自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★拉致「宇出津事件」の現場

2013年09月12日 | ⇒ドキュメント回廊
 「舟隠し」。地元では昔からそう呼ばれていた場所だ。石川県能登町宇出津(うしつ)の遠島山公園の下の入り江だ。山が海に突き出たような岬で、入り組んだリアス式海岸は風光明媚(ふうこうめいび)とされるが、歩くにはアップダウンがきつい。この辺りでは15世紀ごろ城があり、入り江では水軍の舟が隠されるようにして配置されていたことから、「舟隠し」と名がついた。狭い入り江で両サイドでうっそうと木々で囲まれている。辺りは昼でも暗い。

  ここで国際事件、北朝鮮による拉致事件の第1号事件が起きた。政府の拉致問題対策本部のホームページなどによると、政府が拉致被害者として認定しているのは17人。その第1号ともいえるのが「宇出津事件」だ。

  事件の経緯はこうだ。1977年9月18日、東京都三鷹市の警備員だった久米裕さん(当時52歳)と在日朝鮮人の男(同37歳)は、国鉄三鷹駅を出発した。東海道を進み、福井県芦原温泉を経由して翌19日、能都町(現・能登町)宇出津(うしつ)の旅館「紫雲荘」に到着した。午後9時。2人は黒っぽい服装で宿を出た。怪しんだ旅館側は警察に通報し、石川県警からの連絡で能都署員と本部の捜査員が現場に急行した。旅館から歩いて5分ほどの小さな入り江「舟隠し」で男は石をカチカチとたたいた。数人の工作員が姿を現し、久米さんと闇に消えた。男は外国人登録証の提示を拒否したとして、駆けつけた署員に逮捕された。旅館からはラジオや久米さんの警棒などが見つかった。この年の11月15日、横田めぐみさん(当時13歳)が日本海に面した新潟の町から姿を消した。

 男の東京の自宅など捜索した石川県警は押収した乱数表から暗号を解読し、県警は警察庁長官賞を受賞した。しかし、当時、肝心の事件は公にはされなかった。ここからは推測だ。1973年8月8日、韓国の政治家で、のちに大統領となる金大中が、韓国中央情報部(KCIA)により日本の東京都千代田区のホテルから拉致されて、ソウルで軟禁状態に置かれ、5日後ソウル市内の自宅前で発見された事件、いわゆる金大中事件があった。事件後、警視庁はKCIAが関与していたと発表、日本と韓国の主権侵害問題に発展した。韓国側はKCIA職員かどうかも認めず不起訴処分とし、国家機関関与を全面否定していた。KCIAの組織的犯行と韓国側が認めたのは2006年7月のことだった。金大中の拉致事件が解決していない段階で、このどさくさに紛れ、北朝鮮が次々に日本人を拉致していたことになる。

⇒12日(木)朝 金沢の天気    はれ
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☆東京五輪と8Kテレビ

2013年09月08日 | ⇒メディア時評
 東京オリンピックとパラリンピックは1964年の大会以来56年ぶりとなる。夏季大会を2回以上開催するのは、アテネ(1896、2004)、パリ(1900、1924)、ロサンゼルス(1932、1984)、ロンドン(1908、1948、2012)に次いで5都市目、アジアでは初めてとなる。

 1964年大会からこれまでは紆余曲折だった。1988年の招致で名乗りを上げた名古屋がソウルに、2008年の招致で名乗りを上げた大阪は北京に、2016年の招致でも東京はリオデジャネイロにそれぞれ敗れた。それだけに、今回の「東京」の決定は朗報だ。東京オリンピックのステージでは、「安心、安全、確実な五輪」だけでなく、「震災からの復興」「障がい者スポーツの祭典」「コンパクトな五輪」「エコなスポーツの祭典」などを世界にアピールしてほしいものだ。

 小学生のときに視聴した「東京オリンピック」は鮮明だった。というのも、1953年に始まったテレビ放送で、それまで白黒だった画面がオリンピックを契機に一気にカラー化が進んだのだ。それだけでなく、スロービデオなどの導入でスポーツを見せる画面上の工夫もされた。また、静止衛星による衛星中継も初めて行われた。長野の冬季オリンピックでは、ハイビジョン放送としてハンディ型カメラが登場した。オリンピックとテレビの技術革新は無縁ではない。それでは、これからのオリンピックのテレビの存在価値はなんだろうか。ひょっとして、「4K」「8K」かもしれない。

 では、「4K」あるいは「4K放送」とは何か。現在、日本を含め、世界のテレビ放送はデジタルとなり、基本はハイビジョン放送だ。画質が鮮明で、テレビの薄型化と相まってテレビは大型化している。ハイビジョンであっても、画面が大型化すると、たとえば50インチ以上になると、画質の粗さを感じるようになる。ハイビジョンは縦横がそれぞれ1920ドット、1080ドットとなっている。1920を大ざっぱに2K(Kは1000の単位)と呼ぶ。これをもっと繊細な表示にしたものが「4K」。3840×2160ドットの画素数で、ハイビジョンの縦横が2倍のレベルとなる。縦2倍、横2倍となるので、ハイビジョンの4倍のデータとなる。

 「スーパーハイビジョン」。NHKが技術開発を進める画質はなんと「8K」だ。7680×4320で、7680を大ざっぱに「8K」と称している。これらの技術革新が進むにはタイミングもよい。「4K」「8K」の次世代放送は、2014年のブラジルW杯、2016年のリオオリンピック、2018年の韓国・平昌冬季オリンピックと続き、2020年の東京へと向かう。2年ごとの国際的なスポーツ大会が完成度の高い次世代放送をもたらすだろう。2020年の東京リンピックが決定した。どのような映像で、テレビは視聴者を楽しませてくれるのか。

⇒8日(日)朝・金沢の天気   あめ
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★食品添加物の「がん加算説」

2013年09月02日 | ⇒ランダム書評
  医学界では発癌(がん)のメカニズムについての有力な学説の一つに、「がん加算説」がある。種々の誘因によって、生体の細胞内の遺伝因子が不可逆性変化をおこし、その変化の加算によって細胞が癌性悪変へ進む、という。医学の素人なりにその状況を考えると、食品添加物や農薬、化学肥料、除草剤、合成洗剤、殺虫剤、ダイオキシン、排気ガスなど私たちの生活環境にある化学物質が体の中に入り込んで、その影響が蓄積(加算)されてがんが発生するということだろう。

  中でも食品添加物は直接体に入ってくる。食品添加物には合成添加物と天然添加物があるが、合成添加物はいわゆる化学物質、431品目もある。スーパーやコンビニ、自販機、また一部の居酒屋や回転ずしなどで購入したり食する食品に含まれる。長年気にはなっていたが、その数が多すぎて「どれがどう悪いのかよう分からん」とあきらめムードになっていた。たまたま薦められて、『体を壊す10大食品添加物』(渡辺雄二著・幻冬舎新書)を読んだ。10だったら、覚えて判別しやすい、「買わない」の実行に移せる。

  著者は私と同じ1954年生まれ。著書で出てくる食品添加物にまつわる事件については世代間で共有されていて実に鮮明に思い出すことができる。以下、著書を読みながら記憶をたどる。国が認めた食品添加物で、初めて安全神話が崩れたのは1969年の中学生のとき。当時、「春日井のシトロンソーダ」などの粉末ジュースを愛用していたが、人工甘味料の「チクロ」が発がん性と催奇形性(胎児に障害をもたらす)があるとして突然使用禁止になった。突然というのは、国内で議論があったのではなく、FDA(アメリカ食品医薬品局)の動物実験で判明し、日本も追随したという経緯だ。その2年後にも事件が起きた。魚肉ソーセージだ。「AF-2」という殺菌剤は細菌の遺伝子に異常を起こし無力化するという効果があったが、同時に人の細胞にも作用し、染色体異常を起こすことが分かったのだ。粉末ジュースと魚肉ソーセージは当時の中学生のアイテム商品だった。その禁止理由がよく分からなかったので「こんなうまいもん。なんで禁止や」と理不尽さを感じたものだった。

  この著書を読みたくなったきっかけがある。大学の先輩教授が、過日、成田空港のすし屋でヒラメやエビ、アワビなど堪能した。「ちょっと消毒臭い」と感じたらしいが、味もよく食欲があったので10皿ほど積み上げた。ところが、「ホテルに帰って最近になく胃がもたれた」と話していた。その話を聞いて、食べ過ぎというより添加物かもしれない、それにしても生鮮食品になぜ添加物なのかと疑問に感じていた。本著ではまさに、すし屋の食材と消毒剤の次亜塩素酸ナトリウムの下りがある。すし屋や居酒屋の場合、生食を扱うため、食中毒のリスクを恐れる。そのために、仕入れ段階から過敏になっている。そこをよく知っている魚介類の加工会社が次亜塩素酸ナトリウムを使って店に出荷する。ところが、すし店や居酒屋できっちりと洗浄して、在留がないようにすれば問題ないが、手抜きがあると「消毒臭い」となる。

  よかれと思ったことが、裏目に出る。あるいは企業の過剰な防衛意識が消費者の健康をむしばむ。外国からかんきつ類(オレンジやグレープフルーツなど)を空輸する場合、防カビ剤「TBZ」「OPP」が使われる。発がん性や催奇形性の不安が指摘されるが、厚労省は認めている。アメリカとの貿易に絡んでの圧力があるのではないかと本書で指摘している。ことし春には中国からの大気汚染「PM2.55(微小粒子状物質)」が問題となっている。「がん加算説」の現実味を感じる。

⇒2日(月)金沢の天気    あめ

  
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☆韓国のGIAHS候補地を行く-追記

2013年09月01日 | ⇒トレンド探査
  韓国で開催された「持続可能な農業遺産保全・管理のためのGIAHS国際ワークショップ」では日本、中国、韓国の連携が強調された。27日には、GIAHSを世界に広める役割を担おうと「東アジア農業遺産システム協議会」(仮称)の設立が提案され、来年4月に中国・海南島で国際ワークショップが開催されることが決まった。また、今回いくつかの問題提起や論点も提起された。それを紹介したい。論点が浮かび上がったのは「日中韓農業遺産保全および活用のための連携協力方案の模索」と題した討論会(座長:ユン・ウォングン韓国農漁村遺産学会会長)=写真=だった。

      日中韓の「GIAHS連携」 どこまで可能か       

  論点の一つはGIAHSをめぐる「官」と「民」の関係性だ。韓国農漁村研究院の朴潤鎬博士は「農業遺産を保全発展させるためには地域住民の主体性が必要」と述べた。会場の質問者(韓国)からも、「今回のワークショップでは国際機関や政府、大学のパネリストばかり、なぜ非政府組織(NGO)の論者がいないのか」といった質問も出された。これに対し、パネリストからは「農業遺産の民間の話し合いや交流事業も今後進めたい」(韓国)や、「日本のGIAHSサイトではNPOや農業団体が農産物のブランド化やツーリズムなど進めている」(日本)の意見交換がされた。確かに認定までのプロセスでは情報収集や国連食糧農業機関(FAO)との連絡調整といった意味合いでは政府や自治体とった「官」が主導権を取らざるを得ない。認定後はむしろ農協やNPOといった民間団体などとの連携がうまくいかどうかがキーポイントとなる。討論会では「地域住民主体のサミット」(朴潤鎬氏)のアイデアも出されるなど、「民」を包含したGIAHSのガバナンス(主体的な運営)では韓国側の声が大きかった。

  討論会が終わり、中国の関係者が日本の参加者にささやいた。「中国のGIAHSでは、NGOが主体になるは無理ですよ」と。おそらく彼が言いたかったのはこうだ。中国では、国民も民間団体も「官」が描いたシナリオの上を進み走る。つまり、国家が領導するので、「民」が自らのパワーでGIAHSサイトを盛り上げるということはある意味で許されないのだろう。そうなると、GIAHSを保全・活用のために日中韓の国境を越えて、民間同士のアイデアや意見交換や活発な議論というのはどこまで可能なのだろうかとの論点が浮かんでくる。

  次の論点。永田明国連大学サスティナビリティと平和研究所コーディネーターは「日中韓3ヵ国が突出するとGIAHS全体の価値低下を招くことになりかねない。アフリカや欧米などへGIAHS参加の呼びかけなどバランスが必要だ」と述べたことだ。確かに今回の日中韓ワークショップは、モンスーンアジアの稲作など同じ農業文化を有する東アジアから世界に向けてGIAHSの意義を訴えることが主眼の一つだった。永田氏の発言は的を得ている。現在FAOが認定しているGIAHSサイトは世界に25ある。うち、中国8、日本5で東アジアの括りでは13となり、すでに過半数を占める。韓国が2つのサイトを申請しているので、認定されれば27のうち15となり突出する。世界各国がこの状況を見て、「GIAHSは東アジアに偏っている」と判断されてしまうと、GIAHS全体の価値低下につながるのはないかとの危惧である。日中韓が競ってサイト数を増やすのではなく、日中韓が連携してアフリカや中南米などに認定地の拡大を促すことが戦略的に不可欠となる。

  そうは言っても日本国内でも「国際評価」を得ることへの地域の熱望があることは、ユネスコの「世界遺産」の過熱ぶりを見ても分かる。中国と韓国ではすでに国レベルの「農業遺産」認定制度を設けている。国の認定を経て、次にFAOへの申請という段取りになる。ところが、日本にはその制度がなく、GIAHSへの熱望を持った地域が申請しようにも、「ローマへの道のり」(FAO本部の所在地)が分かりにくい。GIAHS認定までのプロセスを制度的にもっと分かりやすくする必要があるだろう。こうした日本の課題もまた見えてくるのである。

⇒1日(日)朝・金沢の天気     くもり
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