自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆能登・千里浜から見える海の問題の数々

2021年02月28日 | ⇒ドキュメント回廊

   波打ち際を乗用車やバスで走行できる海岸は世界で3ヵ所と言われる。アメリカ(フロリダ半島)のデイトナビーチ、ニュージーランド(北島)のワイタレレビーチ、そして能登半島の千里浜(ちりはま)海岸だ。全長8㌔だが、うち6㌔を車で走行することが可能で「千里浜なぎさドライブウェイ」とも呼ばれる。砂のきめの細かさと、適度に海水を含んで引き締まっていることでビーチが道路のようになる。観光バスでも走ることができ、能登半島の観光名所としても知られる=写真・上=。

        車だけではない。人も違和感なく走ることができる。 5月21日と6月1日には東京五輪・パラリンピックの聖火ランナーが石川県を走るが、このビーチもそのルートに入っている。ところが、この名所が危機に瀕している。このところ、地元メディアでも大きく報じられているが、波による砂浜の浸食で幅が狭まっている、うち300㍍ほどが消滅した状態になっている。

   浸食は以前から問題となっていた。河川災害を予防するためにつくられた砂防ダムや、コンクリートの護岸が設置されて、陸からの砂が海岸に運ばれなくなった。とくに、金沢港に建設された長い堤防の影響で、砂を含んだ加賀地方からの海流がせき止められて、千里浜海岸への流れが少なくなってしまった。波による砂浜の浸食は常に起こるが、それを補給する砂の海流が細ってしまったということだ。県や関係自治体では2011年に「千里浜再生プロジェクト」を設置して対策を検討している。

   さらに不安をかき立てるのが、地球温暖化による海面上昇だ。気象庁の調べによると、昨年の日本沿岸の平均の海面水位は、平年と比べて8㌢余り高く、統計を取り始めてから最も高くなった。地球温暖化の影響で海面上昇が進展していることに加え、特に昨年は周囲より暖かい黒潮が日本の沿岸付近を通ったことが背景にあると指摘している(2月28日付・NHKニュースWeb版)。1960年から2020年までの海面水位の変化を海域別に見た場合、北陸から九州の東シナ海側で他の海域に比べ大きな上昇傾向がみられる(気象庁公式ホームページ「日本沿岸の海面水位の長期変化傾向」)

   千里浜はもう一つの名所でも知られる。春や秋の波打ち際にシギやチドリといった渡り鳥の群れが次々と降りてきて、人々を和ませる=写真・下=。渡り鳥はオーストラリアから日本を経由してシベリアを往復する。その途中で、能登半島の千里浜海岸に立ち寄る。お目当ては全長数㍉から1㌢ほどの小さなエビ、ナミノリソコエビだ。鳥たちは波が引いた砂の上に残るナミノリソコエビを次の波が打ち寄せるまでのごくわずかな時間でついばむ。

   ただ、このエビは砂質が粗くなり汚泥がたまると生息できなくなる。つまり、シギやチドリが降りる海岸はきれいな海のバロメーターでもある。しかし、砂浜の浸食によって
波打ち際の生態系も危うくなっているのではないだろうか。

   砂浜の浸食だけでなく、能登半島の対岸からはポリタンクやペットボトル、食品トレー、医療系廃棄物(注射器、薬瓶、プラスチック容器など)の漂着がある。海洋プラスティックごみ、そして海中のマイクプラスティックと海のめぐる問題は複雑化している。

⇒28日(日)午後・金沢の天気     はれ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

★コロナ騒動と「能登ジン」

2021年02月27日 | ⇒メディア時評

   能登半島の尖端に金沢大学が設けている能登学舎。ここで実施する社会人の人材育成事業「能登里山里海SDGsマイスタープログラム」についてはこのブログでも何度か取り上げている。月2回の割合で土曜日に実施し、座学や演習・実習、そして卒業課題研究などに取り組む10ヵ月のプログラムだ。卒業課題研究では自然環境問題や地域課題、起業やSDGsの取り組みなど、これまでイメージでしかなかった自分の思いを調査や実施計画の策定などを通じてストーリーとして描く。

   その卒業課題研究の発表会がきょう27日あった。2020年度の受講生は新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり人数は10人に減った。そして、これまで能登学舎での講義だったが、オンラインが中心となった。その分、教員は個別指導にもチカラを入れた。そして迎えたきょうの発表会は受講生が一堂に会する晴れの舞台、の予定だったが、急きょオンランに切り替わった。というのも、前日26日になって、「コロナ騒動」が持ち上がったからだ。

   別の研究プロジェクトのために能登学舎に来ていた学生が発熱と倦怠感を訴え、病院に運ばれた。26日午前のことだった。正午の段階で検査結果は出ていなかったが、万一に備えて、午後1時30分にはオンラインでの発表会に切り替え、全員に連絡した。というのも、受講生の中には能登地区だけでなく、県外の在住者もいるので、前泊のため午後には能登にやって来る。早めに連絡する必要があった。別日での開催、あるいは別の場所でとの案もあったが、「オンラインが無難」となった。結局、この学生のPCR検査の結果も陰性ということでひと安心。何より、スピード感を持って慎重に対処することがコロナ禍で求められることだと実感した。

   きょう午前9時30分からオンラインでの発表会。自身も審査員として参加した。発表者の一人で、東京のIT企業に勤める受講生は能登に移住し、5年後をめどに能登でジンの蒸留所の設置を目指す計画を淡々と述べた=写真=。能登の塩にユズの皮、クロモジなど、地元の素材を使った洋酒「能登ジン」を造る。この研究のため、去年9月にはEU離脱にともない蒸留酒製造が規制緩和されたイギリスの蒸留所の現場を訪れ、製造工程やコスト算出のノウハウなど学び、能登の植物素材で試作品を造ってもらった。その試作のジンが能登学舎に届けられていた。ユズの甘い香りは能登の自然豊かな里山をイメージさせる。「能登に新たな文化を持ち込む可能性」を感じた。

   受講生が夢の実現に向けて行動するとなれば、マイスタープログラムとは別途設けている金融機関と連携するセミナー「創業塾」で融資に至る手続きなど実務面を学ぶこともできる。

   3月20日には能登学舎で2020年度修了式も開催される予定だ。受講生がオンラインを超えて、初めて一堂に会する「晴れの舞台」となる。

⇒27日(土)夜・金沢の天気     はれ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆島根の知事、「神等去出」のごとく

2021年02月26日 | ⇒ニュース走査

   島根県の知事は日本一忙しい知事ではないだろうか。2月22日は島根県が条例で定める「竹島の日」だった。韓国による竹島の占拠は、国際法上、何の根拠もないとされる。島根県はこの日、松江市で式典を開き、丸山達也知事は「竹島は、わが国固有の領土だ。韓国と外交の場で、竹島問題が話し合われるよう強く要望する」と述べて、外交交渉による解決を政府に求めた(2月22日付・NHKニュースWeb版)。

   その丸山知事が一躍注目されたのは今月17日だった。この日、島根県庁で開かれた聖火リレーの実行委員会で中止を検討していると表明した。聖火リレーの実施について、県は大会組織委員会と協定を結んでおり、聖火ランナーやルートを決める県実行委の事務局を担当している。同県の聖火リレーは土日にあたる5月15、16日に実施予定。津和野町をスタートし、松江城(松江市)を目的地とする14市町村(総距離34.3㌔)で170人が聖火をつなぐ予定だ。警備費用など約9千万円を県の財源で予算化しており、県の判断で聖火リレーを事実上ストップすることもできる。

   中止理由として、東京都が感染拡大で手が回らなくなった保健所の調査を縮小したため、感染経路や濃厚接触者の追跡ができていないと不信感を表明している。全国の飲食店などが打撃を受けているにもかかわらず、緊急事態宣言が出た地域と、島根など感染者が少ない地域で、政府の支援に差がある現状にも不公平感を訴えた。

   その丸山知事はきのう25日、内閣府や経産省を訪問し、緊急事態宣言が発出された地域と島根では飲食店支援に不公平が生じていることについて改善策を求めた。 しかし、要望していた新型コロナ担当の西村経済再生担当大臣との面会は叶わず、要請文を受け取ったのは担当職員だった(2月25日付・山陰中央テレビニュースWeb版)。

   それにしても行動が素早い。聖火リレー中止の表明し、竹島の日を開催、そして、上京して政府への要望だ。3つの動きを10日でこなす。ここで思い起こすのは、2018年11月に訪れた出雲大社での神等去出(からさで)の神事だ。11月のことを旧暦の月名で神無月(かんなづき)と称するが、出雲では神在月(かみありづき)と称する。この月は、全国各地から八百万(やおよろず)の神が出雲に集うとされ、同月24日には神等去出の神事が執り行われる。神官が「お立ち、お立ち」と唱える。すると、この瞬間に神々は出雲を去り、それぞれの国に戻る。神々のまるでデジタルのような素早い動きなのだ。

   丸山知事も「お立ち、お立ち」と自らに言い聞かせながら、次々と行動を起こしているようにも思えるのだが。

(※写真は2018年11月24日に撮影した出雲大社の神等去出の神事)

⇒26日(金)朝・金沢の天気    くもり 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

★テレビ嗜好と司法判断

2021年02月25日 | ⇒ニュース走査

   この判決でテレビ離れがさらに進むのではないだろうか。 NHKの放送だけ映らないように加工したテレビを購入した東京都の女性が、NHKと受信契約を結ぶ義務がないことの確認を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は24日、請求を認めた一審の東京地裁の判決を取り消し、請求を棄却した (2月24日付・共同通信Web版)。

   放送法では、NHKの放送を受信できるテレビの設置者に契約義務があると規定している。受信料制度に批判的な考えだった女性は2018年、フィルター付きテレビを3千円で購入した。1審の東京地裁は原告の訴えを認め「NHKを受信できる設備に当たらない」と判断して、契約を結ぶ義務はないとする判決を言い渡し、NHKが控訴していた。控訴審判決で裁判長は「加工により視聴できない状態が作り出されたとしても、機器を外したり機能させなくさせたりすることで受信できる場合は、受信契約を結ぶ義務を負う」と判断し、受信契約を結ぶ義務があるとする判決を言い渡した(同)。

   人には好き嫌いの嗜好というものがある。例えば食に限っても、漬物は食べない、ネギは嫌いだ、刺身は食べない、など様々だ。テレビも同じだ。あのチャネルは嫌いだ、ドラマは見たくない、あのキャスターは見たくもない、など。嫌いな人にとっては見たくもない、それが嗜好というものだ。NHKを受信できないようにするためわざわざフィルター付きテレビを購入するのは、相当なNHK嫌いだ。上記の高裁判決は、受信料の公平負担を重視する視点から、そのような機器をテレビに取り付けたのは受信料を払わない口実と判断したのだろう。人のテレビへの嗜好というものを理解していないのではないだろうか。

   今回の判決でNHK嫌いの視聴者の中には、「それだったらテレビを見ない」と反感を持った人もいるのではないだろうか。これを機にテレビ視聴そのものを止めるという人もいるだろう。また、NHKをスクランブル化し、契約者だけが視聴できるようにすればよいと主張する人たちの声も高まるだろう。それでなくても若者を中心にテレビ離れは進んでいる。これは金沢大学での調査だが、テレビをまったく見ないという大学生は17%(2019年・金沢大学での調査)もいる。3年前の16年では12%だった。その理由は、ネットで動画やニュースを見ることができる、と。この判決をきっかけに、さらに若者のテレビ離れが進むのではないだろうか。

   おそらく原告の女性は上告するだろう。最高裁の判断に注目したい。自身はNHK嫌いではない。このニュースの流れを読みたいと思っている。

⇒25日(木)朝・金沢の天気   はれ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆リアルな富士を眺めてVR会議 「Woven City」の魅惑

2021年02月24日 | ⇒ニュース走査

   このニュースに世界の人たちが注目したに違いない。トヨタ自動車は23日、静岡県裾野市で計画する、ITでつなぐ次世代都市「Woven City」(ウーブン・シティ)の建設に着手したと発表した。今後、人を住まわせて自動運転をはじめとするAIや通信を活用した実証実験を行い、社会課題の解決に役立つ新たなサービスや製品の開発につなげる(2月23日付・共同通信Web版)。

   豊田社長は昨年2020年1月、デジタル技術見本市「CES 2020」(ラスベガス)でウーブン・シティ構想を発表していた。当時から凝った名称だと感じ入っていた。wovenは weaveの過去分詞で「織られた」という意味合いで、「Woven City」はIT技術と人間社会がタテ糸とヨコ糸のように織り込まれたデザイン都市と解釈している。トヨタ自動車は自動織機の製造にルーツがあり、ネーミングの発想もおそらく繊維から来ているのだろう。さっそくトヨタの公式ホームページをチェックした。

   地鎮祭での豊田氏のあいさつが興味深い。都市開発の場所はトヨタの東富士工場があったところ。「東富士工場のDNA。それは、たゆまぬカイゼンの精神であり、自分以外の誰かのために働く『YOU』の視点であり、多様性を受け入れる『ダイバシティ&インクルージョン』の精神です。これらが『人中心の街』、『実証実験の街』、『未完成の街』というウーブン・シティのブレない軸として受け継がれてまいります」(HP掲載のスピーチ原稿より)

   スピーチが意義深い。この開発の意義を、多くの仲間とともに、多様性を持つ人々が幸せに暮らせる未来を創造することに挑戦する、と意欲的に述べている。人種や言語、障害などを超えて幸せに暮らせる未来都市。では、そのような都市の設計なのか。

   街の広さは約70万平方㍍。住人は約360人でスタートし、2000人以上を想定する。地上に自動運転モビリティ専用、歩行者専用、歩行者とパーソナルモビリティが共存する3本の道を網の目のように織り込み、地下にはモノの移動用の道を1本つくる。高齢者、子育て世代の家族、発明家、起業家の人々に住んでもらう。街にはロボット、AI技術を取り入れた様々な領域の新技術をリアルな場で実証していく。また、世界中の企業や研究者と一緒に取り組み、社会課題の解決に向けた発明がタイムリーに生み出せる環境を目指す(トヨタ公式ホームページ)。

   発表文だけではイメージは沸かないが、地下にモノの移動用の道を1本つくるということは、たとえばスーパーへ買い物に行かなくても、自宅からパソコンで商品を発注すれば、モノが自宅に届くというシステムなのだろうか。足の不自由なシニアや障がい者も自動運転でドアからドアへの移動が可能。どこにいてもAIによる手話や翻訳サービスがあり、多様な人々が対面でのコミュニケーションが取れる。リアルな富士山を眺めながら、オフィスでのリモートワークやVR会議ができる。

   壮大な社会実験の街でもあるウーブン・シティでの暮らしをイメージすると興味は尽きない。住んでみたいという誘惑にかられる。(※写真はトヨタ公式ホームページより)

⇒24日(水)朝・金沢の天気     はれ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

★ウメは咲いたか、ワクチンはまだかいな

2021年02月23日 | ⇒ドキュメント回廊

   金沢では20日に春一番が吹いて、21日にはウメが開花した(金沢地方気象台「生物季節観測」より)。きのう22日は金沢で最高気温が19.6度まで上がり、昔から歌われる「梅は咲いたか 桜はまだかいな」のような春の気分だ。

   春気分に浮かれてはいけない。新型コロナウイルスはまだまだ治まっていない。NHKが公表している直近1週間(2月16-22日)の人口10万人あたりの感染者数で、地元石川県は9.14人と東京、千葉、埼玉、神奈川に次いで5番目だ。以下、福岡、茨木、大阪と続く。コロナ禍ではまるで大都会並み、実に「不名誉」な数字ではないだろうか。同じ北陸でも、福井1.56人、富山1.05人と石川に比べれば、感染対策をしっかりやっているという印象だ。

   その石川もようやく重い腰を上げた。金沢の繁華街(片町1丁目、2丁目、木倉町)で酒類の提供を行うクラブやバー、居酒屋など飲食の2千店を対象に、石川県庁は営業時間を午後9時までとする時間短縮の要請をきのうから始めた。3月7日までの2週間で、時短要請の協力金は1店舗当たり56万円(1日4万円)だ。地元紙によると、2月に入ってからの県内の飲食関係クラスターの7例のうち6例が片町地区で発生し、新規感染者(2月3-16日)241人のうち、約5割に当たる113人が同地区の関係者だったことから時短要請に踏み切った(2月23日付・北陸中日新聞)

   こうなると待たれるのがワクチン接種だ。県内でも先行接種として、医療従事者を対象に19日から始まっているが、医師や看護師、薬剤師、歯科医に加え、コロナ患者と接触する可能性のある救急隊員なども含めると数万人の規模だろう。次なる65歳以上の高齢者への接種はいつからなのか。

   石川県庁の公式ホームページをチェックすると、「新型コロナワクチンについて」というページがある。さらに「県民のみなさまへ」のコーナーがあるが、県民へのワクチン接種についてのスケジュールの記載などはない。厚労省へのリンクがあり開くと、「(医療従事者への接種を先行)その後、高齢者、基礎疾患を有する方等の順に接種を進めていく見込みです。なお、高齢者への接種の開始は早くても4月1日以降になる見込みです」と。要は、接種の順番しか決まっていない。これが医療先進国・日本のコロナ対策の現状なのだ。

(※写真は自宅庭のウメ。23日午前8時撮影。金沢地方気象台の生物季節観測地点より山手にあり、まだ開花には至っていない)

⇒23日(祝)朝・金沢の天気   くもり

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆ある歯科医院の話

2021年02月22日 | ⇒ドキュメント回廊

    半年ぶりにかかりつけの歯医者に行った。職場の金沢大学近くにある歯科医院「オードリー歯科(Audrey Dental Office)」。2009年4月、キャンディを噛んでいて右下あごの奥歯に被せてあった金属がポロリと取れ、駆け込んだのが「初診」だった。以前から気になっていたのが、「Audrey」という名称だった。院長はオードリー・ヘップバーンの大ファンで、それにちなんで名付けたのだろうと思っていた。

   通い始めて受付の女性職員に尋ねた。「オードリーという名は、院長先生がオードリー・ヘップバーンのファンなのですか」と。すると女性は「その質問はたまにあるのですが、大通りに面しているのでオードリーと名付けたようですよ」と。確かに、歯科医院は国道159号とつながる大通りに面している。そこから「Audrey」を発想するというのは、だじゃれというより、粋(いき)ではないかと感じ入ったものだ。

   それ以来、年に1回、最近では年に2回ほど、歯周病や虫歯の検診と歯石取りに出かけている。きょうも院長は「半年に1度くらいがちょうどいいですね。歯周病の予防に効果的だと思います。逆に期間が空きすぎると歯石の量も増えて固くなるので取る方も取られる方も大変ですよ」と言いながら、PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning=プロによる歯のクリーニング)に取り掛かった。歯の表面についた歯垢や歯石、色素沈着などを専用の超音波器具(スケーラー)で取り除き、歯面を研磨した後、歯質強化に効果のあるフッ素を塗布する。全行程で20分足らずだった。

   いつも受付にいる女性職員が見当たらない。院長は「昨年の9月に辞めたんです。それ以来、ずっと一人で切り盛りしているんですよ」と。セッティングから片付けまで、事務処理と診療を一人で。「コロナのこともあり、なるべく人がいない方がいいですね。コロナが治まったら募集しようと思っているんですよ」と。通い始めた12年前は歯科衛生士や歯科助手もいた。金沢でも「歯科医院はコンビニより多い」と言われるくらいで、過当競争になっているのかも知れない。

   自身が小さいころ通った歯科医院も確か先生が1人だった。受診する側とすれば、丁寧に診療してくれればそれで充分なのだ。80歳になっても20本以上自分の歯を保とうという「8020(ハチマルニイマル)運動」を歯科医師会などが進めている。地域住民に寄り添い、高齢者のQOLに地道に尽力していただくことを期待している。

⇒22日(月)夜・金沢の天気   くもり

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

★待ったなし デジタル通貨

2021年02月21日 | ⇒トレンド探査

   ひょっとしてこれがポストコロナの景気浮揚策になるかもしれない。NHKニュースWeb版(2月20日付)によると、紙幣や硬貨と同じように使える「デジタル通貨」について、日本銀行この春から機能を確かめる実証実験を始める。この実証実験を第1段階と位置づけ、民間の事業者とも連携しながら、システム上で取り引き履歴を記録する台帳を作るなど、デジタル通貨の流通や発行に関する基本的な機能を確かめるとしている。各国の中央銀行も研究を進めており、日銀としては、将来にわたって決済システムの安定性を確保するため、国際的な環境変化に対応する準備を進めたい考え。

   うがった見方だが、世界の銀行の本音は中央銀行や政府が目の届かない現金システムを止めたいという本音があるのだろう。デジタル通貨にすれば、すべてのデジタルマネーの履歴やストック先などが把握できる。税金面での調査やマネーロンダリングの監視、金融犯罪などに対応できるという側面もあるだろう。

   デジタル通貨では先行している中国は「デジタル人民元」の実証実験を始めている。「中国では脱税やマネーロンダリング、資本流出等が課題となっており、これをコントロールしたいとの狙いがあるのではないか」(2020年11月30日付・ロイター通信Web版日本語)との見方である。

   では、日本の場合、デジタル通貨導入によるメリットは何だろう。それは、45兆円もあるといわれる「タンス預金」を吐き出させることではないだろうか。日銀と政府が、銀行などでの預貯金しかデジタル通貨と交換しないと発表した時点で、タンス預金は一気に消費へと回る。なぜか。多額の旧札が銀行などに持ち込まれることになれば、銀行を通じて国税にチェックされることになる。さらに、2024年度に1万円、5千円、千円の紙幣(日本銀行券)の全面的な刷新が行われる。翌年度からは旧札と新札の交換で手数料を取るということにすれば、タンス預金は今のうちから消費に回すしか手はない。

   その兆候はきょうこのニュースもあった。日銀の統計によると、家庭や企業に出回る紙幣・貨幣は2020年末に約123兆円分。単純計算だと国民1人平均100万円弱。うち1万円札の流通量を年末ごとに比べると、近年は2~4%台の増加だったが、昨年は15年末以来の5%超の高い伸びになった(2月21日付・朝日新聞Web版)。タンス預金の札束が動き始めている。

   その視線で周囲を見渡すと、面白い現象が見える。ドイツ製などの海外の高級車が身の廻りに最近増えているのに気づかないだろうか。いわゆる「小ベンツ」もあるが、堂々とした「本ベンツ」もよく見かけるようになった。最初はEUとのEPA(経済連携協定、2019年2月発効)の効果かと思ったが、それ以前に日本は輸入車の関税をすでに撤廃している。タンス預金の行き先現象と考えれば、実によく理解できるのである。タンス預金が市中に出回れば経済に貢献する効果は大きいことは言うまでもない。以上は憶測であり、データはない。

   日銀は「現時点でデジタル通貨を発行する計画はない」という立場だが、第1段階の実証実験を1年程度かけて行い、その結果も踏まえ、実現可能性を検証するための「第2段階」に移る方針(2月20日付・NHKニュースWeb版)。コロナ禍の日常の変化で、人が触ったものには触らないという行為が定着した。現金を粗末にするという意味ではないが、現金を手にすることに違和感を持つ人も多いだろう。カード払いなどのキャッシュレス化も進んでいるが、デジタル通貨を進める絶好のタイミングではある。

  では、日銀はどのような実証実験をするのか、日銀の公式ホームページをチェックしたが、記載はまだない。

⇒21日(日)夜・金沢の天気   くもり

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆春一番、ワクチン二番

2021年02月20日 | ⇒ニュース走査

   きょうは春本番かと思うほど暖かく、そして台風並みの風だった。北陸地方に春一番が吹いたと金沢地方気象台が発表した。とくにかく強烈な風だった。石川県内の最大瞬間風速は、能登で23.3㍍と2月の観測史上最大、金沢では21.2㍍だった。日中の最高気温は金沢で14.8度と4月上旬並みの暖かさ。自宅の庭や屋根の雪が見事に解けた。   

   そして待たれるのが新型コロナウイルスのワクチンだ。およそ4万人の医療従事者を対象に今月17日から接種が始まり、各地でニュースとなっている。政府は、接種が始まった富山県の富山労災病院で、副反応の疑いがある、じんましんの発生があったと、総理大臣官邸のきょうのツイッターで公表した=写真=。厚生労働省によると、19日午後5時現在でワクチンの接種を受けた人は5039人となっていて、国内での接種で副反応の疑いが公表されるのは初めて。厚生労働省は同じツイッターで、接種後15分以上は接種会場で様子を見るなどの安全対策の周知に努めていく、としている。医療従事者の次は65歳以上の高齢者なので、自身もぜひ接種に行こうと楽しみにしていたが、このニュースで少し気乗りがしなくなった。周囲の様子を見てからにしようか、と。

   このところ石川県内の感染者は二桁が続いている。きょうも19人の感染が確認された(石川県庁公式ホームページ「新型コロナウイルス感染症の県内の患者発生状況」)。感染者は10歳未満から90歳以上と幅広い年代に及んでいる。ニュースによると、このうち金沢市の30代から40代の男性3人は接待を伴う飲食店のクラスター関係の感染者。また、40代の女性は県内の福祉施設で介護を担当する職員、50代の男性は県内の医療機関に勤務する医師だ。これまで県内では合計1779人が感染、うち61人が亡くなっている。病床使用率は45.7%だ。県内の感染状況を総合的に判断すると、ステージ2の「感染拡大警報レベル」にあたるとしている(2月20日付・NHKニュースWeb版)。

   春一番の訪れたとともに、コロナ禍の勢いも治まってほしいと思うのだが、現実はなかなか厳しい。

⇒20日(土)夜・金沢の天気    くもり

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

★「海のベンチ」から火星探査へ

2021年02月19日 | ⇒ニュース走査

   アメリカ人の宇宙への興味は尽きない。BBCニュースWeb版日本語(2月19日付)によると、NASAは18日午後3時55分(アメリカ東部時間、日本時間19日午前5時55分)、探査車「パーサヴィアランス」の火星着陸に成功した、と伝えた。火星の赤道付近にあるジェゼロと呼ばれる深いクレーターの中に降り立った。NASAが火星に探査車を着陸させたのは、2012年の「キュリオシティ」に次いでこれが2度目となる。

   重さ約1㌧のパーサヴィアランスは6つの車輪で移動。今後2年以上にわたって岩石部分を掘り進め、生命が存在していたことの証拠を探す。幅約45キロメートルのジェゼロ・クレーターは、数十億年前に巨大な湖があった場所とされる。水があれば、生命が存在した可能性はある(同)。地球外の生命体を探究するために莫大な経費を使い、ここまでやる。科学は見果てぬ夢でもある。

   このニュースで思い起こすのは、2010年11月にNASAが「宇宙生物学上の発見について」と題した記者予定を公表し、大騒ぎになったことだ。アメリカのテレビ・新聞のメディアは、「地球外生命体を発見か」などと報じた。12月3日(日本時間)のNASAの会見は世界のメディアだけでなく、ユーストリームなどネットでも中継された。ところが、会見は「ヒ素を食べる細菌の新発見」という内容だった。確かにこれまでになかった宇宙生物学上の発見だったものの、見えるカタチの生命体をイメージしていただけに肩透かしを食らった格好になった。

   とは言え、今回のNASAの火星の生命体への探究に信念のようなものを感じる。以下雑学である。アメリカの宇宙への関心度を高めたのは天文学者パーシバル・ローエル(1855-1916)ではないだろうか。ローエルは1916年に海王星の彼方に「惑星X」が存在すると予知し、他界する。その弟子クライド・トンボーが1930年にローエルの予知通りに新惑星の発見し、プルートー(冥王星)と名付けた(2006年の分類変更で「準惑星」に)。このことでローエルとトンボーは天文学史上で名前を残すことになる。

   ローエルはアメリカ人の宇宙への好奇心を煽ることにもなる。ローエルは火星人存在説も唱えていた。アリゾナ州に築いた天文台から火星を観察すると、表面に見える細線状のものは運河であり、火星には知的生命体が存在する、と。このローエルの説は、アメリカのSF小説に影響力を与えていく。1938年10月3日、CBSラジオ番組のハロウィンに合わせたスペシャル番組で、俳優であり監督のオーソン・ウエルズが、イギリスの著作家で「SF(Science Fiction)の父」とも呼ばれたハーバート・ジョージ・ウエルズの小説『宇宙戦争』をドラマ化した。普通の番組を放送している最中に臨時ニュースで、火星人が襲来し、アメリカの都市を攻撃している、と放送。「臨時ニュース」を聞いた人々はパニックに陥った。実話である。

   では、ローエルの火星人存在説の根拠となった、運河説はどこから得た発想なのだろうか。今から132年前の明治22年(1889)5月、ローエルは東京に滞在していた。そのときに、日本地図を広げて、能登半島のカタチと「NOTO」という地名の語感に惹(ひ)かれ、鉄道や人力車を乗り継いで当地にやってきた。七尾湾では魚の見張り台である「ボラ待ち櫓(やぐら)」によじ登り、「ここは、フランスの小説でも読んでおればいい場所」と、帰国後に随筆本『NOTO:An Unexplored Corner of Japan』(1891)で記した。ローエルが述べた「フランスの小説」とは、当時流行したエミ-ル・ガボリオの「ルコック探偵」など探偵小説のことを指すのだろうか。

   その後、ローエルはアリゾナ州に天文台を創設し、火星の研究に没頭し、その成果を著書『Mars(火星)』(1895)などにまとめた。ローエル研究者のウィリアム・シーハンは論文「To Mars by way of NOTO」(2005)で能登の海から火星の運河を着想したのではないかと述べていると、天文学マニアから聞いたことがある。残念ながら、自身はその論文を読んではいない。

   東京に滞在し日本地図を見ていたローエルが能登に興味を持ってやって来た。入り組んだ湾岸のベンチ(ボラ待ち櫓)で一日過ごし、フランスの小説を読んでいた。アリゾナの天文台から火星を観察し、能登の海から運河説を着想する。それがSFという発想を国民に膨らませ、その後アメリカとソ連が宇宙開発競争へと突き進んでいく。興味が尽きぬアメリカは火星探査を続けて生命体の発見に懸命だ。ストーリ-としては面白い。

(※写真・上は能登半島・穴水町にあるパーシバル・ローエルの来訪記念碑、下はローエルが海のベンチとして一日過ごしたボラ待ち櫓。写真は当時のものではない)

⇒19日(金)夜・金沢の天気    はれ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする