猫じじいのブログ

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アスペルガーとカナーの原点:『自閉症の世界』を読む

2019-03-14 23:09:37 | 奇妙な子供たち

スティーブ・シルバーマンの『自閉症の世界 多様性に満ちた内面の真実』(ブルーバックス)は、原題が『NeuroTribes』で、欧米では数々の賞を受賞した話題作である。
日本語タイトルに違和感があるが、それに目をつぶれば、これまでの書とくらべ、はるかに面白く、読みやすい。特に第3章、第4章が良い。
これらの章は、これまでの知られていた精神疾患患者とはまったく違ったタイプの、奇妙な子どもたちの一群を、独立に見出した精神科医ハンス・アスペルガーとレオ・カナーの伝記で、また、彼らの報告の内容がわかりやすく紹介されている。

アスペルガーもカナーも彼らの患者である自閉スペクトラム症の子どもたちに人間としての敬意を払っていることを著者シルバーマンは、指摘している。
著者自身も、また、自閉スペクトラム症の子どもたちだけでなく、障害者全般に敬意を払っている。そして、知的能力障害=貧困家庭の子という当時の欧米社会の偏見や当時のドイツ精神医学会がナチスと共に障害者たちを抹殺したことを批判している。

これらの章で、私が特に興味を引いたのは、アスペルガーもカナーもコミュニケ―ション障害を自閉スペクトラム症の特性とはしていないということである。アスペルガーの指摘は、自閉スペクトラム症の子どもは他人の言っていることを理解しており、ただ興味がないだけ、あるいは、自分の意に反する指示を無視するだけ、ということである。言語に関してのカナーの指摘は、「人称」代名詞が正しく使い分けできていないということだけである。

米国精神医学会が、DMS-IVの広汎性発達障害を、DMS-5では、自閉スペクトラム症と社会的(語用論的)コミュニケーション症とに分離したのは、アスペルガーとカナーに戻ったとも言える。

これらの章で、また、自閉スペクトラム症の子どもの色々な奇妙なふるまいが書かれているが、それ自体にあまり意味がない。例えば、「入浴しない」とか「動作がぎこちない」とか「靴ひもをうまく結べない」などは、私の子ども時代を思い浮かべると、自分に当てはまることばかりで、少しも奇妙ではない。本当の問題は、自分の考えや自分の習慣(ルーチン)に強くこだわり、親を含む他の人間に興味がないことである。

そういう子どもたちの報告自体は、アスペルガーやカナー以前にも実はあったが、彼らのユニークな点は、なにか生後に原因があって発症したのでないと考えたことだ、と著者シルバーマンは強調する。これは、自閉スペクトラム症の大事なところである。

第5章以降は、精神科医の多くが自閉スペクトラム症の原因は母親の養育態度にあるとしたり、メディアがワクチン接種の副作用としたり、米国社会で、大きな混乱が起きたことを紹介している。

第4章で描かれるカナーの俗物的な性格、出世欲、権力者への迎合性、知的に劣る人への差別意識が、せっかく見出した自閉スペクトラム症の「生まれつき」という観点を撤回し、母親への非難という精神分析医の流れを許した、と著者は見ている。

著者シルバーマンは、自閉スペクトラム症の起きるメカニズムを決めつけるのではなく、どう自閉スペクトラム症の人々を、個々人の長所を伸ばし、受け入れていくか、多様性肯定の視点で本書を書いている。


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