自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆ノーサイドの演出

2014年11月24日 | ⇒メディア時評
  先月(10月)5日に投開票が実施された金沢市長選で前市長の山野之義氏(52)が自民・公明推薦の候補に大差をつけて当選したことの考察をこのブログで紹介した。その金沢市長選が昨日23日告示され、現職の山野氏のほかに立候補の届け出がなく、無投票で3選が決まった。山野氏は8月に1期目の途中で辞職し、先月の出直し選で再選された。公職選挙法の規定で任期は辞職前と同じ12月9日までのため、任期は次が2期目となる。何ともややこしい。

  さて、山野氏は、競輪の場外車券売り場の誘致をめぐって業者と不透明なやり取りをしていたとの批判を受けて辞職した。しかし、支援者らに経緯の説明を重ねていくなかで、「市民の審判を仰ぐ」と10月の出直し選への立候補を決意したのだった。フタを開けると、9万票以上の得票で自民・公明が推す候補らを寄せ付けず圧勝、再選された。しかし、議会は車券場問題を追及するため、山野氏や業者を招致して経緯の説明を求めてきた。10月下旬には、地方自治法に基づく調査特別委員会(百条委員会)が設置された。12月中に山野氏を証人喚問することも決まっている。

  ここで話はさらにややこしくなる。12月2日公示される衆院選石川1区に出馬する馳浩氏(自民)の選対本部顧問に山野氏が就任するというのだ。馳氏は、山野氏が8月に引責辞職した原因となった競輪場外車券売り場問題の新たな事実を自民党の会合で示し、政治問題化し、「山野下ろし」へと誘導した。10月の市長選では、自民・公明推薦の候補を支援し、選挙戦を通じて山野氏が出馬したことに、激しく批判する発言を繰り返していた。しかし、馳氏側は選対本部顧問の就任を山野氏に依頼した。10月の市長選で対立した関係から一転して、圧勝した山野氏との和解をアピールすることで、市長選のしこりが自らの選挙に及ぶことを抑える意図が見える。いわば、市長選の「ノーサイド」を演出したのである。

  地元メディアはこう報じている。「20日に市内で開かれた選対の準備会合後、本部長を務める中村勲石川県議が明らかにした。顧問は他に県関係の参院議員3人。中村氏によると、19日に山野氏に近い紐野義昭県議、高村佳伸金沢市議が顧問就任を要請、山野氏は二つ返事で引き受けた」(北陸中日新聞)と。つまり、山野氏は顧問を引き受けて損をすることはない。わだかまりを拭い去る、よいチャンスと状況を読んだのかもしれない。有権者には、すっきりと理解できない、すんなりとは腑に落ちない、両者の政治行動ではある。

写真説明:金沢市長選の候補者ポスター掲示板。山野氏の無投票当選だった。

⇒24日(祝)夜の金沢の天気    あめ


 
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★イフガオにて‐下

2014年11月15日 | ⇒トピック往来
  イフガオの現地入りに先立ち、11月12日、JICAフィリピン事務所を訪ね、丹羽憲昭所長、小豆澤英豪次長に、JICA草の根技術協力(地域経済活性化特別枠)事業「世界農業遺産(GIAHS)イフガオの棚田の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援事業」の進捗状況を説明した。プロジェクトの実施責任者である中村浩二特任教授が昨年11月の事業採択内定から、現地パートナーとのミニッツ(合意文書)の締結、現地説明会、イフガオGIAHS持続発展協議会とイフガオ支援協議会(能登)の設立、カリキュラム作成、受講生募集、現地調整員の赴任、ワークショップ開催、講義の開始、能登研修などの流れを説明。「ソフト事業はカタチが見えにくいが、人材養成は大学ならでは試み」と述べたのに対し、丹羽所長からは「モデル事業として成功させてほしい」と期待が寄せられた。

      イフガオ州大学長「イフガオ棚田を今後2000年持続していく」

  14日、イフガオ里山マイスター養成プログラムの第6回の講義がイフガオ州大学で行われた。今回日本からのイフガオに訪れた講師陣は多彩な顔ぶれだった。能登里山里海マイスター育成プログラムの教員、小路晋作特任准教授とシュクル・ラフマン教務補佐員、国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)のイヴォーン・ユー研究員の3人が講義を行った。

  小路氏は「“Noto Satoyama Satoumi Meister” Training Program: an outline」と「Ecosystem approach for Noto’s Satoyama Satoumi」の2つをテーマに能登里山里海マイスター育成プログラムの取り組みの現状と自然と共生する農林水産業について解説。シュクル氏は「Intangible Cultural Heritage」と「My Experience of Meister Program in Noto」と題して、能登の「アエノコト」などユネスコ無形文化遺産について説明し、能登里山里海マイスター育成プログラムの修了生たちの取り組みを紹介した。イヴォーン氏は「GIAHS monitoring and role of OUIK in GIAHS Twinnig Program」のテーマで世界農業遺産の発展させるためのモニタリング調査の重要性と国連大学の役割、今後の連携を説明した。

  ゴハヨン・イフガオ州大学長はイフガオ里山マイスター養成プログラムの意義についてこう述べた。「私たちは、能登マイスターと同じだけの情熱とエネルギーでイフガオ里山マイスターに取り組んでゆく。このプログラムが、FAOによって認定されたGIAHSイフガオ棚田を保全し、活性化することを信じます。イフガオ棚田は、私たちの祖先が、2000年かけて築き上げてきた遺産であります。私たちは、これをこれからの2000年にわたり持続してゆく」。学長のこの言葉にイフガオ再生を成し遂げる決意を感じた。

⇒15日(土)イフガオの夜   はれ  

  

  

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☆イフガオにて‐中

2014年11月14日 | ⇒トピック往来
  イフガオに入って2日目。イフガオ里山マイスター養成プログラムを現地で支援する「イフガオGIAHS持続発展協議会(IGDC=Ifugao GIAHS Sustainable Development Committee)が11月14日開催された。イフガオGIAHS持続発展協議会はことし3月25日に設立され、イフオガ州のアティ・デニス・ハバウエル知事が会長に就任した。今回の会合はイフガオ里山マイスター養成プログラムの活動状況を報告する目的で、州知事はじめ、バナウエ、ホンデュワン、マユヤオの3自治体関係者が参加した。

        州知事をうならせた受講生の課題研究プレゼン           

  開会挨拶のなかで、イフガオ州大学のセラフィン・ゴハヨン学長が、イフガオの棚田を保全する人材養成を支援するための学内組織「GIAHS支援センター(仮)」の設置を表明した。続いて、JICA事業「世界農業遺産(GIAHS)イフガオの棚田の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援事業」の日本側実施責任である金沢大学の中村浩二特任教授が能登里山里海マイスター育成プログラムの取り組みの進捗状況を説明。イフガオ州大学のダイナ・リチヤヨ教授がイフガオ里山マイスター養成プログラムこれまでの活動状況(6回の講義、能登研修など)を報告した。その後、受講生の中から選ばれた5人が課題研究の中間報告をプレゼンし、イフガオに伝わる農耕や文化資源の価値を再評価し、現代の視点で活かす試みを披露しました。この協議会のハイライトは前回のコラムでも掲載したように受講生たちの課題研究のプレゼンだ。

  アマラ・ダーエンさん=民間事務職員=の研究テーマは「伝統的な薬用植物」。イフガオの集落の多くは人里離れており、伝統的な薬用植物を自前で調達してきた。咳止めや糖尿病に効くといわれる薬用植物を10種類採取し、専門家の意見を聞きデータ収集。市販も視野に。ジェネリン・リモングさん=自治体職員(農業)=の研究テーマ「市販飼料と有機飼料による養豚の比較」。市販の飼料による 養豚より、伝統の有機飼料の養豚の方がコストも発育も優れていることをデータにより示した。マリヤ・ナユサンさん=保育士=の研究テーマは「離乳食に活用する伝統のコメ品種」。保育士の立場から、離乳食の歴史を調べる。乳児の発育によいイフガオ伝統コメ品種を比較調査している。マイラ・ワチャイナさん=家事手伝い・主婦=の研究テーマは「伝統品種米の醸造加工」。親族が遺した伝統のライス・ワイン製造器を活用し、イネ品種や、イースト菌の違いによる酒味やコクを調査。売上の一部を棚田保全に役立てる販売システムを検討している。

  受講生たちの発表を受けて今後のイフガオGIAHS持続発展協議会の取り組みの方向性などが話し合われた。まず、議長を務めたハバウエル知事は、「かつて先ほどの発表のような伝統資源のビジネス化をテー マとした事業化を計ったことがあったがうまくいかなかった。今回のプレゼンを聞いて、研究調査計画がよく練られており、たとえばライス・ワインなどは市場価値が高いと感じている。州政府として今後予算化も含めて、イフガオ里山マイスター養成プログラムの受講生たちを支援する取り組みを始めなければならないと考えている」と高く評価した=写真・下=。

  ゴハヨン・イフガオ州大学長は「受講生たちはこれまでのマイスター授業(6回)で里山概論、土地利用、生態学的な視点、伝統的なコメづくり、地元食材の料理法などを学んでいる。その上で、イフガオ棚田を保全し、活性化することを自らのテーマとして選び、調査し、議論を重ねた上でプレゼンしている。これらの課題研究はイフガオにとって非常に有用で、可能性がある」と述べた。

⇒14日(金)夜・イフガオの天気    はれ
        



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★イフガオにて‐上

2014年11月13日 | ⇒トピック往来
  今月11日に成田空港、マニラ空港を経由してフィリピンに入った。13日と14日に開催されるイフガオ里山マイスター養成プログラムの授業とワークショプに参加するためだ。イフガオ里山マイスター養成プログラムでは月1回(1泊2日)、イフガオ州大学を拠点に現地の若者(社会人)20人がフィリピン大学やイフガオ州大学の教員の指導で地域資源の活用や生物多様性と環境、持続可能な地域づくり、ビジネス創出について学んでいる。

         イフガオの文化・伝統資源を価値として活かす地域の若者たち

  イフガオの棚田は1995年にユネスコの世界文化遺産、2005年には国連食糧農業遺産に認定されている、壮大な棚田だ。その面積はざっと1万7000㌶、東京ディズニーランドとディズニーシーを合せた面積が100㌶なので、その170倍も広がる広大な棚田だ。さて、そのイフガオの棚田で起きている現実はこれまで何度かこのコラムで述べてきたように、若者の農業離れだ。現地の人が言うには、最近は若者だけでなく、中高年の田んぼ離れも広がっている、と。世界遺産でもある地域の文化を今度どう守って、継続的に発展させていけばよいのか、まったく日本と同じような、いや世界で起きているこの若者の農業離れという問題に向き合えばよいのか。そこで、金沢大学が国際協力機構(JICA)草の根技術協力事業で実施しているが、「世界農業遺産(GIAHS)イフガオの棚田の持続的発展のための人材養成プログラムの構築支援事業」、別称「イフガオ里山マイスター養成プログラム」。フィリピンでのカンターパートナーはイフガオ州大学、フィリピン大学オープン・ユニバーシティだ。

  13日はイフガオ里山マイスター養成プログラムの受講生20人による研究課題の中間発表会が開かれた。いつくか受講生たちの研究課題を紹介したい。ヴィッキー・マダンゲングさん(41)はイフガオ大学の教員で、研究テーマは「イフガオの民俗資料と写真展示」だ。本人の大学における研究テーマでもあるのだが、イフガオ里山マイスター養成プログラムの受講生の仲間を通じてさらに情報を収集したいとプログラムに応募した。実際にヴィッキーさんが大学で収集してる民俗資料を見せてもらい、少々驚いた。一部は日本、あるいは能登のそれとそっくりなのだ。

  たとえば、現地で今でも使用されているストーン・ミルだ。米などを挽いて粉に昔ながらのものだが、これが日本の石臼(いしうす)にそっくりなのだ。しかもサイズや石臼も回す取っての棒の配置なども、である。このほか、蓑(みの)やザル、カゴなど、懐かしさがこみ上げてくるようなものがさまざまに。1万年ほど前、中国の長江流域で稲作を中心とした農耕が始まったといわれる。その農耕文化が南に伝播してイフガオに、そして北に伝わり能登など日本に。そんな農耕文化のダイナミックな広がりを感じさせるのだ。ヴィッキーさんは「イフガオの民俗資料をまとめて文化遺産の価値や誇りを未来に伝えたい」と意欲を持っている。

  もう一つ気になる発表を紹介する。家業手伝いのマイラ・ワチャイナさん(29)の研究はライス・ワイン。当地では伝統的な酒づくり。大鍋を使って米を火で炒(い)る。こんがりきつね色になるまで炒って、水を入れて炊きく。そこに昔から伝わるイースト菌を入れてバナナの葉でくるみ、5日間発酵させれば出来上がり。イフガオ伝統のティブンと呼ばれるライスワイン。酸味が効いて、甘味があり、確かに日本酒よりもワインに似た味だ。マイラさんをこれを地酒としてだけではなく、海外にも広めたいと考えている。どの品種の米が醸造に向いているのか、どのような販促活動をしていくのか研究する課題は多い。が、本人は「イフガオの米はすばらしいと思う。そこからすばらしいライン・ワインを世に出したい」と研究に余念がない。

  地元であるイフガオの文化資源や伝統的な価値をもう一度見直して、地域を再生させたい、思いはまったく日本の現状と通じるのだ。

※写真説明:写真・上はイフガオの伝統的な高床式の茅葺家屋を説明するヴィッキー・マダンゲングさん(右)、写真・下はマイラ・ワチャイナさん(左から2人目)がつくったライス・ワインの試飲会

⇒13日夜・イフガオの天気  はれ
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☆イフガオ州大学長からのメッセージ

2014年11月01日 | ⇒トピック往来
 先月(10月)11日、金沢大学が石川県能登半島の4自治体(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)などと連携して実施している、社会人の人材養成講座「能登里山里海マイスター育成プログラム」(実施代表・中村浩二特任教授)の第三期生入講式が、珠洲市の金沢大学能登学舎で執り行われた。この入講式は通算で7回目となるが、今回初めて海外からの参加があった。フィリピンのイフガオ州大学、セラフィン・ゴハヨン学長だ。イフガオ州大学は、先日このコラムで紹介したイフガオ里山マイスター養成プログラムを実施するにあたっての、金沢大学のカウンターパートでもある。入講式ではゴハヨン学長から祝辞をいただいた。イフガオからの心のこもったメッセージだった。

I am deeply honoured and privileged to be invited here again and be a witness to the enrolment of a new batch of trainees under the Noto Satoyama Satoumi Meister Training Project being spearheaded by Kanazawa University. We are always awed and inspired by your extraordinary commitment and passion towards sustaining your GIAHS. Since the launching of the Ifugao Satoyama Meister Training Program in March 25, 2014 various activities were already conducted. Our trainees attended various lectures such as overview of the satoyama landscapes in Japan and Philippines, land utilization, ecological concepts and practices, Natural farming system, management of heirloom rice production and training in native delicacy preparation. They also visited successful small scale industries in Ifugao such as taro production facility and traditional and modern rice wine facilities. But it is their visit and interaction with their counterpart trainees here in Japan that really opened their eyes and helped them internalize the objectives of the program that we are trying to achieve.Now, the 17 trainees in Ifugao have started their GIAHS conservation projects in their field of interests. These study projects were presented and shared with their counterparts/ experts here in Japan 3 weeks ago.

The Ifugao State University considers the Meister Program as one of its banner program. We commit to work with the same passion, commitment and indefatigable energy that you have in your meister program here. We are convinced that the program will surely help conserve and revitalize our Ifugao Rice Terraces, declared by FAO as a GIAHS site. This is a heritage developed by our forefathers for us. If it sustained them in the last 2000 years, surely, when harnessed, it can also sustain us in the next 2000 years to come.

Allow me to manifest our sincerest invitation to all of you, our partners here in Japan, to visit our place and see for yourself the various life changing initiatives of our trainees that is starting to unfold. Our university and province will be most happy to accord you with the same friendship and hospitality you have accorded us here.

 金沢大学が主導されている能登里山里海マイスター育成プログラムの三期生入講式に招待いただき、たいへん光栄です。能登GIAHSの持続的発展に向けた、金沢大学の日頃からの格別の取組と熱意に心から敬意を表します。本年3月25日にイフガオ里山マイスター養成プログラムが設立され、すでにいろいろな活動がスタートしています。受講者は、いろいろな講義を受けています。たとえば、日本とフィリピンの里山概論、土地利用、生態学的なものの見方、伝統的なコメつくり、地元食材の料理法などです。また、タロイモやライスワインの作業場も見学しました。しかし、能登訪問や能登里山マイスター達との交流こそが、かれらの目を開かせ、課題をグローバルに考えることに役立ちました。現在、17名のイフガオ受講生がそれぞれの関心分野において、GIAHS課題に取り組みはじめました。3週間前の能登訪問では、課題発表会とともに能登マイスター受講生やスタッフ、関係者と意見交換の場をつくっていただきました。

 イフガオ州大学では、マイスター・プログラムを、特別プログラムとして全学の旗印としています。私たちは、能登マイスターと同じだけの情熱とエネルギーでイフガオ里山マイスターに取り組んでゆく決意です。このプログラムが、FAOによって認定されたGIAHSイフガオ棚田を保全し、活性化することを信じます。イフガオ棚田は、私たちの祖先が、2000年かけて築き上げてきた遺産であります。私たちは、これをこれからの2000年にわたり持続してゆく決意です。

 私は、パートナーである皆さまをイフガオへ招待したく思っています。イフガオ・マイスターの活動が、イフガオの生活を変えつつあることを、ぜひ、ご自分の目で確かめて下さい。イフガオ州大学、イフガオ州政府は、いまこの能登において、皆さまが私にくださっている友情と歓待でもって皆さまをお迎えいたします。

⇒1日(土)朝・金沢の天気    くもり

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