東京スカイツリーが完成すれば634㍍となり、自立式電波塔として世界一の高さを誇ることになる。この高さ634を「むさし」と呼ばせて、「武蔵」の漢字を当てる。武蔵は今の東京、埼玉、神奈川の一部を含む武蔵の国のこと。歴史的な味わいのロマンを演出している。知恵者がいるのだろう。
「武蔵の国」では地デジは2度切り替わる
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すでに観光名所になっているスカイツリー本来の役割はテレビ塔としての機能である。問題は、「本家テレビ塔」の東京タワーとの電波の切り替えだ。ことし2011年7月24日正午にアナログが停波された後は、東京タワーから地デジの電波が発射されるが、来年2012年春にスカイツリーがオ-プンすれば、試験放送期間を経て、地デジの電波は東京タワーからスカイツリーにスイッチされる。つまり、武蔵の国では地デジは2度切り替わる。
スカイツリーのもともとの建設目的は、都心部に建てられる超高層ビルが増え、東京タワーからの送信が電波障害を生じるようになったからで、地デジのために建設計画が持ち上がったわけではない。というもの、関東地区で地デジをスタ-トさせた2003年12月にNHKと在京民放キー局5社が600㍍級の新電波塔を求めて、「在京6社新タワー推進プロジェクト」を発足したのがきっかけだった。2006年3月に建設地が決まった。当初は2011年7月に間に合わせようとしたがスケジュールがずれた。
ここで懸念される問題がある。東京タワーにアンテナを向けて地デジを視聴している世帯が、来春の東京スカイツリー切り替え時に、アンテナの向きを調整しなくていいのかという問題だ。総務省は情報通信審議会情報通信政策部会の「地上デジタル放送推進に関する検討委員会」(第42回・2009年1月16日)で、関東広域圏の地デジの発射局(親局)が東京タワーから東京スカイツリーに移行することが視聴者にほとんど影響を与えないという見解を示している。また、 情報通信審議会の第6次中間答申(2009年5月25日)でも、 東京スカイツリーへの親局移転にかかわる影響について、「移転による受信設備への影響はほとんどなく、デジタル対応した設備がそのまま使えること」「影響が発生した場合には、放送事業者による対策等がなされること」が記載された。
本当に影響はないのだろうか。確かに、地デジはビル陰であっても、近隣のビルで反射された波(反射波)を受信できてしまうので、電波の比較的強い地域の場合では、アンテナの向きが違っていても反射波を拾って地デジが映ることもある。 ただ、常識的に考えて、現在の東京タワーに向けている家庭用のUHFアンテナを来春にはスカイツリーに向けてアンテナを調整をした方がより良い画質が得られるのはは当然だろう。とくに東京タワーとスカイツリーを直線でつないだ中間の地域の場合は逆向きになる。地デジが2度切り替わることの影響については、来春のスカイツリーのオ-プン後、試験電波を発射し、測定車で受信する検証作業が行われるので、それまでは憶測でしかない。
もし、それで影響が出てテレビ視聴に混乱が生じた際は、「放送事業者による対策等がなされること」(前出の第6次中間答申)になっている。今さら蒸す返すのも大人げないが、スカイツリーの開業と、アナログ停波の順番が逆になっていることがそもそもの原因だ。
そして、このことは関東エリアの多くの視聴者の関心事なのだが、NHKと在京民放キー局5社のホームページを閲覧しても、東京タワーとスカイツリーで地デジが2度切り替わることの視聴者への影響についてはよく説明やPRがされていない(見落としかもしれないが)。おそらく、キー局側とすれば、まず東京タワーでの完全地デジ化(7月24日)を乗り切って、その次にスカイツリー対策に重点を置くという戦略なのだろう。確かに視聴者は2重の混乱に陥るものの、それだったら、そのように順序だてて説明をすればよいのではないだろうか。
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