26日、北朝鮮の弾道ミサイルの飛来を想定した住民の避難訓練が、石川県内では初めて、輪島市で実施される見通しとなった。当日のニュースによると、県庁として、輪島市役所に訓練の実施を打診していて、市側が同日正式に受け入れの意向を示したことで、今後、具体的な時期や場所、規模などについて本格的な調整が進められるという。これまで日本海側の自治体を中心に秋田、山口、山形、新潟、福岡などの県で実施されている。来月には富山、長崎でも行われる予定だ。
報道によると、谷本知事は記者団に対し「これだけ毎週のようにミサイルが飛んでくるという事実があるから、どう対処するか考えなければいけない。 一度、訓練をしておいたほうがいいのではないか」と話したという。なぜ輪島市なのか。その理由について、県側は記者からの質問に対して、2007年3月の能登半島地震を経験した輪島市は住民避難の訓練をこれまで何度も実施しているとの説明だった。理由は果たしてこれか。
ことし3月6日に北朝鮮が「スカッドER」と推定された中距離弾道ミサイル弾道ミサイル4発を発射し、そのうちの1発は能登半島から北に200㌔㍍の海上に、3発は秋田県男鹿半島の西方の300-350㌔㍍の海上に、いずれも1000㌔㍍飛行して落下したと推測されると日本政府が発表している。ただ、能登半島沖の落下について発表したのは3日後の9日午前だった=写真=。このタイムラグについて、事実を政府が伏せていたのか、伏せていたのならそれはなぜか、以下憶測である。
能登半島の先端・輪島市の高洲山(567㍍)には航空自衛隊輪島分屯基地のレーダーサイトがある。このレーダーサイトには、航空警戒管制レーダーが配備され、日本海上空に侵入してくる航空機や弾道ミサイルを速く遠方でも発見するため24時間常時監視している。日本海は自衛隊の訓練空域でもっとも広く、「G空域」と呼ばれる。そのエリアに、しかも監視レーダーサイトの目と鼻の先に北朝鮮はスカッドERを撃ち込んだのだ。
では、能登半島沖の落下がなぜ3日間遅れで発表となったのだろうか。北朝鮮は日本側の航空警戒管制レーダーが弾道ミサイルの「射程内」であると強調する意味を込めて撃ち込んだのだろうが、政府は当初、防衛上あえてその情報を出さなかった。が、これでは北朝鮮側に日本のレーダーの監視機能の精度は高くないと誤解を与えることになりかねないと、政府内部で議論の末に公表することにした、と推測する。何を言いたいかというと、弾道ミサイルが日本側に向けられた場合、その標的の一つが高洲山の航空警戒管制レーダーであると政府が認識しているということだ。高洲山は輪島市の中心市街地の北東部に位置し、能登町とも近い。地域行政としては上記のことを察知していても、国防上のことなので表立っては言えないのだろう。住民の不安心理をかきたてることになるからだ。
28日、NHKニュースによると、政府は能登半島沖の排他的経済水域で北朝鮮などから来た漁船が違法操業を行っていることから、取締態勢を強化するため海上保安庁の巡視船を派遣する方向で調整に入った。とくに能登半島300㌔沖の排他的経済水域内の大和堆(やまとたい)は日本海側の有数の漁場でもある。これまでも水産庁が漁業取締船を出すなどして対応に当たってきたが、一部の漁船の乗組員が武装している恐れがあることから、海上保安庁の巡視船を派遣することになったようだ。
空から弾道ミサイルが狙い撃ちで飛んで来る。海には違法操業の漁船が武装してやってくる。しかも、能登半島から200㌔、300㌔先でのことだ。そう考えると、谷本知事の「兵糧攻めで北朝鮮国民を餓死させなければならない」発言(21日・県町長会)は自身の切迫感をついさらけ出してしまったのか。案外これが顛末ではないだろうか。
⇒29日(木)夜・金沢の天気 あめ
JF全漁連(全国漁業協同組合連合会)が同日、東京で緊急集会を開催。この中で、石川県漁業協同組合の笹原丈光組合長が参加者を代表して意見表明を行い、「先月29日にミサイルが落下した日本海の海域は石川県のイカ釣り漁師が操業する漁場に近い。それでも生活のために漁に出ざるをえない」と不安を訴えた(NHK金沢ニュース)。このあと、全漁連の関係者らが農林水産省を訪れ、山本大臣に対し、▼漁業者の安全を確保するため、あらゆる手段を用いて弾道ミサイルの発射を阻止することや、▼万が一、被害が生じた場合は国が救済策をとることを要請した。これに対し、山本大臣は「北朝鮮のミサイルが日本の排他的経済水域内に落下すると、漁業者が萎縮して、漁業が停止しかねない」と述べ、政府全体で対処したいの考えを示した(同)。
23日朝、新聞紙面を開くと広告欄(5段)で「弾道ミサイルが日本に落下する可能性がある場合、Jアラートを通じて屋外スピーカーなどから国民保護サイレンと緊急情報が流れます」と背景が黄色の目立つ広告が目に入った。政府広報で「弾道ミサイルが日本に落下…」という文字がいろいろ想像を掻き立てる。テレビでもCM(30秒)が流れている。普通に考えれば、その緊急性が迫っているとも受け取れる。政府は予めアメリカなどから情報を得て、「6月下旬が危ない」と。しかし、露骨に情報開示をすると、国民がパニック状態に陥る。そこで、政府広報でワンクッション置くカタチで国民に周知をしている。でなければ、税金を使ってこのような大々的な政府広報を打つだろうか。まったく勝手な想像だが。
谷本知事が22日の県議会一般質問で、自らが発した発言「兵糧攻めで北朝鮮国民を餓死させなければならない」(21日・県町長会)を撤回した。23日、在日本朝鮮人総連(朝鮮総連)の石川、福井、富山の3県本部の役員が石川県庁を訪れ、知事あてに抗議文を提出し、謝罪を求めた。抗議文では「前代未聞の暴言であり、ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺や関東大震災時の朝鮮人大虐殺を彷彿とさせる」と記している(24日付・朝日新聞石川版)。
北朝鮮の弾道ミサイルをめぐる一連のニュースの流れをどう読むべきなのか。今回の知事発言はもともと一般の支持を得られるような内容ではない。一方でこのような報道もある。県庁にはメールや電話での意見が相次ぎ、23日午後4時時点で290件に上っている。「少し問題じゃないか」などと批判する意見がある一方、発言に賛同する声もあり、賛否は半々という(24日付・北陸中日新聞)。
この記事に、オックスフォード英語辞書が選んだ2016年の言葉「post-truth(ポスト真実)」を思い出した。この単語は、客観的事実よりも感情的な訴えかけの方が世論形成に大きく影響する状況を示す形容詞だ。ニュースは新聞、テレビだけでなく、インターネットなど多様化している。むしろ、若い世代の情報源はソーシャルメディアが多い。すると、これまでの新聞やテレビなど既存のメディアが提供する事実に対して不信感を高めることにもなるという現象が起きる。知事の発言内容より、「知事はそれだけ心配しているのだ」との同情が賛同への言葉となる。post-truthはメディアの曲がり角を表現する言葉でもある。
⇒25日(日)朝・金沢の天気 あめ
乳がんを発病し、闘病していた小林麻央さんが死去したこと報じられた。34歳で、夫は歌舞伎俳優・市川海老蔵さん。1男1女をもうけ、2014年に乳がんであることが分かり、療養を続けていた。ニュースに接して、その若さといい、いたましいと思う。
マスメディアは、闘病していた小林麻央さんのブログ「KOKORO.」(2016年9月開設)を紹介し、ほぼ毎日更新していたことや、亡くなる直前まで、病気に前向きに立ち向かう姿勢と周囲への感謝に満ちた内容をつづっていたことを取り上げている。そのメディアの報道に接するにつけ、大いなる違和感を感じる。問題は、34歳の若き命をなぜ医療は救えなかったのか、ということだ。メディアの論点がずれているのではないか、そう実感している。私自身、妻を乳がんで亡くした。彼女は55歳だった。だからなおさらそう思うのだ。
乳がんは女性で最も罹患者数が多い。国立がん研究センターの統計によると、10年生存率は、発見時点でステージ1は95.0%、ステージ2は86.2%。だが、ステージ3だと54.7%、ステージ4だと14.5%まで下がる。小林麻央さんはステージ4でのがん治療だった。乳がんの治療をしても、リンパ節や肺、脳への転移などより進行した状態で見つかる傾向がある。そして、いくら抗がん剤や分子標的治療薬を施して効かないタイプ(トリプル・ネガティブ)の乳がん)もある。
2014年2月に亡くなった妻はトリプル・ネガティブだった。2012年11月に乳がんの摘出手術をして、乳房の再建も施した。その時点で医師は「完璧です」と言った。しかし、翌年2013年9月に肺に陰が見つかり、胸腔鏡手術で患部を取り除いた。その後、脳にがん細胞が点在しているのが見つかり、ガンマナイフでの治療を施した。しかし、脳全体に腫瘍がはびこり、肝臓などの臓器に転移が見つかった。若いとがんの進行度が速いと医師から何度も聞かされた。彼女が亡くなる間際まで、日本の医療を信じていた。抗がん剤にしても「これが最先端のもの」と聞かされ、本人は生き延びたいとすがる思いで服用していた。彼女が亡くなって、医療って何だとふと思うようになった。55歳の命がなぜ救えないのか、と。
同じように小林麻央さん34歳の命がなぜ救えなかったのか。市川海老蔵さんも同じ思いではないだろうか。亡くなったことが当然のようにメディアは報じ、ブログが周囲に感動を与えたなどと美談に仕立てている。何度も言うが、世界に冠たる日本の医療でなぜ34歳の命を救えなかったのか、乳がん治療の限界はどこにあるのか、どうすれば転移を防げるのか。メディアが取り上げるべき論点は、34歳の女性の命を救えない医療の現実を直視し、報道することだ。医療を批判することではもちろんない。
⇒24日(土)朝・金沢の天気 くもり
22日午前10時から始まった石川県議会一般質問の午前の部が終わり休憩に入る。谷本正憲知事は知事室に向かう途中、議会庁舎と行政庁舎との連絡通路で報道陣に囲まれ、ぶら下がり取材に応じた。11時35分だった。
「兵糧攻めで北朝鮮国民を餓死させなければならない」(21日・県町長会で発言)の真意について記者から説明を求められ、知事は「県民の命を預かる立場からすると経済制裁を実効性があるものにしないといけない。ミサイル発射を止めることが大事だという趣旨だった」と述べた。さらに、別の記者から「発言を撤回するのか」と尋ねられ、知事は「撤回が要るなら撤回する」「過激派な発言は反省しなければならない」と述べた(23日付・新聞各社)。
午後0時4分、知事室に戻り、再び本会議場に知事が入ったのは同0時52分。
午後1時、県議会一般質問が再開され、発言に立った共産党の議員が「経済制裁の強化は必要だがその目的は対話ではないのか」「問題に向き合う姿勢においても、表現の面としても適切さを欠いたもの」などと発言の撤回を求めた。知事は「発言そのものが過激だったのは否めず、人命無視と受け止められかねないので撤回したい」と述べ、「漁業者から安心して操業できる環境をつくってほしいという悲痛な叫びが届いており、あの発言をした」と釈明した。また、自民党の議員からは「北朝鮮には拉致被害者や日本人妻など同胞も多くいる。発言には配慮を」と忠告する発言もあった(23日付・新聞各社)。
午後4時5分、議会庁舎と行政庁舎との連絡通路で再び報道陣に囲まれ、知事は「ありがたい。忠告をしっかり受け止める」と述べた(22日付・北陸中日新聞)。
22日午後4時までに、県公報広聴室には知事の「餓死」発言について150件の電話やメールが寄せられた。賛否いずれの意見もあるという(22日付・北國新聞)。きょう23日は在日朝鮮人総連合会(朝鮮総連)北陸3県の本部が知事に抗議文を渡す(22日付・北陸中日新聞)。
谷本知事の座右の銘は「衆人皆師(しゅうじんかいし)」と聞く。自己中心的にならず、人々の声に謙虚に耳を傾けるという意味と解釈すればよいのか。
⇒23日(金)朝・金沢の天気 はれ
上記の発言の前後を精査する。知事のこの発言は、参加者から「北陸電力志賀原発(能登半島の志賀町にある)がミサイルで狙われたら」との質問に答えたもの。発言後に、「挑発行動が止らない現状は国際社会の対話のによる圧力が限界に来ている、効果的でない」と指摘した上で、「北朝鮮の国民には申し訳ないが、生活に困窮するくらいの経済制裁で『今のリーダーではもうダメだ』と考えてもらう必要がある」と述べた(北陸中日新聞)。
県町長会の会合の後、午後3時45分、県庁で報道陣から「餓死」発言の真意を問われた知事は「北朝鮮にはとんでもないリーダーがいる。北朝鮮国民を生活困窮に追いやれば内部から崩壊する。国民が痛みを感じる制裁を加えないといけない」と説明した。「過激な言葉にならざるを得ない」と述べ、「餓死」発言を撤回することはしなかった。それどころか、知事はミサイル対応訓練を挙げて、「われわれは避難訓練までしなければならない。これ自体、おかしな話。北朝鮮のやり方は暴挙をはるかに超えている」とむしろ非難の語気を強めたのだ。
北朝鮮がことし3月6日に同時発射した弾道ミサイル4発のうち1発は能登半島から北に200㌔㍍の日本海上に、3発は秋田県男鹿半島の西方300-350㌔㍍に落下している(政府発表)。日本海と接する地域では北の脅威は現実になっており、知事発言に共感する部分もある。ただ、発言内容を吟味すると矛盾点がある。
北朝鮮を兵糧攻めにする手段を日本が握っているわけではない。つまり、実行不可能なことを知事は発言しているのだ。「国民を餓死」という発言も人道上で問題がある。逆に北朝鮮はあと200㌔、ミサイルの距離を延ばせば能登半島に届く。実行可能なのだ。今回の知事発言を逆手にとって、北のリーダーが「わが人民を愚弄した。許せん」と能登半島に向けて発射ボタンを押さないか、むしろその方が不安である。
⇒22日(木)朝・金沢の天気 くもり
北朝鮮の弾道ミサイルを想定した訓練は日本海側の自治体を中心に実施されている。秋田、山口、山形、新潟、福岡などの県で。来月には富山、長崎でも行われる。国が全国の都道府県に訓練の実施を要請しているとの背景もある。
さらに、きょうのネットニュースで、北朝鮮情勢の緊迫化を踏まえ、国が弾道ミサイルが発射された際の避難方法を紹介する初めてのテレビCMを23日から放映するという(読売新聞ホームページ)。CMは30秒間で、7月6日までの2週間、東京の民放5局で放送される。CMの内容は、冒頭でミサイルが日本に落下する恐れがある場合に全国瞬時警報システム「Jアラート」で緊急情報が流れることを説明し、頑丈な建物や地下に避難する、建物がない場合は物陰に身を隠すか地面に伏せて頭を守る、屋内の場合は窓から離れるか窓のない部屋に移動する-3種類の避難行動をイラストとナレーションで紹介するという。内容的には県議会の説明とまったく同じだ。
この時期になぜ国が突飛にテレビCMを流すのかという疑問がわく。素直に解釈すれば、国は非常事態(北朝鮮への斬首作戦の実行など)の情報を事前にアメリカ側から入手して、それに備えているのか、とも受け取れる。うがった見方をすれば、「共謀罪」「加計学園問題」などで内閣支持率が下がっている昨今で、北朝鮮の危機感を国民に示すことで世論を引き締めたいのか、とも読める。いずれにしても、日本海側に住む一人として心が穏やかではない。
⇒21日(水)夜・金沢の天気 あめ
「全身全霊」という言葉を両紙ともに見出しに使っている。前後の記事の文脈を読むと、記者から、生前退位特例法(今月9日成立)について感想を求められたが、皇太子は「皇室の制度面の事項について、私が言及することは控えたい」とコメントを避けた。続いて記者から象徴天皇の役割を引き継ぐことについて尋ねられ、「陛下はお仕事の一つ一つを心から大切にしてきた。そうした陛下のお気持ちを十分に踏まえ、これまで陛下より引き継いだ公務も含め、それぞれの務めに全身全霊で取り組んでいきたい」と答えられた。
会見で皇太子は「全身全霊」という言葉について、昨年8月の陛下の生前退位の願いを込めたお言葉の中で使っていて、「とても心が揺さぶられた」と述べていて、今回はご自身の言葉としても使われ、陛下の思いを継承する決意を示したようだ。
では、陛下は昨年8月8日のお言葉で「全身全霊」をどのように述べたのだろうか。「既に八十を越え、幸いに健康であるとは申せ、次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」
全身全霊という言葉は一般的に「身も心も捧げる」といった意味で使うが、皇室ではもう一段踏み込んだ意味があるのではないかと推測している。そう思う根拠は、陛下の以下のお言葉から察する。「更にこれまでの皇室のしきたりとして、天皇の終焉に当たっては、重い殯(もがり)の行事が連日ほぼ2ヶ月にわたって続き、その後喪儀に関連する行事が、1年間続きます」。「重い」と表現された「殯の行事」は、一般の葬儀とは違って、ご遺体と共にする「お通夜」が2ヵ月にわたって続く。つまり、ご遺体の腐敗が進むまで儀礼を続けることになる。
こうした死者の弔い方は東南アジアで一部今でも残っている。ユネスコの世界文化遺産にも登録され、棚田で有名なフィリピンのイフガオを訪れたおり、聞いた話だ。死者を布でくるんで白骨化するまで自宅に置く。家族は死者を身近に置くことで、亡き人をしのぶ。日ごとに悲しみにと同時に死者への畏敬の念が沸いているのだという。その後、家族で洗骨の儀式を営み、埋葬する。こうした死者の弔い方は古代からの農耕文化の名残なのだろうか。
話を戻す。昭和天皇の「殯の行事」は皇太子も体験されていることだろう。天皇を継承するということはこうした「重い」儀式を経て受けつがれるのだと察する。天皇が発した「全身全霊」という言葉に皇太子が反応して記者会見でも発しということは、この言葉は一般で考える以上に皇室ではよりスピリチュアルな響きがあるのではないだろうか。
⇒14日(水)朝・金沢の天気 はれ
韓国軍が分析しているように、これが地対艦ミサイルということになれば、地上から敵艦艇を攻撃するミサイル、つまり、沿岸防衛が目的で、上陸作戦や海峡から陸上に近づく敵艦艇を攻撃するものだ。目標設定は定かではない。ただ、日本海で原子力空母「カール・ビンソン」と「ロナルド・レーガン」の2隻が今月1日から3日までの日本の自衛隊と共同訓練を行った。これを想定しての北朝鮮の発射だったのか。しかし、報道によると訓練を終えた2隻の空母は日本海をすで離れた。ロナルド・レーガンは沖縄東方の海域で海上自衛隊との訓練を続けている。
北朝鮮はすでに去ってしまったアメリカの原子力空母に向けて、デモンストレーションとして発射したのだろうか。先月、3種類の新型弾道ミサイルの発射実験を相次いで実施し、ミサイル開発を加速させる姿勢を示していた。これに対し、今月2日に採択された国連の安全保障理事会の新たな制裁決議では、弾道ミサイルの関連団体・個人が制裁対象に加えられていている。北朝鮮は今回の発射で、こうした制裁圧力に屈しない姿勢を改めて示したとでもいうのだろうか。それにしてもタイミングにずれている。あるいは、あえてタイミングをはずしたのだろうか。(※写真はアメリカ海軍のホームページより。6月1日の日米の共同訓練の模様)
⇒8日(木)朝・金沢の天気 あめ
一行が到着した3日午前中、国連安保理で北朝鮮に対する経済制裁を拡大する決議が全会一致で採択されたことを受けて、JR金沢駅で臨時の記者会見が設定された。以下、外務省のホームページから抜粋する。岸田大臣は今回の安保理の制裁決議をこう評価した。「今回の決議については、資産凍結、あるいは入国・入域の禁止、こうした対象を追加する、こうした内容のものです。国連安保理において、中国、ロシアをはじめ安保理の理事国全員で一致をし採択をした、このことの意味は大きい。国際社会が一致して、北朝鮮に対して強い内容を含む決議を採択することによって意思を示ししたという意味で重要であると認識をします」と。
4日午前中、金沢大学十全講堂(金沢市宝町)で「北陸・石川県の魅力を世界に発信」と題してシンポジウムが開催され、その後に記者会見が開かれた。ここで地元の記者からリアリティのある質問が飛ぶ。
「【記者】 北朝鮮のことについてなんですが、今回,宇出津事件から40年ということで言及もありましたが、今なお石川県では漁師の方がEEZの近くで操業されるとかということもあって、北朝鮮の脅威にさらされる土地柄でもあるんですが、こちらについての対応といいますか、対策、思いということをお聞かせいただけますでしょうか。」
「【岸田外務大臣】 まず、石川県と拉致問題との関係で申し上げるならば、講演の中でも申し上げさせていただきましたが、久米裕さん当時52歳でいらっしゃいましたが、昭和52年(1977)9月19日に石川県宇出津(うしつ)海岸付近において北朝鮮の工作員によって拉致されました。政府としては北朝鮮に対し、久米さんの一刻も早い帰国、これを強く求めてきましたが、北朝鮮はこれまで久米さんの入境、要は、北朝鮮の国内に入ったということを認めていない。これが現状であります。捜査当局は、平成15年1月、主犯格である北朝鮮工作員・金世鎬(キム・セホ)の国際手配を行っており、政府としては、北朝鮮に対して、この同人の身柄の引渡しを求めているところです。久米さんの拉致から40年経ちました。これは一刻の猶予も許されない問題であると認識をしています。政府としては、対話と圧力、行動対行動の原則の下に、ストックホルム合意の履行を求めながら、久米さんを含む全ての拉致被害者の一日も早い帰国、これを実現するべく、全力で取り組んでいかなければならない。国の責任でそれを実現しなければならない。こういったことを強く感じています。」
北朝鮮による久米裕さんの拉致は「拉致1号事件」とも呼ばれる。拉致問題が外交の最重要課題であり、シンポジウムの講演で、岸田大臣は当地と関連ある拉致1号事件にあえて触れたのだろう。記者会見での返答ぶりや自らが各国の大使クラスを連れて地域を訪問する様子はこれまでの外務大臣の印象と明らかに異なる。「地方重視の外務大臣」と評価してよいのではないか。(※写真・上は金沢市内の金箔メーカで、写真・下は外務省主催のシンポジウムで講演する岸田大臣。外務省ホームページより)
⇒5日(月)午後・金沢の天気 はれ
日本海側に住む身として気になったニュースは、今月1日、海上自衛隊の護衛艦2隻と航空自衛隊のF15戦闘機部隊が、アメリカ海軍の「カールビンソン」と「ロナルド・レーガン」の2隻の空母艦隊と日本海で共同訓練を実施したことだ(防衛省発表)。航空自衛隊小松基地からはF15戦闘機6機が参加し、アメリカの空母艦載機FA18戦闘攻撃機と模擬の空中戦を展開した。海上自衛隊の護衛艦「ひゅうが」と「あしがら」はアメリカ側の艦艇と通信訓練を実施した。護衛艦は3日まで、小松基地の戦闘機部隊は2日まで共同訓練を実施した。
防衛省ホームページには、今月2日行われたの防衛大臣の記者会見の概要が掲載されている。記者との質疑でこのような下りがある。「Q:空母と自衛隊の共同訓練について、北朝鮮に対する圧力につながるとお考えでしょうか。」と記者が問いかけた。これに対し防衛大臣は次のように返答している。「A:今回の訓練の目的自体は自衛隊の戦術技量の向上と米軍との連携強化を図ることが目的であります。そして、今回こうした形で共同訓練を行うことは、わが国の安全保障環境が厳しさを増している中で、効果として日米同盟全体の抑止力・対処力を強化して、地域の安定化に向けたわが国の意思と高い能力を示すものであるというふうに考えているところでございます」と。
つまり、北朝鮮への圧力ではない。あくまでも自衛隊の戦術技量の向上とアメリカ軍との連携強化である、と。なんとも煮え切らない防衛大臣の答えではないだろうか。誰が考えても、朝鮮半島の東側の日本海で海と空の共同訓練を実施すれば、それは「北に対する圧力」以外の何ものでもない。
現に、アメリカのマティス国防長官は3日、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)でリアリティのある演説をしている。以下、朝日新聞の記事引用。マティス氏は、北朝鮮が核・ミサイル開発を急ピッチで進めていることについて「最も危険で差し迫った脅威」と危機感を示し、日本や韓国などの同盟国に加え、中国とも協力し、「北朝鮮が核・ミサイル計画を放棄するまで、外交的、経済的な圧力を高めていく」と述べた。その上で、アメリカは北朝鮮問題や台頭する中国の脅威に対応するため、アメリカ海軍の艦艇の60%、陸軍の55%、艦隊海兵部隊の3分の2をアジア・太平洋地域に重点的に配備していることも明らかにした。
マティス国防長官の上記の発言を読んだだけでも、今回の日本海での共同訓練は実践的な軍事訓練、つまり「圧力」である。さらに、兵力の注ぎ方にも驚く。アメリカ・ワシントン州の海軍基地を今月1日に出港した原子力空母「ニミッツ」が日本海で合流することになれば空母3隻目となる。「アメリカ海軍の艦艇の60%」をアジア・太平洋地域に重点的に注ぐとはこのことかと実感として伝わってくる。先月30日、アメリカ国防総省は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の迎撃実験を初めて実施し、成功したと発表した。北のミサイル攻撃への対応を整えたということだろう。日々拡大する日本周辺での「軍事拠点化」である。とくに日本海側に住む我々にとって、ただごとではない。いま状況は「嵐の前の静けさ」か。
⇒4日(日)午後・金沢の天気 はれ