元旦の朝は雪かきで始まった。水気がたっぷり含んだ重い雪で、スコップですくうと腰にずっしりくる。その後、家族で初詣に出かけた。兼六園横の金沢神社。菅原道真公を祀っていて、予備校に通う高校生とおぼしき受験生が集団でお祓いをうけていた。神社のある小立野台から市内が一望できる。これは私の癖(くせ)で、その場に立つと左から右へ水平に見渡す。風景だけでなく、たまに「時空」が重なっても見える。「2013」という年を見渡すと、何と壮

観なことか。経済から外交、そして地域、職場、家庭までその「在り様」がパノラマのように広がって見える。
経済の在り様はすさまじい光景だ。特に海外。中国のGDP成長率は、2010年には12%台、2011年に9%台、2012年には7%台となった。「世界第2」の経済力を誇ったとしても、中国の経済成長にもはや「奇跡」はない。今後、4%、3%とうまくソフトランディングすれば見事だが、経済成長に乗り遅れた人々の不満が反比例して高まる。習近平総書記が年末に河北省の貧しい農村に足を運び、脱貧困と脱腐敗を誓ったと日本のメディアでも報じられているが、裏を返せば、格差の実態はかなり厳しい状況になっているのだろう。昨年9月に尖閣諸島の領有をめぐり中国で吹き荒れた反日デモで、日系のスーパーやデパートで略奪が起き、日本車を叩き壊す光景をテレビで見てしまった我々日本人は、格差を生んだ共産党政府に不満を持ち、将来に希望が持てず、居直り暴徒化する若者たちがこの国にこれほど多いのかとも実感した。
アメリカの有り様も異様な光景だ。減税の打ち切りと歳出カットが重なる「財政の崖」の突破の展望が見いだせない。むしろ気になるのは、この国に内在する人種問題だ。昨年11月の大統領選で、民主党のオバマ大統領が激戦州の大半を制し再選を果たした。その選挙は、「白人」対「黒人・テラィーノ」のまるで、人種的な分裂ではなかったのかと思わせるほどに支持層がくっきりと分かれた。昨年12月、コネティカット州の小学校で起きた銃乱射事件で、オバマ大統領が銃の所持規制を訴えると、共和党支持の全米ライフル協会(NRA)が、「すべての学校に、武装した警察官を配置すべきだ」と記者会見で反撃したのが印象的だった。1992年5月、黒人男性に集団で暴行した白人警察官への無罪評決がきっかけに、焼き打ちや略奪、銃撃戦へと連鎖し、60人以上ともいわれる死者を出したロサンゼルス暴動があった。この国の「人種問題の活断層」である。
国内に視点を当てる。第二次安倍内閣は「右傾化」政権と国内外のメディアで報じられている。では、右傾化した政策を取るのかというと別の次元のように思える。かつて右翼の大統領で知られた、アメリカのニクソン大統領は1771年7月、電撃的に中国を訪問すると発表し世界を驚かせた。その流れで日本は中国との国交回復を実現したのは周知のこと。また、ニクソンは保守派が「まるでスイカ(外は緑、内は赤)」と嫌った環境保護庁を創設し、あのレーガン大統領は規制緩和や減税を大胆に進めた。安部内閣も案外、政策的には民主・野田政権時代よりもソフトではないか。外交面では協調姿勢を打ち出し、ロシアは森喜朗・元総理に、中国は高村正彦・自民副総裁に、韓国は額賀福志郎・元財務大臣に、そしてアメリカは大統領と面識がある安倍総理自身でフォローしようと手を打っている。
ただ、経済では「モラルハザード」を案じる。銀行の株式保有の上限を定めた「5%ルール」をめぐり、金融庁が打ち出した規制緩和案。一般の事業会社への出資上限を10~15%に引き上げ、経営再建中の会社には全額出資も可能にすることが柱になっている。もともと、民主時代につくられた中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)で、40万社に総額95兆円をばら撒きした、とされる。この融資によって数年後景気が回復して、経営が安定したときに返済してもらうというロジックだったが、1年の時限立法が2年延長され、ことし3月に期限切れとなる。倒産続出が予想されることから、金融庁が新たに「5%ルールの撤廃」を打ち出した。融資を受けている会社が返済不能の場合は、いわゆるDES(デット・エクイティ・スワップ)が行われ、「貸出」が「資本」に変わる。つまり、「債務の株式化」である。銀行の保有割合が100%になる可能もある。こうなれば、おそらく経営陣は「あとは銀行にお任せ」のモラルハザードが頻発し、銀行の「毒薬」になる可能性もある。
地域の光景も見える。2015年春、北陸新幹線金沢開業で東京とは電車1本でつながる。年ごとに「新幹線開業」が地域の経済、政治、文化面のアイコンになっている。とくに経済はバラ色の夢を試算している。北陸経済連合会が昨年11月に出した「北陸新幹線 金沢-敦賀間の早期開業による経済効果」によると、同年時点では「金沢止まり」で北陸全体で交流人口が年2930万人見込め、新幹線が金沢から敦賀へと延伸すれば交流人口がさらに年間280万人増加する、と。
北陸新幹線への期待は、地価調査(2012年9月)でも分かる。金沢市中心部の商業地(香林坊2丁目)は地価が5.4%上昇し、上昇率は全国の商業地の中で9位に入った。JR金沢駅周辺の商業地4地点でも地価が上がった。一方で地域間の競争も激化しそうだ。昨年10月、富山市と長野市が観光PRで協力する「集客プロモーションパートナー都市協定」を結んだ。「海の富山」と「山の長野」を互いにPRし、観光客の増加を目指す。その背景には、新幹線が当面「金沢止まり」であることを念頭に、富山と長野が途中駅として埋没しないようにとの狙いもあるようだ。
北陸新幹線は40年ほど前に計画され、ようやく見えてきた。ただ、熱いのは北陸だけではないのか。東京など太平洋側から見れば、それほど魅力的に思えないのではないか。「何で今ごろ、新幹線は珍しくも何ともない」との声も聞こえそうだ。
※写真は、金沢神社の初詣風景。1日午前9時30分ごろ
⇒1日(火)午前・金沢の天気 ゆき