「イタリアの農村の過疎化は、日本以上に深刻だった。農業人口は劇的に減少した。しかし、50年代の奇跡の経済成長が終った後、長年穏やかなまま、、地方都市では多くの工場が閉鎖された。その跡地にディスコやホテルが建った時代もあった。しかし、直ぐ廃墟になった。今では、レストランの一部が残っているだけである。例外は一部の有名なリゾート地だけ、空きあ家だらけの農村では投機はあまねく失敗した。」
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最近読んだ『なぜイタリアの村は美しく元気なのか~市民のスロー志向に応えた農村の選択~』(宗田好史著・学芸出版社)にかかれている状況は、現在の日本のそれと同じだ。イタリアの農業生産はGDPの2.3%、農家は全世帯の3.8%に減った(2009年)。日本は、GDPに占める農業の割合は0.9%だが、農家の全世帯に占める割合は4.5%だ。ただし、農家一戸当たりの耕作面積は日本1.6㌶、イタリア7.9㌶と比較にならないほどイタリアの農家は土地持ちだ。土地面積は少なくとも農業人口の比率はイタリアより多いのでうまく農業経営をやっているとのだと思ってしまうが、日本の場合は農業補助金が現在でも5.5兆円あるので、補助金でなんとか農業人口を支えていると表現した方が良さそうだ。
本書によると、そのイタリアが変わった。「最近になって、アグリツーリズモが盛んになり、地方小都市へ移住する人も増えた。」という。日本ではアグリツーリズムとも紹介されている。発祥地とされているトスカーナ地方では、もともと農業や畜産の手伝いを泊まり込みで体験するものだったが、現在は大自然をバックにした田園風景の中の「農家ホテル」の機能と、その土地の食材でつくられた料理を堪能できるスタイルだ。本の写真に掲載されているような、納屋を改造したレストランなどは一度入ってみたいと思わせるような造りである。
上記の記載だと商売上手なやり手の農家が考えそうで、日本にいくつでも事例はあるという人もいるだろう。ところが、イタリアのスローフドは「運動」としてある。1986年、ローマでは「イタリアの子供からマンマのパスタを奪うな」と猛烈な反マクドナルド進出阻止運動が起きたのである。こういった草の根的な文化復興運動が起きるのがイタリアである。著者は、フランス革命時代に活躍した政治家で美食家のジャン・アンテルム・ブリア・サヴァラン(1755-1826)の著書『美食礼賛』の影響を受けているという。すなわち、「人は喜ぶ権利をもっている」として、食の問題を人権思想に結び付けている。これがマクドナルドなどファーストフード化への根付強い反対運動に連鎖しているというのだ。
そのような思想的な下地があり、イタリアのアグリツーリズモは広がりを見せている。ヨーロッパの成熟したバカンスは田園に、そしてアグリツーリリズムに向かっている。経営者として、都会からの受け入れる感性を持った女性たちが活躍しているという。トスカーナ州で4060余りもの施設がある。イタリア全体の2割だそうだ。日本のアグリツーリズモは農家民宿ということになるが、全国で総数2000軒ほどと言われているので、イタリアの勢いが見てとれる。
それにしても筆者は建築家であるだけに、建築規制など法的な側面からもきちんと解説していいて、分かりやすい。イタリアがかつて景観破壊を招いたリゾート法によるホテル乱立という事態を防ぐため、規制緩和には厳しいが、納屋や馬小屋ならば宿泊棟やレストランに用途変更できるように工夫している点など丁寧に解説している。
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