自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★放送のネット同時配信をめぐる不協和音-上

2017年02月17日 | ⇒メディア時評

    最近テレビ業界の人と会うたびに出てくる言葉の一つに「放送のネット同時配信でローカル局はどうしたらよいか、ざわざわしている」と。あるテレビ局の幹部からいただいたことしの年賀状にも「放送コンテンツのネット同時配信に向けて動きが本格化しています。ネットワークの在り方にも変化が出始めました」と意味深な内容だった。このネットワークの在り方の変化というのは、東京キー局とローカル局と関係性に不協和音が出始めたという意味だと直感した。

    この不協和音の震源は昨年(2016年)11月4日に開催された、総務省のネット同時配信に向けた課題を話し合う有識者会議で、2020年までに同時配信の本格実現をめざす方向性が確認されたことだろう。これを受けて、同月9日に開催された第64回民間放送全国大会(東京)で日本民間放送連盟の井上弘会長(TBSテレビ会長)でこれまで慎重だった民放のネット同時配信について「民放は技術の進歩に積極的に対応していく」と述べている。また、NHKについても総務省は同月11日、NHKの改革を検討する有識者会議でネット同時配信解禁に向けた議論を始めている。

    一般のネットユーザーの立場からすれば、2020年などと言わずに今からでも同時配信をやってほしいと思って当然だろう。ところが、NHK、民放それぞれに超えるべき壁がいくつかある。まずは、民放から。私が住んでいる金沢市で東京キー局の番組を同時に視聴することはできない。それはテレビ局はいわる「県域」というものがあり、東京キー局の放送は関東エリア(東京都、神奈川県、千葉県、 埼玉県、茨城県、群馬県、栃木県の1都6県のカバー)に限定される。逆に、関東エリアに住む人が遠く離れた故郷のニュースや番組をテレビで視聴したいと思ってもそれはかなわない。

    民放のネット同時配信の懸念は、東京キー局よりローカル局の方が強い。たとえば、東京キー局の放送番組をネットで視聴できるようになれば、ローカル局が作成する地元情報の番組などは見られなくなるのではないか。また、ローカル局のCMが東京キー局にストローにように吸い上げられ、ローカル局の経営が一層厳しくなるのではないか。そうなれば、ローカル局の存在意義すらなくなるのではないか。

    放送が全国で一元化されているNHKの場合、民放のような悩みとはまったく別の懸念を抱える。それは、国との関係、受信者との関係である。NHKのネット同時配信の一番の問題は受信料だろう。テレビを設置している世帯や会社などはNHKと受信契約を結ぶ義務があるが、テレビを有している世帯のうち実際に受信契約を結び受信料を支払っているのは77%と推計されている。テレビを持たずパソコンやスマホでテレビを見る人が増えれば、受信料を払う人がさらに減少しかねない。

    放送法64条では受信設備(テレビ)を設置している世帯が受信契約を結ぶことになっているが、ネット同時配信によって、スマホを有するすべての人が受信契約の対象になる。そうなると放送法の改正をめぐって国とNHKの間で、さらにもともとネットは無料という意識があるネットユーザーとNHKの間で新たな確執が生まれて来るのはないか。

⇒17日(金)朝・金沢の天気   くもり

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