昨日、模型サークルの知人A氏から電話がかかってきた。軍艦模型を作りたいので、おすすめのキットを教えてくれ、という内容であった。前回の電話は
「蒼き鋼のアルペジオ」に関する話題だっただけに、私は最初、アルペジオ関連の軍艦かと勘違いをしてしまった。
「メンタルモデルは誰がいいんですか?」
すると向こうは大笑いして、いやアルペジオじゃないんや、真面目な意味での軍艦のやつを作ろうかな、って思ってるんやけどな、星野がどんなキットに目をつけるか興味があるんでな、ひとつ聞いてみようと思ったんや、と言った。
「そうでしたか、どこの国の軍艦ですか?」
「日本海軍」
「そうですか、スケールは?」
「ウォーターラインのあれや。1/600やったっけ」
「1/700ですよ・・・」
「あっそうか、それそれ、そのガチで本格的なキットが作ってみたくなってなあ」
「艦種は何がいいですか?」
「戦艦か空母やな。でも大和とか武蔵はやめときたい」
ということで、私なりにおすすめのキットを挙げてみた。
「戦艦なら、とりあえずフジミの金剛級ですかね」
「おすすめの理由は?」
「同型艦が三隻ですが、比叡、霧島、榛名それぞれに外見が異なるのをキットでどれだけ忠実に再現してるか、ってのがキット選択の要素になるんです。ウォーターラインのハセガワのは小奇麗にまとめて細部を省略してますんで、各艦の外見上の差異ってのがあんまり目立たないように思うんです。フジミの方はそこをかなり細かく追求してて、タラップとかも再現してるので、製作もけっこう大変ですけど、出来上がりは良いし作り甲斐もあると思いますよ・・・」
「金剛の他にもう一隻ぐらい推薦してくれんか」
「じゃあ、フジミの航空戦艦伊勢ですかね」
「またフジミかい」
「いや、最近の艦船模型ではフジミの凄まじいほどの独走が目立ってましてね、製品も出来が良いし、フジミ自体がこんなキット出しちゃって自分で自分を追い込んでるんじゃないかという・・・」
「伊勢を薦める理由は?」
「キットはまずハセガワがウォーターラインシリーズで新旧二つのキットを出してて、リニューアルの方は評価が良かったんですよ。だけど、フジミがこれに対抗して精度を上げて勝負、とかいう流れで、結果的には軍艦模型の平均的水準をかなり押し上げてくれたっていうか・・・・。航空戦艦っていうキット自体が、細部と細部と細部のディティールで物を言う、という傾向があると思うんで、そのポイントを狙って新金型で攻めてきた、という点は評価すべきと思うんですよ。ある意味、ひとつの画期を象徴するようなキットだと思ってますんで」
「よし、巡洋艦じゃあどれが良いかな、重巡の方でだ」
「高雄級の摩耶ですかね。フジミの」
「ほほう、摩耶か。愛宕とか鳥海じゃなくて摩耶だという理由は?」
「高雄級の中で最も改修が大きくて、三番砲塔を撤去して対空兵装を強化してますから、そのへんの変化と状態をどれだけ再現出来るか、というのがウリですよね。同じ時期の、1944年の高雄との差別化をどこできちっとつけるかっていう点に、フジミならばでの思想というか、製品開発の基本方針というのが色濃く出てくると思うんですよ。そのあたりを、作りながら確かめるってのも面白いんじゃないですか・・・・」
「空母ではどれがいいか」
「飛龍ですね。フジミの」
「おお、飛龍かよ、あれは俺も好きやなあ・・・」
「飛龍は、ウォーターラインシリーズではアオシマが担当してましたが、キットは初期シリーズのものだけに相当の甘さがあるんです。実艦の図面や写真が豊富に残ってるのにあんまりリサーチをしていなかったのかな、と思ってしまうんですが、とにかくそのまま組んだら実艦の写真とどこか違うというキットだったんです。それで僕もこれを作った時は、ブラ板であちこち改造して、兵装は全部ピットロードの部品に替えたんですけど、納得がいかなかったんですよ。リニューアル後のキットもあんまり差異がない感じなので、フジミが新金型で勝負してきた意味は大きいと思います。細部の再現度がものすごいですので、パーツも細かくなって製作が難しくなりましたが、その分、作り甲斐はあると思います。」
「あと、蒼龍もおすすめですよ」
「うん、蒼龍だな。栄光の二航戦 (第二航空戦隊のこと) を再現しちゃおうかねー」
「これも新金型での発売ですから、飛龍と同程度の水準をキープしつつ、ウォーターラインシリーズのアオシマのキットが省略したり表現しなかったりの部分にもリサーチをかけて、それなりのパーツ割りを出してると思うんです。空母ってのは、飛行甲板が平らですから、艦の形姿のメリハリをどこでどう出すか、というのが製作上のポイントになると思うんです。日本空母の場合、大型艦は赤城とか加賀とか大鳳とか信濃みたいに独特の姿をしてるのが多くて、それぞれにインパクトが強いですから、蒼龍、飛龍クラスの中型艦の方が逆に表現の工夫に苦労するという傾向になります。雲龍、天城、葛城まで含めてみんな一緒に見えてしまいがちですが、蒼龍クラスであれば、準同型艦の飛龍が艦橋が左舷側についてて分かり易いし、そこを表現の要にしてディティールアップをいかにするか、ってのが楽しみ方の一つですよね・・・」
「よし、そんならこの五隻で決めちゃおう」
「え、五隻全部作るんですか?」
「うん、一隻だけじゃあ、艦隊どころか戦隊にもならんからな」
私がそこで笑うと、A氏は質問をしてきた。
「星野はガルパン戦車を作って、それで一段落したら、軍艦に戻るのかね?」
「まあ、今のところは、選択肢の一つではありますね・・・」
「いいんじゃないか、また作って楽しんだら?」
「そうなるかもしれませんね・・・」
「仮にだ、そうなった場合は、作りたいキットとかあるのかね?」
「作るんだったら、改丁型駆逐艦ですね」
「おお、やっぱり「駆逐艦の男」だな。「駆逐艦の男」健在なり、だな」
「いやそういうわけでもないんです、改丁型はまだウォーターラインの旧キットを改造したやつを二隻しか作ったことがないんで・・・」
「そうなのか。ピットロードのキットがまだ発売されてなかったんだな・・・」
そのピットロードから、上画像の「橘」が発売されたのは、私が軍艦模型作りを中断してからしばらく経った頃であった。
続いてピットロードは同型艦を次々とリリースした。上画像の「初桜」の他に「柿」や「菫」のキットも出されており、ウォーターラインシリーズでは実現しなかった改丁型駆逐艦のキットが豊富に出揃った感があった。私が軍艦模型作りを続けていたならば、当然これらのキットも作っていたはずである。
いやー、私の模型道も、ガルパン戦車の次はやっぱり軍艦艦艇なのかな・・・・?