波打ち際を乗用車やバスで走行できる海岸は世界で3ヵ所と言われる。アメリカ(フロリダ半島)のデイトナビーチ、ニュージーランド(北島)のワイタレレビーチ、そして能登半島の千里浜(ちりはま)海岸だ。全長8㌔だが、うち6㌔を車で走行することが可能で「千里浜なぎさドライブウェイ」とも呼ばれる。砂のきめの細かさと、適度に海水を含んで引き締まっていることでビーチが道路のようになる。観光バスでも走ることができ、能登半島の観光名所としても知られる=写真・上=。
車だけではない。人も違和感なく走ることができる。 5月21日と6月1日には東京五輪・パラリンピックの聖火ランナーが石川県を走るが、このビーチもそのルートに入っている。ところが、この名所が危機に瀕している。このところ、地元メディアでも大きく報じられているが、波による砂浜の浸食で幅が狭まっている、うち300㍍ほどが消滅した状態になっている。
浸食は以前から問題となっていた。河川災害を予防するためにつくられた砂防ダムや、コンクリートの護岸が設置されて、陸からの砂が海岸に運ばれなくなった。とくに、金沢港に建設された長い堤防の影響で、砂を含んだ加賀地方からの海流がせき止められて、千里浜海岸への流れが少なくなってしまった。波による砂浜の浸食は常に起こるが、それを補給する砂の海流が細ってしまったということだ。県や関係自治体では2011年に「千里浜再生プロジェクト」を設置して対策を検討している。
さらに不安をかき立てるのが、地球温暖化による海面上昇だ。気象庁の調べによると、昨年の日本沿岸の平均の海面水位は、平年と比べて8㌢余り高く、統計を取り始めてから最も高くなった。地球温暖化の影響で海面上昇が進展していることに加え、特に昨年は周囲より暖かい黒潮が日本の沿岸付近を通ったことが背景にあると指摘している(2月28日付・NHKニュースWeb版)。1960年から2020年までの海面水位の変化を海域別に見た場合、北陸から九州の東シナ海側で他の海域に比べ大きな上昇傾向がみられる(気象庁公式ホームページ「日本沿岸の海面水位の長期変化傾向」)
千里浜はもう一つの名所でも知られる。春や秋の波打ち際にシギやチドリといった渡り鳥の群れが次々と降りてきて、人々を和ませる=写真・下=。渡り鳥はオーストラリアから日本を経由してシベリアを往復する。その途中で、能登半島の千里浜海岸に立ち寄る。お目当ては全長数㍉から1㌢ほどの小さなエビ、ナミノリソコエビだ。鳥たちは波が引いた砂の上に残るナミノリソコエビを次の波が打ち寄せるまでのごくわずかな時間でついばむ。
ただ、このエビは砂質が粗くなり汚泥がたまると生息できなくなる。つまり、シギやチドリが降りる海岸はきれいな海のバロメーターでもある。しかし、砂浜の浸食によって波打ち際の生態系も危うくなっているのではないだろうか。
砂浜の浸食だけでなく、能登半島の対岸からはポリタンクやペットボトル、食品トレー、医療系廃棄物(注射器、薬瓶、プラスチック容器など)の漂着がある。海洋プラスティックごみ、そして海中のマイクプラスティックと海のめぐる問題は複雑化している。
⇒28日(日)午後・金沢の天気 はれ