自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆こいのぼりと気球

2008年04月29日 | ⇒キャンパス見聞
 このところ、こいのぼりを揚げるのが日課になった。自宅ではなく、私のオフィスである金沢大学創立五十周年記念館「角間の里」のこいのぼりのこと。地域のボランティアの人たちが毎年この時節になると、こいのぼり用の掲揚ポール(竹製)を立ててくれる。昔揚げたというこいのぼりのお古をもって来てくれる。「あとは晴れたら、大学のスタッフのみなさんで揚げてね」という暗黙の了解がすでにできている。

 朝の日課なので、青空に映えるこいのぼりを見るとすがすがしい。通りがかりの学生たちが「こいのぼりをこんなに間近に見るのは初めて」とか「大学でこいのぼりを揚げているのは金大だけとちがうか…」などと言いながら見上げている。聖火リレーをめぐる騒ぎに比べれば、実にのどかな光景ではある。

 ところで、金沢大学では気球も上げる。金沢大フロンティアサイエンス機構の研究者たちが、能登半島・珠洲市で黄砂に関する大気環境のモニタリングの拠点づくりを計画している。日本海に面して大陸からやってくる空気をいち早くキャッチできる能登半島は黄砂研究には持ってこいという訳で、三井物産環境基金を得て、高度の大気観測を可能とする大気観測サイトを構築中だ。この研究プログラムを称して「大気観測・能登スーパーサイト」。運営が軌道に乗れば世界から黄砂研究者が集まってくる、そんな研究拠点となるはずだ。

 手始めとして、黄砂バイオエアロゾル研究チームによるサンプリング(気球による黄砂の採取)を行う。黄砂バイオエアロゾルというのは、黄砂にのって浮遊する微生物、花粉、有機粉塵などを指す。ゴビ砂漠やタクラマカン砂漠から舞い上がった黄砂が日本海上空で水蒸気と絡まって能登半島辺りから落ちてくる。これをサンプリングして研究するのだ。さらに海に落ちた黄砂はどのように変容し、海洋生物に影響を与えるのか、などが研究対象となる。気球を上げる場所は、珠洲市三崎町の金沢大学能登学舎(旧・小泊小学校)のグラウンドで。5月7日から9日の時間を見計らって気球によるサンプリングが行われる。

 能登半島では、金沢大学の別の研究班がすでに生物多様性の調査を行っていて、「研究フロンティア能登」の様相を呈している。生物多様性も黄砂も環境がテーマである。そこでもう一歩踏み込んで、東アジアにおける「環境センサー」としての能登半島という役割があるのでは、と密かに思っている。青空に泳ぐこいのぼりから話がえらく飛躍した。

⇒29日(祝)朝・金沢の天気  はれ
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★蘇った玉虫厨子の物語

2008年04月27日 | ⇒トピック往来
 日本史、そしてお札で知られる聖徳太ゆかりの法隆寺(奈良・斑鳩)=写真=は、現存する世界最古の木造建築で知られる。五重塔など建物の国宝・重文だけでも55棟、仏像をはじめとする美術工芸品は国宝20点、重文120点。平成5年(1993)には、日本で最初の世界文化遺産に登録された。

 その法隆寺で、日本工芸のルーツといわれるのが「国宝 玉虫厨子(たまむしのずし)」。日本史では飛鳥美術の代表作とされる。が、現在のわれわれが目にするは黒光り、古色蒼然とした造作物という印象しかない。すでに描かれていたであろう仏教画や装飾などは、イメージをほうふつさせるほどに残されてはいない。歴史の時空の中で剥離し劣化した。

 その玉虫厨子を現代に蘇らせようと奮闘したプロジェクトチームがあった。国家プロジェクトではない、民間の有志によるプロジェクトである。その制作過程を追ったドキュメンタリー映画「蘇る玉虫厨子~時空を超えた『技』の継承~」(64分・平成プロジェクト制作)がきょう27日、金沢市で上映されというので足を運んだ。

 玉虫厨子の復元プロジェクトを発案したのは岐阜県高山市にある造園会社「飛騨庭石」社長、中田金太(故人)だ。私財を投じたこのプロジェクトに輪島塗職人、宮大工、金具職人ら、輪島、高山、京都などの名工たちが結集した。印象的なシーンを紹介する。仏教画を復元する輪島塗の蒔絵師、立野敏昭はすでに消えた図柄を写真をもとに忠実に再現していく。消えてはいるが写真をじっと見つめていると不思議と図柄が浮かんでくる。「時間が図柄を浮かび上がらせる」と。

 タマムシの羽は硬い。鳥に食べられたタマムシは羽だけが残り、地上に落ちる。輪島塗の作品をつくるとなると絶対量が日本では到底確保できない。そこで中田氏は、昆虫学者を雇って東南アジアのジャングルで現地の人に落ちている羽を拾い集めさせる。それを輪島に持ち込んで、カッターで2㍉四方に切る。さらに黄系、緑系、茶系などに分けて、一枚一枚を図柄に合わせて張りこんで行く。

 この復活プロジェクトは2004年に始まり、玉虫厨子のレプリカと平成版玉虫厨子の2つが同時進行で制作された。しかし、当の中田は07年6月、完成を待たずして76歳で他界する。妻の秀子が故人の意志を継ぎ、ことし3月1日にレプリカを法隆寺に奉納した。映画を手がけたのは乾弘明監督。亡き中田は、小学校の時から奉公に出され、一代で財を成し、国宝を蘇らせることに情熱を傾けた。私はかつて中田からテレビ番組の制作依頼を受け、プロデューサーとして番組にかかわった。当時、中田はニトログリセンリンのペンダントを首から提げ、身振り手振りで夢を語ったものだった。映画の中で、俳優の三國連太郎の語りに、こころなしか中田の口調を感じ取ったのは私だけか。中田が三國に乗り移ったのか、ある種の執念めいた気迫をこの映画に感じた。

 上映の後、挨拶した映画プロデがューサー、益田祐美子は「7月の洞爺湖サミットでこの映画が上映されることがおととい(4月25日)決まりました」とうれしそうに話した。

⇒27日(日)夜・金沢の天気   はれ
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☆食ありて~野点の風景

2008年04月14日 | ⇒トピック往来

 奥能登・珠洲市に古民家レストランと銘打っている店がある。確かに築110年という古民家には土蔵があり、その座敷で土地の郷土料理を味わう。過日訪れると、中庭で野点が催されていて、ご相伴にあずかった。

  花曇(はなぐもり)の天気の中、その野点の光景に見とれてしまった。モクレンの木の下でのお点前。モクレンの花の白さ、毛せんの赤がまぶしいのである。そして抹茶の緑を心ゆくまで堪能した。母親が点て、半東(はんとう)を長男がつとめる。聞けば、一家全員が茶の湯の心得がある。しかも、それぞれ流派が異なる。それでも家族でさりげなく野点ができる。「もてなしの文化」がこの家族にある。

  茶の湯をたしなむ人が心がける言葉に、「茶は常なり」というのがある。茶の湯というものは日常の暮らしからかけはなれたものではなく、まして世間の常識を超えないという心がけだ。だから派手な服装は控え、礼節を重んじ、相和すことを重んじる。そんな凛(りん)とした雰囲気が感じられる野点だった。

  茶の湯の後は、座敷に上がって花見弁当をいただく。メバルの姿焼きがメインデッシュ。焼きたての香ばしさが食欲を誘う。たけのこご飯、海藻(ギバサ)の味噌汁。このギバサはホンダワラ科アカモクのこと。この海藻のぬるぬる成分は、抗がん作用をもつとされるフコイダンという食物繊維。これだけでもなんと贅沢な食事かと思う。

  帰り際、ふと見ると玄関に珠洲焼のレリーフが飾ってあった。この家の主(あるじ)の作品という。テーマは「月の砂漠」。風紋のあしらい、月光に写るキャラバンの姿が印象深い。古民家レストランというよりミュージアム。「入場料」はしめて2000円、満足度は高い。

 ⇒14日(月)朝・金沢の天気   はれ

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★食ありて~辺採物

2008年04月10日 | ⇒トピック往来

 食品偽装や中国食材の農薬混入など食をめぐる問題が次々と噴出している。そこで注目されいるのが地産地消という消費行動。口にするものは地域の顔の見える人がつくった、安心安全なものをという考え。能登に古くから「へんざいもん」という言葉がある。漢字で表記すると辺採物。近場で採れた野菜や魚のことを指す。かたちが整っていなかったりしたため、つい最近まで辺採物は地元の商店やスーパーでは敬遠されてきた。ところが、上記の食の問題でこの辺採物が見直されている。

ご 飯:すえひろ舞(コシヒカリ)
味噌汁:メカブ
揚げ物:サバの竜田揚げ
煮 物:ジャガイモ,ニンジン,タケノコ,シイタケ,キヌサヤ,卵,厚揚げ
ウドの天ぷら:ウド,ニンジン
イカの煮付け:イカ
葉ワサビの粕和え:葉ワサビ
アオサの佃煮:アオサ
青菜の辛し和え:青菜
干イワシ:イワシ
イモの茎の佃煮:イモの茎
ダイコンの酢の物:ダイコン,ニンジン,コンブ

  上記のメニューはすべて地元で取れた食材でそろえた郷土料理。ウドの天ぷらは季節感があふれている。ほのかに香ばしいような春の味である。地面から少し顔を出したばかりのウド。当地では「初物を食べると長生きする」と言い伝えがあり、有難味が出てくる。

  このメニューは能登半島・珠洲市で金沢大学が開設している「里山里海自然学校」(三井物産環境基金支援プロジェクト)の学食で提供される日替わり定食。日替わりといっても週1度、毎週土曜日に地域のNPOのメンバーが中心になって運営している「へんざいもん」という名の食堂だ。里山里海自然学校が行っている「奥能登の食文化プロジェクト」(食育事業)の一環で予約があれば提供してもらえる。地域の人による、地域の人のための、地域のレストラン。いわばコミュニティ・レストランなのである。メニューは定食で700円。

  地域の食は地域が賄う。もうそんな時代に入ってきたのかもしれない。へんざいもんでは、「けさ港にイカがたくさん揚がった」「ウドが顔を出した」など、それこそ新鮮な情報が会話の中で行き交っている。そして何より、ここで給食のサービスをしていただくご婦人たちの顔が生き生きとしている。

  この光景はかつて見たことがある。地域のお寺で毎月28日開かれていた「お講」である。親鸞上人の命日とされ、この日は海藻の炊き合わせや厚揚げなど精進料理が供された。幼いころ、米を1合だったか2合だったか定かではないが、持って行くとご相伴にあずかることができた。そして地域の人は会話を交わした。お寺がコミュニティの中心の一つとして存在感があった時代のことだが、いまでもこの伝統はまだ各地で生きているはずである。

  ファーストフードではなく、顔の見える手作り感を大切にしたスローフード。希薄となったコミュニティを食を通じて再生する。「へんざいもん」にはそんな試みが込められている。理由づけはともあれ、ここのお薦めは海藻がたっぷり入った味噌汁。いつもお代わりをいただく。 (※写真は4月5日のメニュー)

⇒10日(木)夜・金沢の天気   あめ

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☆食ありて~星の「わけ」

2008年04月06日 | ⇒トピック往来
 過日、東京の知人に「星のついた店を紹介しますよ」と誘われた。レストランの格付けガイドブックとして知られる「ミシュランガイド東京」で一つ星がついたフランス料理の店だ。ブログで店の宣伝をするつもりはないのであえて店名は記さない。でも、なぜ星の栄誉を与えられたのか想像をたくましくしてしてみたい。

 ミシュランガイド東京に掲載されているレストランは150軒で、最も卓越した料理と評価される「三つ星」は8軒。「二つ星」は25軒、「一つ星」は117軒選ばれている。フランスやイタリア料理が多いのかと思いきや、ガイド全体では日本料理が6割を占めている。和食への評価が世界的に高まっていることがベースにあるのだろう。ちなみに、一つ星は「カテゴリーで特に美味しい料理」、二つ星は「遠回りしてでも訪れる価値がある素晴らしい料理」、三つ星は「そのために旅行する価値がある卓越した料理」の価値基準らしい。

 私が訪れた一つ星の店は、入り口がいたってシンプル。あの名画の名前を店名に付けているので、名画の複製を掲げるだけで看板となる=写真=。「リーズナブルな価格で最高のフランス料理を創造し、一人でも多くの方に本物を味わっていただきたい」とインターネットの公式ページで謳っているだけあって、ディナーのコースは6800円から。せっかく遠方からきたのでと、下から2番目の1万円のコースを注文した。

 ロケーションはJR東京駅の前にある丸の内ビルの36階なので、皇居も見渡せる。これだけでも随分と値打ちがある。前菜の紹介は省いて、メインディッシュは「和牛フィレ肉のグリエ わさび風味 山菜添え」。私はフランス料理を論評する言葉を持ち合わせてはいないが、ただ、和牛なのに食後のさっぱり感は新発見の食味だった。わさび風味のせいかとも思った。

 メインディッシュが終わり、星のついたレストラン物語はこれで終わりかと思いきや、実はここから物語の第二幕が開く。「お口直しのイチゴのシャーベットでございます」とまずは甘口モードに。そしてプレートに載って出てきたデザートは3種類、ボリュームがあって、甘みの世界にどっぷり浸ることになる。

 デザート攻めにあって、これで終わりかと思っていると、「お口直しのハーブティーでございます」と。ミント系のハーブティーだった。その後、コーヒーでコースは終了する。2時間半ほどの星のついたレストラン物語。「お口直しでございます」の言葉がこの物語の場面切り替えに上手に使われ印象深い。別の席では、オルゴールの「Happy Birthday」ソングが聞こえ、店員がろうそくを立てたケーキを運んで、おそらく親子連れの家族なのだろう客席の雰囲気を盛り上げている。

 店員の言葉使いと洗練された身のこなし、コースの演出、「リーズナブルな価格で最高のフランス料理を」のポリシーと実践、ロケーション、その星には「わけ」があった。ただ、一つ難を上げれば、じゅうたん敷きではないので客席の声が響く。それをうるさいと感じる人もいるだろう。

⇒6日(日)午後・金沢の天気   はれ
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