金沢大学里山里海プロジェクト(研究代表:中村浩二特任教授)は1999年の金沢大学角間キャンパスでの「角間の里山自然学校」の開設以来、生物多様性の研究を中心に地域連携による人材養成とさまざまに活動を広げてきた。特に世界農業遺産(GIAHS)「能登の里山里海」の認定にかかわるプロセスや、その後のGIAHSの国際連携についても貢献している。私はこれまで地域連携という立場で里山里海プロジェクトとかかわってきた。このほど、科学技術振興機構(JST)の機関紙『産学官連携ジャ-ナル』(2014年8月号)で、世界農業遺産をめぐるかかわりの経緯についてまとめたものが掲載されたので以下紹介する。
<世界農業遺産について>
世界農業遺産(Globally Important Agricultural Heritage Systems=GIAHS、ジアス)は、2002年に国際連合食糧農業機関(FAO)によって創設された。その背景には、現代農業の生産性偏重が、世界各地で森林破壊や水質汚染等の環境問題や地域の伝統文化や景観、生物多様性などの消失を引き起こしたことへの反省がある。GIAHSは、その土地の環境を生かした伝統的な農業・農法、生物多様性が守られた土地利用、農村文化・農村景観などを「地域システム」として維持し、次世代へ継承していくことを目的としている。
●パルヴィスGIAHS議長の能登視察
2010年6月、国連大学高等研究所(当時)から視察の依頼があり、金沢大学の「能登里山マイスター」養成プログラム(JST「地域再生人材創
出拠点の形成」補助事業、2007~11年度)の取り組みを、研究所員や来日している国連食糧農業機関(FAO)の幹部に紹介することになった。プログラムの教員スタッフが、能登半島の先端での里山里海の地域資源を活用する地域人材の養成の仕組み、とくに生物多様性など環境配慮の水田づくりの実習カリキュラムなどについて説明した。すると、その話を聞きながら回覧された水田の昆虫標本をじっとのぞき込んでいたFAOのゲストが質問した=写真・上=。「この虫を採取したのは農家か」「ほかにカエルやヒルやミミズ、貝類の標本はあるのか、見せてほしい」と、熱心に質問をした。その人が世界農業遺産(GIAHS)の創設者であり議長(当時)であったパルヴィス・クーハフカーン氏だったことを知ったのは、その1年後だった。
●北京国際GIAHSフォーラム
2011年6月、北京でGIAHS国際フォーラムが開かれ、パルヴィス氏が議長であった。前年12月に日本から初めて申請した「NOTO's Satoyama and Satoumi(能登の里山里海)」と「SADO's Satoyama in harmony with the Japanese crested ibis(トキと共生する佐渡の里山)」がこの会議で審査された。フォーラムでは能登申請者の代表の武元文平七尾市長(当時)、高野宏一郎佐渡市長(同)が、それぞれ英語で15分ほど申請趣旨をプレゼンした。これに先だち、FAOの依頼により中村浩二教授(金沢大学、「能登里山マイスター」養成プログラム研究代表)が能登における里山里海の人材養成について発表した。その後のGIAHS運営委員会で、日本初(先進国としても初)の2件が認定された。パルヴィス氏はコメントで「生物多様性と農業に取り組む人材養成を大学とともに実施している能登は評価に値する」と述べた。
●人材育成による地域再生
能登の自然と文化はGIAHS認定されるほどすぐれているが、過疎化・高齢化の波は非常にきびしい。国際的な評価を背景に、能登では持続可能な農林水産業の人材育成こそが地域再生につながると、「能登里山マイスター」養成プログラムの事業継続が要望され、2012年10月から能登の自治体と大学の共同出資による「能登里山里海マイスター育成プログラム」が新スタートした。2013年3月には自治体と大学が共催し、パルヴィス氏を招いて「GIAHS国際セミナー」を能登で開催した。環境に配慮した農林業の新たなビジネスに取り組むマイスター修了生たちの発表に耳を傾
け、一人ひとりにコメントしたパルヴィス氏は「ぜひマイスターのみなさんにはGIAHS大使として、世界に意義を広めてほしい」と期待を込めた。
●イフガオ棚田GIAHSとの連携
2013年5月、能登半島・七尾市でGIAHS国際フォーラムが開催され、日本から「静岡の茶草場農法」、「阿蘇の草原の維持と持続的農業」(熊本県)、「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」(大分県)の3件が新認定されたほか、GIAHS国際フォーラムとしては初めて、コミュニケ(共同声明)が採択された。その5項目のひとつに「先進国と途上国のGIAHSサイトの連携(Twinning)」が掲げられた。これを実行に移すため、金沢大学が7年間、能登半島で培ってきた里山の人材養成のノウハウをフィリピン・ルソン島のイフガオ棚田(FAO世界農業遺産、ユネスコ世界文化遺産)の人材養成に活かすプロジェクトが、JICA国際協力機構の草の根技術協力事業(地域経済活性化特別枠)として採択された(2013~15年度)。この促進のために能登と佐渡の自治体を中心とした「日本イフガオGIAHS支援協議会」をことし3月発足させた。現地のイフガオ里山マイスター養成プログラムの受講生たちは現在20人=写真・下=。9月後半には研修のため能登半島にやってくる。GIAHSをテーマにした新たな国際連携が始まっている。
⇒26日(火)朝・金沢の天気 あめ
<世界農業遺産について>
世界農業遺産(Globally Important Agricultural Heritage Systems=GIAHS、ジアス)は、2002年に国際連合食糧農業機関(FAO)によって創設された。その背景には、現代農業の生産性偏重が、世界各地で森林破壊や水質汚染等の環境問題や地域の伝統文化や景観、生物多様性などの消失を引き起こしたことへの反省がある。GIAHSは、その土地の環境を生かした伝統的な農業・農法、生物多様性が守られた土地利用、農村文化・農村景観などを「地域システム」として維持し、次世代へ継承していくことを目的としている。
●パルヴィスGIAHS議長の能登視察
2010年6月、国連大学高等研究所(当時)から視察の依頼があり、金沢大学の「能登里山マイスター」養成プログラム(JST「地域再生人材創
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●北京国際GIAHSフォーラム
2011年6月、北京でGIAHS国際フォーラムが開かれ、パルヴィス氏が議長であった。前年12月に日本から初めて申請した「NOTO's Satoyama and Satoumi(能登の里山里海)」と「SADO's Satoyama in harmony with the Japanese crested ibis(トキと共生する佐渡の里山)」がこの会議で審査された。フォーラムでは能登申請者の代表の武元文平七尾市長(当時)、高野宏一郎佐渡市長(同)が、それぞれ英語で15分ほど申請趣旨をプレゼンした。これに先だち、FAOの依頼により中村浩二教授(金沢大学、「能登里山マイスター」養成プログラム研究代表)が能登における里山里海の人材養成について発表した。その後のGIAHS運営委員会で、日本初(先進国としても初)の2件が認定された。パルヴィス氏はコメントで「生物多様性と農業に取り組む人材養成を大学とともに実施している能登は評価に値する」と述べた。
●人材育成による地域再生
能登の自然と文化はGIAHS認定されるほどすぐれているが、過疎化・高齢化の波は非常にきびしい。国際的な評価を背景に、能登では持続可能な農林水産業の人材育成こそが地域再生につながると、「能登里山マイスター」養成プログラムの事業継続が要望され、2012年10月から能登の自治体と大学の共同出資による「能登里山里海マイスター育成プログラム」が新スタートした。2013年3月には自治体と大学が共催し、パルヴィス氏を招いて「GIAHS国際セミナー」を能登で開催した。環境に配慮した農林業の新たなビジネスに取り組むマイスター修了生たちの発表に耳を傾
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●イフガオ棚田GIAHSとの連携
2013年5月、能登半島・七尾市でGIAHS国際フォーラムが開催され、日本から「静岡の茶草場農法」、「阿蘇の草原の維持と持続的農業」(熊本県)、「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」(大分県)の3件が新認定されたほか、GIAHS国際フォーラムとしては初めて、コミュニケ(共同声明)が採択された。その5項目のひとつに「先進国と途上国のGIAHSサイトの連携(Twinning)」が掲げられた。これを実行に移すため、金沢大学が7年間、能登半島で培ってきた里山の人材養成のノウハウをフィリピン・ルソン島のイフガオ棚田(FAO世界農業遺産、ユネスコ世界文化遺産)の人材養成に活かすプロジェクトが、JICA国際協力機構の草の根技術協力事業(地域経済活性化特別枠)として採択された(2013~15年度)。この促進のために能登と佐渡の自治体を中心とした「日本イフガオGIAHS支援協議会」をことし3月発足させた。現地のイフガオ里山マイスター養成プログラムの受講生たちは現在20人=写真・下=。9月後半には研修のため能登半島にやってくる。GIAHSをテーマにした新たな国際連携が始まっている。
⇒26日(火)朝・金沢の天気 あめ