サッカーW杯で2大会ぶりの決勝トーナメント進出を決めた日本代表だが、テレビを視聴していて、0-1でリードを許しながら、後半40分ごろから攻めることなくボールを回し続けた。攻めずにボールを回し続ける光景は摩訶不思議だった。まったく「テレビ的」でなかった。なぜ、自力で突破が決められる勝ち点を狙わなかったのか。不思議な光景だった。そして、視聴する側とすると、もどかしさが心に残ったいのである。こんな画面はテレビ的ではない、と。
自力突破で勝ち点を狙わず、警告数の差のみで決勝トーナメント進出を狙う。これでよかったのか。サムライならば勝負に出る、それを期待していたのだ。 来月2日(日本時間3日午前3時)、予選3戦全勝のベルギーと日本の対戦(中継はNHK総合)。果たして夜中の3時からどれだけの人が視聴するだろうか。今回の一件で割と覚めた人が多いのではないだろうか。内容のない試合を視聴する価値はどこにあるのだろうか。「結果オーライ」でよいのか。日本人でも考え悩む。
海外メディアの目線はもっと厳しい。イギリスのBBCはWeb版で「mind-boggling farce」、「あぜんとする茶番劇」と論評している=写真=。元イングランド代表のコメントで「最後の10分はW杯で見たくないものだった」と紹介し、北アイルランド代表の監督の「日本は次戦でボロ敗けにされるだろう」と挑発的なコメントを掲載している。
確かに日本代表の西野監督は「非常に厳しい選択」と語っていた。そして、「少し後悔はあるが、この状況で自分の中になかったプランを選択した」と。ただ、見方を変えれば、西野監督は稀代の勝負師なのかもしれない。FIFAの発表によると、今回のロシア大会では賞金総額は4億㌦(438億円)とされていて、決勝トーナメント進出を決めれば、1200万㌦(13億1900万円)は確保したことになる。出場する全チームには準備金として150万㌦(1億6400万円)が支給されるので実に14億8300万円となる。もし初戦突破となれば、1600万㌦(17億5900万円)と準備金で1750万㌦(19億2300万円)を確保することになる。グループステージで敗退となっていれば、800万㌦(8億7900万円)と準備金で950万㌦(10億4300万円)だった。勝負を続けることは数字になって現れる。
今回の試合戦術で西野監督に感謝すべきはテレビ局側かもしれない。NHKと民間放送連盟が共同制作する放送機構「ジャパン・コンソーシアム」がFIFA(国際サッカ-連盟)に払った放映権料は600億円といわれる。64試合すべてを日本で放送する権利料なのだが、前回2014年のブラジル大会に比べ実に1.5倍に跳ね上がっている。600億円の負担割合はNHK70%、民放30%といわれ、特に民放側は回収が難しいとささやかれている。もし、日本代表がグループステージで敗退していれば、とたんにサッカーW杯熱は冷めただろう。ポーランド戦の内容は決してテレビ的ではなかったが、日本代表がなんとか決勝トーナメント進出を決めてくれたのでスポンサーとつながっていられる。民放側はそんな思いだろう、か。
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