自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆「もてなし」と「美の結晶」 金沢駅とドームに見るゲートウェイのコンセプト

2025年02月22日 | ⇒ドキュメント回廊

  けさの最低気温はマイナス3度、そして予想最高気温は3度となっている。「最強・最長の寒波」第二陣のピークがやってきた。気象庁は石川県に「顕著な大雪に関する気象情報」を発した。能登南部の宝達志水町では6時間で28㌢の降雪が観測され、交通も一部でマヒ状態だ。金沢と能登を結ぶ自動車専用道路「のと里山海道」はきょう午前8時から一部区間(徳田大津-穴水IC、27㌔)で通行止めとなった。この区間は去年元日の能登半島地震で道路側面のがけ崩れや道路の「盛り土」部分の崩落などが起き、全線で対面通行が可能になったのは9月だった。ただ、道路は蛇行や凹凸の状態が続いていて、除雪車が入っての作業は大変だろう。

  前回ブログの続き。JR金沢駅前から降雪の風景を眺めてアートな気分になったと述べた。今度は駅をバックに「もてなしドーム」を眺めてみた=写真・上=。ドームには3019枚の強化ガラスで造られている、とある(パンフレットより)。よく見るとガラスの上に雪が積もっている。雪の重みでドームは大丈夫かと心配になる。何しろ金沢の雪は湿気を含んでいて重い。金沢市役所の公式サイトには、強化ガラスは180㌢の積雪に耐える強度をもっている、とあるが。

  もてなしドームと鼓門はセットになっていて、金沢市が駅東口を整備した。完成したのは2005年3月。市は「金沢のゲートウェイ(正面玄関)」を造ろうと、170億円を投資した。その10年後の2015年3月に北陸新幹線の金沢開業が始まった。それまで市民の間では金沢駅は交通の要所ではあったものの辺鄙(へんぴ)な建物のイメージがあった。それが、金沢市の先行投資に刺激されたのだろうか、新幹線開業を前に普通の新幹線駅では見られないようなアッと驚くような駅にリニューアルされた。コンコースを歩けば美術作品が楽しめるのだ。

  コンコースの中にある1224本の門型柱にそれぞれ工芸プレートがあり、石川県の伝統工芸である輪島塗、山中塗、金沢漆器、九谷焼、珠洲焼、木工芸、加賀象嵌などの作品が柱ごとに収まっている=写真・中、九谷焼作家の三代浅蔵五十吉氏の作品=。また、コンコース1階に陶板がある。陶板は、金沢で江戸時代初期より360年の伝統をもつ大樋焼の陶芸家、十代大樋長左衛門氏の作品『日月の煌き』=写真・下=。作品には、月の満ち欠けや太陽が描かれ、時の流れと金沢の春夏秋冬を感じさせる。こうした陶板や門型柱24本の作品を見て回ると、さながら「エキナカ美術館」の雰囲気だ。

  話はもてなしドームに戻る。広さは1万9400平方㍍(東京ドームの半分足らず)あり、ドームのサイドにバスターミナル、タクシー乗降場などが連なる。雨や雪の多い金沢なので、「駅を降りた人に傘を差し出す、もてなしの心」を表現したドームのようだ。最後に冒頭の大雪の話に戻るが、これ以上雪が降らないことを祈る。ドームの積雪が180㌢を超えないことを。

⇒22日(土)夜・金沢の天気     ゆき

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★見慣れた雪景色を「なんでもアート」目線で眺めてみる まったく別の景色

2025年02月21日 | ⇒ドキュメント回廊

  週末の三連休はさらに雪が積もるようだ。きょうも断続的に降雪が降っていて、自宅周辺では積雪30㌢ほどになっている。庭を眺めると別世界をイメージする。雪を被ったムクゲの木などがまるではしゃいでいるようにも見えるのだ。普段ならばそれぞれに季節の花を咲かせ、悠々としている風景だが、冬の別世界で白い衣を着て木々がじゃれあっているようにも見える=写真・上=。アートっぽい感じがして面白い。

  きのう午後、JR金沢駅周辺に用事があって出かけた。吹雪いていて、あの鼓門(つづみもん)がぼんやりとかすんで見えた=写真・中=。鼓のカタチをした、高さ14㍍ほどの2本の太い柱に支えられた門構えは圧巻である。金沢駅での待ち合わせ場所と言えば鼓門で定着している。ここで記念撮影は見慣れた光景でもある。それが、吹雪のせいか人影はまばらだった。雪を珍しそうに眺め、鼓門をバックに撮影するインバウンド観光の人たちもいるにはいた。それにしても、雪でかすむ鼓門を眺めていると、長谷川等伯の松林図屏風(国宝)のような風景イメージが沸いてくる。

  ふと鼓門の下を見ると、まるで参道のようにまっすぐに除雪がしてあった。さすが、金沢駅のまさに山門のような鼓門なので係員が雪すかしをしたのだろうと思っていたが、パンフレットをチェックすると、「無散水融雪装置」と書かれてあって、水をまく融雪ではなく、道路にあたる地面の下に温かな地下水をくみあげる放熱管が敷いてあり、道路の上の雪が溶ける仕組みとなっている。初めて知った。

  鼓門前の同じ地点から市街地側に身を向けると、これもアートのような冬景色が広がる。駅前の高層ビル(ホテル)と雪吊りの松が競うような光景だ=写真・下=。松の木は五葉松だろうか。ほかの季節ならば気にもならないビルと松の木だが、雪吊りが施された松の木はその形状からまるで天に向かってようにも見える。それが妙に高層ビルを意識しているような存在感を漂わせる。

  上記のような自己流の見つめ方は「なんでもアート」だと思ったいる。足しげく通った奥能登国際芸術祭(珠洲市主催・2017年、2021年、2023年開催)に影響されているのかもしれない。身近なテーマや日常の風景にさらにイメージの加飾を施すことで、アート作品のように見えてくる。やっかいな大雪でも、アートとして眺めるとそれはそれで楽しくもある。

⇒21日(金)夜・金沢の天気    ゆき

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☆再び最強・最長の寒波 車のスタック防ぐため予防的に通行止めも

2025年02月17日 | ⇒ドキュメント回廊

  けさから風が吹き荒れている。最強・最長の寒波が再びやってきた。ウェザーニュースWeb版(17日付)によると、きょうから冬型の気圧配置が強まり、19日にかけて強い寒気が流れ込む。寒気の影響は長く続く見込みで、日本海側では三連休にかけて断続的に雪が強まる。寒波による大雪に警戒を呼びかけていて、北陸や東北の平地では20日夜までで内陸の地域では100㌢以上の雪が降り、山沿いの多いところでは150㌢以上の積雪の増加が見込まれている。

  国交省北陸地方整備局と新潟地方気象台、高速道路会社「NEXCO東日本」はきのう16日午後、共同会見を開いた。気象台の説明では、今回の寒気は今月4日から北陸地方に大雪をもたらしたこの冬一番の寒気と同じ程度の強さで、23日までの1週間ほど居座る見込みという。 17日夕方からの24時間に降ると予想される雪の量は新潟の山沿いで最大70㌢で、その後も雪が続く見通し。北陸地方整備局とNEXCO東日本は、大雪の際には道路を通行止めにする可能性もあるとして、最新の情報に留意し不要不急の外出を避けるよう呼びかけた。また、金沢地方気象台は大雪による交通障害や高波、着雪、雪崩、落雷、竜巻の突風などに注意を呼びかけている。

  国交省金沢河川国道事務所と中日本高速道路は、雪の降り方によっては車の立往生を防ぐために予防的に通行止めを行う可能性があると発表している。通行止めの可能性があるのは、石川県内の「のと里山海道」の徳田大津インターチェンジと穴水インターチェンジの間、国道8号の加賀市の熊坂交差点から福井県にかけての3.4㌔の区間、北陸自動車道の県内すべての区間など。通行止めを実施する可能性が高まった場合、1日前に呼びかけを始め、3時間前には通行止めを実施する時間帯や具体的な区間を決めるとしている。(※写真は、能登半島の積雪の道路側溝にはまり動けなくなった大型トラック=今月7日撮影)  

  石川県は災害対策本部連絡員等会議を開き、被害発生時の連絡体制を確認。水道管の凍結防止対策なども呼びかけた。去年元旦の地震では輪島市の朝市通り周辺の240棟が焼損した。このとき、水道管の凍結が原因で消火栓が断水状態となり、火災が広がったとされている。

  再びやってきた最強・最長の寒波でこれから1週間は緊張が続く。

⇒17日(月)夜・金沢の天気     ゆき

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★政府が備蓄米21万㌧放出へ コメの小売価格が半年前より7割アップ

2025年02月14日 | ⇒ドキュメント回廊

  このところ近所のスーパーで地元産のコシヒカリが高騰している。きょうの価格は5㌔袋で3780円(税抜き)だった=写真・上=。米価について去年8月25日付のブログでも述べているが、そのとき同じスーパーで購入した新米は10㌔袋で4580円(税抜き)だった。5㌔で換算すると2290円なので、1490円高くなり、率にして7割近くのアップだ。コメの小売り価格の高騰は金沢市だけでなく全国に広がっているようだ。  

  そんな中、江藤農林水産大臣はきょう午前の記者会見で、米価の価格高騰に対応するため、政府備蓄米の放出について発表した(メディア各社の報道)。それによると、大手の集荷業者を対象に販売数量は21万㌧と定める。初回は3月上旬にまず15万㌧の入札を開始し、3月半ばには落札した集荷業者への引き渡しを始める。実際に備蓄米が店頭に並び始めるのは3月下旬から4月ごろになると見込んでいる。残り6万㌧に関しては今後の状況をみて判断していくとしている。江藤大臣は備蓄米の放出について、「この状況をなんとしても改善したいという強い決意の数字だ」「必要があればさらに数量を拡大することも考える」と述べていた。

  そもそも、なぜコメの小売価格が高騰しているのか。去年、コメの小売価格が高騰したのは、2023年産米の収穫量が前年比1.4%減の661万㌧と過去最少となったことが原因だった。猛暑のため、イネの吸水が蒸散に追いつかずに枯れてしまう「高温障害」が各地で発生。この障害で白濁したコメが大量に出て、コメどころ新潟県などで深刻な被害が出た。去年夏、金沢のスーパーでも一時品切れ状態が続いた=写真・下、2024年8月20日撮影=。秋に新米の季節となりようやく落ち着いた。では、去年秋に収穫されたコメはどうだったのか。農水省の公式サイト(12月10日付「令和6年産水陸稲の収穫量」)によると、2024年産米の収穫量は前年比2.7%増の679万2000㌧で、収量が増加に転じるのは2018年産以来6年ぶりと発表していた。それなのになぜ価格高騰が続いているのか。

  流通の在り方を問う見方が出ている。2024年産米を巡っては、JAなど既存のメインの流通業者に加え、中小業者や外食チェーンなど新興勢力も買い付け競争に参加した。買い付け業者の増加で在庫が分散したり、一部の業者が在庫を抱え込んだりした結果、JAなどを通じた主要なルートに流れるコメの量は前年比21万㌧減った(14日付・日経新聞Web版)。農水省が今回用意する備蓄米21万㌧は、この主要ルートで減った分を根拠に放出するようだ。

  また、1月下旬に農水省で開かれた有識者会議では、出席者の一人から「スーパーがコメの販売抑制目的で値上げに踏み切っている」といった指摘が出ていた。卸からの供給が減るなか、店頭から商品が消える事態を避けるため、売価を上げることで販売数量をコントロールしているという(同)。流通サイドにいかるな理由があったとしても、消費者へのしわ寄せは止めてもらいたいものだ。

⇒14日(金)夕・金沢の天気    くもり時々はれ

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★転出超過が大幅アップ 能登半島地震で県外へ移住増えたのか

2025年02月12日 | ⇒ドキュメント回廊

  最強寒波は一服状態となった。金沢では夕方から小雨が降っていて、気温も10度ほどになった。しばらくこの状態が続きそうで、晴れで最高気温が12度との予報もある。ただ、それもつかの間。気象庁は北陸地方に「低温と大雪に関する早期天候情報(北陸地方)」を発表している。17日からは冬型の気圧配置が強まり、降雪量もかなり多くなるとの予報。 この早期天気情報は、10年に1度程度しか起きないような著しい低温や降雪量となる可能性が高まっている時に出される注意喚起の情報だ。最強寒波が再びやってくる。    

  震度7の地震、記録的な大雨、そして今月4日から北陸に吹き荒れた最強・最長の寒波。 3災の能登半島を3日間(今月6-8日)かけてめぐった。最終日、金沢に戻ると面白いが景色があった。金沢大学角間キャンパス近くの山側環状道路を車で走ると、中央分離帯に「雪団子」が並んでいる。一つや二つではない。串に刺した団子状態でしばらく続いていた。雪国ならではの景色だ。(※写真は、金沢市もりの里の外側環状道路。中央分離帯の植え込みに雪が積もって団子のように=8日正午すぎ撮影)

  話は変わる。総務省がまとめた令和6年(2024)の人口移動報告(ことし1月31日公表)によると、去年1年間で石川県からほかの都道府県に転出した人は2万2247人だったとの統計が出ている。前の年に比べて1271人、率にして6%増えたことになる。転出者を年代別にみると、20代が1万349人と全体の4割以上を占め、次いで30代が3942人で、20代と30代で6割以上を占めた。県内に転入した人は前の年より444人少ない1万8071人で、転出から転入を差し引くと、4176人の転出超過となる。2023年の転出超過は2461人、2022年は2360人だったので、2024年は転出超過が大幅に増えたことになる。

  転出超過には能登半島地震が関連している可能性がある。石川県外の公営住宅に暮らしている被災者255世帯を対象に、石川県庁が電話で意向調査(12月9-27日)を行った。回答があった176世帯の集計で44%に当たる78世帯が「石川県には戻らない」と答えた。その理由は「安定した仕事を見つけた」などの回答が多かった。一方で、21%に当たる37世帯が「戻りたいが課題がある」と答えた。その中では、公費解体や修繕など「住まい」の問題を挙げる世帯が多かった。震災で自宅に戻れなくなり、県外に転出した20代、30代の世代が就職や子育てのためにそのまま移住するケースが増えているのではないだろうか。

⇒12日(水)夜・金沢の天気     あめ

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☆震度7・記録的大雨・最強寒波 3災の能登冬路をめぐる~5~

2025年02月11日 | ⇒ドキュメント回廊

  震度7の地震、記録的な大雨、そして今月4日から北陸に吹き荒れている最強・最長の寒波。 3災の能登半島を3日間(今月6-8日)かけてめぐり、「あれはどうなったのか」と気になっていた場所に行った。NHK大河ドラマ『利家とまつ』(2002年放送)で話題を呼んだ、加賀百万石の礎を築いた前田利家の正室まつの遺灰がまつられている菩提寺「芳春院」。寺がある輪島市門前町は震度7の強烈な揺れに見舞われ、多くの建物が倒壊し、芳春院も全壊した。

     「利家とまつ」ゆかりの寺院 再建は緒に就くのか

  震災後に何度かこの地を訪ねたが、倒壊現場はまったく手が付けられていなかった。今回行くとすっかり片付いていた。当初、宗教法人に対しては公費解体が適用されないのかと思っていたが、宗教法人が所有する建物も全壊および半壊の建物は災害廃棄物として公費解体の対象だった(2024年1月・環境省「公費解体・撤去マニュアル第1版」)。そして、能登半島地震は「特定非常災害」に指定されたので、神社や仏閣などの場合でも自治体が発行する被災証明書があれば、法人が解体しても、その費用は補助の対象となる。そうした情報は震災後の混乱の中で交錯したのだろう。芳春院が、野ざらしとなっていた釈迦三尊や達磨大師などの本尊を救い出したのは5月、公費解体を終えたのは10月だった。(※写真・上は、公費解体を終えた現在の芳春院と、解体を待つ芳春院=去年7月6日撮影)

  公費解体は終えたが、この先さらに難問がある。再建への道筋だ。門前地区では住民の大半が仮設住宅で暮らしていて、自宅の再建もままならない状態という。そのような中で檀家を集めて、寺院の再建計画はスムーズに進むだろうか。芳春院に隣接する曹洞宗の大本山・総持寺祖院は山門(国文化財)=写真・下=などは無事だったものの、33㍍の廊下「禅悦廊」(同)が崩れ、一部はブルーシートで覆われていた。

  芳春院や総持寺だけではない。能登では寺社が相当に傷んでいる。能登で一番多い寺院は浄土真宗で、真宗大谷派東本願寺のまとめ(去年6月19日時点)によると、能登地域にある寺院353ヵ寺のうち、被害があったのは331ヵ寺で、そのうち本堂の倒壊など大規模被害は72ヵ寺、庫裏は69ヵ寺に上る。これに他宗派の寺院や神社も加えると相当な数に及ぶだろう。

  能登の寺院や神社は地域コミュニティーの中心の一つでもある。寺で毎月28日に「お講」が開かれる。浄土真宗の宗祖とされる親鸞上人の月命日にあたり、地域の年寄り衆や子どもたちが集い、お経の後に山菜や海藻の精進料理が供される。人々は会話を交わし、情報交換の場ともなっている。その寺でのコミュニティーが地震で今も絶たれた状態になっている。また、奥能登の伝統的なキリコ祭りは地域の神社が拠点となって、キリコや神輿が街中を練り歩く。震災で神社が損傷し、祭りを断念した地域も多い。
  
  石川県は国の支援を受けて設置した「復興基金」(総額540億円)の配分について県内19市町と協議を重ね、被災者の暮らしやコミュニティー施設の再建など27の事業を盛り込んだ活用方針を決定している。今月5日の会議では新年度に基金から80億円の拠出を決めている。伝統の祭りなど通じて地域のコミュニティー施設の役割を果たしてきた神社や仏閣の再建には最大1200万円を補助するとしている。寺社の再建はようやく緒に就くのか。
 
⇒11日(火)夜・金沢の天気     くもり時々はれ  
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★震度7・記録的大雨・最強寒波 3災の能登冬路をめぐる~4~

2025年02月10日 | ⇒ドキュメント回廊

  寒波襲来からきょうで1週間となる。能登の七尾市では43㌢、金沢で27㌢、加賀市で78㌢の積雪(午前11時現在)となっている。地元メディアの報道によると、雪による事故も相次いでいる。加賀市では除雪中に自宅脇の側溝に転落して70代男性が死亡、金沢市でも除雪中や歩行中での転倒で負傷する事故が起きている。また、金沢と能登を結ぶ自動車専用道「のと里山海道」ではけさ雪によるスリップで車が横転し、一部区間で3時間、通行止めとなった。金沢地方気象台の予報によると、冬型の気圧配置は徐々に緩むものの雪はあす11日にかけて続く見込みのようだ。

     まるでスキーのジャンプ台・・能登島大橋の雪景色

  去年元日の震度7の地震、48時間で498㍉という9月の記録的な大雨、そして今月4日から北陸に吹き荒れている最強・最長の寒波。 「3災」ともいえる能登半島を3日間(今月6-8日)かけてめぐり、これまで見たことのない光景を目にすることあった。半島の中ほどに位置する七尾市の能登島大橋。かつて島だった能登島を1982年に長さ1㌔、全線2車線の橋で結んだ。これまで能登島を何度も訪れているが、冬場は今回が初めて。積雪の大橋を走ると、まるでスキーのジャンプ台を滑っているような感覚になった=写真・上=。もちろん、スキーのように「滑降」はできなのでゆっくり運転で。

  能登島を結ぶもう一本の橋「ツインブリッジのと」(620㍍、中能登農道橋)は地震で橋桁が損傷し、さらに道路との間に40㌢ほどの段差ができ、現在も通行ができなくなっている。能登島には「のとじま水族館」や「ガラス美術館」などがあり、アクセスの上からもツインブリッジの復旧が待たれる。

  そして、「あれ、櫓(やぐら)に人が」と一瞬思ったのが、七尾市から北上した穴水町の海岸沿いで見た「ボラ待ち櫓(やぐら)」だった=写真・下=。穴水湾では櫓に漁師が上って、ボラなど魚群が湾に入って来るのを見つけて、「ボラが来た」と叫ぶと、周囲の人が集まって海に仕掛けた漁網を引き上げるという漁法があった。現在その漁法はないが、観光施設としてボラ待ち櫓が湾内に何ヵ所か設置されている。その一つに人影のようなものが見えて、「櫓に人が」と思った次第。

  ボラ待ち櫓が観光名所になったのも歴史的なエピソードがある。明治22年(1889)5月、東京に滞在していたアメリカの天文学者パーシバル・ローエル(1855-1916)が能登半島の地形とNOTOという地名の語感に惹(ひ)かれ、鉄道や人力車を乗り継いで当地にやってきた。そのときボラ待ち櫓に登り、「ここは、フランスの小説でも読んでおればいい場所」と、後に著した「NOTO: An Unexplored Corner of Japan」(1891)で記した。好奇心の固まりのようなローエルがその後、アメリカに帰国しアリゾナ州に天文台を創設し、火星の研究に没頭する。火星の表面に見える細線状のものは運河であり、火星には高等生物が存在すると唱えた。その後、アメリカでは地球外の生命体への関心度が高まり、SFブームが起こる。

  ローエル研究者の中には能登の海から火星の運河を着想したのではないかと、実際にボラ待ち櫓を見学に来たケースもあった。穴水町には「米国人天文学者 パーシバル・ローエル上陸の地」と刻まれた石碑が立っている。

⇒10日(月)夜・金沢の天気   ゆき

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☆震度7・記録的大雨・最強寒波 3災の能登冬路をめぐる~3~

2025年02月09日 | ⇒ドキュメント回廊

  最強寒波の影響で大雪となっている能登では、震災で全半壊した家屋の公費解体が一時ストップしていると前回ブログで述べた。では、公費解体そのものはどこまで進んでいるのだろうか。今月6日発表した石川県のまとめによると、去年元日の能登地震と9月の豪雨で被災した家屋のうち公費解体が見込まれる家屋は3万9235棟、そのうち1月末時点で1万7112棟で解体作業を終えていて、43.6%が完了したことなる。公費解体は持ち主の申請によるもので、申請数は1月末時点で3万6304棟に上る。半壊と判定されても修繕すれば住み続けられるも家屋もあり、県では解体を申請しても申し出があれば留保し取り消しもできるとしている。

    大雪にも威風堂々とした「九六」のたたずまい

  奥能登では大きくがっしりとした住家を建てる伝統がある。その大きな家は「九六(くろく)」と呼ばれる。間口9間(約16㍍)奥行き6間(約11㍍)の大きな家だ。黒瓦と白壁、威風堂々としたたたずまい。九六を建てるのが男の甲斐性(かいしょう)とする風土もあり、「九六の意地」とも称される。今回の大雪で九六はどうなっているのか、能登町に向かった。

  現地に到着したの7日午後2時ごろ。車で走っていて、この地域はとくに降雪量が多いと感じた。地名は「神和住(かみわずみ)」。日本人として初めて全米オープン(1973年)で3回戦へ進み、日本プロテニス界 のパイオニアと呼ばれた神和住純氏の故郷でもある。九六の家を眺めると、屋根雪で40㌢ほど積もり、屋根から落下した雪が玄関前に積み重なっていた=写真・上=。10年ほど前の夏に学生たちを連れて能登スタディアツアーを企画し、この家を訪ねたことがある。畳にして32畳の広い座敷に案内された。能登では結婚式や葬儀を自宅で行う。家の大きさと比例して太い柱が家を支えていた。家の主に「ところでエアコンを使わないのですか」と尋ねると、「夏は風が通るので使わない。冬は石油ストーブがあればそれで十分。エアコンはいらない」とのことだった。それにしても大きい。初めての人は大寺院と見間違えするかもしれない。

  能登をめぐり目に付いたのが、裏山が崩れ倒壊した家屋が多いことだ。建物の構造はしっかりしていて揺れには耐えたが、裏山のがけ崩れで横倒しになるケースだ。元日の地震で裏山の地盤が緩み、9月の豪雨でがけ崩れ起きた、という話もよく聞いた。能登には中山間地の集落が多い。平地は水田として活用し、家屋は山のふもとで建てる。このケースは能登だけでなく、全国の中山間地であればどこでも起きることではないだろうか。(※写真・下は、裏山のがけ崩れで倒壊した珠洲市の民家=撮影・2024年1月30日)

⇒9日(日)午後・金沢の天気    ゆき

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★震度7・記録的大雨・最強寒波 3災の能登冬路をめぐる~2~

2025年02月08日 | ⇒ドキュメント回廊

  今季で最強で最長の寒波が流れ込んで、気象庁はきのう夜、石川県に「顕著な大雪に関する情報」を出した。きょう夕方までの積雪は能登の七尾市で42㌢、奥能登の珠洲市で40㌢、金沢市で32㌢となっている。きのう能登半島の尖端、珠洲市をめぐった。気象庁と国土交通省は会見(3日)で、被災地では雪の重みによる建物の倒壊に注意が必要と呼びかけていたが、現地ではさらに難題もあるようだ。

    高波に向かってゴジラが吠える、ような光景

  珠洲市の海岸沿いの名勝「見附島」の近くある仮設住宅は入り口に布シートが張られていた=写真・上=。この仮設住宅を監修したのはあの世界的な建築設計士として知られる坂茂氏だ。布シートはおそらく出入り口が北向きであることから、冬場の強風を少しでも和らげるために張られたのではないかと憶測している。

  仮設住宅から少し離れた場所に地震で全半壊となった住宅の公費解体が行われている。ただ、訪れたきのうは平日の午後2時半ごろだったが作業はストップしていた=写真・中=。同市では、作業中の事故を防ぐために雪の降る1月からの2月の間、雪に慣れていない地域から来ている県外の解体業者に対し、積雪時における作業の休止を県構造物解体協会を通じて要請している。11月27日に解体現場で重機に接触した作業員が死亡する事故が起きたことなどから、作業現場の労働災害を防ぐ対策を進めている。作業の安全を最優先の課題としているようだ。しかし、40㌢もの積雪があると作業の再開は見通せないかもしれない。

  その後、珠洲市の外浦方面に車を走らせた。視界全体が真っ白になって空間と地面との見分けがつかない、まさにホワイトアウトの現象が時々起きた。その都度、車をストップさせた。安全な場所を選んで停車するのだが、後ろや前から来た車に追突される危険性も抱えての停車だ。午後3時半ごろには、降り方が落ち着いてきた。

  海岸を見ると、「ゴジラ岩」が見えた。同市馬緤町の沿岸にある奇形の岩だ。西の空に向かって今にも炎を吹き出しそうな姿は怪獣ゴジラに似ており、その名が付けられた。冬の高波に向かって、ゴジラが吠えているようにも見え、なかなかの絶景だった。このゴジラ岩は夏ごろになると沿岸から夕陽も見え、観光名所にもなっている。

  この近くで自身に問題が起きた。車の前輪が雪道のみぞにはまりスタック(立ち往生)となった。そこで、通りかかった車に手を振って止まってもらい、手助けをお願いした。計2台から4人の男性が降りてきて車を押してくれて、なんとかみぞから脱出することができた。お礼を述べると、「雪道ではお互い様ですよ」と2台はさりげなく去って行った。雪国の共助の心には感謝しかなかった。

⇒8日(土)夜・金沢の天気     くもり

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☆震度7・記録的大雨・最強寒波 3災の能登冬路をめぐる~1~

2025年02月07日 | ⇒ドキュメント回廊

  去年元日の震度7の地震、48時間で498㍉という9月の記録的な大雨、そして今月4日から北陸に吹き荒れる最強・最長の寒波。 「3災」ともいえる能登半島を3日間(今月6-8日)かけて一周した。 被災地や観光名所などの冬の現場で気が付いたことなどまとみてみる。

  隆起した岩ノリ畑 『ゼロの焦点』ヤセの断崖

  先日、能登の知り合いから「岩のり」が届いた。 お礼の電話をすると、「地震で海岸が隆起したのでことしは採れるか心配したが、隆起した岩場でも採れました」とのこと。 そこで、海岸が隆起した能登の北側の外浦をめぐった。 岩のりは外浦の岩場で採れた天然のノリで、干したもの=写真・上=。 養殖のノリに比べて厚みがあり、さっとあぶると磯の香りが広がる。 ノリが採れる海沿いの家々では、波が穏やかな冬の日を見計らって海岸に出かける。 手で摘み、竹かごに入れて塩分を洗い流して水切りした後、自宅の軒下などで竹かごの上に乗せて陰干しする。 

  地域によっては「岩ノリ畑」を造ってところもある。 岩場を利用して平海面すれすれのところでコンクリート面を造成すると、冬の波で覆われた岩ノリ畑にノリが繁殖する。 ところが、地震で数㍍隆起した海岸では岩ノリ畑が干上がって使えなくなった畑もある。 一方で海底から隆起した岩場でノリが採れるようなったところもある。 知人は「シケの日が続き収穫は少なかったが、ノリの出来は上々」とのこと。 岩ノリ採りは今月中旬まで続く。 (※写真・中は、地震で隆起した「岩ノリ畑」=輪島市門前町の海岸)

  能登の現場を訪ねるとダイナミックな光景を目にすることがある。 震度7の揺れがあった志賀町香能の近くにあり、松本清張の推理小説『ゼロの焦点』で登場する名勝「ヤセの断崖」。 1961年に初めて映画化され、観光名所となった。 日本海からの強烈な波と風によって形成された断崖絶壁で、訪れた日も台風を思わせる暴風が吹いて、白波が打ち寄せていた=写真・下=。

  海面からの高さが35㍍から55㍍もある、断崖を眺めると、海の向こうの暗い雲の切れ間から光りが指している。 まるで映画のシーンのような光景だった。 もう少し近づいて撮影しようとした瞬間、強烈な風が吹いてきて、身の危険を感じて現場を離れた。

⇒7日(金)夜・金沢の天気     雪

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