御存知、黒森峰女学園校章です。「黒い森」はドイツ南部にある森林地帯シュヴァルツバルトを元ネタにしているとされますが、実際に「黒い森」はドイツ語でSchwarzwald(シュヴァルツバルト)と表記します。ちなみに「峰」は山頂を意味しますので、シュヴァルツバルトの最高地点にあたる海抜1493mのフェルトベルクを指します。
ちなみに、ヨーロッパ人の地理感覚では、「黒い森」とはシュヴァルツヴァルト山地の麓に広がる広い範囲を指しているようで、かつてのドイツのバーデン州の州都フライブルクなども広義的には「黒い森」を連想させたといいます。
その典型的な例を、大好きな推理ドラマのひとつ「名探偵ポワロ」の第51話「杉の柩」のシーンにて偶然にも見つけました。以下に紹介しましょう。
登場人物のひとり、庭師の娘メアリが、以前に生活していた場所を尋ねられて「ドイツのフライブルクです」と答えました。
すると、メアリに密かに好意を寄せているらしいロディが、「黒い森」か、と応じます。フライブルクの名を聞いただけで、イギリス人のロディが「黒い森」を連想しています。それぐらいに広く知られた代名詞だったのでしょう。
続いてロディは「ナチスのような優れた政党がイギリスにも必要だ」と言い出します。アガサ・クリスティ描くエルキュール・ポワロの活躍した時代は、ちょうど第二次大戦の直前の欧州を舞台にしていますので、当時躍進いちじるしく内外の評価も高かったナチスへの認識がよく示されています。イギリス人ですらナチスを「優れている」と評価していたのですから、当時の欧州の流動的かつ不安的な政治的情勢がよくうかがえます。
ちなみに、当時のフライブルクは、ナチス党の重要な活動拠点としても広く知られていたので、「黒い森」を連想しつつ、ナチス党の評価も口にするロディのような若者が大勢いたとしても不思議はありませんでした。
ロディの意見に対し、ポワロはやや厳しい口調で「ナチスはむしろ不要です」と応じました。デビット・スーシェは本当にハマリ役ですね。アガサ・クリスティが描くベルギー人探偵の風貌や雰囲気を見事なほどに体現しており、「シャーロック・ホームズ」のジェレミー・ブレッドと並ぶ名探偵俳優の双璧だと思います。
ポワロの諫言めいた応対に対し、ロディは不敵な笑みをもらしつつ、「正気か?」と応じています。ナチスドイツに反対するとは正気か?と言うあたりにも、当時の欧州の不穏な空気が感じられます。
ドイツに詳しい知人に聞いたところでは、フライブルクを含めた「黒い森」の名詞は、第二次大戦まではナチス絡みで表現されることが多かったそうです。ガルパンの黒森峰マークはそのイメージをストレートに表現しており、黒森峰の文字も「黒い森」の最高峰を意味しますが、向こうの方々からみると大戦中の記憶を呼び覚まさずにはいられない何かが内包された言葉としても受け止められる可能性がある、ということです。
要するに、黒森峰女学園の校章は、ハーケンクロイツのデザインもありますから、もろにナチスドイツのイメージが強いわけですね。だから戦車と絡めれば、ドイツSS装甲師団のイメージ以外に連想するものが無いわけです。ガルパンのスタッフ陣も、そのことをわきまえてこのデザインにしたのでしょうね。