自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆放送のネット同時配信をめぐる不協和音-中

2017年02月19日 | ⇒メディア時評
  これはテレビ業界では知られた言葉なのだが、かつて「ローカル局炭焼き小屋論」というのがあった。2000年12月にNHKと東京キー局などBSデジタル放送を開始したが、このBSデジタル放送をめぐってローカル局から反対論が沸き上がった。放送衛星を通じて全国津々浦々にダイレクトに東京キー局の電波が流れると、系列のローカル局は田舎で黙々と煙(電波)を出す「炭焼き小屋」のように時代に取り残されてしまう、といったネット同時配信でささやかれるローカル局側の議論とまったく同じような懸念が業界で渦巻いた。何しろ日本のテレビ局には県域というものがあり、東京キー局の系列テレビ局が地方に110社余りある。

  では、BSデジタル放送が開始されて、系列テレビ局が倒産の憂き目に遭ったかというとそれはない。もちろん、東京キー局側でも地上波をそのまま同時再送信するような放送コンテンツを避けて、独自色のある番組制作をしている。「炭焼き小屋論」は杞憂だった。ただし、今回のネット同時配信では、「ローカル局炭焼き小屋論」が再度沸騰するかもしれない。が、もっと前向きに考えれば、ビジネスチャンスが訪れるかもしれない。

  地方の情報のニーズはある。地域情報をもっと詳しく欲しいという層は地域住民だけではなく、企業のビジネスや全国に各地に転居した人、あるいは世界の各地に住んでいる日本人などいろいろある。ネットで地域情報が映像で視聴できることは新たなビジネスチャンスだ。また、若者の世代では部屋にテレビはないが、スマホで動画を視聴するという層が多い。ならば、スマホへ放送番組を提供できることになれば、間違いなく大きなチャンスだ。さらに、ネット同時配信により、テレビ局と視聴者の双方向性が加速する。これまでテレビ局は一方通行だったが、視聴者のコメントがどんどんと寄せられる。それを視聴動向の分析データすることで、スポンサーへのハイレベルのサービスが可能になるのではないか。

  動画コンテンツの優れた制作技術を背景に、ネット上の動画コンテンツのレベルを全体に高めるくらいの志(こころざし)をもって、ネット同時配信に挑んでほしいと願っている。つまり、ローカル番組が日本全体、世界に打って出るチャンスに恵まれたのである。そう思えば未来可能性が見えてくる。

  冒頭で「炭焼き小屋」の話をした。私が知る炭焼き小屋は能登半島の先端にある。炭焼き2代目だ。一時廃業も考えたが、今では未来の構想をもって仕事をしている。10年かけて、炭焼き小屋の周囲にクヌギの木を植え、今では8000本となった。クヌギはお茶炭(菊炭)の木材だ。炭焼きの技術と山の資源を日本の伝統文化である茶道用の炭に集中し特化した。彼の炉用の茶炭は茶道界できちんと評価され、1㌔3000円の高値がする。彼は自信をつけた。日本の茶道を支える一人になりたいと。そして今後は同じ志を持つ若手を育成したいと夢を膨らませている。

⇒19日(日)夜・金沢の天気   くもり
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