | ⇒キャンパス見聞

   「Beyond Corona LIVE」というネットでの生中継番組がきょう金沢大学発で正午から始まった。午後8時までのぶっ続け8時間のライブだ。「コロナ時代の『今』を『生きる』人に向けたライブ放送」がテーマだ。総合プロデューサーは松島大輔教授。学生たちがスタジオ設営から司会などに参画していて、現場をのぞくと、テレビ局のスタジオの雰囲気だ=写真=。午後1時20分現在で121人が視聴参加している。

   このネット動画を見ていると、「DX」という言葉が浮かぶ。「Digital Transformation」。デジタル技術を使いこなして、学生たちが可能性にチャレンジしている。松島教授のかつての職場でもあったタイ政府の産業担当と会話を交わしながら、学生たちが石川県の企業紹介などを試みている。国境を超えた情報交換でタイにとって企業誘致につながったり、企業にとってタイでの拠点構築につながっていくとしたら、まさに「デジタル変革」ではないだろうか。大人のセースルではない、学生たちがインターンシップで学んだ企業を紹介することで、学生たちが夢見るビジネスの可能性が見えてくるのだ。

   松島教授がライブ中継企画を学生たちに提案し、学部を超えた多数の学生たちが乗ってきた。実は教授にはゼミ生はいない。というのも、来年度から募集を開始する「先導科学類」という新しい学科の教授なのだ。「先導科学」という聞き慣れない言葉だが、理系と文系を融合させ、問題設定と解決能力を養う、そして社会を変革する人材を育てることをコンセプトした学科だ。教授にひと言で表現するとどうなりますか、と問うと。松島氏は「勝手にイノベーションですね」と。思わず笑った。

   確かに、これからの時代はさらに複雑化し多様化する未来の課題に向き合わなければならない。コロナ禍でさらに複雑化するだろう。そんな時代に、まったく新しい手法でイノベーションを起こす人材が必要だろう。これまでの大学の教育目的は学問へのキャッチアップだった。そんな型にはまった教育はもう通用しない。時代のニーズは、まったく新しい手法で社会課題と向き合う、「勝手にイノベーション」だろう。

⇒28日(金)午後・金沢の天気    はれ時々くもり

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☆大学キャンパス ウィズコロナの風景

2020年06月22日 | ⇒キャンパス見聞

     新型コロナウイルスの感染拡大で金沢大学では4月からすべての対面型の授業は中止となっていた。このため、講義はインターネットによる遠隔授業(オンデマンド型)のみで、学生は在宅授業だった。サークルや部活なども禁止。また、研究室の学生や大学院生の研究活動も登学は禁止となっていた。何しろ学生だけで1万人余りいる。キャンパスという限られた空間で、「大規模集会」を毎日開催するようなもので、感染が広がればひとたまりもない。

   緊急事態宣言が解除され、対面講義が再開されたのは今月19日だった。自身もこの間、リモートワークだったので久しぶりにキャンパスを歩いた。いつものにぎやかしい雰囲気がそこそこ戻っているに違いない思っていたが、実際は普段の4分の1ほどと感じた。というのも、感染の可能性がゼロになったわけではなく、ウィズコロナの状態だ。「3密」回避が条件であることに変わりない。たとえば、51人以上の規模の大きな講義は引き続き遠隔授業に。また、50人以下であっても、1学生当たり4平方㍍ほどのスペースを確保することが対面講義の条件となっている。こうなると学生たちは少人数の限られた授業しか受講できないのだ。

   学生がよく集まる図書館のカフェや生協食堂をのぞいてみた。カフェは1テーブルにつき1人掛け=写真=。食堂のテーブルは対面ではなく一方向で横のイスの間隔も一つ空けてある。普段は12人掛けのテーブルだが、3人掛けだ。にぎわいからほど遠い。営業時間も午前11時から午後1時30分で、金曜と土日・祝日は休業だ。

   大変なのは学生たちである。オンライン授業の場合、動画を視聴するネット環境を整えなければならない。さらに、レジュメなどの講義資料はデータなので、自分でプリントしなければならない。自宅にプリンターがあればよいが、多くの学生はデータをUSBに落として、コンビニでプリントを行っている。

   学生たちで深刻なのはアルバイトの収入が減ったことだろう。物販や飲食の店舗でアルバイトで生活費を得ていた学生の4割が「バイト収入ゼロ」(学内学生アンケート)だったと答えている。大学では、経済的に困窮している学生の生活支援のため、クラウドファンディングを活用した寄付の募集を始めている。

⇒22日(月)午前・金沢の天気    くもり

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★北からの「クリスマスプレゼント」

2019年12月24日 | ⇒キャンパス見聞

    北朝鮮がアメリカに対し、「クリスマスプレゼント」を贈るようだ。韓国・朝鮮日報(日本語、24日付)によると、北朝鮮の外務次官(アメリカ担当)は今月3日に出した談話で、「今残っているのはアメリカの選択であり、近づくクリスマスのプレゼントに何を選ぶかは全面的にアメリカの決心にかかっている」と表明し、クリスマス前後に衛星を搭載した長距離ロケットか、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射する可能性があるとの見方が出ている、と報じている。これに対し、韓国軍当局者は「韓米の連携の下、北の状況を鋭意注視している」と明らかにした。アメリカ軍と連携し、北朝鮮の主な核・ミサイル施設などを監視しているという。

    北の矛先はアメリカだけではない。北朝鮮の国営メディアは、先月発射した超大型ロケット砲を日本政府が弾道ミサイルの発射だとの見解を示していることについて、「海を越えた島国には脅威にならない。日本はわが国に対する国際的な圧迫を扇動している」と主張した(24日付・NHKニュースWeb版)。河野防衛大臣が今月21日の防衛庁での訓示で、「北朝鮮は相次いで弾道ミサイルなどの発射を行い、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威だ」と述べたことを、「国際的な圧迫を扇動」と誇張したようだ。

           北朝鮮の激しい言葉が交錯すると、つい気になるのが東証一部の石川製作所(石川県白山市)の株価だ。きょうも値上がりして2015円に。1ヵ月前の11月25日は1338円だった。この急騰の背景となっているのが同社が防衛関連株だからだ。同社は段ボール印刷機、繊維機械を生産しているが、追尾型の機雷も製造する防衛産業も担っている。

    同社の株価は長らく1000円を割り込んでいたが、一転注目され始めたのは2017年7月だった。北朝鮮が打ち上げたICBMはアメリカ西海岸のロサンゼルスなどが射程に入るものだった=記事は7月29日付=。これを受けて、トランプ大統領は9月の国連総会の演説で金正恩・朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と呼び、双方の言葉の応酬が過熱した。このころから株価は上昇し、10月16日には4205円の最高値を記録した。が、翌年2018年の韓国・平昌オリンピックへの北朝鮮の参加による平和ムードが広がり、徐々に株価は下がり、3月29日に韓国と北朝鮮による南北首脳会談(4月27日)が決定すると1943円に下がった。その後は、「平和の演出」のにおいが感じられるようになると下落、米朝首脳会談の「中止」「延期」のメッセージが発せられると上向きに転じた。

    ちょうど1年前の2018年12月26日は1010円だった。今年に入り1400円台が続いていたが、このところの北朝鮮のホットな「口撃」で再び上昇が始まり、きょうは2015円になった。投資家にとっては、北からの「クリスマスプレゼント」だろうか。

⇒24日(火)夜・金沢の天気     くもり

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★グレタさんにしかられる

2019年12月17日 | ⇒キャンパス見聞

   16歳の環境活動家、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんはパンチの効いたスピーチでその存在感を浮き立たせている。「国連気候アクション・サミット2019」(9月23日、ニューヨーク)でのスピーチも強烈だった。「You have stolen my dreams and my childhood with your empty words. And yet I’m one of the lucky ones. People are suffering. People are dying. Entire ecosystems are collapsing.」(あなたたちは空虚な言葉で、私の夢を、私の子ども時代を奪った。それでも、私は幸運な者の1人だ。人々は苦しんでいる。人々は死んでいる。生態系全体が崩壊している)

   地球温暖化に本気で取り組んでいない大人たちを叱責するメッセージだった。留学生たちと語り合う機会があり、グレタさんのことが話題になった。そのテーマが、もし彼女が日本に来て、ホームステイをしたどうなるか。「きっと彼女は日本人を叱責する」とドイツとフィンランドからの留学生が声をそろえた。「電気の消し忘れによる無駄遣い、ウオシュレットによる水のムダ遣い、そしてトイレットペーパーの無駄遣いに彼女は憤るだろう」と。

   確かに、日本人には節電という意識が薄い。テレビはつけっ放しで、部屋の照明やエアコンもまめに消さない。日本人学生からは、留学した折に寮の管理人から「日本人はルーズだ」と電気を消さないで外出したことを叱責されたと話していた。ウオシュレットも確かに意見が分かれる。日本人は清潔だと絶賛する人もいれば、水を浪費していると違和感を感じる外国人もいる。グレタさんは後者の意見ではないか、と。

   ところでトイレットペーパーの無駄遣いって何だ。先のドイツとフィンランドからの留学生は笑いながら、「日本人は一回で使うトイレットペーパーが長いというのが留学生の間では常識だ」と。そこで、試しに目測で一回で使うトイレットペーパーの長さを、左右の手で間隔を示してもらった。それを定規で測ると、日本人学生(男子)2人は85㌢と90㌢、ドイツとフィンランドの男子学生はそれぞれ50㌢と60㌢だった。最大で40㌢も差がある。ドイツの留学生は小さいころから折りたたんで使うことをしつけられたそうだ。ところが日本人は丸めるようにして無造作に使う。すべての日本人はそうではないだろうが、自身も70から80㌢で使っている。無駄に長いと思うこともある。

   グレタさんに「地球の電気、水、紙を日本人は奪うな」としかられそうだ。(※写真は、9月21日に国連本部で開かれた「若者気候サミット」で温暖化対策を訴えるグレタさん(右)。左はグテレス事務総長=国連「Climate Action Summit 2019」公式ホームページより)

⇒17日(火)午後・金沢の天気     あめ

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★田の神を「お・も・て・な・し」

2019年12月06日 | ⇒キャンパス見聞

   能登半島で奥能登と呼ばれている輪島市、珠洲市、穴水町、能登町の地域に伝承されている農耕儀礼「あえのこと」は毎年12月5日、田の神をご馳走でもてなす家々での祭りを意味する。2009年9月、ユネスコ無形文化遺産に単独で登録された。ことしで4回目となる「あえのこと」スタディ・ツアーを4日と5日で実施した。参加したのは金沢大学の留学生3人(フィンランド、ブラジル、中国)と日本人学生3人の6人。もてなしのご馳走である「あえのこと料理」を考えるワークショップにはALT(外国語指導助手)として能登に来ているアメリカ人2人も参加した。

   初日にまず訪れたのは延喜式内社でもある天日陰比咩神社(中能登町)。同神社では、「あえのこと」と同じ日に稲作の収穫を神に感謝する新嘗祭(にいなめさい)が執り行われ、参列者には米を発酵させた濁り酒「どぶろく」の振る舞いがある。神社の説明によると、どぶろくを造る神社は全国で30社あり、そのうちの3社が同町にある。米造りと酒造りが連綿と続く地域である。ここでどぶろくを田の神へのお供え用にいただいた。

   現在の風習では、田の神の好物とされる「甘酒」を供えているが、明治ごろまでは各家で造っていたどぶろくを供していたとの説がある。明治政府は国家財源の一つとして酒造税を定め、日清や日露といった戦争のたびに増税を繰り返し、並行してどぶろくの自家醸造を禁止した。これがきっかけで家庭におけるどぶろく文化は廃れていった。もちろん現在でも酒税法により家庭での醸造・酒造りは禁止である。どぶろくの代替えが甘酒になった、のではないかと推測している。「それなら、田の神に本来の好物、どぶろくを捧げよう」と神社に自説を説明し、現物を提供いただいた。

   2日目のいよいよ「あえのこと」の本番。輪島市にある千枚田の近くの農家を訪れた。留学生を代表し、フィンランドからの男子留学生が、「天日陰比咩神社からの預かりものです。田の神さまにお供えください」と家の主(あるじ)にどぶろくの瓶を手渡した。主人は甘酒も用意していたが、別御膳で神酒用の銚子と徳利で供えてくれた。「大役」を果たした留学生はあえのことを見終えて、「フィンランドにこういう行事はない。家々が土地の神様に祈ることが興味深い」「出された料理にも一つひとつ意味があると聞いて驚いた。田の神さまがどぶろくを楽しんでくれた想像するとうれしい」とメディアのインタビュー取材に答えていた。

   田の神はそれぞれの農家の田んぼに宿る神であり、農家によって田の神さまにまつわる言い伝えが異なる。共通しているのが、目が不自由なことだ。働き過ぎで眼精疲労がたたって失明した、あるいは稲穂でうっかり目を突いてしまったなど諸説ある。目が不自由であるがゆえに、それぞれの農家の人たちはその障害に配慮して接する。座敷に案内する際に階段の上り下りの介添えをし、供えた料理を一つ一つ口頭で丁寧に説明する。もてなしを演じる家の主たちは、自らが目を不自由だと想定しどうすれば田の神に満足していただけるのかと心得ている。あえのことで演じられる所作を見ていると「ユニバーサルサービス(Universal Service)」という言葉を連想する。社会的に弱者とされる障害者や高齢者に対して、健常者のちょっとした気遣いと行動で、障害者と共生する公共空間が創られる。

   ブラジルからの女子留学生は「とても美しいと感じる光景の儀式でした。ホスピタリテー(もてなし)の日本文化を知る機会を与えていただき感謝しています」、そして「ブラジルの先住民族にもこうした儀式や伝統文化があったが、今では少なくなったのではないでしょうか」と現状にも触れた。中国からの女子留学生は「中国にもどぶろくと同じような製法のお酒がある。母親の好物で、母親の笑顔を思い出しました」と感想を語った。留学生たちは日本の「お・も・て・な・し」を体感したようだ。(※写真は、輪島市千枚田の川口家の「あえのこと」。留学生たちが後方でかたずをのんで見守っている)

⇒6日(金)夜・金沢の天気     あめ

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